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 急な再開により戦いが一時停止する中、恭介って男が結構グイグイとエクレシアに話しかけてくる。


「風の噂で聞いたんだが、君が魔物達に捕まったって言う情報を聞いてスターラインに向かっていたんだけど、一体何があったんだい!?」


 エクレシアはそんな彼に対して渋々ながらも、今までの経緯を恭介に話す。

 今まで何があったのか。

 自身のパーティーメンバーのこととか。

 そして、俺の指のことなども。


「う、宇宙人に◯S4の修理の為、拉致されて右中指をドライバーにされた挙句事故に巻き込まれて……。ごめん、少しおかしすぎてお腹痛い、お、落ち着くまでストップ……」


 腹を抑え爆笑するのを必死に堪えようとする恭介。

 まあ、俺の経緯を聞いたらそら笑うわな。


 ……うん、仕方ないのは分かってはいたけど、こいつグーで殴りたい!!


「ちょっと!! 笑わないでくれるかしら! これでも彼のおかげで奴隷状態から解放できて今の私があるわけなのよ! それにあなたが彼の事情が笑うほどおかしいかどうか私にはわからないけど、とにかく彼自身も酷い目に遭っているのに自ら進んで魔王退治に協力してくれてるし、ちょっと前の高難易度クエストは彼の活躍でクリアできたと言ってもおかしくはないんだから」


 魔王退治の一言は余分だが、俺を庇うかのように恭介って奴を叱るエクレシアさんがマジ天使。


「え!? え、エクレシアが庇った!? 女神アルミス様に選ばれし僕より、そっちの無能ピープルを選んだ!?」


 そんでこの状況見てショック受けてる恭介の一言がなんか腹立つ。

 何こいつナルシスト?


「おい、初対面の相手に対して随分上から目線じゃねーかお前」

「あ、ごめん。いや流石に僕の場合とは真逆とはいえ、ここまでアホすぎる転移経緯とは予想を斜め上に行きすぎてつい」

 

 俺だってこんな経緯での転移は嫌だわ。

 でも確かに、誰から見ても俺の転移を聞いたらそんなふうに思うわな。

 そしてもう一つ確信したことがあるとすれば、こいつは俺と同じ日本出身の転移者ってことくらいか。


「そ、それにしてもエクレシア、君が言っていた仲間のうちのウィザードキャスターとゴッドプリースってどこにいるんだい? あともう一人、彼と同じ見習い冒険者がいるって聞いたけど?」

「ん? アタイのことっすか?」


 スマホっぽい電子板をいじっているチリが恭介に振り向く。

 そんな自己宙人に恭介は声をかけようとした時、アイツの視線は一気に電子板へと切り替わった。

 無理もねえよ。

 この世界に絶対存在しない、日本で見慣れたスマホを目にしちゃったんだから。


「ねえ……、そのスマホに写ってる画像って何?」


 ……あれ? なんか様子がおかしいな?

 妙にプルプル全身震わせてるようななんというか。


「おいチリ、このナルシスト勇者様が見た画像、俺にも見せてくんない?」

「え? い、ププ……いいっすよ。ほい」


 チリが妙に笑い堪えてるのが気になるが、抵抗せず素直に見せてくれる。


 ……写っていたのは、ちょっと前に浴槽に浸かっているエクレシアにバレないようこっそり覗き見する俺……っておい!!


「ちょっ、お前いつのまに!?」

「いやぁ、まさにベストショットタイミングでしたからねぇ。いつかはこれをネタにツクルさんをいじってやろうと思ってましたっすけど、まさかこんな感じにバレるとは思ってなかったっすよ」


 爆笑しながら語るチリはほっとき、青ざめた顔になってる俺は、恐る恐るエクレシアの顔を伺うと。


「…………ツクルのエッチ……」


 頬を赤らめ恥ずかしそうにしてる。

 あれぇ? 普通ここは激怒してもいいとこなのに、なんでこんな感じなわけ?

 いや、ある意味こんなエクレシアを見れるのは激レアだが。


「エクレシア……さん? 怒ってないの?」

「いやエクレシアも似たようなことしたもんだから、怒ろうにも怒れないんじゃないっすか。もう堂々とお互いが素直になっちゃえば」

「ち、チリ!? お願いだから余計なこと言わないで!!」


 似たようなこと? お互い!? なんのこと!?

 焦っているエクレシアに直接聞きたいけど、なんかこっちまで恥ずかしくなってきた。

 もう俺の脳内パニック状態でどうしたらいいのか分からなくなって。

 ……って混乱しかけた瞬間に、恭介って奴が俺の胸ぐらを掴んできやがった。


「ちょ!? いきなりなんだよ!? ってか離して……、マジ苦じい……」

「きょ、恭介!? あなたいきなり何やってるのよ!?」

「貴様ァァァ!! 僕が……、僕が……、よくも俺が惚れてたエクレシアの純潔を奪いやがってェェェ!!」


 ……え? なんかあらぬ誤解しちゃってるんですけど!?


「待て待て待てって!! 俺はただ何度か覗いただけ……じゃなくてこの一回だけ覗いただけで、別にエクレシアに手も息子も出しちゃいないって」

「何度も!? 何度もエクレシアのあんな穴やこんな穴を!? よくも未来の僕の嫁を汚しやがって!!!」


 何でそっち方面に持っていくのこいつは!?

 つーかこの現状を引き起こした元凶のチリはニヤニヤしながら見ていやがる。

 こいつ絶対狙ってやがったよ!? 


「ちょっと恭介落ち着いて!! 私達はそんな関係じゃないから、ただのパーティーメンバーってだけで、お……お互い特別な関係ってわけじゃ」

「エクレシア、この男に何たぶらかされたかわからないけど、君は僕と同じ勇者なんだよ!? 今まで離れてた間に一体何があったわけ!?」

「彼との経緯はちゃんと話すからまずその手を離してってば!!」


 今も手を離さないナルシストに対し、顔を真っ赤にしながら止めようとするエクレシアは可愛いけど……。


 面倒臭えェェェ……、このナルシスト勇者すごく面倒臭えよォォォ……。


 自分の考えてること一点しか見てない上に、人の話を聞かないタイプのナルシストが勇者に選ばれたって、この世界の女神様も人を見る目ってあるのかしら?

 って思考が頭の中でぐるぐる回ってた時、イリスがナルシスト勇者を俺から引き剥がした。


「いい加減にしなさい! 邪悪なアクホーン教の信者風情が!! この方々はワタクシ達神聖たる由緒正しき正当なる未来の国教となるイーシズ教の信者なのですよ。あなた方邪教徒と交わせる口などあってはならないのです!!」

「勝手にもう入信してる扱いにしてんじゃねーよ!!」


 イリスに対しツッコミ入れた俺だったが、恭介はイリスを見た途端に腰元の剣を握りしめ、それを見たイリスもステッキを構えた。


 これ、またやばいような……。


「お、おい待てって……」

「恭介もイリスも落ち着いて!!」


 俺とエクレシアは、二人を止めようとしたものの。


「大体分かったよエクレシア。君はイーシズ教の連中に勧誘されたツクルって言う男に弱みを握られ、イーシズ教に強制的に入信させられたんだね? 安心して。本当の正当なる国教となる、神聖な悟りを行うアクホーン教の信者であり、転生の勇者であるこの僕、剣崎恭介がイーシズ教を潰し、君を救ってみせる!!」


 うわぁ……、勝手に都合の良い感じに俺らを悪役にしてるよこのナルシスト勇者様。

 っていうか俺入信してないどころか、俺やイリスを仲間にしたのはあんたが守ろうとしているエクレシアだからね?


「これだからアクホーン教は、自分の都合のいいように解釈して困りますわ。ツクル様もエクレシア様も自分の意思で入信なされたのです。イーシズ教はあなた方のように悪質なやり方は致しませんわ!!」


 だから俺たち入信してないって言ってるよね!?

 ってか俺から見たらどっちもどっちだと思うよ?


「なるほど、どうやらこれは」

「お互い武力で排除するしかなさそうですわね」


 いやだからなんでそうなるの!?

 教徒なら教徒らしく、話し合いで解決できないのかこいつら!?

 もはや武士の時代で例えたらどっちも僧侶って言うより僧兵じゃねーか!!

 つーか二人のバチバチ火花が燃え広がるかのように、戦いを止めてた教徒達も再び武器構えちゃってるし!!

 このいつ爆発するかわからない爆弾のような現状に対して、俺とエクレシアの決断は、目を合わせた時から決まっている。


「……二人とも、逃げるわよパート2」

「イエッサー」

「あーあ、もうちょっとドロドロな三角関係見たかったっす」


 誰にも気づかれず勝手口の前に移動する俺達。

 いざ出ようとしたら。


「この街のアクホーン教はこれで終わりですわ!!」

「違う!!終わるのはイーシズ教の君た「マジックスマーッシュ!!」ぐがぁ!?」


 足に魔力を込めたアリスの空気を読んでない飛び蹴りが、恭介の頬に直撃し、カウンターまで吹っ飛ばした。


「……もうちょっと見ていようぜ」

「……そうっすね」



 俺達の発言にエクレシアは驚いていたが、逃げることから成り行きを見守ることにした俺達。


「ちょ、君!! 普通戦いを始めるのはワギャ!!」


 アリスに説教しながら恭介は立とうとした途端、ブチ切れ状態のアリスに胸ぐら掴まれ持ち上げられて顔が真っ青に。

 まるでチンピラに絡まれている、弱気な中学生を見ているかのように思える光景だねこりゃ。


「ちょっとあんたねぇ!! 人が暴れようとしているときに不意打ちとかいい度胸してるじゃないの!? しかも人の妹に手を出そうとして!! 謝んなさいよ!! 今すぐ謝んなさいよ!!」

「へ……、あ、はい。すみませんでした……」


 ナルシスト勇者様、さっきの威勢はどこいった? 

 そう言われてもおかしくないよ、だってもう涙目だもん。

 イーシズもアクホーンも関係なく、その場にいたみんな、もうアリスに対してブルブル震えちまってるよ。


「流石ですわお姉様!! 勇者だろうがなんだろうが、アクホーンの邪教徒に対して渾身の一撃、痺れましたわ!!」


 感激している妹さんはいつも通り平常運転みたいだが……。

 

 ……ん? 待てよ? 


 ひょっとしたら今のアリスを利用すれば、この馬鹿げた殺戮劇を終わらせれるかも。


 俺はある考えを思いつき、アリスに。


「おーい、アリスー。最初の乱闘の際にアクホーン教の連中の一人が言ってたけどさ、こんな貧乳娘なんざ俺の手でイチコロだとか」

「上級魔法、よーい」


 俺の嘘にアリスは反応し、上級魔法を放つ構えをする。


「アホウ!! この中身バーサーカー娘を煽らせるなや!! 血の気が多いからマジで撃つで!! そしたらこのギルドは崩壊するぅ!!」


 アリスの肩元で俺に怒るネコマタ。

 だけどこの一言に両教徒全員、体をブルブル震わせ怯え出す。


「あとこうも言ってたな。暴れることしか能がないロリッコはほっといても問題ないって。初心者冒険者でも十分に倒せる相手だって」

ミッコロ皆殺し


 アリスは詠唱を唱え出した。


「あかんあかんあかん!! 威力増強を持つこの嬢ちゃんがこの場で魔法撃ったら魔法で死ぬか瓦礫で死ぬかのどっちかや!! 一旦契約解除!! 生きてたらまたどこかで!!」


 ネコマタはすぐさま降りエクレシアの胸元に避難。

 よし、どさくさに紛れてセクハラしたあの猫は後でしばいてやる。


「た、退却ゥゥゥゥゥ!!」

「逃げろォォォ!! 頭がぶっ壊れたウィザードキャスターがギルドを破壊するぞォォォ!!」

「アクホーン教の影響で巻き込まれて死ぬなんてごめんです!!」

「ギルドから出るぞ急げェェェ!!」


 イーシズもアクホーンも戦争忘れて我先に逃げることで頭いっぱい。

 出入り口から濁流のごとく信者達が流れ出て行き、残ったのはナルシスト勇者と俺たちだけに。


「あらら、みーんないなくなっちゃったっすね」

「残念ですわ。アクホーン教の奴らを倒せるチャンスでしたのに」

「大丈夫よイリス。後であいつらの本部に魔法ぶち込んでくるから」

「やめろバカ」


 ネコマタをしばきながらも撃ち込む気満々のアリスの頭にチョップする俺。


「に、にしてもツクルは知恵が回るって言うかなんていうか……。まさか言葉だけで両教徒達を追い出すだなんて、勧誘戦争を納めるには軍一小隊あたりぶつけないとどうにもならないほどなのに」


 エクレシアの一言が一番驚いたよ。

 軍まで出撃させるほどって……、ホントどうなってんだこの世界は。

 早く宇宙船直して日本に帰りたい。


「にしても今日は疲れたわ。宿に戻って休もうぜ」


 そう言って俺たちが宿に戻ろうとすると、逃げなかったナルシスト勇者の恭介は目の前に立ち塞がる。


「どいてくれる?」

「悪いがエクレシアを君のような男のもとに置いてけない。だから、君に決闘を申し込む」


 結局こうなるわけか。

 いい加減我慢の限界きてたしあともうちょいしたらスーツが出来上がる。

 試運転代わりにこいつをフルボッコにしてやるか。


「ちょっと恭介!! いい加減に」

「大丈夫だってエクレシア。例のスーツはあとちょっとで完成するとこだし、まあなんとかなるって」

「バカ!! いくらトカッツンを倒せたといえ、彼を甘く見たら」


 エクレシアが俺を止めようとした途端、高笑いするナルシスト勇者。

 本当に人をイライラさせるのが上手な野郎だな。


「言ったね。では5日以内にサンタロールの先にある、『アクスーキング』にて勝負を行おう。『イセセミ狩り』による勝負だ。僕と君とじゃステータスに差がありすぎる。だから肉弾戦より、こっちの方が公平だろ?」


 いや、俺は別に肉弾戦でも構わんが……。

 イセセミ狩り?なんじゃそりゃ?


「とにかく5日後に勝負だ、エクレシアをかけて!!」

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