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 逆さに吊るされてるヴァンパイアの魔法攻撃を受けながら、俺は宇宙に向け上へ上へと上昇し続ける。

 飛び始め数分後には既に高度37000フィート(11.2776Km)を軽々と超えていた。


「貴様、一体どこに向かっている!? ただ空へ飛び続けて何がしたいのか理解不能だぞ!? そもそも宇宙とはなんだ!?」


 焦っている顔をしながら俺に問いをかけ、いまだに魔法攻撃を続けるヴァンパイア。

 結構な至近距離で魔法を放っているため防御回避システムが作動しないどころか、そもそも片手はヴァンパイアの足を掴んでいるため、起動してもバランス取れず避けるのは難しいであろう。

 だから現在、魔法攻撃に耐えながら宇宙を目指しているのだが、最初は受けてもなんの問題はなかったけど、飛び始めて20000フィート(6.096km)を超えた時点で各箇所に小さな損傷跡ができはじめている。

 そして再びヴァンパイアの放つ電撃の黒剣が、太もも付近の装甲を擦り。


『損傷率23パーセント。このままじゃEDよりひどいことになっちゃうかもん♡』

「いやサポートするなら真面目に教えてくんない!? そっち系ネタで伝えるんじゃなくてさ!」


 色っぽく危ない言い方で損傷率を伝えるAIに怒鳴りながら、俺は残り電力を気にしていた。

 100パーセントフルマックスの状態から始まり、ヴァンパイアを地面に叩きつけた時の残り電力は82パーセント。ヴァンパイアの足を掴んで空へと飛ぶ時の残り電力は63パーセント。


 まだ戦ってから30分も経過していないに、リアクター内の電力の消費量が異常だ。

 無理もない。飛行エネルギーもスラスター・レイのエネルギーもリアクターの電力によるものだ。

 それはつまり、あのドライバー型リアクター一本だけで起動も攻撃も飛行も全てのエネルギーの源となっているんだ。

 本来のロード・スレイヤーの消費電力はどれだけかは知らないけど、俺のは設計を所々をマイナーチェンジ……って言うより魔改造して異常な性能に仕上げたんだ。

 そう考えると、この電力の消費量はおかしくないのかもしれない。


 その点で問題が一つ、この残りの電力で『対流圏』の一番上まで、飛行機がいつも飛んでいる高さまでたどり着けるかだ。

 簡単に説明すれば、そこは地上とオゾン層の中間地点で、そこの気温は約-50℃前後。

 アイはこう言っていた。『寒さでヴァンパイアで倒せる』と。

 凍結魔法や氷属性の攻撃が全てではない。そう、確かに寒さと言った。

 ならばと言う僅かな可能性に賭けて、俺はただ空へ空へと上昇していた。

 そして。


「ええい!! 何がしたいのか分からんが、それ以上になんと硬い鎧だ!? 辺りもどういうわけか急激に冷えて……ぐがぁ!?」


 攻撃を続けてたヴァンパイアが、その手を自身の胸元に抑えるように当て苦しみだした。


 お!? 早速効果が出たっぽそうだ。


 電力と高度を確認してみると、残り電力は11パーセントで高度は45000フィート(13.716 km)を超えている。超ギリギリ。

 酸素製造機能で呼吸もできるし、ヒーター機能で俺の体温は維持出来てる。完璧だ(ドヤ顔)。

 気温の方も−53℃ほどだが、……よく考えたらこの高さだとスーツが氷結するような気が。

 そのまま機能停止して落下して、地面に叩きつけられるように墜落して死亡……ってふざけたことにならないよね? 


 やべ。怖くなってきたからちゃっちゃと倒そーっと。


 今のヴァンパイアの状態をスキャンしてみたら、寒さに影響してか、奴の細胞が凝固して氷と似たような状態に。

 そのまま凍りかけた細胞から大量の水蒸気が放出されてる。


 俺の予想だけど、細胞が凝固され低温になったことにより『捕食耐性』って言うチートスキルの効果も消えて、普通のヴァンパイアに戻っちゃった?

 その状態でヴァンパイア細胞が貯まった水分を無理して出そうとしてるからこんな感じになっちゃってる?

 ほら、俺アイツに水魔法ぶっかけちゃったし、ヴァンパイアって水が弱点だったし。

 まっ、となれば後胸元に杭をさせばいいだけだが、最後の武装でも試してみるとしよう。


 俺はリアクターから全身に流れる電力を、胸元にあるリアクター部位に集中させるようにコマンドを送る。

 それに反応し、胸元の中央部位にあるクリスタルが青白く発光し始め、後にバチバチと小さな放電現象が起き、そして。


「基本俺はこういうの言わないけど、初回なので一応……、『ブレスト・ブラスター』ッ!!」

「ちょっ!? 待っ……たああああ!!!」


 胸元のクリスタルから、俺の全長の10倍程の破壊光線が解き放たれ、ヴァンパイアを丸呑みにする形に直撃させる。

 そして光線に飲まれた脆くなっているヴァンパイアは、なす術もなく灰すら残さず消滅した。

 こうして、イセセミ計画を潰され逆襲してきた魔王軍幹部は倒され……。


『電源0、萎えちゃったわん……』

「……え? だぁぁぁぁぁぁああああーーーーー!!」


 ブレスト・ブラスター。あれ必殺級の高威力な分、結構電力使うこと忘れてた!!

 それにこんなドラ◯エ感満載な世界で宇宙にまで行くなんざ滅多にないから非常用予備電源なんざつけてないから手の内ようがない!!


 やばい、肉眼で地上が見えて来てる。このままじゃマジで俺ペシャンコに!?

 ……って思っていたら、突如地上から黄緑色の風の暴風が舞い上がって来た。

 理解できなかったけど、この暴風でなんとか……出来るわけないよね。だって重量300キロだもん。

 ちょっと期待した分落胆しちゃったよ。もう諦めよ……って、暴風と共にこっちに向かって何かが飛んできて……!?


「ツクルーーー!!」

「え、エクレシアァァ!?」


 イリスが復活して回復してもらったんだろう。重傷状態から完全回復したエクレシアが暴風を利用して俺目掛けて飛躍して来やがった!?

 そんで俺をガッシリと抱きしめて……。

 あ、ヤバい。こんな生死分ける状況でもそんなに密着されると俺のチキンハートの鼓動が別の意味で早く。


「『トルネード』ッ!」


 スーツに隠れて見えない俺の心境に関係なく、暴風に向けて暴風の魔法を放つエクレシア。

 二つの暴風が衝突し、お互いの風が押し合ってる影響で、エクレシアに抱き抱えられてる俺はゆっくりと地に下されているかのように落ちていく。

 どうやら地上に近づくにつれ、下の暴風の威力が弱まっているようだ。

 地上に肉眼で人影が見える程まで近づくと、最初の暴風の中心地に、魔法を放っているアリスに魔力パスをしているネコマタ。


「「フレ! フレ! アリス(姉様)!! ガンバレガンバレアリス(姉様)!!」」


 そしてそんなアリスとネコマタの背後でチアリーダーの格好をして応援しているチリとイリスが。


 ……今回ばかりはお礼言わなきゃな。

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