〈2〉そして、ペ天使は、せせら笑う
我ながら、末期な
その夜の俺は、絶えず、悪夢に
体の向きや枕、服を変えても、その繰り返し。
何度、寝直しても、見るのは、いつも同じ。
ある時は、天変地異で崩壊する世界の片隅。
またある時は、いつも通りの、何気ない帰り道。
もしくは、致命傷を負い、俺の腕の中で。
他にも、
プロセス、シチュは違っても、結果は同じ。
決まって、バッド・エンド。
無策では突っ込んでないし、夢の世界なりに、不安定な意識なりに、どうにか打開しようとはしてる。
それでも、やはり結末は変えられず。
彼女の予想を、トラップを超えられず。
そして、ペ天使は、せせら笑う。
どれだけ奮闘しても、最後には
憐憫と絶望で潤った、彼女の眼差し。
それがこびり付いて、焼き付いて。
頭と心と五感から離れない。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
恐怖と苦痛から、
思わず、真冬の寒さすら忘れる程だった。
堪らず、呼吸さえ
「……カイ
不意にギュッと、添い寝していた
弁解の仕様も
ここに来て、まさか俺の方から、
それも、彼女をフッてから。
しかも、別の、彼女が嫌ってる女の
「
「大丈夫かよ、おい」
緊急事態につき、泊まり込みで揃ってくれていた、
それぞれの作業に難航し、
険しい
あれだけの
自分達だって不安で、寂しくて、悔しくて、大変なのに、努めて冷静に接してくれて。
そこまでの無茶を、3人に強いていると実感し。
その
俺は、己の無力さが嘆かわしく、
その手を、
「……まだです。
まだ、
あの女だって、きっと同じです。
まだサキ
そうでしょう? カイ
「
あの、万年ボッチが、『眠れる氷の美少女』が。
こんな、殊勝な
ここまで他人に、親身になってくれるなんて。
……思い返してみれば、てんで不自然じゃないな。
どこも、他人なんかじゃないんだから。
彼女は、俺の偽妹でも、憧れの
本人が言った通り、二人と違って、過去に大したイベントすら
でも、今年の4月で、その補填、追い上げは成功した
「『赤の他人』だとか。
そんな寝惚けた
あいつには、特に。
……いや。
あいつにだけは、
「その意気です。
それでこそ、
「
「俺の親友、パシリ主の、
俺の言葉に、同調してくれる
そんな仲間を、俺は誇らしく思った。
「しっかしなぁ。
俺達らしいといえば、らしいけどよぉ。
まさか、イブに男女が
それも、この場には
これ普通、
「確かに。
ラブコメとしては、落第点ね。
ところで、その場合、
「
帰って来たら、
あと、カイ
「Wデートとはっ!!
あと、
くれぐれも、お手柔らかに頼むぜ?
その日は、
お顔が腫れてちゃ、
「いいえ。
派手にボコメキョって、目にもの見せておやりなさい、
じゃないと、
「
マジで進学、取り消されちゃうからぁ!?
頼んますよ、
……てぇ!!
「あなたが、完璧なまでに、ただの
「具体的には、使い勝手が」
「ひっでーなぁ、おい!!
見てろよ、お前
も少ししたら、お前
「やってごらんなさい」
「どーぞ、どーぞ。
二人すらも
にしても、確かに。
こんなクリスマスを過ごす高校生なんて、前代未聞だよなぁ。
他の3人に聞いても、探して
っても、まだ冬休みの初日だけどさ。
それとも、これ自体がデートだとでも?
勘弁してくれよ。
そもそも、詳細が
策士と言えば、彼女の
あの時も中々、酷い目に遭わされたもんだ。
なまじ、イミテーションは完璧
あのクオリティで、俺達の
「……ん?」
はたと、
そして、眠気を忘れる程に、頭が冴え渡り始めた。
……待てよ。
て
「
どうかした?」
「
俺の、スマホを!!」
「え、ええ」
指示に従い、届けてくれる
メモ帳アプリで、
程なくして、一つの仮説に辿り着く。
ともすれば、
「マジかよ……。
どんだけ前から仕込んでたんだよ、
「カイ
「どうしたのよ?」
「
俺を案じてくれる三人を無視し、続けて俺は、スピーカーにして電話を掛ける。
発信先は、
「はーい。
「
「あらー、
元気にしてたー?
ただ
「知ってます!!
それより、
「お、おい、
それは、どういう質問だ?
第一、あの子は
口を挟む
他の3人も、それに倣う。
そして、次の瞬間。
「やーだ、もー。
内の子の名前は、『
「!?」
想定外の事態に、絶句する3人。
予想通り。
やっぱり、そういうトリックか。
「
「え、ええ」
「
「そうよ。
私の知る限りは」
「分かりました。
急に連絡して、すみませんでした。
ただ、お
別件、急用が
「ま、またのお越しをー?」
緩く謎の挨拶で締められたので、電話を切る俺。
空かさず、3人の疑惑の視線が注がれる。
「お、おいっ!
どういう
一体、
「
でも二人は同時に存在していたわ」
「
でも、混乱していたとはいえ、くノ一説を唱えたサキが言うのも
この現代社会で、そんな存在が
「いや。
否定しつつ、ある程度まで肯定し、俺は続ける。
「これは、あくまでも予測だが。
影分身、くノ一とかではないにせよ。
それも、秘密裏、精巧に、
家族にすら明かしていない影武者だ。
だから、
「はぁ!?
どういう
「
その前に、俺の自分語りに、
説明しつつ、机から資料を取り出し、ベッドに並べる。
「
俺も工作、
ガリ勉気取りの、つっけんどんな恋人募集厨。
俗に言う、『解離性同一症』患者。
つまり、『多重人格者』の予備軍だ。
そんな人間に対し近年、一つの治療法が新たに施行される
それが、『ドッペル』。
早い話が、『VRを搭載したナノマシンを使っての、複数の人格の切除』だ。
簡単に説明すると、『自分の隠れた部分を切り取り、吸収し、VRで具現化し、実際に触れ合い、話し合い、互いのメンタルや個性を分け合い、やんわりと折り合いを付ける』。
という手法だ」
「そんな技術が、今の日本に!?」
「驚くのも無理は
確立された
それに、悪用される
「そりゃ、まぁ……そうだろうな。
でも、それが
「こういう関係よ、
いきなり背後に現れ、耳ツブし、
プカプカと宙に浮き、俺達の体をすり抜け、軽い超能力で物体を動かす、ナノマシンが投射する魔女。
彼女こそ、
「
よもや、初日の朝に、こうも呆気
君達の
「ヒントなら出されてたからな。
当時、前日にしか聞かされていない状態で、俺達の
「そうそう。
君達4人の、身バレ直後の初顔合わせの時の、君と
でも、熟知してて当然だよね。
私は、
言わば、『もう一人の
「それに、君が来ている制服。
そんな状況、メンタルじゃなかったので見落としていたが。
その制服は、この近くにも、地球上にも存在しない。
つまり、『
「ご名答ぅ」
「そして、俺を拉致った時。
あれは、抱えてる振りをして、特殊な不可視のオーラを出して、サイコキネシスの
「そうでぇす。
じゃないと、怪しまれちゃうからねぇ。
「極めつけに、とっ散らかった闇鍋感。
そもそも君が作られた時からして、あの日の前日だったんだろ?
だからこそ、
それを与えられた知識で補おうとした結果、
逆に今は、こうして安定してる。
この半年近くで、そこら辺の刷り込み、作り込みが済んだから。
「大正解ぃ」
「つまり。
君が、
俺達への、クリプレだ」
「ピンポン、ピンポン、ピンポーン。
いやぁ、
軽く拍手を送り、
「
今の
君達への愛着を、
闇落ちしたのは、それが原因。
それ
自分を捨ててようと、君達4人の幸福を、未来を切望していた。
完成された、サブ・ヒロインなんだよ」
「
「そんなに、サキ
そこまで
「逆に言えば。
そういう風に甲斐甲斐しく振る舞う
君達みたいた年頃の子って、好きでしょ?
こういう、揺るぎ
まぁ、
ともすればスルーされ、遅かれ早かれ忘れられるのが関の山だよ、本来。
偶然の産物でしかないけどね」
シニカルに笑い、かと思えば真顔になり。
俺を試す
「それで?
私を使って、どうする
「策なら
ただ、その前に、聞かせてくれないか?
君達は、俺達にどんな
「例えば、『
もしくは、『
さしずめ、そんな所かな。
それで? 君のオーダーは?」
「『夢の世界のナビゲーター』だ」
悪趣味だろうが。
「……どういう
「ドッペルは元々、就眠時での使用が薦められている治療法だ。
夢の中なら、現実世界よりも自由に、楽に動けるからな。
「そうだね。
そんな私を糾弾した
シニカル
「ねぇ君、
悪い影響まで受けてない?」
「
ブラック・ジョーク。
ユーモアの範囲内だよぉ」
「そ……そか……?」
真実はさておき、話を続ける。
「丁度、寝不足で困っていた所だ。
夢の中で、彼女の勉強をするとしよう。
君の力をお借りして、な」
「なるほど。
君、かなりのムッツリくんだね。
現実世界では物足りない、けれど想像力、表現力が足りなくて、悶々としてると見た」
「
それで、返答は?」
「断る
君達のサポートをする
私自身、君達に興味は
それに、
「……『
軽く笑っていた
「君達に、
私が生まれたのは、
あの子は、いつ死んでも
自分にも、周りにも、まるで関心が
そんな彼女が、君達と触れ合って、自分に向き合う
そうして作られたのが、この私。
私も……
自分の感情を、好印象を
そんな、自分から報われまいとする
今度こそ、勝たせたいんだよ。
自分にも、恋愛にも」
「
「その呼び方、
私は、産まれる前から君に、全幅の信頼を寄せてる。
なんたって、君にデレさせられた
「……分かったよ。
「
私が君を、徹底的に
「物騒だな!?」
ツッコむ横で、
「サキも、付き合うです。
カイ
他に手伝えそうな
「
……
「確かに、面白くはない部分も
……堂々と、あの女狐を
それに、言っときますけど。
カイ
「……ああ。
頼んだ」
「ふっ。
最初から、そう言ってだけいなさいませ。
ちょっと手間です。
大人しく、サキにどーんと任せんしゃい」
「おう」
続けて
「二人は、そのまま頼む。
それから、俺達の観察も。
連絡なら、
「分かってるって。
適度に休みながら、宿題と作業を進める」
「アイデア出しやストーリーは、
これでも元・文芸部の長だもの。
こんな時
「信じてるよ」
「カイ
「私達は?
「
「2年も
「5年も先輩に告白して来なかった優柔不男子」
「夢の中でVRデート希望してるAIフェチ」
「天下無敵のダブスタ恋愛脳」
「
「
そういう流れだったろ!? 今!!」
こうして、
俺達のシミュレーションが、始まった。
「ところでさ。
もしかして
で、今から
「え?
うん。
それが
「だとすればさ。
「
こういうのは理屈じゃねぇ、精神的な問題だろぉがよぁ!!
そもそも
しまいにゃ、いてこますぞ、ダボハゼがぁ!!」
「地獄へ行きましょうぜ……。
ひさしぶりに……。
「ちょ、ちょっと、
10kgダンベルは、お
せめて、5kgになさい!!
それはそうと、
「やっちゃえ、
こんなに健気な
私も、するっ!!」
君がモテない理由を教えましょうか?
全て知ってるのに、当時から関わってるのに、そういう無遠慮な
空気は読めるのに、頭と要領は
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