〈4〉願い、狙い、未来
俺と
春休みの初日に、
そんな
……のは、いいものの。
眼前に聳え立つドデカ豪邸に、速攻で絶句した。
え、7階建て?
「あ、
いらっしゃーい。
待ってたよぉ」
一足お先に着いていた
玄関を開け、一目散にダッシュし、飛び込んで来た。
負けじと、彼女をキャッチする。
まるで、いつぞやと逆の構図みたいだ。
「
危ないだろ」
「平気、平気。
だって、
「
てんで説得力、語彙力に欠ける、ありがた
あの日から
それ
俺としては、役満レベルの役得だけど。
ところで今、
もしかして、『センサーが反応して、オートで開く』、的な?
ブルジョア、怖っ……。
「
私の体も、心も、将来も」
「まぁ……ご期待に添えられる
この家に見合うかは、分からんけど」
「えー?
私の、
「ねぇそれ、どっちで言ってる?
ネタ? 本気?」
「ふーん。
そんなに、信用ならないんだぁ?
まだまだ調教が足りないかなぁ?」
「ごめんなさい
「じゃあ、こっちで我慢する」
「そこは、もっと
人前だから!!
後生だから!!」
じゃれ合うと見せかけ、ちゃっかり下腹部を攻めようとした
とにかく明るくなっちゃったじゃん、俺!
「……ん?」
ふと、表札に目をやり。
そこに書かれた文字に、再び絶句した。
『
「……
これは、どーゆー……」
「あー、それぇ?
ごめんねぇ、勝手に決めちゃって。
でも、
ほら?
私名義じゃないと、分かり易くヒモっぽくって、アレでしょ?
内で用意した家に、一緒に暮らしてる都合上。
私は別に、それでも
「違う、そうじゃない。
そこは別に、気にしても気になってもいない。
「何言ってるの?
当たり前でしょ?
結婚するんだから」
「いや、まぁ、そうだけど……」
「じゃあ、
「まぁ……。
……かなぁ……?」
それを台無しにさせるのは、気が引ける。
「ここね?
お母さんとお父さんが、建ててくれたの。
で、あれやこれやという間に、ドーンッと。
あ。
「さいですか……」
……俺そんな、好感度爆釣する
ただ痛々しく叫んだだけの気がするんだが……。
「まぁ、
気楽に、気長に、暮らしてこうよ。
この子達の
頬を赤く染め、目線を外し、お腹を擦る
いや、久々に見たなぁ、それ!
てか、今となっては、てんで笑えないけどなぁ!!
言っとくけど!
あの日からは未遂だし、キス止まりだし、スキンだってしてたし!
あくまでも、その可能性が
「名前もねぇ。
もう、決めてるんだぁ。
男の子だったら、『
女の子だったら、『
二人の愛の結晶って感じで、気に入ってるんだぁ」
「へ、へぇ……」
「
「突然
「そっかぁ。
じゃあ、早く、慣れてね。
内容にじゃなかった分、お咎め無しにはするけどさぁ」
「善処します……」
やっぱり、
まだ、ちょっと怖いけど……ちゃんと、順応してかないとな……。
これから、一緒に暮らしてくんだし……。
「え?
て
今日から俺、ここに住むの?」
「
「そうじゃなくってさ。
棚ぼたでしかないけどさ。
俺、
「それなら平気。
荷物なら、
「誰に?」
引っ越し屋さんと一緒に降りて来たのは、見慣れた小柄のシルエット。
「
「ちーっす、カイ先輩。
数分
いつもの通り、無表情かつアンニュイに敬礼する
そのまま、
「
終業式以来っすね」
「昨日だけどね。
届けてくれてありがとう、
助かった」
「どーって
これで、サキのカイ
「
ポイント制なんて、導入してないよぉ。
わ・た・し・の、
「あ、あはは……」
バチバチした空気に及び腰になっていると。
「改めまして。
今日から同居人にランク・アップした、
なるべく迷惑掛け
「……はい?」
え、
俺や
……有りなの?
そういうの。
「待ってくれ、
俺は、君をフったんだぞ?」
「コイサキがフ《や》られたようだな……。
フフフ……
ガヤ
よって、
「初手から主戦力討たれてんじゃねぇか。
てか、いつにも増して
「それは、過去の話。
今は、
あと
「まだ1ヶ月も経っていないわよ」
3人だけの場に、再び声。
振り返った先に
和風の顔立ちにも
にセットしようとして、
彼女は、俺達に告げる。
「同じく、大学1年、文芸部の元部長。
今日から、ご厄介になるわ。
丁度、キャンパスからも近いし」
「せ、先輩まで!?」
「ん?」
「ん〜?」
「め、
「うむ。
上出来よ、アラタくん。
願わくば次回以降は、初手から詰みかけない
呼び方を間違えられた結果、二人に睨まれる俺。
横では、「
な、
一体、どういう心境、実状なんだ……?
「ずっと考えてたの。
私は、どちらを選ぶべきか、って。
天秤にかけた結果、私は両方を手に入れる
「……つまり?」
「
私の、『彼氏』と『ヒモノン』と『ペット』。
それから、私達3人の『同居人』、『仲間』、『親友』。
全員のリクエストを、体現して
そうすれば、根こそぎ解決だって」
「いや、まぁ……。
確かに、そうかもだけど……」
少なからず後ろめたさを覚えていると。
不意に
「心配には及ばないわ。
確かに、まだ引き摺ってはいるけれど……全力で戦って、負けたんだもの。
それで叶わなかったのなら、もう
「そうです。
サキも、そこまで後悔していません。
カイ先と
銀河無敵のサキでさえ、
「
ありがたみしかない言葉に、泣きそうになる。
二人は、互いを見合い、
「1年前から、決まっていた、決めていた
「そうでし。
だからこそ、あの日、誓い合ったんです。
それぞれにデートを終えた4人で、部室で」
そういう流れだと察し、俺と
「ニアカノ 新・5つの誓い」
「一つ。
皆、対等、均等、平等に扱うべし。
年齢、職業、ポジションなどを理由にはしない
本命が定まっても、露骨に優先しない
他の仲間の
「一つ。
意図的なヘイト・スピーチなど、目に余る反則行為は禁止。
失言をしても、
仲良く楽しく安全、健全に、正々堂々、笑顔で、生涯を駆け抜ける事。
「一つ。
ハニトラは死、負けと同義。
勝負に負けた以上、潔く引くべし。
想いは言葉、行動で示すべし。
誠実である
異性であっても、友として敬慕し、助け合う
「一つ。
黒一点を大切に扱う事。
具体的には、必要以上に、
「一つ。
誰が選ばれても、選ばれなくても。
形は変わっても、思いを違えても。
場所も、気持ちも、離れていても。
4人は一緒に、
『ニアカノ同盟』一同」
最後だけペースと足並みを揃え、読み上げる俺達。
まさか、ここまで有言実行し、あまつさえ最適化しようだなんて。
1年近く前までは、想像すらしてなかったに違いない。
正直、馬鹿げてると部分も
恋敵で、異性で、派手に喧嘩して、
それでも、こんな
そんな、ドロドロした綺麗事を、リップ・サービス染みた単なる口約を、継続しようだなんて。
そんなの所詮、子供っぽい幻想に
でも。
それでも俺達は今、こうして揃った。
探り合いも、殴り合いも、泥仕合も、騙し合いも、罵り合いも、慰め合いも乗り越えて。
1年前みたいに、『ニアカノ同盟』を再結成した。
1年前よりも鮮明に、堅実に、将来を見据えて。
「……
「はーい」
「……
「ええ」
「……
「ウィー、ムッシュ」
順繰りに同居人を見詰め、懇願する。
3人は、
「これからも、
「
全員、お世話、溺愛し尽くすよ。
取り分け
「これで、契約更新完了ね。
では、二人共。
その『サービス』について、詳細をお聞かせ願おうか」
「
急いては
「
3ヶ月だぞ?
さぁさぁ、早く白状して
「さて、と。
終わったら、中を案内するね。
1階が共有フロア兼ゲスト・ルームで、2階が
自室や趣味部屋、倉庫の他、カラオケやシアターも
それから、それぞれの部屋にはトイレとお風呂、キッチン、防音完備。
あと、食費は割り勘で、それ以外の生活費は、フロア毎に自動でカウントする仕組みになってるから、それぞれに支払って。
それと玄関には、手数料の掛からない特別仕様のATMも置いてるから。
エレベーターとエスカレーターも、好きに使ってね。
地下室も
「つまり『監禁』、『致し部屋』だな?
言わば、『セッセしないと出られない』的なアレであるな?
アラタがヘタレて逃げぬ
あい、分かった、喜んで承ろう」
「ブレーキ踏め、
「待って!?
サラッと流されたけど!
あと
「カイ
「
飴ちゃん、食べるぅ?」
「早く寄越しなさいませ。
あ、カイ先。
今回は、
「いや、
大丈夫だよな!?
俺、本当に大丈夫だよな!?
なぁ!?」
「
そこまでしないよぉ。
ちょっと
「それはそれで、お預けにも
こんな会話をしつつ、中に入り、手を洗い。
そのまま朝食、洗い物、案内も済ませ。
となれば、次の選択肢は。
「さて、と。
ガイダンスがスムーズに完了して、何よりです。
じゃあ、後は各自、自由行動って
行くよ、
「でぇすよねぇ!!」
修学旅行の引率の先生みたいな
透かさず、それを
「待つでやんす。
入居早々におイタしようたぁ。
ちょっと話が
人生、空虚じゃあ
「
そうだ、
高校生らしく、未成年らしく、もう少し節度を持ってだなぁ!」
「師匠は今から、自分と推し事するでありますっス!!
飾って、カラって、
私物運んだんだから、それ
「……あれぇ?」
おーっとー。
ここで、久々のガヤ
「まぁ、一理
それに関しては、私も感謝してるし。
でもさぁ、
そんな
こうして一緒に住んで、色々と工面して、ある程度の接触は我慢して、
そこまで寛容な、この家主である私に。
私、もう……限界、だよっ……。
私……私ぃっ!!
一刻も早く、
酔っ払って散財して借金作って勘違いして決め付けて、私をダサ
「あるぇ?」
売り言葉に買い言葉を地で行き、
自身が提示した、「『ニアカノ』の誓い」は、どこに行ったんだー。
「ふむ。
しからば、間を取って。
これよりアラタは我と、サキオリとオリサキについて語り合うというのは、どうだ?」
「あれるぇー?」
消火と見せ掛けて、
どこをどう間を取ったら、そうなるんだー。
「おーい。
探検は終わったかー?
ケーキ作ったから、食べに来い、ぐはぁっ!?」
背中越しですら覚えられるオーラにすら気付かず、迂闊に近付き、3人に同時に蹴られる
そのままエレベーターに打ち込まれ、
お前は、それで
最終話だというのに、同居人で仲間だというのに、大して触れられないまま、この仕打ちな
睨み合う三者。
6つの瞳は、やがて俺に向けられ。
「こうなったら」
「そうね」
「1つしか
胸騒ぎを覚え、後ろに下がる俺。
すると、
瞬間、床が勝手に移動し、俺は壁際まで
……えーっ、とぉ。
この光景、物凄ぉぉぉいデジャブるぞぉ?
具体的には、プロローグ辺りで見たよーな……。
てか、まんま
この先の展開を予測し、言葉を失う俺。
かと思えば。
『トモ・ヒモ・エモに、なってください、そして
ドシ・ヌシ・オシに、さぁなりなさい、そんで
恵む夢、結い織り、依頼、咲かせて、そのまま
幸せになりなさいませ
未来で希望、
(っしゃっす!!!)』
「
リモコンさえ使わぬまま、勝手に室内スピーカーから流れ始めたんですけどぉ!?
そして、大サビだけ無限ループしてるの、バリ怖いんですけどぉ!?
「
どっからアドリブで、どこまでが仕込みなのっ!?
つーか、やっぱ仲良し
普通、恋敵で色々
「だよねぇ。
まぁ、それが
そこにプカプカ浮いていたのは、
まさか、それも記憶を宿して復活しているとは思わず、絶句する。
「バック・アップで復旧
しかも最新型、正規品にバージョン・アップ。
痛み付け
タイパもコスパも、過去最強。
これからも、
てな
改めて
「マジかよ……」
「元気になったのね。
良かった……」
「ゆ……!!
……
「イサキント……」
驚く俺と、涙ぐむ
再会
それはそうと。
泣きながらも、サラッと
いや、まぁ、確かに、スマブ◯のトサキン◯の鳴き声みたいだったけどさ。
「ちょっと、
「日頃の行い」
「ねー」
「ねー」
「ちょっ……!!
この、パチモン!!
調子乗んなっ!!」
掴みかかろうとするも、すり抜ける
お
「もう、
「そんな、八つ当たり気味に誘わなくても、
「それもそうね」
「同感ですます」
「
やれやれぇ!!」
「あーもう、
次の瞬間。
3人から放たれた言葉は、
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