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飲食スペースの人席に座り、パーティー募集をしていた姉妹の話を聞くことにした俺たち。

 ちなみにさっきまでいがみあってたチリとローブ纏った彼女は、さっきのが嘘のように打ち解けて悪仲間のごとくジョッキを手に乾杯している。

 一体何があったのやら?


「とにかくもう一回自己紹介しとくわ、今度は普通にね。アタシはアリス、『威力増強』と言う才能能力エリートアビリティを持って生まれてきたウィザードキャスターよ。そんでお宅らの仲間と仲良く飲んでいるのが妹のイリス。回復も補助も攻めも万能なゴッドプリーストよ」


 最初からそんな風に冷静に話してくれればお約束っていう名の嫌な予感は感じなかったんだが……、それよりも才能能力エリートアビリティってなんだ?


「なぁ、自己紹介はいいとしてその才能能力エリートアビリティってなに?」

「えぇ!? オッサンそんなこと知らないの!? 最近の最弱職って無知な奴が多いのねぇ」

「いやまだ俺17だし知らないもんはしょうがねえだろ!! しかもなんでお前が俺の職業知ってんだ!?」


 ブチ切れた俺をなんとか諫めてくれるエクレシア。

 でもどうしよう……、このアリスって奴、グーでぶん殴りたい!!


才能能力エリートアビリティって言うのは、生まれつきに持っている潜在能力のようなものよ。三百人のうち一人の割合で生まれてくるらしいの。種類も豊富で、生まれた時から習得までのレベル上げが困難すぎると言われている蘇生魔法が使える人がいれば、人並外れた魔力を持って生まれた人もこれに該当するわ」


 落ち着いた俺に才能能力エリートアビリティについて説明してくれたエクレシア。

 そんな彼女を見ているとやっぱり天使か何かと思っちゃうよ。

 可愛すぎて見惚れてしまうわ。


「ちなみにアタシが持って生まれてきた『威力増強』って言う才能能力エリートアビリティは、魔法の威力が通常より3倍ほど上昇して放つと言う素晴らしい物なの。ゴブリンのような小さい脳しかないお兄さんにもう少しだけ教えるけど、補助魔法も回復魔法も、威力増強の対象に入って継続時間や回復量も3倍ほど上昇!! すごいでしょう?」


 それに比べてこの毒舌ロリ娘! 誰がゴブリンサイズの脳みそだコラ!?

 すごい能力持ってるからと言って、人を馬鹿にするような発言しても許されると思ったら大間違いだぞ!!

 つーかこいつ絶対チリ以上に性格がアレなんですけど!?

 って感じで、またしても全身プルプル震える俺を落ち着かせようとするエクレシア。


「お、落ち着いてツクル……。それよりも貴方達ってオッドアイ村の出身って言ってたけど……」

「そうよ。アタシ達の生まれ故郷は、古の賢者『ソフィ』様が作り上げた魔法使いと僧侶の修行場と言われる『オッドアイ村』なのよ!! ちなみにアタシはソフィ様の子孫でもあるわけ」

「ソフィ様って……、あのソフィ様!? 太古の昔に現れた邪神を封印することができた伝説の魔法使いのことよね!?」


 ソフィソフィって興奮しながら連呼してるエクレシアだけど、ソフィって誰?

 俺は助け舟を求めるかのようにチリと楽しく会話するアリスの妹、イリスを見つめた。

 そんな俺に彼女は気づいた素振りを見せ……。


「すみませんチリさん、今ワタクシを見ている“人の姿を真似している魔物”とおっしゃってもいい男がさっきからじっと見ていらっしゃるの。ワタクシの美貌に見惚れているのは理解できますが、あの殿方は一体?」


 こいつもこいつで初対面の相手に対して失礼な奴だな!? 食われそうなところを助けてやったんだぞ!?


「ん? ああ、こいつはアレっすよ。『覗き魔』と書いて冒険者と読むただの役立たずの変態っす」


 そして相変わらずムカつくなこいつは!?

 つーか冒険者と書いて無職と読むお前だけには言われたくないんだけど!?

 俺の額に血管が浮き出た瞬間、エクレシアが俺に気づき諫めてくれる。


「とにかく、とにかくだ!! まず一から説明してくれ!! まずソフィって誰!?」


 俺の質問にばっと振り返るアリス。


「ちょっと、あんたソフィ様を知らないわけ!? 彼女の名前を知らない冒険者なんて初めて聞いたんですけど!? 本当に無知なのね貴方って」


 いや、いくらこの世界に一年以上いたとはいえ、殆どが奴隷生活で学ぶ機会がなかったんだからしょうがないだろ。


 ……もう我慢の限界だ。


「アリス、さっきからツクルが最弱職だから馬鹿にしてるみたいだけど、彼について少し話しておきたいことがあるの」


 急に真剣な表情でアリスの顔を見つめるエクレシア。

 俺より先に我慢の限界が来たかしら?


「少なくとも彼は馬鹿ではないわ。その証拠として彼の知力ステータスはEXよ。それに冒険者になる以前、その知力を駆使して魔王軍幹部を倒したって言う実績もあるわ」

「は!? アタシ以上の知力!? 魔王軍幹部をやっつけた!?」


 エクレシアの反論に対してびっくりして何も言えないアリス。

 いいぞエクレシア!! もっとだ!! もっと言ってやれ!!

 そしてアリスの野郎が涙目になって『馬鹿にしててごめんなさい(泣)』ってなるまでやってくれよ。


「そう、彼は無知や馬鹿ではない。何も知らないのは魔王のせいなのよ!!」


 そうそう、俺がソフィやらなんやら知らないのは異世界から来たわけで。

 ……ん、魔王? エクレシアさん何言ってんの?


「彼はすごい物を生み出すことができる至高の『クリエイター』と言う職業だったんだと私は思っている。だから魔王は、彼の自然の摂理を覆す技術を恐れて、右中指一本と記憶を消し、彼を無力化しようとしたの」


 いや作り話を話してる感がありありに聞こえますよ!? 恐れてるから中指一本だけ消すって何!? 魔王どんだけ小心者!?


 「そして私と出会い、一緒に旅する中で記憶が少し戻り、力を合わせて魔王を倒すと誓ったの。その証として今トカッツンを倒した魔道具の強化版を製作中であるわけで」


 どさくさに紛れて何勝手に俺を魔王退治に参加させようとしてんだお前は!?

 俺はすぐさま否定しようと二人に顔を振り向けるが……。


「そうだったのですね……。自分の記憶と指を取り戻す為に……」


 なんか信じ込んじゃってる!? このままだと俺本当に魔王退治に参加している事になっちゃうよ!?


「だから右手だけそんな鳥類モンスターのような形だったのね……。そんなアンデッドのような瞳も、魔王の手によって……。さっきは色々好き勝手に言ってごめんね」


 そんな誤解で誠意込めて謝られても困るだけだから!! 何も言えなくなっちゃうから!!

 そんな俺をチリの奴、ニヤニヤしながら見ているのがなんか憎たらしい。

 わかってるの!? このままじゃお前も魔王退治しなくちゃいけなくなるんだぞ?


「っと、言うわけだから、ツクルに色々教えてあげて欲しいの。オッドアイ村のことや、ソフィ様のこととか」


 全部言い終えた感が漂うエクレシアは、天使のような微笑みを浮かべる。


 だけど俺は改めて知った。彼女も彼女で、結構腹黒い奴だった!!


 正直言って、知りたくなかったよ……。


「じゃあ改めて説明するけど、ソフィ様は攻撃魔法も回復魔法も補助魔法も、どんな魔法も完璧に使いこなせる最強の職業『賢者サーガ』の一人。昔世界を滅ぼすことができるかもしれない魔王とは別のモンスター、『ユグランテ』を自らの命をもってして封印した偉大なお方よ」


 勝手に色々納得して、勝手に説明し始めたアリス。

 まあ、世界を滅ぼすことができるかもしれないモンスターを封印できたとなりゃすごい人物だってことは分かったが……、ユグランテって何?


「オッドアイ村は、ユグランテの封印を維持する為に作られし集落で、ソフィ様の意思を受け継いだ者たちが集まった里でもあるの。だから村のみんな魔力が高くて冒険者達からのスカウトされることが多い優秀な人材が集まる場所なのよ。ちなみに名前の由来は、ソフィ様が右目が紅く、左目が蒼いオッドアイだったかららしいわ」


 ……まあ、ユグランテって言う魔物は置いといて、優秀な魔法の使い手達が集まる場所だと思えばいいってことか。

 普通ならそれだけ聞けば即仲間になって欲しいとか言うところなんだが……。


 募集のチラシの宣伝といい、姉妹二人の性格といい、すごく嫌な予感しか感じられない。


 そして何より……。


「大体は理解できたところで聞かせて欲しい。そんな有名な冒険者の子孫の二人がなんでG如きに喰われてたん? 俺やチリと同じでレベルが低いのか?」


 俺は疑惑の眼差しで二人を見つめながら問い詰める。

 レベルがまだ2か3程度なら、いくら上級職でもまだ理解できる。

 だとしても姉の方は最上級魔法使いのウィザードキャスターだ。

 自分の実力くらいは理解してると思うし、馬鹿みたいな数のGになんの勝算も無しに挑むなど考えにくい。



「その事に関しては、ワタクシが原因なのです」


 静かに割り込むような形で口を動かすイリス。


「何言ってんのよイリス、時間稼ぎのためにあんだけの群を引き寄せるのは軽率なのは確かだけど、急にあんなにもわんさか増えちゃったらどうしようもないわよ」


 ……なぜだろう? 状況が掴めないが、アリスの擁護発言に何かがすごーく引っかかるような……。


「ビッグGに食べられていたのは、何かアクシデントがあったって事?」


 エクレシアも今のアリスの言葉が気になって問い出したけど、それ聞いちゃいけないような気がするのは気のせいだろうか?


「アタシら、ビッグGの羽三枚取ってくる採集クエストを受けててね、この街付近にちょうど3匹のビッグGを見つけたのよ。前衛職がいなかったから上級魔法での不意打ちで一掃しようとしたら、スターライン方面の道から大量のビッグGがわんさか現れちゃってね」


 ……はい?


「そのG全匹、何やらお怒り状態で何かを追いかけてたように見えましたけど、街の方角に進んでいたのでひとまずワタクシが囮になって時間稼ぎしようとしたのですが……、姉様は狙ってた3匹のうち1匹に、ワタクシは大量のGのうち1匹に……」

「だからあんた達が偶然見つけて助けてくれた事は本当に感謝してる。そこだけは礼を言っておくね」

「そんな気にしなくていいわよ。私達はただ冒険者として当然の事しただけだから」

「そうっすよ。マルチプレイも然り、ハンティングプレイも然り。冒険者は助け合いしてこそなんぼってもんっすよ」

「「ま……、まるで勇者パーティーに会った気分に……」」


 今のエクレシアとチリの発言は、第三者から見たら誠の冒険者そのもの。

 アリスとイリスも、勇者パーティーに助けられたかと思って感激して泣いちゃってる。


……いやこれ絶対あれだよね? チリに卵をめちゃくちゃにされ激怒したGどもがあの二人アリスとイリスも巻き込んで襲い掛かっただけだよね? 俺たちのせいだよねこれ?


 そんな気まずい俺を差し置いて、エクレシアは泣いちゃってる二人の肩に両手を乗せる。


「話の流れからして、まだクエストは達成できてないようね? 私達も協力するわ。貴方達の実力も見たいしね」

「え!? 助けてくれただけでも感謝しているのにクエストも手伝ってくれるの!?」


 エクレシアの救いの声を聞いたアリスの顔がパァ……っと明るくなる。

 

 ……マジ勘弁して、お願いだからそんな顔しないで。


「やりましょうお姉様!! このお方達にワタクシ達の力を見せて、認められてお供になり恩返しいたしましょう!!」

「そうね!! ここまでされてなんの恩返しできなかったら女が廃るってもんじゃない!!」


 ……こんなマッチポンプで恩返しされても気まずいだけです。


 俺の思いは届かず、明日二人のクエストにお供することとなった。

 詫びではなく、協力という形で……。


 とにかく今日、人がいないところでチリをしばき倒そう。

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