1章 パワードスーツで奴隷生活ぶっ飛ばせ!

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深くて暗い洞窟の中、人々と魔物の群れが汗水流して鉱石などの資源発掘をしている。

 ……ぶっちゃけ言って、単に例の緑小人ゴブリン達のような魔物が、人間を奴隷のごとく働かせているだけなんですけどね。

 その中に、あのロリ宇宙人と俺も混ざっています。


「ほら休むな!! 働け人間!! じゃなきゃ今すぐ俺達の晩ご飯のおかずにしてやるぞ!!」

「ぶびゃい!! 分かりましたから鞭で叩かないで!! お願いします!!」


 ……こんな感じに毎日サボっては鞭で打たれるロリ宇宙人を見て、ああならないようにしようと思う毎日。

 ちなみに俺がやっているのは、掘り出された鉱石が山積み状態になっている荷台車を、出荷用の馬車まで押し進めることだ。

 これが結構手や腰が痛むんだよね。

 元々機械いじりしかしてこなかった俺にいきなりこんな重労働させるだなんて、まるで帝愛の地下労働施設に連れて来られたカイ◯になった気分だったよ、悪い意味でまさに悪魔的だよこれ。

 こんな作業を朝の日の出が出る前から、月が真上に上がるまでやっている。

 これが毎日なもんだから、ブラック企業の方がまだマシなんじゃないかと思っちゃうよ。

 そんな休みなしのブラック生活が毎日なのか、ここに来た時から既になのかは分からないが、ここにいる人全員既に顔が死んでいる。

 俺もいつかそうなるのかと思っちゃうとゾッとするよ。


「ツクルさん、アタイもうここ嫌ですよぉ〜。ゲームもないし漫画もアニメもないですし、なんとか抜け出す方法を考えてください」


 毎日あんだけ扱かれているのに、ニート体質が消えないどころか、脱走したいけど計画は人任せにしようとするこのロリ宇宙人はある意味すげぇと思う。

 ってか俺、お前の名前まだ聞いてない上、お互いちゃんとした自己紹介すらしたことないのになんで俺の名前知ってるの? なんでこうも馴れ馴れしいの?


 ……そもそもこうなったのは|お前が◯S4ごときで俺をキャトルミューティレーションしやがったのが全ての元凶だよ!!

 散々人の体をいじった挙句の果てに変な事に巻き込みやがって!!

 その結果目が覚めたら、こいつら魔物につかまって奴隷にされるってどうなのよ!?

 異世界物語でも初回でこんな展開されるの俺が初だと思いますよ!?

 っと言うわけで、俺はこいつが話しかけても毎無視し続けるのでありました。


 そんな毎日過ごしていたら、今日の朝に監視役のオークが、俺と同年代っぽそうな美少女を連れて来た。

 その少女の髪は透き通った紅き髪をしたロングヘアで、躰も控えすぎず出過ぎずと言った素晴らしいボディ。

 何より印象的だったのは蒼き瞳だ。

 こんな劣悪で入ったらもう生きて出ることができない感がプンプンするこの場所の中でも、まだ希望を失ってないような瞳。

 はっきり言うと、俺とは違う意味で、良く言えば、あの自己中ロリ宇宙人と真逆の意味で、諦めていないようなオーラが漂っている感じに見えたのである。


「テメエらよーく聞け!! 此度我らは勇者を生捕りにする事に成功した。この女がそうだ!!」

 

 ……え? 勇者? この子が??

 ってかこの世界って魔王や勇者とか、そう言う系の世界だったわけなの!?


 「残り三人の勇者達も、このような感じに捕え、ここに送られる事になるだろう。魔王サタン様に逆らう人間共はこうなる運命だと思い知るがいい!!」


 うわぁ〜……、サタンとかって普通すぎる名前だな〜、この世界の魔王の名前のセンス。


「嘘だ!! 勇者様がお前らのような魔物共なんかに捕まるはずはない!! 俺達を絶望に陥れるだけのデタラメだ!!」

「そ、そうだ!! 俺たちがいつまでもお前らの奴隷だと思うなよ!!」


 一人の否定的態度から、また一人否定的な態度、魔物達に対する怒りの爆発が山火事のように広がった瞬間。


「やかましぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


 オークの耳が痛むほどの大きな咆哮により、奴隷全員耳を塞ぎ静かになる。

 俺の隣にいたロリ宇宙人なんかはもうすでにびっくりして失神していたよ。


「そう思うのなら証拠を見せてやる。これを見やがれ!!」


 そう言うとオークは、勇者と言われている少女の右掌を、乱暴に持ち上げみんなが見えるようにした。

 俺以外の奴隷達みんな、それを見た途端、先ほどの怒りが一瞬で掻き消されたかのような絶望の表情に変わる。

 彼女の掌には、変わった形の金色に輝く刻印が刻み込まれてる。

 ひょっとしてあれが勇者の証的な何かなのかしら?


「そして、これがもう一つの証拠だ」


 オークの隣からゴブリン達が現れ、運んできた物を見た途端、俺の目は輝いた。

 清らかに白く輝く聖なる鎧、おそらく勇者様専用の防具なのだろう。

 ちなみに俺がその鎧を見て目を輝かせたのは、デザインがカッコいいとかそんな理由ではない。……否ぶっちゃけ言ってカッコいいのだが。

 鎧の艶や光沢などからして、あれは間違いなく上質な素材を用いて作られし代物だ。

 そんな素材をロボットの装甲にできたらと思うと……。

 

「おいそこの人間、なにニヤけてやがる?」


 オークは怒りを忘れて妄想に浸っている俺に声をかける。


 ……やべ、尺に触ったかしら?


「ああああいや、なんというかその……それを加工して誰にでも扱える鎧になったら魔王様もお喜びになって側近にして貰えるやらなんとやら……」


 我ながらなんとも分かりやすい嘘を……。

 しかもめっちゃ動揺しちゃったし、こりゃもうアウト。

 さようなら、俺の人生。今度生まれ変わる時はまた日本で、今回のようなキャトルミューティレーションからの異世界に墜落することがない人生を望むよ。


「何!? そんなことができるのか!?」


 …………へ?


 オークの驚いた声と表情に、俺はちょっと面食らっちゃった。


「何黙っている!! できるのかって聞いているのだ!?」

「えっ!? あ、やってみないとなんとも……」


 俺は流れに任せる感じに答えた時、周りの奴隷達やゴブリン達が驚いた顔で、俺に対して視線を釘付けにする。


 ……まずい。みんな本気でできると思っちゃってる、これじゃあ『嘘でした♪』なんてお茶目な感じで正直にいうことなんてできない。


「………クックックック、アッハッハッハッハッハッハ!!!」


 そんな中突然大声で笑い出すオーク。

 ますますヤベーイ……、この豚野郎本気にしちゃってるよ。

 素直に土下座しても俺S・K・I死刑確定だよ、豚の手で豚カツにされちゃうよ。


「気に入ったぞ小僧!! お前には個室を与え、特別な仕事を与えよう。なんの仕事かわかるな?」


 ほらロクな事にならないィィィ!!!


「必要な物があればなんでも言うがいい、叶える物であれば全て用意してやる。期限は現段階では無期限だ、仕事していればの話だがな」


 ……これもうアウトだ、いつか完全に殺されるよ俺。

 人間って自分の死が近づくと知ると、ヤケクソになるもんだなと俺は初めて知った。

 ……だから言ってやるよ、必要な物を!!

 


 ※



 俺が連れて来られた部屋は、俺含めた奴隷達が毎日の寝室として使用している奴隷室より多少綺麗な場所だった。

 奴隷室の広さは9畳半に対してここは4畳半。

 広さ的には奴隷室の方が圧倒的だが、その一室で四十人ほどの奴隷が自分の寝床を確保して睡眠をとっているんだ。

 座って寝る奴もいれば、イビキがうるさいとかで喧嘩になり、一部屋にいる全員での大乱闘と化すこともあるんだから十分マシだよ。

 後トイレも隅っこにある瓶で全員済ませるから悪臭がひどい事。

 あんなところで寝続けてたら数ヶ月で病気になっちまうわ。

 その点こっちの部屋はまだいい方だよ。

 内装は奴隷室と変化はないけど、人数が少ないだけで大分マシって言ったところだ。

 しかも質素で簡易な作りだがベットまである。

 それ以上に何より嬉しかったのは、鉄を作ることができる溶鉱炉や、細かい作業ができるように設備された作業台がある事。

 物作りの趣味がある俺にとってはこれだけでも十分な上に、何よりあの鬱陶しいロリ宇宙人がいないだけでも天国にいるような気分になれる。


 ……作業台の上に置かれている鎧さえなければの話だが。

 この鎧、絶対になんかの加護的ななんかがあるのは間違いない。

 しかも勇者様しか装備できない代物。

 そんな物騒な鎧を異世界からポイ捨てされたアマチュア工作員が魔王専用鎧に改造できると思いですか?

 答えはそう、100%無理です。

 テキトーにやって、『無理だったんで破壊しときましたー、ヘケ⭐︎』って感じにハ○太郎風に言って壊しておけば殺されることはないかしら?


 ……あーあ、あん時そんなくだらない妄想を膨らませるんじゃなかったなぁ……。


「あなた考えたわね。確かにこの状態では鎧は着直す事ができないけど、脱出すると同時にここにいるみんなを救う作戦を立てることもできるわ」


 そんな俺に声を掛けてきたのは、手錠され鎧を切る事ができないあの女勇者。

 あの時俺はオークにこう頼んだのだった。


「話し相手が欲しいんで、その勇者を鎧着れないようになんとかして相部屋にして貰ってもいいですか? 性欲処理とかにも使えるんで」


 そう頼んだ時の全員の視線が痛々しかったのは忘れられない。

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