3
サンタロールに着いて例の姉妹を銭湯に送った後、宿屋で一夜を過ごした。
エクレシアは例の輸送クエストの荷物を依頼者へと届けに行き、俺はチリと共に近場の魔道具店へ物売りに行く。
この世界の火の付け方は、基本マッチで行われている。
ただ俺の世界と違い木材の燃える速度が早すぎるらしく、火傷する人が結構いるみたいだ。
そればかりか、火傷しかけそうになり反射的に手放した結果、家一軒が丸々燃えて火事になったこともあるらしい。
俺はそこに目をつけ、スターラインで素材を大量購入してある物を作った。
それこそが、日本でよく見る
プラスチックの代わりを石とゴム、燃料の代わりに火属性の魔法石を使った簡易的物だ。
それでもこの世界のマッチより凄く安全性が高いと店長から評価され、こちらの望む額で買い取ってくれたのだ。
そして昼現在、この街の冒険者ギルドの
「スターラインのギルドマスターの言う通りだったわね。貴方って冒険者より商人の方が向いてるんじゃない?」
「そんなことよりも輸送クエストの報酬の方が驚いたよ。消費費用省いたとしても金貨3枚ってどゆこと? ブラック企業も真っ青じゃねえか……」
目を大きく開き驚いた顔をしているエクレシアに対し、俺は真逆の意味で驚き頭を抱えた。
この世界の通貨を日本円で例えると、紙幣が十円単位、銅貨が百円、銀貨千円で、金貨は万札ってとこだ。
……ハッキリ言うと、普通に働いた日給分と比べても、命を賭ける割には釣り合いが取れない。
そう、基本冒険者職の収入は不安定なのだ。
ここ最近の農業や建築などの作業の進歩により、薬草の自主栽培や街の防衛力が向上したのだ。
つまり今回の輸送クエストの例外を除けば、薬草採集や一部の討伐クエストに金を払う人が減ることと繋がる。
そしてここ最近では、人や物資の運送にもテレポートで運ぶなどで安全性を確保しているらしい。
それ以外にも、人々が安全に暮らせるように知恵を振り絞り色々試して成功し続けている結果、冒険者の収入が大幅に低下してしまったのだ。
そうなってくると、冒険者なんてただの日雇い労働者と何も変わらない。
そんな身分でありながらも今回の報酬で金貨三枚貰えただけでも結構上出来だと思うよ。
「本当にツクルを仲間にして良かったと思ってるわよ。金貨三枚しか稼げなかった私に対して金貨二十枚も稼げちゃったんだから」
「次の街の商売道具作成の素材等引いたら儲けは13枚程度だけどね……」
エクレシアは期待の眼差しで俺を見つめていたが、その反面俺は、今後がお先真っ暗な気がして不安です。
「それはそうとしても、あの例の乗り物……まだちょっと信じがたいけど、修理に役立ちそうなのって見つかった?」
「そこに関してはやっぱりダメだ。一応一通り見て回ったけど、ここも初心者の街だけあって素材も技術も一般鍛冶屋そのものだ。まあ技術はなんとでもなるとしてもだ、SF系に耐えきれそうな資源じゃないとなんともならねえよ」
そう、ここも初心者の中レベル程度の街。宇宙船修理に役立ちそうな資源も技術もあるわけがない。
第一ここは中世時代だ。
SFどころか宇宙と言う概念すら知るわけもない。
現にエクレシアも、SFと言う言葉を聞いた瞬間顔をしかめ首を傾けている。
「とにかくもうちょっと調べても何も得れなかったら、また次の街に行って情報収集するしかねえ。まだスーツ完成まで時間必要だし、そうなると俺もそろそろレベル上げしなきゃ今後がやべえ」
「そうね、先に進むにつれモンスターも強くて危険なのばっかになってくるし、何より例の地点を通り過ぎるにはツクルのレベルでは不十分すぎるもの」
一番不安なのはチリなのだが、それでも胸にグサッと刃物が刺さっかのようにハッキリ言ってくれるよ……。
俺たちの旅のルートは、スターラインから街から街へと向かい、王都を一時的のゴール地点としている。
その途中で寄ることになる『コロッセス』と言う街は、熟練冒険者達の修行場と言ってもいい過酷な環境と聞く。
当然のごとくモンスターの強さも桁外れだ。
スターラインやここと比べてもレベルが圧倒的に違いすぎる。
ぶっちゃけ通りたくはないが、そこ通らなきゃ王都まで辿り着くことなんてできないのもあるし、いくらエクレシアがいるとしても、下手をすれば自分の身を守るので誠意一杯で、俺やチリの護衛まで手が回らないだろう。
スーツが完成すればなんとかなるが、それでも何かしら問題が起きても対応できるようになるために、俺自身も強くなっとかなきゃいけないのは確かだ。
まぁ、一番頑張らないといけないのはチリなのだが。
……そう言えば一番の問題児の姿が見えないが?
「それに今のパーティーに足りない補助魔法を使う人を仲間にしたいし、早速探すとしましょう」
そう言ったエクレシアは席を立ち、クエスト掲示板の隣の掲示板の張り紙に目を通し始める。
エクレシアが今見ている掲示板は『パーティー募集』の掲示板だ。
基本冒険者達のパーティー結成は、この掲示板から全て始まるらしい。
それぞれの募集書には剣士や魔法使いなど、採用条件が書かれている。
エクレシアは勇者だから、どんな条件でも満たせれると思うし問題ないとして、果たして彼女の連れという理由で、最弱職の俺達二人をも引き受けてくれるパーティーがいるのであろうか?
「ん? 一枚だけあったわ。えーっと……、んん!?」
張り紙を見た途端、エクレシアの目蓋が大きく開く。
「ちょっ、どうしたんだ? 変な顔になってるぞ?」
「見つけたのよ!! 補助魔法を使える職業。神に使えし信者と異名を持つ『ゴッドプリースト』って言う上級職!!」
「わ、わかったわかったから!! 俺自分で見るから落ち着け!!」
興奮気味に俺の肩を揺さぶって言うエクレシア。
そんなエクレシアを落ち着かせ離れた後、掲示板に貼られている張り紙を読み始める。
__美人姉妹と一緒にイーシズ教を盛り立てながら旅したい上級職のイケメン君募集中!! 可愛くてカッコいい、『威力増強』と言う
『このパーティーに加わったおかげでリア充になりました!』
『彼女達のパーティーに入ったおかげでAからDまで大きくなりました!』
ご覧の感想以外にも、高評価がどしどし出ています。
さぁ!!イケメンの貴方も私たちを楽させる旅に連れてって♡__
……なんだこれ? 絶対誰も寄ってこないだろ。
「……エクレシアさん、あんたこの張り紙全部読んだ?」
「読んだわよ。上級職のウィザードキャスターとゴッドプリーストがいるパーティーでしょ?ゴッドプリースだけじゃなくウィザードキャスターも仲間にできる可能性もあるんだからお得じゃない」
……うん、この子、職業だけ見て判断しちゃってるよ絶対。
俺は深くため息を吐き、無言で宿に戻ろうとした時。
「逃げようたってそうはいきませんわよ!! この壺は国が認める高貴な壺。これを割った貴方には金貨百枚支払うか弁償として銀貨千枚支払うかイーシズ教に入信するかの3択しかありません!!」
「いやあんたがそんな割れやすい位置に壺置いたのが全ての元凶じゃないっすか!? それにその壺さっき安いよ〜って言ってた商店街のおっさんの店にたくさん並んでた壺と完全に似てるし」
いつの間にか修道士ローブを纏った透き通った青髪の美少女に物凄い勢いで絡まれていたよあの宇宙人。
あそこまで少女の勢いが凄すぎると、興奮してるを通り越して恐喝されてるように思えるんだが……。
なぜだろう? あの少女からチリと似たような気配を感じる。
にしても毎度少しだけ目を離した瞬間いつも誰かに絡まれてるなあいつ。
とりあえず見た感じ嫌な予感がしない俺は気付かれないようにギルドから出ようと。
……ってあれ?あの少女どっかで見たような覚えが……。
「あー!!そこの兄ちゃん達って昨日の!!」
急に横から聞こえ出した聞き覚えのある声。
俺たちは声の方角に振り向くと、そこには昨日助けたロリポップの少女が。
「貴方は確か……もしかしてあの掲示板に書かれているゴッドプリースト達って!!」
……え? エクレシアさんは今何て?
「掲示板って……アタシらの仲間になりたいの!?」
「ええ。ちょうどゴッドプリーストとウィザードキャスターを探していた所だったし、まさか二人同時に仲間できる可能性があるなら尚更よ」
なんか俺を差し置いて話が進められてる……。
「フッ、連れの男がイケメンじゃなくグールとゾンビの交配種のような瞳をした人なのが残念だけどこの際なんでもいいわ!」
「死人の目って言いたいのかこの野郎!」
思わず怒り任せにツッコミ入れちまったが、少女は俺を無視してムーンウォークするマイ◯ルのようなポーズをとり。
「アタシはアリス!!オッドアイ村より生まれし魔導の子、やがて大魔法使いとなり、世界を救う勇者様と結ばれ玉の輿をする少女である!!」
……不吉な予感しか感じてこない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます