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例の勧誘戦争から1日後、俺達はサンタロールを出て次の街『アクスーキング』へと馬車を走らせている。
「しっかしあの殺し合いがあった後でも警察は動かないって、どうなってんだよこの国の宗教に関する現状は?」
そう、あれほどの抗争があったにも関わらず、イリスも含め誰も逮捕者が出なかったのだ。
日本でそんなことあったら間違いなくニュースやSNSで拡散されて、両方とも住人から酷いバッシング受けること間違いないってのに。
エクレシアが言うには、国教をいい加減に決めなきゃと言っている、この国の王様のお触れが全ての原因らしい。
なんでも、国の誕生から今までの国王代々全員が政務に没頭し、みんなの暮らしを豊かにするため奔走し続け、宗教に関して『ま、そう言うのは個人の自由って事でいいんじゃね?』って言う軽い感じとして扱っていたようだ。
だけど、激しい雷雨だったある日のこと、王様の目の前にアクホーン教の御神体って言う『アルミス』って名の女神が現れて『アクホーン教を国教にしなさい』と言って、護衛の衛兵達に雷を落として、感電した兵達を見せながら王を脅したらしい。
よっぽど怖かったんだなって思う。
王はビクビクしながら承認して、すぐさまアクホーン教を国教にする動きを始めた。
そんな時に今度はイーシズ教の『イシズ』って言う女神が現れて、似たようなことして『国教はイーシズ教で』って言われ王もビビリながら承認しちゃったみたい。
この世界の女神様ってちょっと強引じゃない?
結果的にそれが引き金となって、アクホーンとイーシズの二大宗教の信者達は、あんな戦争紛いな行為をするようになったらしい。
あの時のような目にあって死ぬのだけはごめんだって言う理由で王様も、『二大宗教の争いに関しては手を出すな!! 殺された挙句、どっちかの御神体の手によって地獄に叩き落とされるぞ!!』ってお触れ看板を全国に配置したわけだ。
そりゃ警察も動かないって言うより、動きたくても動けないわけだよ。
結局みんな我が身が可愛いってことさ、思いやりもクソもありゃしないよ。
そんな思いを抱きながら俺は相変わらず、今後役立つ物を揺れる馬車の中の作業室で作っていた中、後ろめたい表情のエクレシアが入ってくる。
「ツクル、その……」
「エクレシア? 妙な顔してどうした? まさか……、またチリがトラブルを呼び寄せたんじゃ……」
「違う違う!! そう言う事じゃなくて謝りたいだけよ。恭介のことについてね」
「あのナルシスト勇者のこと? 別に気にしてなんかいないんだけど。そもそもお前だって被害者みたいなもんじゃねーか」
俺たちがアクスーキングに向かっている理由は、当初と変わらず聞き込みと王都に向かうためだが、もう一つだけ理由が存在する。
それは、あのナルシスト勇者、剣崎恭介と決闘のためである。
まあ相手は勇者とは言えども、もうすぐロード・スレイヤーが完成しそうだから着てフルボッコにしようと思ってたけど、勝負内容は『セミ採り』だから意味がない。
何故ゆえにセミ採りなのかは理解不能だけど、そんなことはどうでもいい。
と・に・か・く! 俺はあのナルシストに一発泡吹かせないと気が済まないのだ。
「だけどイセゼミを甘く見ていては危険よ。確かにあのセミは初心者冒険者にとっても狩りやすいモンスターだけど、それ故に集団で攻めるって言われている危険なモンスターでもあるの。過去に自信過剰の冒険者がイセゼミを追い詰めた際に、そのイセゼミが大きな音で鳴いたの。そしたらとんでもない量のイセゼミが現れてその冒険者に襲いかかってきた結果、その冒険者は死んでしまったって言う記録だってあるんだからね」
……ねえ、それセミって言うよりスズメバチだよね? って言いそうになったよ。
まあモンスターとは言え、無害な昆虫が人に危害を加えることができること自体考えると、この世界の生存競争も厳しいってところか。
ちなみにイセゼミと言うモンスターは、基本は日本のセミそのものの形状をしたモンスターだ。
大きさは個体にもよるけど、平均で言えばキャベツ程度のサイズらしい。
危険状態と感じた場合、仲間の成虫を呼び寄せ一斉攻撃してくる習性を持ってる。
ちなみに味は珍味で有名らしく、アクスーキングでは観光名物としての土産として結構有名と聞く。
……それにしても勝負とはいえ、何が悲しくてこの歳でセミ採りなんかしなきゃいけないのやら。
……早く宇宙船直して日本に帰りたい。
って思っていた矢先、妙に潮の香りが。
気になって馬車から出ると、左方面から一面と広がる海の景色が。
「へぇ。アクスーキングって、海沿いにできてる街なんだ」
「そういえばアクスーキングって海水浴で有名な街とも聞いた事があるわね。せっかくだし着いたら泳ぎに行こうかしら?」
……えっ!? エクレシアさんが泳ぎに!?
それはすなわち、
……何故だろう? 妙にニヤけが止まらない。
チリのアホが俺を無理矢理誘拐した挙句、船ごとこの世界に墜落した直後に奴隷になり、解放されたかと思いきや魔王討伐に強制参加させられ仲間に色々振り回されて散々だった毎日だったが、今なら言える!!
俺、この世界に来れてよかったぜ……。
「え? どうしたのツクル?」
「キモいわね」
「キショイですわ」
「先輩と同じエロスの瞳の持ち主っすね」
「同じ思いを抱いた同志として儂は嬉しいぞ」
皆さんが俺を見る目が痛いのは置いとき、変態猫と同志にされることだけは勘弁してほしい。
そんな思いを抱きながらも、俺達はアクスーキングへと辿り着いたのである。
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