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 あのGのクエスト報酬の経験値で、俺のレベルが4まで上がった。

 俺は何もしていないのに、クエスト報酬の経験値だけでレベルが一気に上がるっていうのは、なんだか頑張ったみんなに対して申し訳ない気持ちが込み上げてくる。

 ちなみに俺は2・3レベルあたりで初級魔法を習得した。

 これはエクレシアから聞いた話だが、魔法には初級魔法、下級魔法、中級魔法、上級魔法という4段階ほど階級がある。

 初級魔法は、殺傷力が皆無な火の玉を飛ばしたり水を出したりとショボすぎる代物だ。

 下級から殺傷力があるほどの威力となり、中級から多少なりとも造形した一撃に化す。

 冒険者は下級魔法まで覚えることが可能のようだ。

 ちなみにこれは余談だが、剣士やキャスターなどの中級職には、スキルというものが存在する。

 レベルが上がることにポイントを習得ができ、そのポイントを各種類のスキルに振り分けることにより、ステータス向上や、魔法や特技を習得できる。

 冒険者の俺には関係のない話ではあったが、ここ最近仲間になったアリスはこれを用いて自身の魔力を上げている。


 その時の彼女自身の微笑みが気持ち悪いっていうかなんというか……。

 チリさえもドン引きしてたほどだったよ。


 とにかく、魔王討伐は視野に入れてはいないが、このままじゃ完全に足を引っ張るのは間違いはなかった。

 いや、最初から分かってはいたが、問題を引き起こす素質を持った姉妹二人が仲間になっちゃったことで今後が余計に不安に感じるようになっちゃって……。

 だからレベル云々関係なく、今の状況でも戦力になれるよう、俺は殆どの時間をスーツ製作に注ぎ足している。

 ひとまず一段落をつけ食事をしにギルドに入った際、みんなは一足先に食事中。

 チリとイリスは一心不乱に貪っており、アリスは店員を捕まえて酒のおかわり要求している。

 そんな野獣そのものに見えるロリ宇宙人とロリ姉妹を見てると、今後どうなるか心配で頭が痛くなるよ。


「どうしたのツクル? なんだか悩んでる人に見えるわよ」


 そんな右手で頭を抱える俺を見かけたエクレシアは声を掛けて寄って来た。


「悩んでる人に見えるって言うか、本当に悩んでるんだよ。今後絶対何か問題が起きそうな気がしてな。何よりアリスの場合魔法一発撃っただけでもう戦えなくなるんだぞ。これで悩まないなんざどうかしてる」

「私達は魔王討伐の旅をしているのよ。何か起きるだなんて当たり前じゃない。それに今回のクエストの一件でアリスの魔力が『A−−』から『A−』に上がったの。一発から三発撃ったら動けなくなるほどまで魔力が上昇したの。この調子でいけばその問題なんて解決するわ。そうすればツクルの悩みだって」


 いや、アリスの魔力も死活問題ではあるが、それ以前に何かやらかしそうな気がして怖いんだって言ってんだよ。

 とは言っても今更解雇なんざ出来るわけないし、もはや何事も起こらないよう祈るしかない。

 そして一刻も早く宇宙船を治して日本に送り返してもらおうと、新たに決意を固めた俺でした。


「ツクルさん、エクレシアさん、これを見ていただきたいのですが」


 そんな俺の思考を妨げるかのように、一枚の高難易度の依頼書を手にやって来る、妙にやる気満々そうに見えるイリス。

 俺は『え?』っと声を上げた後その書類を手に取り読み上げる。


「なになに? ーーー数年前からサンタロール観光スポット予定地に謎の建造物が出現。大きさは民家一軒ほどのサイズで不気味な構築であったから取り壊そうとするが、不思議な声と魔力により大工全員がその敷地内から吹き飛ばされる。冒険者のプリースト達が悪霊の仕業と考え浄化しようとするも全く効果なく、逆にその声の主の逆鱗に触れ、毎年その敷地に年頃の少女を要求するようになった。少女達は一晩明けた後無傷で戻って来るが、『汚された……』と嘆き、家の中で塞ぎ込んでしまうようになってしまう。今年は私の娘がその敷地内に行くことに決まってしまい行かなくてはならない。そんな所に娘を行かせるわけにもいかない。どうかお願いします。娘の代わりに敷地内に向かい、その悪霊の正体を懲らしめてください!! ーーーだって」


 なんとも不思議な怪奇現象と言うべきか……。

 ってかそれ以上に、なぜイリスがこのクエストをこんなにも生き生きした感じに受けたいのかが謎だ。


「このクエストをやりたい事はいい事だから問題ないけど、なんかちょっと落ち着いていないように見えるには気のせい?」

「よくぞ聞いてくれました!!」


 エクレシアが疑問を問い投げた瞬間、顔をグイ!!っと近づけるイリス。


「冒険者のプリースト達が一度なんとかしようとしてた事が依頼書に書いてありましたよね!? ワタクシが独自に調査したところ、そのプリースト達は、悪質な勧誘方法でイーシズ教と同じ国教にするかどうかの立場である憎きアクホーン教の従者達だったのです!! つまり、イーシズ教徒であるワタクシがこのクエストを達成出来さえすれば、イーシズ教はアクホーン教より優れている証明になります。それはすなわち、この国の国教はイーシズ教になる可能性が高まる事なのですわ!!」


 なるほど、聞きたいことはいくつかあるけど、一言で例えるのなら宗教のためか。


「ま、まぁ……。私としてはどっちもどっちで悪質な勧ゆ」

「エクレシアさん、貴方何言うつもりなのですか?」

「ふぇ!? な、なんでもないです……」


 なんかエクレシアが言い出そうとした途端、イシズの真顔が超怖く見えたのは気のせいだろうか?


「しゅ、宗教に関してはよくわからねえけど、これ高難易度クエストなんだが……危険じゃね? やばいモンスターとか出て来るんじゃ……」

 「そこに関しても抜かりはありませんわ。このクエストを受けた冒険者達は、ただ暴風を受け敷地内から追い出されるかの如く、吹き飛ばされるだけでして怪我人は今まで一人も出ていません。ですのでツクルさんやチリさんが同行してもなんの問題はありませんよ」


 だったら尚更話は早い。

 今後も俺たちは街から街へと移動し、魔王の情報や修理に役立ちそうな情報を集めることになるだろう。

 その道中のモンスター対策の為にも、スーツの不調時による対策として強くならなければダメだ。

 何よりアリスとイリスのダメ姉妹の欠点をなんとかしないといずれそれがきっかけでピンチになる事は目に見えている。

 ちょうどスーツ製作に関わる武器も、試せるものなら試してみたい。


 「エクレシア、せっかくだしやってみるか?」

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