6

 なんやかんやあって全てのGを倒した俺たち。

 ヌラヌラと体液でテカり気絶しているイリスを背負っているエクレシア。

 そして、G供に踏まれまくってボロボロの俺と、その後からずっと泣きっぱなしのアリスに屍面になってるチリ。

 夕暮れ頃にサンタロールに帰還し銭湯で汚れを落とした後、ギルドにて報酬をもらいに行く。


「ほら、ビッグGの討伐報酬とクエスト達成報酬だ。移送サービスは既に抜いて置いといたが、文句言うんじゃねーぞ」


 俺たちの手では、あんなデカすぎるGなんざ、運べるわけがない。

 だがエクレシアの話によれば、ギルドの人に頼むと運んでくれる移送サービスってもんがあるらしい。

 それ込みで、あのG1匹が銀貨三枚程が買取値。

 そしてエクレシアの輸送クエストは金貨三枚で、今回の討伐クエストの報酬は金貨十枚ぽっち。

 討伐クエストは輸送クエストと違い、まだ対策が発展途中な為、そこそこな依頼額だ。

 それでも俺たちは五人パーティー。

 今回のクエスト報酬だけでも、五人で分けて一人当たり金貨二枚程度とサラリーマンの小遣いほどだ。

 うん、全く割に合わないっと、誰もが思う。

 だけど、俺はそれ以上に受付の人の姿を、疑惑の目でマジマジと見つめることに集中して、そんなことを考えてすらいない。

 カーボウイのようなハットを被り、タバコを蒸しながらダンディなイメージを醸し出しているおっさん。

 西部劇とかの酒場とかによく居そうなバーのマスターっぽい雰囲気を醸し出している。


 ……いやこの人スターラインのギルドの人だろ?


「あのぉ……、どこかでお会いしたことありましたっけ?」

「なんだ?お前、スターラインで冒険者になったばかりの新人か?」


 俺は無言で頷く。


「だったらそう思っちまうのも無理ねえな。これみろ」


 そう言っておっさんは、一枚の紙を俺に手渡す。

 見たところどうやら写真のよう……見た途端に俺は吹いてしまった。


「なんだこれ!? 同じ顔をした奴らがいっぱいなんですけど!?」

「新米供には毎度話してるんだが、俺たちは◯十◯つ子でよ」


 は!? ◯十◯つ子!?


「だけどバーで育ったせいか全員俺のような性格になっちまってよ。そんで全員別の街で、同じ道を選び、今の状態になったってわけだ。ちなみにスターラインにいる奴が末っ子だ」


 こいつら……ポ◯モンセンターのジョーイさん? いやそれ以上に、こいつらを産んだお母さんの顔を見たくなったよ。

 そんな複雑でどうでもいい思いを抱えたまま、飲酒ペースでトカゲのステーキを食べているエクレシア達の席に戻る。


「やっぱり私が見込んだ通りだったわね。普通のウィザードキャスターでもアリス程の威力の上級魔法なんか撃てないし、イリスの下級回復魔法で傷だらけの三人を全回復させちゃうんだもの」

「アタシはそれ以上にエクレシアの身こなしと剣捌きに驚きよ。あんなデカいG供の攻撃を最低限の動きだけで回避しながら柔らかいけど狭すぎる関節部位だけを狙って斬り裂く一撃、アタシの心にガツンと響いたわ!」

「お姉様から聞いたのですが、あの後チリさんを追い回していたG達を威圧だけで追い払う姿もカッコ良かったそうですね! G共が顔を真っ青にして即逃げ出すだなんて、よほどの素質を持った方でなければああはなりませんでしたわ」

「イヤっす……、もうGだけは嫌っす。アイツらは乙女の天敵っすよ」


 ……なんか俺が席外している間にすっかり打ち解けちゃってるんだけど?

 とにかく俺も席に座り、アリスに顔を向ける。


「アリスって、上級魔法使えるんなら、中級や下級魔法も使えるってことか? それも威力増強の対象にも……」

「え? 使えるし対象にもなるけど……。まさか!? 偉大なる未来の魔法使いのアタシに対して今後はそんな低レベル魔法で戦えって言うんじゃないでしょうね!?」


 この女! 逆ギレしやがったよ!!


「しょうがねえだろ!! 毎度上級魔法撃った後に倒れるなんざ、倒しきれずピンチになった時お荷物になるから大変だろ!? それに上級であれほどの威力だったら、お前が放つ中級魔法は普通の人が放つ上級魔法と対して変わらないはずだから、それだけでも十分戦力に……」

「あんたバカ? 何ロマン無いこと言ってるわけ?」


 ……は? バカってなんだ? まともなこと言ってるつもりなんですが??

 ちょっとカチンときたんだけど?


「偉大なるウィザードキャスターであり、アタシらの先祖であるソフィ様はね、こう言ってたの。『大いなる魔法使いは、上級魔法を駆使して敵を翻弄する存在。それ以下の魔法で翻弄することしかできない魔法使いは世界に名を轟かせない!!』ってね。アタシはいつか、ソフィ様と同類……、いえ、それ以上の魔法使いになることを目標としてるの。そのためにも上級魔法だけでレベルを上げ、魔力のキャパ量を上げ続ける!! だから絶対に上級以外の魔法は使わないわ!!」

「流石お姉様ですわ!!一生ついていきます!!」


 あかん、こいつはダメ系な魔法使いだ。

 イリスの方もアレで、姉の肩を持ってやがる。

 こいつらの採用はやめておこう、流石のエクレシアもそう思って……。


「流石私が見込んだ姉妹ね!! 効率が悪くてもロマンを追い、いずれ効率良く扱えるようになろうと言う心構え! イリスもそんな姉を慕う気持ち、素晴らしいわ!」

「なぜだろう? 結構重大な問題のはずなのに、アタイの心にガツンと来たっす!!アリスさん、否、アリス先輩!! アタイも一生ついて行くっす!!」


 ……確信した、エクレシアは人を見る目がなさ過ぎる。

 しかも目を離した隙に面倒な展開を引き起こしているチリの奴も同調している。

 これ以上問題児が仲間になるのはごめんだ。

 何より、チリを省いた美少女三人揃って、打倒魔王を目指してる。

 このままじゃ俺も強制的に魔王討伐に参戦することに……。



「エクレシア、わかって言ってる?アリスは魔法撃ったらぶっ倒れ……」

「アリス、イリス、私達は本気で魔王討伐を目指している。私達が旅をしているのもその為なの。それはすごく過酷な冒険になるに違いない。二人の素質を見込んで改めて問うわ。どれだけキツくて苦しい冒険でも、力を合わせて乗り越える覚悟はある?」


 わぁ……、俺の話聞いてねぇじゃん。

 ……っておい!! なんで既に俺も魔王討伐参加してる形になってんの!?

 

「あったりまえでしょ!? 旅する理由は他にもあるけど、アタシの最終目的は魔王倒してソフィ様以上の位に立つことなのよ!? だったら魔王倒したほうが一番手っ取り早いってもんじゃない!!」


 ヤバイ、こいつやる気満々じゃん。

 自分の現状、ちゃんと理解してる?


「お姉様が行くのでしたら、当然ワタクシもついていきますわ。それにもしイーシズ教信徒の手で魔王討伐が果たされた暁には、まだ決まっていないこの国の国教はイーシズ教になる可能性が上がるのですから!!」


 へぇ、この世界ってまだ国教っていうのが決まってないんだ……。

 ……じゃなくて!! こいつも姉云々関係なしにやる気ありすぎ!! マジでヤバイ!!!


「あのツクルさん、二人の決意聞いたら腰が引けてきたっす。だってほら、アタイらあの三人と違って最弱っすし。こっそり修行して強くなりませんか?」


 なんでニート風情のお前もちょっとやる気になってんだ!? ってか一番の最弱はお前なのも忘れんなよ!?



「なら、話は決まったね!! アリス、イリス、これからもよろしく頼むわ!!」

「こっちこそよろしくね!!」


 熱い友情が芽生えたかのように握手するエクレシアとアリス。


「あーあ、アタイらの世界で魔王専用の殺虫剤があったら持ってきたっすけどねー」

「魔王退治に楽と言う文字はないですわよ。ところで殺虫剤とは一体?」


 どうでもいい会話で弾むチリとイリスの低脳コンビ。

 みんな結構打ち解け合ってる中、俺だけ頭抱えテーブルに突っ伏してる。

 超最悪だ……。


「これで私の理想のパーティーとなったわ! 勇者である私と言う前衛職を筆頭に、攻撃魔法のスペシャリストのウィザードキャスターのアリスと、回復と補助の達人のゴッドプリースのイリスの万全な後衛。そして参謀にして役立つ道具を作ることができる上、スーツが完成したら前衛も後衛も頼りになるツクル。まさかここまで理想通りになるなんて思わなかったわ」

「あれ? アタイは??」


 人の見る目がない勇者に、一発撃ったら動けなくなるロリ魔法使い。

 頭の回転率がミ◯アでなく、効かない相手に対してもザ◯キ連発して魔力を切らすク◯フトAI脳プリーストに、トラブルを持ってくるニート冒険者。


 まともな奴が一人もいねえ!!


「それでは皆様、何卒ご迷惑おかけする時もあると思いますが、姉共々これからもよろしくお願いします」

「よろしくね!!」


 世界を救う可能性を持つ勇者様。

 全ての上級魔法を扱えるウィザードキャスター。

 回復と補助魔法のエキスパートのゴッドプリース。

 俺とチリと言う重りを省けば優秀なパーティーの布陣と、誰もが思うのは間違いないが、俺は今後が超不安だとしか感じ取れなかった。

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