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「ま、まだ仲間がいたのか!? 鎧着た騎士と言うよりどう見てもゴーレムに近い……いや、だとしてもスリムすぎる。貴様は一体!?」


 俺の不意打ち……、いや、今の姿を見てヴァンパイアは俺とは気づかず、俺たちの仲間かどうか勘違いしている。

 無理もない。オーク幹部討伐報酬で得た資金で購入したアダマンタイトをメイン装甲とした、この全身メタリックな銀色ボディに動くたびに聞こえる機械音。

 全身鎧で覆い尽くした重装騎士でも関節部位は動けるよう丈夫な布とかで作られてるが、俺のスーツは関節部位も含めて全て金属。

 どこからどう見ても騎士でもゴーレムでもない今の姿では、ヴァンパイアは俺だという事に気づくことはまずあり得ないだろう。


「あれがツクルの……、エクレシアが言っていた例の鎧って奴なの?」


 力を使い果たし、ぐったりと気にもたれかかるアリスも、今の俺の姿を目を大きく見広げて凝視している。

 俺はまず傷を負って倒れているエクレシアを抱き抱えアリスは所へ歩む。


 エクレシア、悪かったな。遅くなっちまった。

 そんな罪悪感を感じながら顔を見つめていたら。


「すごく……、カッコいいね……。その……スーツ……」


 傷だらけで動けない状態に近いにもかかわらず、浅い呼吸をしながらいつもの笑顔で喜んでくれた。

 聞いてしばらくしたら、ヘルメットで隠されている俺の目から何かが溢れ出て、それが滴のように頬から下へ垂れ落ちるのを感じた。

 気を失ったエクレシアを、アリスの近くに優しく置き。


「イリスが気づいたら、エクレシアの傷をなんとかしてくれって言っといてくれ」


 アリスに告げた後、俺は体制を立て直したヴァンパイアと対峙する。


「テメエだけは絶対に許さねえぞ。オーク幹部を倒した、例のスーツの改良版を用いてぶっ殺してやる」

「例の? ……そうか、貴様あの小僧か。そしてその姿こそが、トカッツンを倒したと言う例の鎧と見たほうがいいようだな」


 目を大きく見広げ凝視した後、興味深そうに不気味に微笑むヴァンパイア。

 間違いなく、あいつは俺のことを強敵として認めたんだと思う。

 場が静まり、いかにも決闘っぽい空気が流れる中、ヴァンパイアは魔法の詠唱を始め、俺は体を少し屈め身構えた。

 俺もヴァンパイアも対峙したまま動かず、俺のスーツの銀色に輝く装甲が、太陽の光を浴びて輝き光っている。

 そんな俺達に、戦いの開始の合図を送るかのように……。


「あぁぁ!!! またゲームオーバーになっちゃったっすぅぅぅ!!」

「『ダーク・ボルテックス・セイバー』ッ!」


 剣幕な場で呑気にゲームしてたチリの叫び声が聞こえ終えたのと同時に、魔法攻撃を仕掛けたヴァンパイア。

 指先から放たれる黒い稲妻で構成された剣。

 それが俺目掛け、一直線に素早く飛んでくる。

 俺はステータスも職業も最弱だ。目視できた時点で回避しようにも間に合うわけがないのだが。

 俺の意思関係なく、スーツが自動でヴァンパイアの魔法攻撃を裏拳で弾く。


「何!?」


 ヴァンパイアが驚いた瞬間、弾いた黒い電撃剣はチリのゲーム機に落下しそのままザクッと……。


「あああああ!!! なんてことするんっすかツクルさぁぁぁん!!」


 ゲーム壊されたことで子供のように泣きじゃくるチリはさておき、驚いたヴァンパイアはすぐさま正気に戻り。


「『ダーク・ブリザード』ッ! 『コロナマイト』ッ!」


 凍結魔法や爆発魔法、様々な魔法攻撃で反撃してきた。

 俺のスーツはこれに対し回避、打撃による反射、スラスター・レイで相殺させるなど、様々な適応な手段で全てを回避。

 流石は俺が組み込んで置いた自動回避防御システム。不具合がなさそうで安心したよ。


「な、なんだ……、貴様本当に最弱職なのか!? そのしなやかな動きに魔法攻撃に対して慣れている対応力、どう見たって初心者冒険者の最弱職ではあり得な!?」


 スーツの防御行動を俺の対応力と誤認し、驚き口を動かずヴァンパイア。

 俺は戸惑っている隙を突き、スラスター・レイを放ちヴァンパイアを吹き飛ばした。

 そのまま足底の高性能ブースターで追い討ちをかけ、ヴァンパイアが体制を直しながら着地した瞬時に鉄の右拳でヴァンパイアの頬を殴る。

 皮膚という名の壁では防げない一撃が、骨にまで響く音が鳴り終えた瞬時に、持ち前の爪で反撃を開始する怯みかけたヴァンパイア。

 頭部、動体に何度も引っ掻くも、防御システムが危険と感じなかったのだろう。回避行動をしなかったどころか引っ掻き傷も出来はしない。

 それでもなお続けるヴァンパイアの手を俺は打ち払い、ヴァンパイアの腹部に膝蹴りし奴の腰を曲げさせ頭部の位置を低くした。

 そして低くなった顔面目掛けアッパーを炸裂させ上空に飛ばし、追い討ちをかけるよう空を飛び、両手で動体を叩きつけ落とし、勢いよく地にぶつける。

 ぶつかった衝撃と共に砂煙が舞い上がった。


「ちょっと嘘でしょ……、あのヴァンパイア、エクレシアと互角に肉弾戦出来るほどの実力は持ってたんですけど、そんな相手に圧勝してるだなんておかしくない!? これも全部あの鎧のおかげってわけ!?」


 アリスが素っ頓狂な声を上げ驚愕する中、舞い上がった砂煙が消え、その中央部に複雑に骨折したような姿のヴァンパイアが。


「ぐっ、グギギ……ぶるぁぁぁぁぁぁ!!」


 再び例の叫び声を上げ再生する中、俺はヘルメットに内蔵しているボディ・スキャン・システムを用いヴァンパイアの状態を調べる。


 ……妙だな。ヴァンパイアっていうのは普通体温は結構低いはずなんだが、こいつは人間と同じくらい程の体温をしてやがる。

 まあ、心臓が動いてたり日光に当たってもピンピンしている時点でおかしいけど、それ以上にこの体温だけは引っかかる。

 これがいわゆる違法改造した後遺症みたいなものなのかしら?


『うーん、あのヴァンパイア結構火照ってるわねぇ〜ん。この様子だとあの子のアサギも未だにグングン伸びてるんじゃない?』


 いやいや、流石にそれはない……ってこんな時に悪ふざけっぽい言い方してきたの誰だよ!?

 ……いや、声なんて聞こえるはずはない。だって上空にいるのは俺だけで、ヴァンパイアもエクレシア達も地上だ。

 距離的にも大声出さなきゃ聞こえない程の距離だし、さっきの声は少なくとも近くにいる人に対して普通に喋る程の声の大きさだ。

 ……空耳だろうか?


『状態から見てあのヴァンパイア、火照ってる分元々の弱点に対して耐性を得たけど、逆に元々耐性があるものが弱点になっちゃってるわね。そこを突けば萎えると思うわよん♡』


 いや絶対何かが俺に語りかけてんだけど!? 誰!? まさかの幽霊!?


 ビクッとして辺りを何度も見渡してたら、俺の視界に映るメインカメラの光景映像に、残りの電力や外部の気温等の画像が映し出され、まるでディスプレイが起動したような。

 なんだこれ!? こんなの搭載した覚えはないんですけど!?

 次々と起こる謎現象に慌ててしまっていたら。


『あーあー、ツクルさーん。聞こえますかー? 大活躍していますねー』


 視界の右斜めに馬車内のチリの姿が映し出され……って!? またこいつの仕業かい!!


「おい! お前俺のスーツに何しやがったんだ!? 急に訳わからない声が聞こえ出したり視界に変な画面が映し出されたりと謎現象が起きまくってんだけど!?」

『そのことに関して言い忘れてたんっすけど、それ元々ドライバー内に埋めてあったAIのことっすね。『アイ』って言うらしいっすよ』


 元々って、そういや鉱山の時、擬似パソコンみたいな事が出来たのって、このAIのおかげってことなのかしら?


『先輩が作ったAIの一種でしてね、結構優秀な奴っすよ。ちなみにアイは短縮ニックネームで、フルネームはアソコガAイッチャウIって言う名前みたいっすよ』


 即アウト!! なんつう名前をつけてんだよ!

 つーかこのAI作った奴ってアイツか!? 宇宙船内で未練もなくテクノブレイクで死んだチリの先輩宇宙人のことか!?

 後輩のチリは問題ばっか起こすし、そのチリの先輩って奴も頭の中そっち系ばっかだし。

 この世界の神様同様、ロクな宇宙人がいないなおい!?

 え? なんなの? 俺そんなアホな連中にキャトルミューティレーションされて今この状況なわけ!? 泣けてくるんだけど悲しい意味で。


 ……って悲観的に考えてたら防御回避システムが起動し、下方向から放たれた三本の黒い稲妻剣を回避する俺のスーツ。

 放たれた方角に視線を向けると、そこには完全に再生し終えたヴァンパイアが。

 さっきの一撃がよほど効いたのか、我を忘れて再び早口で詠唱を唱え、無防備のエクレシア達を無視して魔法の準備をしていやがる。


 ……とりあえずまずはヴァンパイアから片付けるか。


 さっきアソコガ……、アイって言うAIが元々の何かが弱点とか言ってたが、これって普通に話しかければ答えてくれるのか?


「おい、さっき言ってたこともう一度教えろ。元々の耐性を突けば勝機があるってことでいいんだよな?」


 ひとまずチリとの連絡を遮断し、アイって言うAIに声をかけてみたら。


『ソウデース。分析によると寒さが一番効率がいいわね、南極的な。そこに着いた暁には寒さに震えるヴァンパイアの身包みを少しずつ剥がしていき、公衆の目から見たら裸より扇状的な格好にして辱めてなく姿を見ながら……ハァ……、ハァ……、イッチャウゥゥゥゥゥ!!!』

「わかった!! とにかく寒さだな!? これ以上はもう黙れ!! 俺までおかしくなる!!」


 ……性能はともかく、このAIは中身がダメ系だわ。


 変態AIを黙らせた後ヴァンパイアに目掛け急降下する俺。


 だがどうしたらいいのだろうかと考えてしまう。


 寒さといえば、この異世界で言うと凍結魔法で凍らせるってことになるだろうが、ボディ・スキャンで調べて、あのヴァンパイアは魔法耐性がかなりのものだった。

 そうなると、勇逸火力のゴリ押しで勝てる寸前まで追い詰めたアリスが頼りだったけど、今現在も本人は立つだけで精一杯みたいだし、何より肝心のネコマタはまだグロッキーだ。


 ……そうなると、やっぱこの方法しかなさそうだな。


「貴様を甘く見過ぎていたが、今度はそうはいかんぞ! 我はトゥルー将軍、魔王軍幹部の一人にして大罪幹部ルシファー様の側近……ぶわぁ!?」

「ちょっとスカイドライブに付き合えよ」

「え!? つ、ツクル!?」


 一瞬の隙をつくかのように俺はヴァンパイアの足を掴み、そのままヴァンパイアごと上空に舞い上がった。

 アリスも驚いてはいたが、今は気にしない。ただヴァンパイアと共に空へ空へと上がっていく。


「な、何をするつもりだ貴様!? 我を一体どこに!?」


 俺の行動に驚愕するヴァンパイア。そんなヴァンパイアに俺はこんな問いを投げる。


「お前、宇宙って知ってる?」

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