8

クエストを受け、依頼書に書かれていた例の施設に着いた俺たち。


「……おい、これどっからどう見てもあれだろ」


 両腕に変わったガントレットを装備し、そのガントレットと動力パイプで繋がっている機械じみたランドセルを背負うという、珍妙な格好をしている俺は懐かしい視線でその施設を見渡す。

 この世界の住宅は主に、レンガなどの石のような物質でできている。

 中世時代的な異世界では常識だ。

 だけど突然出現したと言われるこの施設はどうだろうか。

 石系は階段など一部しか使われておらず、残りのほとんどは江戸時代の日本のように木製だ。


「なんとも不思議な場所としか言えないわね。いくら悪霊などの仕業じゃないからとは言え、突然現れたって言うからそれなりに警戒してきたつもりだったけど。もし何かが呼び出してこの施設が現れたとしたら、悪霊ではなく、神様が呼び出したような気がする……」


 なんとも不思議そうな目で施設全体を見渡すエクレシア。

 まあでもエクレシアがそう思うのも無理ないって言うより、感が鋭いって褒めてあげたいくらいだ。

 なぜなら……。


「この犬の石銅像は何かしら?ワタクシから見てこのまま放置していてはイーシズ教の天敵になりそうな気がしてならないのですが」


 イシズ、その石銅像は狛犬像ですね。


「ちょっとなんなのあのでかい石で出来たベル!? 音を鳴らす内部の物がないけどどうやって鳴らすわけ!?」


 アリス、そのベルは和鐘って言う日本のものですね。


「懐かしいっすね〜、初めて地球に降りた時こう言う場所に行った記憶がありやすよ。あんとき行った場所は確か法隆寺でしたっけ?」


 チリ、過去話はどうでもいい。


緊張感が全くないチリとアリスとイリストラブルロリーズの発言からでも間違いない。

 この施設は、日本の神社そのものだ。

 改めて全体を見渡すと、近くにあるお寺臭い花壇や池、石で出来た通路を挟むように広がっている砂利石の広場。

 どこからどう見ても日本の神社と言ってもおかしくはないと言ってもいいだろう。

 そんな事を思っていたら、神社全体から青白い光が灯り出す。


『誰だ? 儂が望み申した娘ではないようだが……』


 本殿の方からから重々しい老人の声が。

 神社全体が光り出した上に、本殿から声が聞こえてきた時点でやばい気がする。

 モンスターとかの危険は無いにせよ、これ相当危険な状態な気がするのは俺の勘違いだろうか?


「貴方が要求した娘は来ないわよ。その子を守るように頼まれたんだから!」


 どんな相手だろうがピンチな状況だろうが、堂々と自分から立ち向かおうとするエクレシアさんがちょっとカッコいい。


『ほう、またしても冒険者か。これまで幾度の冒険者共が儂をどうにかしようとこの神域に足を踏み入れて来おったが、この街の連中はよっぽど儂を追い出したいようじゃな。勝手にこの場を居住をしたことにした事は悪く思い、何もせずに居たにもかかわらず、冒険者共を用いて何度も儂を殺そうと。実力の違いを見せ、ちょっと一晩だけ女子おなごを借りる程度の罰で済ます程度で済ます慈悲を与えたにもかかわらず……。もう堪忍袋の限界じゃ。我力の全てを用い、この街の住民を皆殺しにしないといけないかも知れん』

 「ふん!! アタシほどじゃないにせよ、幼気な少女達を連れて毎夜毎夜いやらしい事してる奴が生意気よ!! こんなチンチクリンな場所なんてアタシの魔法で木っ端微塵にしてやるんだから!!」


 物騒な言葉に対して、物騒な返答をするアリス。

 手始めと言わんばかりに、和鐘に向け人差し指を得意げに指し詠唱を唱え始める。

 コイツ、やる気満々じゃねえか!! 早く離れないと巻き添いに。


「待ってくださいお姉様!! この気配からしてこの施設を召喚した主は!!」

 「爆破系の上級魔法、『コロナマイト』!!」


 アリスの人差し指から閃光が迸る。

 そして指先から小さな光の玉が……、放たれる寸前でかき消された。


 「ええ!? アタシの魔法が!?」


 アリスは驚き、威力増強のデメリットにより、力抜け膝を着いた。

 ……確かに倒れなくなったな。


『愚かな。ここは儂のテリトリー。人が放つ魔法なんぞ、瞬時に掻き消すことなぞ容易い所業。外に出て放とうが結界で防げる。しかし惜しいな小娘。掻き消した際に理解したが、才能能力を持っておるな? それにより普通のウィザードキャスター以上の高威力の魔法を放つと同時に、所持している魔力のほとんどを使用している。まさに宝の持ち腐れよな』

「余計なお世話よ!!」


 高笑いする声に若干キレるアリス。


「魔法がダメならば、私の手で!!」

『弓矢も近接戦闘も無駄じゃ』


 エクレシアが剣を抜きかけた時、本殿から突風が吹き荒れる。

 まともに受けたエクレシアは体制を崩し後退り、俺たちはなすすべなく吹き飛び倒れた。


『今のは少し加減してやった。にしても宝の持ち腐れの娘といい貴様といい、今まで挑んできた冒険者の中で貴様らが一番優秀のようじゃな。しかもそこの赤髪の娘は儂の好みに近い……』


 ……強者の余裕と言うべきか、だんだん本殿から聞こえて来る声がいやらしくなってきてる。

 まるで好みの雌を見つけ発情した動物の雄のような……。

 ん? 赤髪って……、まさか!?


『気に入ったぞ娘。今回はそちにいくつか質問しよう。回答次第でこの街の住民には危害を出さぬ故に、これ以上生贄を要することもせぬようにしてやるぞ?』


 ……なんだろう?妙に嫌な予感がする。


 それにこの胸の奥から急に込み上がる、ムカムカした気持ちの正体が知りたい。

 そんな俺をよそに、体制を立て直したエクレシアは再び剣を構えだが。


「エクレシアさん!! お待ちになってくださぶぎゃぁぁぁぁ!!! ヒール! ヒール!」

「い、イリス!? 剣身に触れるから……」


 突破により吹き飛ばされたイリスは起き上がり、すぐさまエクレシアの剣を両手で押さえ……、そのまま掌に切り傷を負った。

 普通ここは握り部位を抑えるところだろ。


「ちょっと何考えてるのよイリス!? あんな変態親父みたいな奴にやられっぱなしで黙っているわけにもいかないでしょ!?」

「違うのです!! 話を聞いてください!! ひょっとしたらワタクシ達は、神そのものと戦おうとしているかもしれないのです!!」


 ……え? 神様?? あの声の主が!?


『ほう、挑んできた冒険者共の中にプリーストが混ざっていた事はあったが、皆儂の事を悪霊ではないと思っており、誰も神だと気づく事はなかった。だが貴様は我正体を見抜いた。褒めてつかわそう』


 ……マジで神様だったんかい。


 正直言って俺はびっくりしている。

 俺たちが戦おうとしているのが神様とかそう言うのじゃなく、イリスが神様と見抜いたことに。

 流石は神の従者と言われしゴッドプリーストだ。

 エクレシアから聞いた話では、ゴッドプリーストは経験を積めば詰むほど、神の力を感知することができると言われている。

 知能が低すぎてGに捕食されてばかりだが、これでも一応エクレシアに認められているほどの実力の持ち主だ。

 あいつが神様と見抜けるのも当然なのかもしれない。

 そしてそんな彼女を認めたエクレシアは、向けていた剣を鞘に収める。


「貴方がなんの神様かわからないけど、本当に私の回答次第でみんなには手をださいと誓うのかしら?」

『当然じゃ。神は嘘などつかんぞよ』


 ……え? 答えるの?? いくら神様と言え、こんな奴の言うこと信じるの!?


「おいエクレシア、ちょっと待っ」

「しー!! お願いですからツクル様、少しお静かに!! 女神イシズ様ほどではないにせよ、神に対して下手な真似をしたら天罰どころか世界の崩壊だってあり得ますわ。ここはひとまずエクレシア様の事を信じるしか……」


 この世界の神に関して無知な俺は、イリスの言葉に何も言えず唇を噛み締める。

 先程までブチギレ寸前だったが、今はちょっと面白そうにエクレシアを見つめているアリスと俺をニヤニヤ見つめてくるチリがなんか腹立つ。


『では、まず第一の問いを答えよ』


 色々思っていた中、神の問いが始まり、あたりの空気が重くなった。


『貴様のスリーサイズを答えよ』


 ……は?


 重いシリアス的な空気が、場違いすぎるたった一つの問いだけで凍りついた。

 チリもアリスも面食らった顔になっちゃってるよ。

 エクレシアなんかそれに付け加え、機械でもないのに頭から煙が出ちゃってる。


『答えんか。貴様のスリーサイズを早う答えい』


 脳内がオーバーヒート起こしてるエクレシアは固まったまま動かない。

 俺はすぐさまイリスの顔を向き。


「おい、アイツ何言ってるの? 本当に神様なのか?」

「姉様の魔法を掻き消したり、あの突風の魔力からして間違いはありません。それに聖書によれば、神の中には人と獣のパコ的行為で興奮する神も存在すれば、悪魔を痛めつけて興奮すると言うお姉様と似た性癖を持つ神もいるのです。ですからああ言う神も存在するのは普通かと」


 うわぁ……、この世界の神様ってロクな奴がいねぇ……。

 そんな感じに呆れた俺だったが……。


『うーん、サイズはDくらいかなー』

「って!? おいコラァァァァァァ!!」


 勝手に予測しやがった自称神に怒声を上げた。


『なんじゃ? 今神による神聖な問答じゃぞ。それを邪魔するということはどういう……、ん?』

「いや神様ならそれなりの質問しやがれよ! どこが神聖な問じゃボケが!? どう聞いてもただのおっさんのセクハラそのものじゃねえか!!」

「つ、ツクル様!! 神様に対して暴言はおやめくださいって先程言ったばかりですよ!? 本当に申し訳ありませ……、え?」


 罵声を放つ俺にイリスは無理やり頭を下げさせようとした時、なぜかセクハラ神の笑い声が神社中に響き渡る。


「ど、どうかなされたのですか?」

『いやいや、その男があまりにも無礼すぎるもんだから何か天罰を下してやろうと思ったが、此奴とその女子はそういう』


 え? ち、ちょっと何言ってるかわからないんですけど?

 セクハラ神の勝手な解釈に反応してアリスもチリもヒューヒューって口笛で冷やかしてくるのがなんか腹立つ。

 アイツらは後で供物として捧げようかしら?


『まあ、儂も人の女子を奪うほど薄情ではない。だからお主に質問するとしよう』


 なんか勝手にエクレシアから俺に問われることになったが、まあ、あんなのにエクレシアが汚されるよりはマシか。


「いいぞ。何聞く気だ?」

『問いはただ一つ。…………その赤髪の女子の裸体のどこ見て一番興奮したか?』


 ……なんかブチギレた。


 俺は無言で近くの狛犬像に右掌を向け、吹き飛ばされないような体制になる。


『おい、何しておる? 儂はそんな変なポーズを要求した覚えは……』


 変態神が言い切る寸前、ガントレットの中心部から光線が発射され、狛犬像を爆破。


「え!? 何!?」


 今の音に正気を戻すエクレシア。


「それ魔法!? だとしたらアタシの魔法は掻き消されたのにどうして!? ってかその破壊力からしてあんた本当に最弱職!?」


 困惑しているアリス。


「つ、ツクル様!! だからダメですってば!! こんな事をしたら天罰が!!」


 俺を止めようとするイリス。


「ケッ、汚え花火だ」


 どこぞの王子の名台詞をパクったチリだけなんか違うがそんなにはどうでもいい。

 この施設をぶっ潰す!! それしか考えていない俺。


『ど、どういう事じゃ!?さっきの一撃には魔力は感じ取れなかった……。だけど魔力並みのあの威力は一体……』


 変態神が戸惑っている隙に俺は、似たような光線を本殿に向け左右交互に連続発射。

 途中で突風による反撃もあったが、地に寝そべることにより風にあたる面積を大幅に減らして回避。

 そうしながら次々と施設を破壊し続ける。


 ちなみにこの光線は『スラスター・レイ』。

 ロード・スレイヤーのガントレットの掌から発射されるエネルギー武装だ。

 本来のロード・スレイヤーにはこの武装は存在せず、俺が考えたオリジナル武装でもある。

 開発の経緯は、初めての脚部による飛行テストで失敗した時、ひょっとしたらという思いつきで製作したのがことの始まり。

 これが初使用テストみたいなものだが、まさかここまで威力があるとは思わなかったよ。

 ちなみに使用するエネルギーは、動力パイプで繋がっている、ランドセルジェネレーターにセットされているドライバーリアクターに蓄積している電力だ。


 相手に隙を与えないよう交互に撃ち続け、明け方頃には本殿の形はどこに無なく、黒い煙が上がっているだけ。


「出てこいやァァァ!! お前のようなセクハラしか取り柄がない奴は、魔王だろうが神だろうが俺がぶっ殺してやる!! 現代科学をなめんじゃねーぞ!!」

「つ、ツクルさん? だい、大丈夫ですか?」

「悪魔ですわ……。いえ、悪魔通り越して邪神以上の存在ですわ……」

「な、なるべくアタシ、ツクルのことを馬鹿にするのは控えるようにしよーっと……」

「このポテチ味濃いっすねー」


 若干一名だけ地べたに寝転び呑気にポテチを食っているというおかしな奴もいたが、エクレシアもアリスもイリスも今の俺を青ざめた顔で見つめるだけで、何を話したらいいのかわからない様子だ。


「わかった!! 悪かった!! 儂の負けや!!」


 跡形もなくなった本殿から何かが出てきた。

 サイズはド◯クエのメジャーモンスター、スライムと同じか?

 声からしてあの変態神と判断した俺は、すぐさまそいつにガントレットを向け。


「ストップストップ!! そんな物騒なもん向けんといて!! こーさんすっから、こーさん!!」


 ……猫?


 俺だけではなく、その場にいた全員が、同じ目でそいつを見つめるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る