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「リアクターの電力、100パーセント! 武装の状態は……いける!!」


 エクレシアとヴァンパイアの激戦の中、俺は馬車内にある機材を用いてロード・スレイヤーの状態が万全か確認していた。

 鉱山での急ごしらえで作ったのもそうだったが、何で試運転の時が幹部戦の時なのだか不思議でしょうがない。

 個人的には何もない平原で機動性をテストしたのち、簡単な討伐クエストで火力・戦闘テストを行うという安全法で行きたいのにさ。

 でも今はそんなゴタゴタ言っててもしょうがない。エクレシアが俺のために時間稼ぎをしてくれているから。

 いくら『雷神の剣』って言う、恭介が女神に貰った転生特典を装備してるといえ、相手は完全耐性を持つ幹部ヴァンパイア。

 G討伐際の動きから見てちょっとやそっとの攻撃なんて全て回避できると思うが、もしアリス程の火力がなければすぐさま再生されて勝負がつかない。

 むしろ体力が尽きたところを狙われて反撃され敗れる可能性が高いだろう。

 そうなる前に、俺もスーツを装着し戦いに参加しなきゃみんな殺されてしまう。

 幸いにも、スーツの頭部メットの中に『高性能ボディ・スキャン・システム』が搭載されている。

 これは俺の視線から見える相手の体温や心拍数、他にもこの世界に対応して魔力量やステータスなども読み取ることができる優れものだ。

 簡単に言えば、見た相手の状態をちょっとしたカンニングして弱点を発見するって言う、気づかれずに好みの女子のスカートをめくって何色のパンツを履いてるか確認できる機能ってとこだね。

 理由としては、あのヴァンパイアは自身に弱点はないと言っていたけど、それはヴァンパイアとしての弱点での話ではないかと俺は考えてる。

 理由になるかどうかわからないけど、この異世界はどこをどう見たってRPG感満載の世界。つまりはゲーム的異世界だ。

 敵キャラであるNPC自身が違法改造紛い行為しているのは驚いたが、俺がいた世界でそんな真似をしたらゲームが壊れる可能性が出てくる。

 俺の世界で例えを出すと、そんな勝手に弄った結果、そのゲームのデータの破損や消滅とかの大きなデメリットが付き物だ。

 この世界は一応ゲームっぽい世界ってだけでそんな変なことは絶対に起きないはずだが、もし別の形で影響されてたとしたら……。

 そのわずかな可能性を賭け、俺はロード・スレイヤーに全てを託す事に。


「各パーツ異常なし!! 後は……え?」


 俺は目を疑った。

 俺の右人差し指だったドライバー型リアクターも、ロード・スレイヤーにも異常なんて一切ない。

 だが………。


 宇宙船から馬車へと運び直した、装着のほとんどをやってくれる専用ロボットアームの電力率が、10パーセントしかなく起動させることができない。


「なんで!? 装着に必要な専用ロボットアームの電力が足りてない!? こいつは一応完成した時いつでも使えるように毎日充電してるしまだ一度も使用したことなんてないんですけ……!?」


 俺が大声を上げた瞬間、馬車内の側面で側から大慌てで逃げ出す準備の物音が。

 そしてその方角からロボットアームに接続している充電コードっぽい紐がテントを突き破って外に。

 ……ここに来るまで、一人だけなーんか様子がおかしかったなって思い、耳を澄ませてみる。

 聞こえてくるのはエクレシアとヴァンパイアの激しい戦闘によりぶつかり合う剣と爪の音と。


「……ここをこうして、んでこう……、なんで説明書通りにならないんっすか!? 早くしないと死のエンジニアによってアタイまでもが」

 

 外でブツブツと呟く、アームと接続しているコードと繋がっている自転車っぽい充電器? を弄っているロリ宇宙人の背後に立つ俺。


「その死のエンジニアって誰のことだい?」


 俺に問いに背を反らし、俺と目が合い……。


「そんなのツクルさんに決まってるじゃないっすか。急ごしらえで作ったスーツで幹部倒したり、正規のロード・スレイヤーを魔改造してとんでもない代物にしたり、って!? んなことより手伝って欲しいっす!! アームの電力でアタイのゲーム機充電してたのバレたら確実に殺されヴァあああーーー!!」

「やっぱりお前が元凶かァァァァァ!!!」


 俺はすぐさまチリの首をプロレス技で締め上げる。


「どうしてくれんだ!? 切り札のアリスもイリスもダウンしちゃってもう戦えない上に、エクレシアがスーツを頼りにして自ら体張ってヴァンパイアと戦ってるんだぞ!? それをお前と言う奴は自分の娯楽の為だけにぃぃぃぃ!!!」

「は、はなぢでぇぇぇぇぇ!! だってだって、この世界にロクな娯楽なんてカジノくらいしかないっすもん! でも入れるのは15歳以上からでアタイは入れてくれないっすから退屈だったんっすよ!!」


 だからと言って非常時に使う機材から電力取るか普通は!?

 余計に腹立ったからそのまま背骨クラッシュを炸裂しようとしたら。


「ぐぁぁぁ!!」


 突然聞こえる業火の音とエクレシアの苦痛的な呻き声。

 胸元が急に苦しくなった。まるで締め上げられてるような……。


「ツ、ツクル! 早くして、エクレシアが!」


 アリスの悲痛な叫び声を聞きチリを捨て後方を向くと、平然と立っているヴァンパイアの目の前に膝をついている息が荒いエクレシアが。

 左肩から手の先まで魔法による焼け跡が肉眼でも確認できるからして、体力が限界に近い状態で上級魔法を喰らったのだろう。


「流石は勇者と言ったところか。その剣捌きといい、魔法攻撃の受け流しといい、普通の上級ヴァンパイアでは歯が立たないのは間違いない。だが、我は全ての弱点を克服せしヴァンパイア。あの小娘共の神聖魔法や上級魔法の力押しが異常すぎたのが唯一の脅威だったが、貴様にはそれがない。せいぜいさっきまで通り、攻撃を回避しながら隙を見て一撃を放つだけで精一杯。相性が悪かったようだな」


 ヴァンパイアはエクレシアへと近づき、右脚で思いっきり顎を蹴り上げて宙に飛ばす。

 そして落下したエクレシアが自分の目の前まで落ちてきた瞬間、爪による無数の斬撃をエクレシアに向けて放たれた。

 一、二、三、四、五、六……。

 攻撃回数は二桁を超え、その度にエクレシアの顔に傷が刻まれ、着ている服も少しずつ破れて破り口から血が溢れ出てくる。

 その拷問紛いな行為を見た途端、俺の頭は真っ白になった。

 思考停止っていうわけではなく、ただ胸の奥から喉首、喉首から頭へと急激に血が上って、自分に意思とは関係なく全身に力を入れた状態になり、ただ一つの事しか頭にない。


「エクレシアから離れやがれヴァンパイア!!」

「あ! ツクルさん!!」


 チリの静止を聞かず、俺はヴァンパイアに向かって走りながら水の初級魔法をヴァンパイアに目掛け放出しまくった。

 そのうちの一発が顔に命中し、エクレシアに対する攻撃の手を止めた。

 知人からの情報通りなら普通のヴァンパイアなら弱点な為、ヴァンパイアは驚き距離をとるところ。

 だが、そこも違法改造されていたのは当然のようだった。アイツはなんともないように不気味に笑いながら、冷たい眼差しでこちらを睨んでくる。


「いい度胸だな小僧。だが今の我に水など効かぬ上、その程度の魔法では耐性つく前の状態でも無力に等しいぞ?」


 俺の込み上げてた怒りは急に冷め、そればかりか背筋……いや、背筋から後頭部の先まで凍りついたように全身がガタガタと震えてしまった。

 そしてヴァンパイアは、倒れてるエクレシアを無視して俺に向い歩み出す。


 分かってはいたが……いや、分かってはいたけどなんとなると思っていた俺が甘かった。


 あのヴァンパイアも魔王に認められし実力の持ち主。色々反則じみた改造をして力を得た魔王軍幹部の一人だ。

 急ごしらえのスーツで幹部のオークを倒すことができたし、エクレシアも万全で中身がポンコツながら強力な力を持つ仲間も得たから今回もって思っていたけど。

 そういやあのオーク、こう言ってたっけ? 自分は幹部の中でも末端の方だって。


 ……やっぱあの時、ただ運が良かっただけなんだな。


「……か…………、行かせない!!」


 この言葉を聞いてはっとした瞬間だった。

 この一言を呟いた倒れているエクレシアは、最後の力を振り絞るかのようにヴァンパイアの足を『雷神の剣』で切断し転ばす。


「まだ抗うか勇者ァァァァ!!」


 激昂したヴァンパイアが再生する中、エクレシアはなんとか立ち上がり再び身構える。

 あいつまだ戦う気かよ!?


「ツクルは、私が守る! 彼は……私にとって!!」

「戻れエクレシア! いくら倒すべき魔王軍幹部が相手とはいえその傷じゃ……」


 俺の制止を聞かず、エクレシアはヴァンパイアに向け剣を振り下ろすが爪で防がれ、そのまま再生した足の蹴りで吹き飛び剣を手放してしまう。


「いちいち鬱陶しい連中だ! お遊びはここまでにしてくれる!!」


 剣を拾ったヴァンパイアはそのまま膝で蹴り折り、馬車付近で充電の準備をしているチリ目掛け投げ飛ばした。

 チリ!! ……って声かける前から既にあいつは近くの岩陰に隠れていやがった。

 ヴァンパイアを恐れてか、俺を恐れてかは不明だが……。

 だけど雷神の剣はそのままチリが用意した手動型充電器? に刺さり、バチバチと音を立ててショートした。


「アタイの充電器!? バレて機材が使えなくなった今これが勇逸充電できる代物だったのにぃ……あれ? コードから電流が」


 こんな非常時に涙目でゲームの心配しかしていないこの馬鹿宇宙人をできればシバきに行きたい。

 だがそれ以上にヴァンパイアを恐れていた俺は奴の方角を振り向くと、ヴァンパイアは既にエクレシアの喉首を掴み持ち上げている。


「ぐぁ……ぁぁあ……」

「我はとても惜しいと感じている。貴様の戦いのセンス、あの姉妹共の我を追い詰める程の強力な魔力、何よりあの小僧の今までにない戦略や魔道具を作る才能。まさに魔王軍の一員になるのにふさわしい実力だ。同じ魔王軍の一員であったら、我配下にしてやったのにな!!」


 そう言ったヴァンパイアは、力を込め苦しみ踠き声を上げるエクレシアを地に叩きつける。

 その後また持ち上げ叩きつけ、持ち上げ叩きつけるの繰り返し。

 あいつはエクレシアから始末するつもりだ!!


 __ダメだ、エクレシアだけは絶対にダメだ。

 あいつは鉱山で荒みかけた俺を救ってくれた。

 俺にとって、かけがえのない恩人でもあって、一番大切な人なんだ。

 俺だけじゃない、アリスやイリス、チリに恭介、訪れた街のみんなまでもが、あいつのことを勇者として、仲間として、生きて魔王を倒すことを願っている!!

 それに俺は、まだエクレシアに完成したスーツをまだ見せていない。

 俺のスーツがちゃんと起動し問題なく扱える姿を見せてあいつを喜ばせたい!!


 ……実力や能力、魔力だろうがなんだろうが関係ない!なんとしてでもヴァンパイアを倒す。それが今……。


 俺が惚れたエクレシアを守れる勇逸の手段なんだ!!


 新たな決意を胸に、俺は武器を整える為、急いで馬車に戻りロード・スレイヤーの腕部位を外そうと中に入ってみたら……。


「おぉ!! やっぱ動いた。アタイってやっぱテンサーイ⭐︎」


 どういうわけか電力が0に等しかったロボットアームがフル稼働していたんですけど。

 え? どゆこと??


「ち、チリ……。お前どうやって」

「あ、ツクルさん。いやぁヴァンパイアが剣投げ飛ばしてきて一台しかなかった充電器ぶっ壊されて涙目になってたら、その剣から電気が流れていやしてね。その電気、コードにも流れてアームにも入ってって気がついたら電力が35パーも回復しちゃってたんっすよ。それで試しにその剣をアタイの電子辞書通りに乗ってるマニュアル通り分解して充電バッテリー作ってみたら大当たり!! 数秒で電力マックスになる思考の充電器が誕生したってわけっす!! あぁ、これでもういつでも電源マックスでゲームができるなんてなんという幸せであって……」


 まさかの転生アイテムを勝手に分解して充電器作るとは……。

 今充実で満ちていながら瞑想っぽく目を閉じながら語っているこいつをすごいと言うべきか、恭介になんといえばいいのやら……。



 あれ? それのおかげでロボットアームが復活したってことは……!!



 俺はすぐさま装着台の上に立つと、体重センサーが反応しアームがスーツの各パーツを掴む。

 そして足、動体、腕、首という順にスーツを俺の体に取り付け始める。

 そして頭部を取り付け終え起動し、メインカメラが視界をはっきり映し出したのを確認した後、低空飛行で壁を突き破るように馬車から出る。

 そして。


「まさかこの我が勇者を討伐することになろうとは、この素晴らしき1日に対し、魔王様とルシファー様に感謝せねヴァガァ!!」


 エクレシアにトドメを刺そうとしているヴァンパイアの頬に、ドロップキックを繰り出し吹き飛ばした。

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