5月17日日曜日
次の日、集合時間の30分前に駅前の喫茶店に到着するように家を出た。はじめてのデートで遅刻はまずい。きちんとした服装で駅に向かう。
喫茶店に入ると既に赤城さんが待っていた。白のブラウスに上品な赤いロングスカート。どこぞの令嬢のような服装に驚きを隠せない。僕に気が付いた赤城さんがペコリと頭を下げたので急いで隣に走った。
「待たせてごめんね」
「大丈夫です、約束の時間の30分前です」
「いつから待ってたの?」
「えっと、さっき着いたばかりですよ」
テーブルには既に飲み終わって汗をかいているグラスが置かれている。かなり前から待ってたらしい。僕もテーブルの向かいに座った。そのタイミングで赤城さんは鞄から何かを取り出した。それは白い封筒。ここ1週間で何度も見たものだった。
「あの、まだ話すのが苦手なので手紙にしました。今日もうまく話せるか不安です」
封筒を受け取ると僕も鞄から手紙を出した。別に事前に示し合わせたわけでもないのに、お互いに手紙を書いていたことが妙に嬉しく感じる。
「実は僕も手紙を」
別に今話してもいい気がするけど、相手が赤城さんだから手紙の方がうまく伝えられる気がした。お互いに手紙を交換すると、赤城さんは手紙を鞄に入れようとしていた。
「今、読んでもいいけど」
「えっ、いいんですか?」
「少し恥ずかしいけどね」
「あの、それじゃあ、私の手紙も今読んでいいですよ。その、口に出して読まないで下さいね」
こうして書いた相手が目の前にいるのに互いの手紙を読み合う状況になった。普通ではまずないことだろう。赤城さんの手紙は相変わらず綺麗な字で書かれている。内容は僕に対しての情熱的な気持ちの数々。実は僕の手紙も赤城さんへの気持ちを書いたので内容は似た様なものだ。手紙を読み終えて顔を上げると、既に読み終えた赤城さんは顔を真っ赤にしてうつむいていた。こういう時、何て言えばいいんだろう。気の利いた言葉が思いつかない。
「赤城さんの気持ち、とても嬉しかったです。彼氏として相応しい人になれるようになれるように頑張るよ」
「あ、ありがとうございます。とても嬉しいです」
ふわりとした笑顔を見せる赤城さん。結局在り来たりなセリフしか言えなかったが、彼女は満足したようだ。
「あの、さっそくですがお願いがあります」
一転してキリっとした顔になる。普段こんなに表情を変えないのでとても新鮮だ。
「私のことは結子って呼んでください。その、できるだけ早く慣れるようにしますから」
「分かったよ。僕のことも信行って呼んでもらえるかな」
「はい、喜んで!それと、もう一つお願いがあります」
そう言って、あか・・・結子は僕の渡した手紙を手に持ち顔の位置まで上げた。
「これからも手紙のやりとりを続けたいです。手紙だったら、面と向かって言えないこと、伝えるには恥ずかしいこと、複雑な気持ちを素直に話せるから。ダメですか?」
「もちろん、いいよ」
彼女は嬉しそうに笑った。その素敵な笑顔に僕のは心はノックアウトだ。
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