〈2〉そして、ペ天使は、せせら笑う

 我ながら、末期なことに。

 結織ゆおりに逃げられた終業式。  

 その夜の俺は、絶えず、悪夢にうなされた。



 体の向きや枕、服を変えても、その繰り返し。

 何度、寝直しても、見るのは、いつも同じ。

 結織ゆおりに、フラれる夢。



 ある時は、天変地異で崩壊する世界の片隅。

 またある時は、いつも通りの、何気ない帰り道。

 もしくは、致命傷を負い、俺の腕の中で。

 他にも、友花里ゆかり結織ゆおりを見間違えているさいに、背後で。



 プロセス、シチュは違っても、結果は同じ。

 決まって、バッド・エンド。

 


 無論むろん、俺だって馬鹿バカじゃない。

 無策では突っ込んでないし、夢の世界なりに、不安定な意識なりに、どうにか打開しようとはしてる。



 それでも、やはり結末は変えられず。

 結織ゆおりとの運命は、覆せず。

 彼女の予想を、トラップを超えられず。

 


 そして、ペ天使は、せせら笑う。

 どれだけ奮闘しても、最後にはかならず、かなわないし、叶わない。



 憐憫と絶望で潤った、彼女の眼差し。

 それがこびり付いて、焼き付いて。

 頭と心と五感から離れない。



「うわぁぁぁぁぁ!!」



 恐怖と苦痛から、布団ふとんを蹴飛ばし、起きる。

 思わず、真冬の寒さすら忘れる程だった。

 堪らず、呼吸さえ覚束おぼつかい。



「……カイせん



 不意にギュッと、添い寝していた依咲いさきが包んでくれた。



 弁解の仕様もい。

 ここに来て、まさか俺の方から、依咲いさきをソフレにするなんて。

 それも、彼女をフッてから。

 しかも、別の、彼女が嫌ってる女のために。



未希永みきと?」

「大丈夫かよ、おい」



 緊急事態につき、泊まり込みで揃ってくれていた、恵夢めぐむ七忍ななしの



 それぞれの作業に難航し、真面まともに睡眠すら取れぬまま、向き合ってくれた。

 険しい道程みちのりなのに、それらしい素振りは微塵も見せず。

 あれだけのことをしたのに、まだ結織ゆおりを忘れようとはせず、「忘れてたまるか」と言ってくれた。

 自分達だって不安で、寂しくて、悔しくて、大変なのに、努めて冷静に接してくれて。



 そこまでの無茶を、3人に強いていると実感し。

 そのくせ、ショックとストレスで不眠症に陥った俺は、こうしてサボってるだけとか。



 俺は、己の無力さが嘆かわしく、布団ふとんを殴る。

 その手を、依咲いさきが優しく包んでくれる。



「……まだです。

 まだ、あきらめてはいけません。

 あの女だって、きっと同じです。

 まだサキたちを、完全に手放してはいないはず

 そうでしょう? カイせん

依咲いさき……」



 あの、万年ボッチが、『眠れる氷の美少女』が。

 こんな、殊勝なことを言ってくれるようになるなんて。

 ここまで他人に、親身になってくれるなんて。



 ……思い返してみれば、てんで不自然じゃないな。

 なんせ俺達は、仲間で、兄妹。

 どこも、他人なんかじゃないんだから。



 結織ゆおりだって、同じだ。



 彼女は、俺の偽妹でも、憧れの先輩まとでも、同じ中学でもない。

 本人が言った通り、二人と違って、過去に大したイベントすらい。

 でも、今年の4月で、その補填、追い上げは成功したはず。 



「『赤の他人』だとか。

 そんな寝惚けたこと、二度と言わせてなるものかよ。

 あいつには、特に。

 ……いや。

 あいつにだけは、絶対ぜったいに」

「その意気です。

 それでこそ、為桜たおにい、サキの最推さいおしの、カイせんです」

あたしの後輩、同士の未希永みきとよ」

「俺の親友、パシリ主の、新甲斐あらがいだ」



 俺の言葉に、同調してくれるみんな

 そんな仲間を、俺は誇らしく思った。



「しっかしなぁ。

 俺達らしいといえば、らしいけどよぉ。

 まさか、イブに男女がそろってるのに、パーティもせずに、缶詰めとはなぁ。

 それも、この場にはない、俺達を捨て掛けた、さらに別の悪女のために。

 これ普通、はたから見たら、れっきとしたダブル・デートだろ?」

「確かに。

 ラブコメとしては、落第点ね。

 ところで、その場合、未希永みきとの彼女はあたしよね?」

まったくです。

 帰って来たら、ん殴ってやるです。

 あと、カイせんの彼女はサキです」

「Wデートとはっ!!

 あと、多矢汐たやしおちゃん。

 くれぐれも、お手柔らかに頼むぜ?

 その日は、庵野田あんのだ先輩の卒業式だ。

 お顔が腫れてちゃ、母神家もがみややつ、出席出来できないだろ?」

「いいえ。

 あたしが許可するわ。

 派手にボコメキョって、目にもの見せておやりなさい、依咲いさき

 じゃないと、あたしも気が済まないわ。

 なんなら、あたしも一枚噛む、一発噛まそうかしら」

めて!?

 マジで進学、取り消されちゃうからぁ!?

 頼んますよ、庵野田あんのだ先輩っ!!

 ……てぇ!!

 なんで俺が、こんな心配せにゃならないんですかっ!?」

「あなたが、完璧なまでに、ただのい人だからよ、七忍ななしのくん」

「具体的には、使い勝手が」

「ひっでーなぁ、おい!!

 見てろよ、お前!!

 も少ししたら、お前なんて目じゃないレベルの気立てのい子と付き合って、見せびらかしてやっかんな!?」

「やってごらんなさい」

「どーぞ、どーぞ。

 熨斗のし付けてくれてやるです」



 二人すらも七忍ななしのの雑な扱いが板に付いて来てて、つい笑ってしまった。



 にしても、確かに。

 こんなクリスマスを過ごす高校生なんて、前代未聞だよなぁ。

 結織ゆおりの言ってた『クリプレ』だって、依然として見付かってないし。



 他の3人に聞いても、探してもらっても、手掛かりしとは。

 っても、まだ冬休みの初日だけどさ。



 本当ホント……こんな日に、デートもせずに、なにやってるんだか。



 それとも、これ自体がデートだとでも?

 結織ゆおりが残したクリプレ探しが?

 勘弁してくれよ。

 そもそも、詳細がほとんど明かされてないってのに。



 まったく、本当ほんとうに。

 結織ゆおりの策士っりにも、困ったもんだ。



 策士と言えば、彼女の従姉妹いとこ友花里ゆかりちゃんも。

 あの時も中々、酷い目に遭わされたもんだ。

 なまじ、イミテーションは完璧ぎたばっかりに、ものの見事にだまされてしまった。



 あのクオリティで、俺達のことを聞いたのは前夜とか。

 本当ほんとうに信じがたい。



「……ん?」



 はたと、違和感いわかんを覚えた。

 そして、眠気を忘れる程に、頭が冴え渡り始めた。



 ……待てよ。

 てことは、もしかして……!?



未希永みきと

 どうかした?」

恵夢めぐむ、スマホ!!

 俺の、スマホを!!」

「え、ええ」



 指示に従い、届けてくれる恵夢めぐむ

 メモ帳アプリで、ぐ様、言葉というパズルを組み合わせ。



 程なくして、一つの仮説に辿り着く。

 ともすれば、結織ゆおりのクリプレの正体に。



「マジかよ……。

 どんだけ前から仕込んでたんだよ、本当ほんとうに……」

「カイせん?」

「どうしたのよ?」

なんか分かったのか?」

 


 俺を案じてくれる三人を無視し、続けて俺は、スピーカーにして電話を掛ける。

 発信先は、母神家もがみや家。



「はーい。

 母神家もがみやです」

未希永みきとですっ!!」

「あらー、未希永みきとくーん、お久しりー。

 元気にしてたー?

 ただ折角せっかく、掛けてくれて、申し訳ないけどねー。

 生憎あいにく、内の子、海外でー」

「知ってます!!

 それより、友花里ゆかりさんは、お元気ですか!?」

「お、おい、新甲斐あらがい

 それは、どういう質問だ?

 なんで、友花里ゆかりちゃんが出て来るんだよ?

 第一、あの子は従姉妹いとこであって、実妹では」



 口を挟む七忍ななしのに対し、「静かにしろ」と、合図を送る。

 他の3人も、それに倣う。



 そして、次の瞬間。



「やーだ、もー。

 未希永みきとくん、寝惚けてるのー?

 内の子の名前は、『結織ゆおり』よー。

 友花里ゆかりなんて子、知らないわー」

「!?」



 想定外の事態に、絶句する3人。

 


 予想通り。

 やっぱり、そういうトリックか。



本当ほんとうですね?」

「え、ええ」

従姉妹いとことかにも、ませんね?」

「そうよ。

 私の知る限りは」

「分かりました。

 急に連絡して、すみませんでした。

 ただ、おかげで助かりました。

 本当ほんとうに、ありがとうございます。

 別件、急用が出来できたので、失礼します」

「ま、またのお越しをー?」



 緩く謎の挨拶で締められたので、電話を切る俺。

 空かさず、3人の疑惑の視線が注がれる。



「お、おいっ!

 どういうことなんだよ!?

 一体、友花里ゆかりちゃんは何者なんだよっ!?」

友花里ゆかりが、結織ゆおりの擬態だったと?

 でも二人は同時に存在していたわ」

あるいは、影分身とかですか?

 でも、混乱していたとはいえ、くノ一説を唱えたサキが言うのもなんですが。

 この現代社会で、そんな存在がわけが」



「いや。

 依咲いさきの見解は、あながち間違ってない」



 否定しつつ、ある程度まで肯定し、俺は続ける。



「これは、あくまでも予測だが。

 影分身、くノ一とかではないにせよ。

 友花里ゆかりは、結織ゆおりの分身。

 それも、秘密裏、精巧に、結織ゆおりによってのみ作られた、俺達しか知らない。

 家族にすら明かしていない影武者だ。

 だから、結織ゆおりの親御さんにも認知されていなかった。

 大方おおかた、ご両親の仕事の伝手で、二人には内緒でサンプルをもらったんだろう」

「はぁ!?

 どういうことだよ!?」

わけは話す。

 その前に、俺の自分語りに、しばし耳を傾けてくれ」



 説明しつつ、机から資料を取り出し、ベッドに並べる。



結織ゆおりほどではないが。

 俺も工作、交錯こうさくした、矛盾に満ちた人間でな。

 ガリ勉気取りの、つっけんどんな恋人募集厨。

 俗に言う、『解離性同一症』患者。

 つまり、『多重人格者』の予備軍だ。

 さいわい俺は、成長と共に、どうにかコントロール出来できようになったので、提案されるだけで済んだがな。 

 そんな人間に対し近年、一つの治療法が新たに施行されることになった。

 それが、『ドッペル』。

 早い話が、『VRを搭載したナノマシンを使っての、複数の人格の切除』だ。

 簡単に説明すると、『自分の隠れた部分を切り取り、吸収し、VRで具現化し、実際に触れ合い、話し合い、互いのメンタルや個性を分け合い、やんわりと折り合いを付ける』。

 という手法だ」

「そんな技術が、今の日本に!?」

「驚くのも無理はい。

 如何いかんせん、まだ未発表。

 確立されたわけではないからな。

 それに、悪用されるわけにもいかんから、極秘裏に進められているんだ」

「そりゃ、まぁ……そうだろうな。

 でも、それが友花里ゆかりちゃんと、なんの関係が」

「こういう関係よ、七忍ななしのくん」



 いきなり背後に現れ、耳ツブし、七忍ななしのを飛び退かせる女性。

 プカプカと宙に浮き、俺達の体をすり抜け、軽い超能力で物体を動かす、ナノマシンが投射する魔女。

 


 彼女こそ、結織ゆおりのドッペル。

 母神家もがみや 友花里ゆかり



魂消たまげたなぁ。

 結織ゆおりと私の見立てでは、気付きづくのは、最速でも明日の夜だったのに。

 よもや、初日の朝に、こうも呆気く看破されるとは。

 君達のつながりの深さには、恐れ入ったよ」

「ヒントなら出されてたからな。

 当時、前日にしか聞かされていない状態で、俺達のこといたく事情通だったり」

「そうそう。

 君達4人の、身バレ直後の初顔合わせの時の、君と依咲いさきの表情を、言い当て、読み込んだりとかね。

 でも、熟知してて当然だよね。

 私は、結織ゆおりの記憶、裏人格から作られた影。

 言わば、『もう一人の結織ゆおり』なんだから」

「それに、君が来ている制服。

 そんな状況、メンタルじゃなかったので見落としていたが。

 その制服は、この近くにも、地球上にも存在しない。

 つまり、『結織ゆおりの脳内イメージをモチーフにした、オーダー・メイド』だ」

「ご名答ぅ」

「そして、俺を拉致った時。

 結織ゆおりほど鍛えていない君は、ことげに俺を運んでみせた。

 あれは、抱えてる振りをして、特殊な不可視のオーラを出して、サイコキネシスのように操っていただけなんだろ」

「そうでぇす。

 じゃないと、怪しまれちゃうからねぇ。

 ちなみに、触れるも触れまいも、任意で変えられまぁす」

「極めつけに、とっ散らかった闇鍋感。

 そもそも君が作られた時からして、あの日の前日だったんだろ?

 だからこそ、結織ゆおり以外の人間、友花里ゆかりを演じる際、性格や口調などの設定、設計が不安定だった。

 それを与えられた知識で補おうとした結果、恵夢めぐむ依咲いさきに寄ってしまった。

 逆に今は、こうして安定してる。

 この半年近くで、そこら辺の刷り込み、作り込みが済んだから。

 あるいは、結織ゆおりが、この場にらず、演じ分けがらないからだ」

「大正解ぃ」

「つまり。

 君が、結織ゆおりの置き土産みやげ

 俺達への、クリプレだ」

「ピンポン、ピンポン、ピンポーン。

 いやぁ、すごいねぇ、未希永みきとくんは」



 軽く拍手を送り、友花里ゆかりはベッドの横に腰掛けた。



すでに気付いてるだろうけど。

 今の結織ゆおりは、君達が仲良くしてた頃の結織ゆおりじゃない。

 君達への愛着を、ほとんど私に委ねた。

 かろうじて絶縁されないレベルまで、極限まで。

 闇落ちしたのは、それが原因。

 それほどに身をにしてでも、君達に嫌われたかったし、君達を嫌いたかった。

 自分を捨ててようと、君達4人の幸福を、未来を切望していた。

 結織ゆおりは、そんな、いびつな女。

 完成された、サブ・ヒロインなんだよ」

結織ゆおり……」

「そんなに、サキたちことを……。

 そこまでやつしてでも、カイせんとくっ付けようと……」



 結織ゆおりの思いを聞かされ、泣きそうになる恵夢めぐむ依咲いさき

 友花里ゆかりは、続ける。



「逆に言えば。

 そういう風に甲斐甲斐しく振る舞うことで、ポイント・アップを図ったとも取れる。

 君達みたいた年頃の子って、好きでしょ?

 こういう、揺るぎい愛情を注いでくれる異性。

 まぁ、結織ゆおりの場合は、度が過ぎるし、難解ぎるし、曲解されやすいけどね。

 ともすればスルーされ、遅かれ早かれ忘れられるのが関の山だよ、本来。

 しくも、そこら辺の機微と知識を未希永みきとくんが有していたからこそ、起こせたイレギュラー。

 偶然の産物でしかないけどね」



 シニカルに笑い、かと思えば真顔になり。

 俺を試すような眼差しを、友花里ゆかりは向けた。



「それで?

 私を使って、どうするもり?」

「策ならる。

 ただ、その前に、聞かせてくれないか?

 君達は、俺達にどんなふうに協力を要請されると考えていたんだ?」

「例えば、『結織ゆおりい部分のみを抽出した、理想的なバーター』。

 もしくは、『結織ゆおりを攻略するための、シミュレーション用カモフレ、一番の理解者、協力者』。

 さしずめ、そんな所かな。

 それで? 君のオーダーは?」

「『夢の世界のナビゲーター』だ」



 流石さすがに、予想外だったらしい。

 友花里ゆかりは、顔を顰めた。 



 悪趣味だろうが。

 わずかに、スカッとした。



「……どういうこと?」

「ドッペルは元々、就眠時での使用が薦められている治療法だ。

 夢の中なら、現実世界よりも自由に、楽に動けるからな。

 大方おおかた、君も同じだろ?

 結織ゆおりの夢の中で生み出され、気付けば俺達に興味を持ち、遠慮がちな結織ゆおりが焦れったくて脱走。

 ついで、あらゆる手段を行使して彼女を足止めし、俺達を試した」

「そうだね。

 そんな私を糾弾した結織ゆおり自身が、今度は国外逃亡だなんて。

 シニカルぎて、笑っちゃうよね」

「ねぇ君、本当ほんとう結織ゆおりい所だけ抽出してる?

 悪い影響まで受けてない?」

だなぁ。

 ブラック・ジョーク。

 ユーモアの範囲内だよぉ」

「そ……そか……?」



 真実はさておき、話を続ける。



「丁度、寝不足で困っていた所だ。

 夢の中で、彼女の勉強をするとしよう。

 君の力をお借りして、な」

「なるほど。

 君、かなりのムッツリくんだね。

 現実世界では物足りない、けれど想像力、表現力が足りなくて、悶々としてると見た」

っとけ。

 それで、返答は?」

「断るわけいよ。

 君達のサポートをするよう結織ゆおりから仰せつかってるし。

 私自身、君達に興味はるし。

 それに、なにより」

「……『なにより』?」



 軽く笑っていた友花里ゆかりは、再びシリアスな面持ちとなる。



「君達に、結織ゆおりを助けてしい。

 私が生まれたのは、い兆候でもると思うから。

 あの子は、いつ死んでもいと思ってた。

 自分にも、周りにも、まるで関心がかった。

 そんな彼女が、君達と触れ合って、自分に向き合うようになった。

 そうして作られたのが、この私。

 私も……結織ゆおりを、助けたい。

 自分の感情を、好印象をほとんくすことを、『ちょっとした細工』だなんて言ってしまう。

 そんな、自分から報われまいとする結織ゆおりを、助けたい。

 今度こそ、勝たせたいんだよ。

 自分にも、恋愛にも」

友花里ゆかりちゃん」

「その呼び方、めてよ、未希永みきとくん。

 私は、産まれる前から君に、全幅の信頼を寄せてる。

 なんたって、君にデレさせられたことで、結織ゆおりはドッペルを頼った。

 結織ゆおり自身に、自分の心と命に、食らい付いたんだから」

「……分かったよ。

 よろしく、『友花里ゆかり』」

勿論もちろん

 私が君を、徹底的に結織ゆおり好み、対・結織ゆおり用最終決戦彼氏にしてみせる」

「物騒だな!?」 



 ツッコむ横で、依咲いさきが袖をつかんだ。


 

「サキも、付き合うです。

 カイせんが、少しでも長く、安らかに眠れるように。

 他に手伝えそうなことさそうなので」

依咲いさき……。

 ……い、のか?」

「確かに、面白くはない部分もりますけど。

 ……堂々と、あの女狐をん殴るためです。 

 それに、言っときますけど。

 カイせんだろうと、文句は言わせません」

「……ああ。

 頼んだ」

「ふっ。

 最初から、そう言ってだけいなさいませ。

 ちょっと手間です。

 大人しく、サキにどーんと任せんしゃい」

「おう」



 依咲いさきの頭を撫で、機嫌を取る。

 続けて恵夢めぐむ七忍ななしのを見る。



「二人は、そのまま頼む。

 それから、俺達の観察も。

 連絡なら、友花里ゆかりを介して出来できるから。

 ただし、どうか無理だけはしないように」

「分かってるって。

 適度に休みながら、宿題と作業を進める」

「アイデア出しやストーリーは、あたしに委ねなさい。

 これでも元・文芸部の長だもの。

 こんな時くらい、お役に立ってみせるわ。

 無論むろん、問題のい範囲内で、学校や大学の課題も終わらせるわ」

「信じてるよ」

「カイせんー?」

「私達は?

 未希永みきとくん」

無論むろん、信じてるさ」

「2年も偽妹ぎまいに手を出さないハーレム男」

「5年も先輩に告白して来なかった優柔不男子」

「夢の中でVRデート希望してるAIフェチ」

「天下無敵のダブスタ恋愛脳」

七忍ななしの、潰す」

なんでだよ、なにをだよっ!?

 そういう流れだったろ!? 今!!」



 こうして、七忍ななしのをオチに使った所で。

 俺達のシミュレーションが、始まった。



「ところでさ。

 もしかして友花里ゆかりちゃん、安眠機能とかも付いてる?

 で、今から新甲斐あらがい多矢汐たやしおちゃんに使う感じ?」

「え?

 うん。

 それがなに?」

「だとすればさ。

 多矢汐たやしおちゃん、寝てるだけじゃね、サボってね?

 友花里ゆかりちゃんだけで、事足りね?」

うるせぇなぁ、愚鈍野郎!!

 こういうのは理屈じゃねぇ、精神的な問題だろぉがよぁ!!

 そもそも手前てめ、俺のソフレ偽妹ぎまいに文句でもんのか、七忍ななしのゴラァ!!

 しまいにゃ、いてこますぞ、ダボハゼがぁ!!」

「地獄へ行きましょうぜ……。

 ひさしぶりに……。

 本狩マジカルきれちまいましたよ……」

「ちょ、ちょっと、依咲いさき!!

 10kgダンベルは、おめなさいっ!!

 せめて、5kgになさい!!

 それはそうと、七忍ななしのくん、教育的指導っ!!」

「やっちゃえ、未希永みきとくん、依咲いさきちゃん、恵夢めぐむさんっ!!

 こんなに健気な可愛かわいい妹分をけな七忍ななしのくんなんか、リンチ、ミンチにしちゃえ!!

 私も、するっ!!」



 ついには自分から地雷踏みに行った七忍ななしのを、4人でボコってから。



 七忍ななしのくん。

 君がモテない理由を教えましょうか?

 全て知ってるのに、当時から関わってるのに、そういう無遠慮なことするからだぞ、本当ホントに。

 空気は読めるのに、頭と要領はいのに、何故なぜまれに壊滅的に気が回らないからだぞ。

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