〈3〉『メリー・ウィズ・クリスマス』
気付けば俺と
やや
俺達の前に、慣れた
「さて、と。
それじゃあ、聞かせて
君の、プランとやらを」
「あ、ああ」
腕を伝い、
「なるほど。
こういう感じかぁ。
結構、
「わ、分かるのか!?
「うん。
私は元々、君が
君と
っても、メーカーにアンロックされてるから、夢の中限定だけどね。
現実世界でのオーナー以外との記憶の共有は、心身に負担が掛かるし。
プライバシー保護の観点からも、問題視されるし」
「そ、そうなのか……」
俺の記憶のダウンロードを終え、手を離す
すると、
同じく、
相当、名残惜しそうな顔をしていたらしい。
「あれぇ?
もしかして、
「ち、ちちち、違うぞぉ!?
断じて、違ぁう!!」
「実セ。
ボコる」
「だから、そんなんじゃないって!!
ハイ・ライトの消えた瞳で、拳を構える
彼女の腕を下げ、
「でも、この調子じゃ、ちょっと非効率かも。
なので」
目を閉じ、今度は全身を輝かせる
少しして、水色のロング・ヘアとなった。
「どう?
これなら、
「あ、ああ。
割と、落ち着く」
「やった。
クールなカラーにして正解だった」
クルッと回転し、髪を掻き分け、靡かせる
見惚れかけていると、再び
「さて、と。
今ので、君の作戦の方向性は
君の思考も読み取れたし、君が
名付けるなら、そうだなぁ……『メリー・ウィズ・クリスマス』。
って、所かな」
「それは
作戦名か?」
「そう。
あと、単純に上がる」
「そうだな。
助かる」
「ありがと。
それで、次に。
激痛コースと、ゆっくりモードが
どっちにする?」
「ビーフ・オア・チキン感覚で、聞く?
その2択」
「
これは、他者に発動した場合、想像を絶する威力だし、コスパ最悪だから、私としてはオススメしない。
ドクター・ストップ付きだし、
ここで大事なのは、『奥の手』ではなく、『禁じ手』って所。
代わりに、タイパは最高だけど。
もし、これを乗り越えたら君達は、現代医療やテクノロジーすら凌駕する。
他のデータなんて
天下御免、天下無敵の相思相愛バカップルって
「じゃあ、それで」
「……君、ドM?」
「さぁな。
それより、頼む」
「言っとくけど。
責任は、取らないよ?」
「安心しろ。
俺が、
「この、真性」
俺の手を取り、今度は
腕、肩、次に全身。
気付けば俺の内側に、
それも、異物感など、
「ゆ、
生きてる、よな?」
「AIに、それを聞くかな?」
「わ、悪い。
無粋だった」
「冗談だよ。
ありがと、
私を人間扱いして、気遣ってくれて。
それより、そっちは?
具合は、どう?」
「あ、ああ。
特に、異常は
下さえ見なければ、平気だ」
「
「ち、違うよっ!」
「冗談。
ちゃんと、分かってるよ。
気付けば、別の人間が自分の中に
そりゃ、
さぁ、集中して。
まだ私は、君に入り込んだに過ぎない。
本番は、ここからだよ
今から、私を介して、
私が宿した彼女の、記憶や感情などのデータ、思考や行動などのパターン。
17年分のインプットを、君と統合する。
そうする
同時に、その中から、二人の共通項の他、相性診断、互いの苦手箇所などを検索する。
彼女と、完全に一つになる
言うなれば、『現代で最速、最的中の占い、心理テスト』だね。
「ああ」
「それに、夢の世界での活動限界は、最大で1時間。
しかも、こっちでの時間の流れは、現実世界の
つまり、ここでの1時間は、向こうでは1日の睡眠時間に該当する。
今後は、ゼンシンクロの結果を元にしたシミュレーションを毎日、ルーティーンとして組み込む。
ただ、ゼンシンクロさえ済ませてしまえば、
私の本体、ナノマシンに入ってるメモリーを使えば。
それも、こっちより
「……分かった。
元より、覚悟の上だ」
「話が早くて助かるよ。
次に、
君は、
「お目付け役ですね。
お任せを」
「お願いね。
それじゃあ、
改めて、聞くよ?
深呼吸し、目を開き、下を向き。
俺は、俺の中の、
「……やってくれ、
「……分かった。
でも、
じゃないと、本当に体が崩壊する。
少しでも、
「ああ。
どうすれば
「目を閉じて、イメージを膨らませて。
君は、たった今から数分間だけ、
恥も外聞も、プライドも掻き捨てて。
感覚を研ぎ澄まして。
口調も、意識して。
これは演技、なりきりなんかじゃない。
完全に、
「やってみる」
指示通り、
「飲み込み早いね。
それに君は、
通りで、スムーズに進む訳だね」
「褒めてる?」
「
次に、ちょっと体を弄るよ」
「へ?」
「君の体を、完全に
「だ、誰がっ!!」
「あははっ!
それもそうだ。
そんな勇気が
このムッツリーニ」
「ねぇ、
「
お遊びは、これ
そろそろ、フィッティングを開始するよ。
色々と減るし、上半身は増えるけど、慌てないで」
「お、おお。
ところでこれ、
「平気、平気。
隠しとくし、お互い
夢の中で、私を使って君に成り代わって、自分を慰めたり。
あるいは、君の分身を私に作らせて、バチャセしてるから。
っても
そんな毎日って
……くもない気がしないでもないけど、まぁ……。
……思春期だから、仕方
君の周りには、ただでさえ、普段から下ネタっぽい
当てられた結果、理性が薄れた世界で開放的になっても
「すみません始めてくださいお願いします、てか
怖い……。
あと単純に、聞きたくなかった……。
こうして俺は、身も心も
所感。
肩、痛ぇ。
「これで、手筈は整った。
そろそろ、始めるよ。
気を引き締め直して」
「ああ。
……頼む」
「行くよ……!!
……ゼンシンクロ、開始!!」
濁流が、一気に押し寄せて来る。
「ぐぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」
それは先程、
例えるならば、頭や胸から捕食し直接、脳や心に運んでいる
それ
頭のみならず、全身がはち切れそうだ。
それでいて、まるで火達磨にでもなっているかの
続けて、キャパシティを満たさんばかりの情報量。
思わず、夢の中なのを忘れる
なるほど。
これは、確かにキツい。
一人分の器に、二人分が収まるというのが、これ
考えてみれば、当然だ。
生活環境や遺伝子、性差などにより、どうしても齟齬は生じる。
無理も
最適化なんて、
どれだけ近付けても、この体は
「
「
これ以上は、危険だよっ!!
このままでは、現実の君の肉体も、
最悪、即死だっ!!
一旦、中断を」
「続けてくれっ!!」
激渦に巻き込まれながら落雷まで受けている
そんな感覚に覆われながらも、必死に訴える。
「こんな状態で、君が離れたらっ!!
それこそ、
俺も、君も……!!
……そうだろっ!?」
「でもっ!!」
「
これが、
今も、彼女を玉にしてるダメージならっ……!!
……俺も、支えなきゃ、嘘だろ……!?
……甘んじて、受け入れなきゃぁ……!!」
床に伏せ、前後不覚に陥り。
五感さえ定まらないまま、重たく震える足に鞭を打ち、
完全に麻痺してる口角を上げ、笑ってみせる。
「安心しろ……!!
俺は、負けないし、曲げない……!!
俺の、恋愛脳っ
彼女募集厨の底力ぁ、侮んなよっ……!!
この程度で挫ける、砕ける
三人宛てのラブレターなんぞ、1年も日課に
……確約したんだよ、
「〜っ!!
あぁ、もぉっ!!」
見るに見兼ねた
俺の背中を支えつつ、抱き締めてくれた。
「クレイジーだよ!!
どう考えても、ただのドアホだよ、紛れも
でも!!
そんなんでも、助けるって決めた!!
そんなだからこそ、
「
「勝てっ!!
この私を完全にフった以上、ド根性見せろっ!!
あんた、
それが、『男』って者なんだろっ!?
私に見せた『覚悟』を、あいつにも示せっ!!
惚れた女も
あんた、私の人生の主人公だろうがっ!!
いつまでも、あんな
とっとと、負かせ、泣かせて来いっ!!
彼女として、私の元に連れて来て、どつかせろっ!!
それが、私を袖にした、
だから、立って、お兄ちゃん……!!
永遠無敵の、私の最強ヒーロー……!!
……
「っ……!!
……
応えようとするも、縺れる両足。
バランスを崩し、地面に着きそうになる両腕。
それを、支えてくれた。
「うんうん唸ってるから、駆け付けてみれば!!
何やってるのよ、あなた
「大した兄妹だよ、お前
撤回するよ、
君が付いててくれて、
お
俺と先輩も、間に合えたっ!!」
「あと数秒で、ゼンシンクロが完了するわっ!!
ここが正念場よ、
持ち堪えなさいっ……『ニアカノ同盟』っ!!」
両足を支える、
肩を抱いてくれる、
倒れそうになるのを抑えてくれる、
俺の内側から鼓舞してくれる、
ここで怯んだら……!!
男じゃ、ねぇっ!!
「
……ありがとよぉっ!!
はぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」
激痛を吹き飛ばすかの
やがて、俺の体に灯る光と共に、
依然として、
俺は再び、元に戻った。
「や、やった……!!
やったぞ、
君のお
俺は、
俺の体内から吐き出され、消え掛かり、バグが走っている。
そんな、
「ゆ……
慌てて駆け寄る俺達。
彼女の映像を投射していたナノマシンが落下し。
危うく地面に衝突する所を、彼女の体ごと、辛うじて拾い上げる。
「お、おいっ!!
どうしたんだよっ!?」
「言った、でしょ……。
他者への、ゼンシンクロは……。
負荷が、物凄い、って……」
「まさか……!?
……お前にもっ!?」
「当たり前じゃん……。
私を起点としてたんだから……。
そもそも試作品、サンプルだし……。
オーバー・ヒートするに、決まって……」
「〜っ!!
バッキャロー!!
こうなるって、分かってたんだろ!?」
「……お
そんなの、愚問じゃん。
私は、
君の傷付く、苦しむ
コンマ1秒ですら、拝まされたくない……。
君になら、
君の
朽ち果てようと、一向に……」
「……
抱き締めようとして、空振ってしまった。
触る
「悲しいなぁ……。
もう少し、君と話したかった……。
君に、抱かれてたかった……。
もっと……君と、一緒に……。
……こんな
正体なんて、隠したまま……。
君達と、
普通に、遊んでれば……」
「お前……!!
まさか、それで、あんなに
「だって、熟知してたもん……。
君なら、きっと……。
即答で、ゼンシンクロだって……。
だから……
無駄口にしちゃっ、たぁ……」
「……
無駄な
有意義でしか
「あははっ……。
そういうの、さ……。
言う相手、間違えてる、よ……」
死にかけてるのに。
未練たらたらなのに。
脱力し切った、顔をした。
「でも、良かった……。
私は、
本人が、必死に禁欲してる時にさぁ……。
いつまでも、君に抱えられているの、はっ……。
……ルール違反、だよねっ……」
「何言ってんだよ……!!
そんな
もっと、俺を助けてくれよっ!!
その
「私は、もう……。
お役御免、だよ……。
ゼンシンクロにより……。
君と
君達や、
バック・アップも、送信した……。
私の中の、
主の元に、返還され、る……。
私の……破損と共、に……」
「
……
「だから、言ってるじゃん……。
もう……終わり、だよ……」
「〜っ!!」
ピキッという、
まるでコンタクトを踏んだ時みたいな、小さな音。
ナノマシンから発せられたのだと、瞬時に察した。
「
お前も、
俺……まだ、
まだ、始まってすらいねぇだろがっ!!」
「……そうだね。
……うん。
私の、
そう言う、
俺の首に手を回し、体を浮かせ。
触る
「……あははっ。
私……ドッペル、失格だ……。
君の
主より先、に……。
生まれる前から、君を……。
愛してたなんて、さ……」
「
叫ぶ気力も
俺は、ただ、彼女を見詰めた。
震える、か細い声で、俺に伝える。
「
言ったけど、さ……。
他者への、ゼンシンクロは……。
常人なら、耐えられない……。
それを、君は、クリアした……。
こんなの、ただの偉業だよ……。
私は、
いつ消えてもおかしくない、曖昧な存在……。
消える
……悲しい、ちっぽけな存在……。
正直、微妙な心境だけど、さ……。
……君達の、
私の、消滅で、君達の……。
未来が確定、確約されるなら……。
この命……少ししか、惜しく、ないよ……」
目を閉じ、寝かし付ける
最期の言葉を、
「……あの子を、お願い……。
嘘
ネガティブで、ミザントロープで……。
ペシミストで、エゴイストで……。
ヒスで、ヤンデレだけ、ど……。
肝心な時に、いつも逃げちゃうけど……。
……誰よりも君を、君達を想ってる……。
私の姉で、
……私の、自慢の、お母さん……。
君なら、きっと……。
「……
光の粒子となり、雨みたいに零れて、雪の
続いて両足から、徐々に無くなって行き。
間もなくして、顔だけとなった。
「……ありがとう。
……メリー、クリスマス……。
……『未希、永』ぉ……」
呼び捨てまで、フライングして。
クリスマスさえ、横取りして。
やがて、線香花火みたいな、か細い炎と共に、破裂音が聞こえ。
夢の世界の、崩壊と共に。
※
『ごめん』
目覚めた
俺の元に、
きっと今頃、色々と悟っている。
そこには幾つもの含意が集約されていると、瞬時に察し。
俺も、『ごめん』と送った。
次に俺達は、
そして、彼女の墓を建てる
「……
確かに、君と
そんで、特に吹っ掛けられたりもせず、恋敵とかでもなく、きこり◯泉方式で、好かれる部分だけ抽出された
そりゃ、まぁ……愛着も湧くか」
「……そうじゃなくても。
せめて供養だけでもしたくなりますよ。
あんなムーブ見せられたら」
「……そうだな。
悪い。失言だった」
「いえ。
……
そりゃ、確かに、分かり易くクリスマス枠みたいな属性でしたけど……。
……マジに
「……
ところで、『クリスマス枠』っての。
「……激重怪文書でも、可ですか?」
「……聞かせてくれよ。
是非とも、
こういう時
頭に手を置くと、妹は
そのまま座り、合掌する
俺も、それに倣う。
「……カイ
「……ああ」
いつもの呼び方で、いつもより低めのテンションで、俺を呼ぶ
俺も、それに応える。
「……あいつを、ケチョンケチョンにしてやりましょう。
あいつの予想なんか、全部、
「……任せろ」
それから
彼女の名付けた、最終作戦を、成功させる決意表明として。
※
時は満ちた。
機は熟した。
アラーム、アラート、ゴングは鳴った。
今日こそが、待ちに待っていた、伸ばしに伸ばしていた、悲願成就の日。
「すぅ……。
……すぅ……」
添い寝してる妹の頭を撫で、着替えを済ませ、髪を整え顔を洗い、スマホと財布、鞄を携え。
その寝顔を、最後に見る。
「……行って来るよ。
いや……勝って来るよ。
安心して、待っててくれ」
そう言い残し、俺は部屋を出た。
「行くぜ、
俺に、力を貸してくれ。
お前のご主人様を、攻略する
バッグを開け、クリスマスに旅立った戦友に告げ。
俺は一人、家を去った。
さぁ……作戦開始だ。
発令コードは、
「始めようぜ、
俺達の千秋楽、ラグナロク。
……『レイン・カーネーション』を」
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