自殺を止めさせる覚悟
ネルシア
自殺を止めさせる覚悟
今日は気分がいい。
バイトで貯めたお金で、お目当ての洋服を買えたからだ。
街中だけどスキップもしちゃうもんね。
あぁ、今夜は星も綺麗だ……?
とあるビルの上にスーツを着た女性の姿。
え、嘘、飛び降り!?
なんで誰も気付かない訳!?!?
間に合えと願いつつ全速力でビルの屋上へと向かう。
自分が女子高生とはいえ運動部ではない。
心臓がはち切れそうになり、肺が痛む。
おまけに腎臓も痛み始めるがそれどころでは無い。
「まって!!!!」
屋上へと辿り着きなんとか絞り出す。
ガラガラの声でなんとか注意を向けさせることが出来た。
「今晩は。」
スーツを着た女性が顔だけこちらに向ける。
これから死のうとしてるのに何とも言えない笑顔を浮かべている。
「……こ、こんばん……は……。」
「何か用?」
息を整えて姿勢を正し、その人と向き合う。
「こんなところで何してるんですか?」
「見れば分かるでしょ?死のうとしてるの。」
「そういうの良くないと思います。」
「何故?」
なぜって聞かれても……。
死ぬのは悪いこと……だから……?
あれ……?
私が答えを出せないと見ると畳み掛けてくる。
「病気、老衰、事故。
どれも急に来て自分ではタイミングをつかめない。
なら、自殺ってすごい建設的じゃない?
自分で死ぬタイミングを決められる。
そして私はその日を今日って決めてただけ。」
「それでも……私は人が死ぬの見たくない……。」
思わず声が小さくなる。
「自殺を止めた人には警察署から感謝状が届けられるけどそれって身勝手。
死にたいのにそれを無理やり止められて、止めた人ばっかり囃し立てられて、自殺しようとした人の理由も聞かない。
ただ、自殺するのが悪みたいに。」
何も言えない。
ここまで考えたこともなかった。
「……どうすれば自殺しない?」
目を丸くして驚いた表情が段々と意地悪な笑みに変わっていく。
「貴女が私を経済的に支えてくれるのなら止める。」
「……え?」
「不思議なことでもないよ?
私はこの世に見切りを付けて死のうとしてる。
なのに貴女はそれを止めたい。
貴女のエゴで。
それなら、貴女が私の世話を見るのが道理だと思うのだけれど。」
「……分かった。」
なんだかムカついてきた。
どんな手段を使ってでも自殺を止めてやる。
支えろっていうならそうしてやる。
幸い一人暮らしだし!!
「来なよ、私の家に。」
「……変な人。」
「貴女に言われたくない。」
こうして私とその人の共同生活が始まった。
ー数年後ー
「まさか貴女がこんなに私に惚れるなんてね。」
「うーうっさいうっさい!!」
私は社会人になり、未だに2人で暮らしている。
ずっと面倒を見ているうちに話やその人の考え方がものすごく面白くて、悩み事とか相談しても自分では気付けない視点からアドバイスをくれた。
……まぁ生活費とか全て私が稼いでいるんですけれど。
「でもさ!!あんただって自殺しようとしてたじゃん!!」
「ちょ……それやめて……黒歴史だから……。」
「出た、目を逸らした。全く……ほんとは死ななかったんじゃないの?」
すると急に真面目な顔をして私の目を真っ直ぐ見つめてくる。
「貴女じゃ無かったら死んでたよ。」
「……それってどういう……あれなんですか?」
顔をすぐに崩し、さぁ?なんでしょう?とバカにされる。
「はっきり言ってよー!!」
ポカポカと体を叩くがその人はやめてやめてと笑いながら逃げ回る。
自殺を止めさせる覚悟 ネルシア @rurine
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