一緒に 2
映画は結局お預けになった。まぁ私が見たいと言った作品でもないし彼女が良いなら良いのだが。
とにかく今は、どこに向かっているのかだけ教えて欲しい。
あれから電車に乗っていつもの駅で降りたのでやっぱりそのまま帰るのかと思ったが、改札を出てから別方向へ歩いてしまったので目的地が分からないままでいる。
「まだ少し肌寒いですね、でももうすぐ着きますよ」
20分程歩いたところで隣の彼女が言った。近くには大きな公園が見えているからどうやら目的地はこの辺りらしい。
芳ちゃんに付いて歩く自分がおかしいのか、自分は勝手に帰って良いのかと何度思っただろうか。
「広い公園だね。こんな場所あったんだ」
「はい、あそこの階段の上に休憩スペースがあるんです。私その場所が結構好きなんです」
彼女は丘の上の階段を指差した。日が沈み始めた時間帯だからか親子連れがちらほらといる程度だった。
歩き続けた後の坂と階段はやはりきつかったので、上りきった後に少し息を整えたかったが芳ちゃんがすぐそこですからと引っ張るように石のベンチに案内してくれた。
階段を上らずともベンチはあったのにここまで案内するということは本当にお気に入りの場所なんだなと思った。
「すみません、大分歩かせちゃいましたね。ここ通学路で家から徒歩でしか来たことがないので駅からだとこんなに掛かるとは思わなくて」
「いや全然、私も荷物とか持つ余裕なくてごめん……良い景色だね」
「そうなんです、ここからちょうど川が見えて太陽が反射しているところが綺麗に見えるんです!」
太陽が沈みきる前にこの景色が見れて良かったと思う。彼女が嬉しそうに笑っているから。
「……さっき日記の話が聞きたいって言ってたでしょ? そう言われるかなって思って念のため持ってきてたんだよね。あ、夢の内容が書いてあるやつだけね」
「約束、覚えてたんですか? 実は私もあれから探してみたんですよ、そしたら、見てくださいあったんですよ! 私も持ってきちゃいました!」
彼女は鞄から古いノートを取り出した。
まさかこんな偶然があるなんて。
私は今、とてつもなく胸が高鳴っている。もし書いている内容がリンクしていたらなんて考えるとドキドキしてしまう。
私達は日記帳を交換した。
彼女は待ちきれない様子で、受け取ってすぐに読み始めた。
なぜそんなに楽しみにしているのか不思議に思ったが、私も芳ちゃんから受け取ったノートを開いた。
そういえば、彼女はこのノートを読んだ上で渡しているんだよな。普通の日常を描いた日記帳だったらどうしようかと思ったが、集中して読み進めている彼女に声を掛けられず不安も入り交じりながら読むことにした。
内容の大半は日常の日記だったので、あまり深く読まないよう異質な文章を探し、数ページ捲ったところで辿り着いた。
『殿方との縁談がまとまりました。私にはもったいないお方ですが、ずっとお側に居られたらと思います』
まさか本当にふたつの日記がリンクしているんだろうか。
けれど私の持っていた日記とは違い、これを書いている人物は女性だと明確に分かった。
『今日はあの方とお出掛けをしました。簪を選んでいたのですがお話の方が弾んでしまいました。何も買いませんでしたがとても楽しい時間でした』
『私はもう永くはありません。なので必ずあの方と約束します、来世ではいつまでも一緒にいると。あの方は約束を守る人ですが、いつも時間や日を過ぎてしまうので、先に来世で待つことにしましょう。どうかお幸せに』
日常の日記も含まれていたのであまりじっくり見られなかったが、彼女の日記の中にも異質な内容が書かれていた。
私の日記とよく似ていた。ただ、私の内容より彼女の日記は遺書のように思えた。
それだけでも凄い偶然だけれど、それ以上の偶然を期待してしまうのはなぜだろう。私はいつからこんなに強欲になったんだろう。
もし日記がリンクしているとしたら、病気で亡くなった女性は芳ちゃんでその相手の男性が私、だという事だろうか。
視線だけ彼女に移す。日記を持っている手元しか見れないが充分だった。日記帳は閉じられているから読み終わったのだろう。
そういえば辺りが暗い、日が沈んだのか。
私は彼女の顔を見てもいいのだろうか。いいや、思いきって見てしまおう、読み終わった彼女を待たせるのはいけない。
私は周囲を見渡すように顔を上げた。
「どうでしたか?」
またマイナスイオンのまといながら微笑んでいた。
すでに彼女は私を見ていた。恥ずかしい。
「……芳ちゃんは、小さい頃も人気者だったんだね」
「えっ?」
「日記にあったから。色んな子と分け隔てなく仲良く遊んでるみたいだったよ」
「あぁそうでしたっけ? じゃなくて、他のも読みましたよね! 前世の日記の話です」
彼女は思ったより驚いていた。
少し意地悪だったかもしれないが芳ちゃんも気になっているみたいで良かった。臆病な大人で本当に申し訳ない。
「うん、ごめんね。私も前世の事、話したい。こんな偶然って本当にあるんだね」
「偶然じゃないです、約束したんです……私ずっと好きなんですよ、梅乃さんのこと、誰よりも」
芳ちゃんは溢れるように涙を流した。そして声を上げず、隠すでもなくただ流れた涙を拭いている。
私が泣かせてしまったのだろうか。私のせいで彼女は涙を流すほど感情が揺さぶられているのだろうか。それとも私は騙されているのか、だからと言って涙を流すほど私を騙す理由はなんだろうか。
私は誰かに影響を与えるほど人と関わってきた人間ではないから、目の前で女の子が泣いている時の対処方が分からない。
「あ、芳ちゃん、今……」
そういえば、今彼女は私の事が好きだと言ったのか? 私は告白されたのか、女子高校生に。
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