〈3〉ガチでマジわる最終日

「……寒くないか?」

「……うん。

 ……未希永みきとは、平気?」

「……パジャマ、着てるし」

「……そうだった。

 私が買った、着せたんだった」



 体育座りをし、ひざに顔を挟む結織ゆおり

 そのまま、目のやり場に困っていると、不意に「ねぇ」と、結織ゆおりしゃべった。


 

「ごめん。

 やっぱ、寒い。

 ……暖めて」

「……それ、って」

「つまんない質問したら、キルから」

「服を!?」

「は?」

「わ、分かった、悪かった!」



 キッと鋭く睨まれたので、慌てて移動し、雪山の遭難方式で。

 後ろから、結織ゆおりの肩を抱き締めた。


 

「……未希永みきとの、唐変木、意気地し。

 この期に及んで、なん躊躇ちゅうちょしてるの?

 恥と一緒に、服も迷いも捨ててよ。

 ここまで晒してるんだから、シていに決まってるのに。

 それどころか逆効果、失礼だよ。

 そんな調子でく、『君の自信にしてください』とか、言えたよね」

「……ごめん」

本当ホントだよ。

 未希永みきとってさぁ。

 ともすれば、私よりネガティブだよね。

 私が近くにて、命拾いしたね。

 さもなきゃ、誰とも結ばれなかったよ」

「そしたら、恵夢めぐむ依咲いさきに」

「は?

 なに

 私のこと、嫌いなの、らないっての?

 そんなの絶許だし、私が未希永みきとと出逢わないわけいじゃん、舐めてる?」

「すみません、嘘ですなんでもいです、爪立てないで」



 どうにか、痛みから解放された。

 あ、あぶねー……。


 

「……もうい」



 なおも怒りつつ、強引に俺の手を取り。

 結織ゆおりは、自分の胸をつかませた。



「……卒業式で、恵夢めぐむを送った。

 ……依咲いさきは、私に抱き着いてくれた。

 ……ねぇ、未希永みきと

 私、君達のこと、呼び捨てられるようになったよ。

 そこまで、ここまで、心を開けたよ。

 本当に沢山、傷付けたし、振り回したけど。

 それでも二人に、背中押されたよ。

 二人だって今頃、苦しんでるのに」

「そう、だな……」



 分かってる。

 俺も、結織ゆおりも。

 俺を送り出す際に依咲いさきが言ってた、『俺の親との会食』。

 そこにはきっと、恵夢めぐむも同席してるって。

 ようは、『依咲いさき恵夢めぐむの激励、慰労会』なんだって。

 


 俺達は、それほどまでに、二人の心をエグく抉り。

 なのに、おくびにも出させぬまま、祝わせて。

 二人が慰め合ってる最中に、本格的に恋人同士になろうとしてて。

 挙げ句の果てに、今朝までの結織ゆおりみたいに、変わらず接することを強要しようとしてる。

 こんな傲慢な拷問を、実行しようとしてる。



 恋人としての俺を、そこまで二人は求めていなかった。

 確かに、それは間違いではないだろう。

 二人の本命の俺は、『同士』と『最推し』だ。



 けど……自惚うぬぼれかもしれないけど。

 どうしても、思ってしまう。

 もしかしたら二人も、去年までの俺と同じなんじゃないかなって。

 あわよくば、俺と恋仲になりたがってたんじゃないかって。



 俺がその気になって、こっちから告りさえすれば。

 もしかしたら、そういう可能性も、ワンチャンだったんじゃないかって。



 だって、そうだろ?

 じゃなきゃ、実験も実践もしない。

 デートなんて手間暇挟まずに、俺に自分の願望を押し付けたり、別の候補を見繕えば済んだ話じゃないか。



 それなのに、二人は合わせてくれた。

 趣旨は違えど、本気で俺をオトさんと奮起してくれた。

 俺達を、次のステップに、ステージに進ませてくれた。

 自分達だって、それ相応に深手を負わされたのに。


 

 だからこそ。

 二人の思いに応えるためにも。

 俺達は今日こそ、今度こそ、ケジメをつけなくてはならない。

 それが二人に対する、今の俺達の出来できる、最大の賛辞だと。

 そう、思いたいから。



「だから……もう、いよね?

 二人は私を、私達を、許してくれたって。

 私は最低限、義理を果たしたって。

 そう、自惚うぬぼれても。

 君に、私のすべてを捧げ、注ぎ込んでも」

「……どっちかってーと、俺じゃね?

 俺が今から、結織ゆおりに注ぐんだろ?」

「そうだけど」

「否定、しないんだ?」

「そんなの、したくないし。

 それ以上に、されたくない」



 結織ゆおりは、自分のスイッチを押させた。

 俺の手を操り、タオル越しに。



 赤面しながら、必死に声を我慢しているのが、なんとも可愛かわいらしく、いじらしかった。



 そのまま、湯気でも出そうな顔で。

 結織ゆおりは、俺をキャスト・オフさせて行く。

 几帳面な彼女にしては珍しく、服の方は、やや雑に置いて行く。

 


「そんなの、後でいよ。

 少し前までの、私と同じ。

 いくらだって、整えられる」



 俺の注意を引き付け、にじり寄り、生々しいキスで攻撃し。

 勢い良く抱き付き、倒して来る。

 


「ねぇ。

 電気、どうする?」

「『点ける』一択」

だよ。

 恥ずかしいじゃん」

「だって、結織ゆおりを見たい。

 てか、じゃあなんで聞いたんだよ」

「後で文句言われないよう、逃げ道作るために」

ひでぇ女」

「女々しい男」



 罵倒し合い、軽く頬を抓り合う。

   


 余談だけど。

 行動に反して、台詞セリフは緩いな。



「別に、『消す』でもいけどさ。

 そしたら結織ゆおり、俺の恥ずかしがる所、見られないぞ?」

「それ盾に取る方が、恥ずかしくない?

 あと、やっぱまだ羞恥心、捨て切れてないじゃん」

「ギリ一張羅だからな。

 衣服、捨て去ってないからな」

「課金制度持ち込むなぁ♪

 そんなの、ひん剥いてやるぅ♪」

「きゃー。

 結織ゆおりさんのエッチー」

「遅いよ?

 知るの。

 どうせ、友花里ゆかりに筒抜けにされたくせに」



 こうして俺は、すでにタオルだけの結織ゆおりより早く、身包みを剥がされた。



 いや、順序おかしくない?

 布越しに、手取りとはいえ、揉む所までは行ったのに。



「あーあ、残念♪

 流石さすがにもう、逃げられないねぇ♪」



 戦利品パンツをグルグルと回し、ポイ捨てし、心の底からうれしそうに勝ち誇る結織ゆおり

 とんだ悪女だなぁと、再確認した。



「逃げるかよ。

 お前じゃあるまいし」

「私だって、もう逃げないよ。

 だって未希永みきと、性格もあきらめも悪いんだもん」

「お前の、底意地と往生際おうじょうぎわの悪さに比べたら、全然だろ」

「あはは。

 かもね。

 でも、そうだよ。

 私、また逃げちゃうかも」

「心配ぇよ。

 その前に先読みして、俺がお前を逃がさねぇ。

 友花里ゆかりの死を、無駄にはしねぇ。

 何度だって、とっ捕まえてやる」

「そっか。

 それなら、安心だね。

 私が、未希永みきとの健康を養い続ける。

 未希永みきとが、私を拾い続けてくれる。

 Win-Winだね」

「少しは、残ろうとしろよ。

 結構、大変なんだぞ」

「保証は致し兼ねます。

 私だって、未希永みきとを手懐けるの、大変なんだよ?

 好きでこそあるけどさ」



 改めて見ても、意味不明な関係ぎて笑う。

 sumik◯のL◯VERSみたいだ。



 でもさ……ここまで、来たんだぜ?

 こんな軽口でさえ、叩けるまでに発展したんだぜ?

 


 俺達さ。

 本当ほんとうに、色々ったけどさ。

 互いに、迷惑掛け合ったけどさ。

 その所為せいで、友花里ゆかりを亡くしたりしたけどさ。

 今度こそ、本当ほんとう本当ほんとうに。

 もう、大丈夫だろ。



「ねぇ、未希永みきと

 私も、友花里ゆかりに報いるよ。

 私はもう二度と、君を手放さない。

 君が、私に素直で、一途でいてくれる限り。

 私は、君を信じ続ける。

 君しに、私を信じる。

 君にとって、そういう存在でありたいと、思ってる。

 そのために……最後に、お願い」



 俺の前で無防備になり、こちらに両手を伸ばし、結織ゆおりはせがむ。



 最後の一枚……。

 心の壁を、取っ払ってくれ、と。



 ここまで来て、されて、「いんだな?」とか。

 そんなことは、流石さすがに言わない。



 結織ゆおりの希望通り。

 俺は、おずおずと、彼女のタオルを剥がし。



 彼女と出会って、2年。

 プライベートでも会うようになって、1年。

 


 いくつかの擦れ違い、逆境の果てに、ついに。

 俺は、理想郷に。



 一糸纏わぬ結織ゆおりに、辿り着いた。



「えいっ」



 起き上がり、無邪気にパフパフして来る結織ゆおり

 そのまま、俺の頭を撫で、褒めてくれた。

 彼女に認められ、求められたのだと、改めて実感した。



 と同時に、悟った。

 こんなふうにホールドされていたら、俺は彼女の体を見られない。

 結織ゆおりは、恥ずかしがらなくて済むのだと。

 


「……未希永みきと



 決意は、定まったらしい。

 ハグから開放し、まだ照れは隠せずにいるが。

 結織ゆおりは、みずからを惜しげもく披露しながら。

 正面から、告げた。



「『優しく、して』ってのが。

 こういう時、決まり文句だけどさ。

 それを踏まえた上で、言うね」



 俺を道連れにして倒れ。

 バーストの感触をダイレクトに届けながら、結織ゆおりは伝える。



「『優しくなんて、しないで』」



 ぐな視線で俺を、未来を見据え。

 結織ゆおりは、懇願した。



「私……勿論もちろん、初めてだし。

 君を生かす、君に愛される、使命もる。

 けど……君に、手加減されたくない。

 特に、今は」

「でも……」

「……平気。

 私だって、そのもりで臨んでる。

 入念な準備は、施してる。

 アフター・ケアだって、きちんとする。

 だから……ね?」

「……っ!!」



 ……してたんじゃん。

 やっぱ、準備。

 しかも、入念に。



 散々さんざん、『死のうとした』だとか、『あきらめて』だとか言っといて。

 バッチバチに、添い遂げる腹だったんじゃん。



 俺のこと……特別に、ダンチに。

 意識して、くれてたんじゃん。



「きゃっ。

 もぉ……」



 思わず、飛び付いてしまった。

 結織ゆおりは、呆れ顔で、俺の背中をポンポンと叩いた。



「俺……結織ゆおりで、かった。

 やっぱ、お前を選んだ俺は、間違ってなんかない。

 俺には、お前しかないって」

「今の、クズポイント高くて、好きだなぁ。

 なぁに? 今更。

 なにも、泣くこといじゃない。

 私にだって、未希永みきとしかないのに」

「……お前の所為せいだよ。

 なんもかんも全部、一つ残らず」

「あはは。

 未希永みきとったら。

 すっかり、私にご執心だねぇ。

 この分なら、もう逃げる必要さそうだよ。

 ご愁傷様」

本当ホント……。

 ……ひっでー女……」



 人が、こんなにバグらされてるのに。

 こんなにも、飼い慣らされてるのに。

 首輪もリードもいのに、ここまで染められ、支配されてるのに。

 それ見て、笑ってやがる。



 本当ほんとうに。

 とんでもねぇ堕天使だ。



「ねぇ、未希永みきと

 どっちから、挿入れる?

 私、先に未希永みきと、食べたい」

馬鹿バカ言え。

 俺からに決まってんだろ」

「へたれろ、ダメンズれ、忠犬」

「いつまでも『待て』強いてねぇで、とっととえさ寄越よこせ、バカい主」

「じゃあ、代わり番こね。

 ずは、私」

「だから、俺からだってんだろ」

「ねぇなんで、ここでも張り合うの?

 いじゃん、順番なんて、どっちからでも。

 どうせ、結果は同じでしょ?

 早く、シようよ」

「『ニアカノ同盟』設立後の初対面で、際立きわだってWSSしてた、お前が言うか?

 てか、回数は違うかもだし、気分とプライドの問題だ」

「今それ、関係いよね。

 変な上げ足取らないでよ、おバカ。

 本当ホント、女々しいよね、未希永みきと

 交代制導入した意味いじゃん」

「後退して挿入する意味もな」

「もげろ」

本当ホントになったら、どうするんだよ」

「治す」

いやぎるマッチ・ポンプ止めろ」

「ちょっとは興味くせに」

「悪いか?」

「ダメカワ」



 本当ホントにさ。

 なんなんだろうな? 俺達。



 色んな意味で、馬鹿バカっぽいじゃんかよ。

 どっちも裸にまでなって、いつまでもなにやってるんだよ。

 いつもとノリ変わらなさぎて、感想とかも特にしかよ。



 なんだよ?

 この、『大人と子供の中間』みたいなやり取りは。

 確かに『高校生』って、それくらいの年齢だけどさ。



仕様しょういなぁ。

 じゃあ、交換条件」



 バーストを寄せながら、結織ゆおりは提案する。



「もし、私に最初を譲ってくれるなら。

 好きにしていよ。

 私の、双丘」

「……上だけか?」

「『だけ』ってこといでしょ。

 恋人、女として現状、最大限の譲歩だよ。

 無実で、無料でいじれるんだよ。

 なんならポーズとか、協力もする。

 これでも私、形も色も感触も香りもサイズも、割と自信るんだけどなぁ。

 しかも、VRで眺められるんだよ。

 クリームとかフルーツとか、リボンとかも使ってもいし。

 私の宝石を、押して、弾いて、摘んで、吸って、舐められるんだよ。

 無論むろん、取れない範囲でね」

「んな、勿体こと、すっかぁ!!」

「少しは私を案じろ」



 もっともな発言をしつつチョップを繰り出し。

 結織ゆおりは、両腕で胸を挟み強調する。

 さながら、ダメ押しと言わんばかりに。



 最愛の人に、ここまでされて。

 なんとも思わぬ男など、るんだろうか。



 折るべきは、心か、体か。

 そんなの、考えるまでもい。



 こうして数分後。

 キラッキラした結織ゆおり出来でき上がり。

 1回戦を終えたら、さっさと寝落ちしちまいやがった。



 おい、こら、手前てめえ巫山戯ふざけんな。





「『触らせてくれる』って言ったよな?

 お前、ほどなくして俺の両腕ロックして、身動き取れないようにしてたよな?

 てんで、触れさせてくれなかったよな?

 んで、自分だけで味わい尽くして、張り切り過ぎた結果、病弱でもないのに、速攻で、正体もく眠りこけやがったよなぁ?」

だなぁ……

 別に、『初回から』だなんて、一言も言ってないよ……?

 てか、起き抜けは勘弁してよぉ……」

「『次回からは』、ともな。

 あと、一抜けといて、ほざくな」

「分かってるじゃん」

反故ほごじゃねぇか!!

 事実上!!」

「おっ。

 よく気付きづけたねぇ、偉いねぇ」

「て、手前てめえ……!!」



 こっちが今まで、どんだけ我慢してたと思ってんだよ……。

 一刻も早く追求、再戦したくて、お前が起きるの、寝ずに待ち続けてたんだぞ……?

 起こすのも忍びないし、電気消して、ずっと手は出せずに、据え膳食らわされてたんだぞ……?

 それでいて、ちゃんと体を拭かされたり、布団ふとんを掛けさせられたりもしたんだぞ……?

 ベッドに戻った途端とたん、ガッチガチにロックされて、狸寝入りを疑いながらも、スマホすら触れないまま、延々と眺めてたんだぞ……?



 こんな仕打ち、初体験、ピロー・トークるかよぉ……。



「ごめんってば。

 でも、許してくれるでしょ?

 未希永みきとなら」

「そりゃ、まぁ……。

 ……好きだから、な」

「うん。

 ……私も」



 俺の上に乗っかり、ピタッと張り付き、爆弾を押し付ける結織ゆおり

 まだ違和感いわかん、抵抗、疑念がって、堪らず目を背ける。

 空かさず、俺の顔を正面に戻し、結織ゆおりは語る。



「私さ……本当ホントに、嫌な女じゃん」

「別に、そんな気にしてないって。

 それ補ってあまる彼女、飼い主だし」

「そうだけど。

 それだけじゃなくって」

「お前、自信付けぎじゃね?

 ことかもだけど」

「『客観的に見たら、そうかな』って。

 ただ、ぼんやり思っただけだよ」



 ツッコミつつも、結織ゆおりの話を聞く。

 月明かりに照らされた彼女は、実に美しく、艶やかだった。



「『結織ゆおり先輩、本当ホントに自分からは動かないでやんすね』。

 そう、依咲いさきに言われたの。

 未希永みきと、覚えてる?」

「あー……」



 3人で、ラジオやってた時の……。



「あれ、当たってるんだ。

 私、みんなを利用してばっか。

 決して、自分の手を汚さまいと、自分だけ安全圏に永住しようとしてる。

 そのためなら、仲間。

 大切な君たちだって、利用する。

 まるで、カミキヒカ◯かディアボ◯だね」



 神妙に自嘲しつつ、結織ゆおりは続ける。



「そこら辺、依咲いさきには見抜かれてたんだろうね。

 あの子、『メグ先輩』とは呼んでるのに。

 私は、そうじゃなかった。

 本当ほんとうに、私を信用してなかった、嫌ってたんだよ。

 それでいて、探ろうとして、近付いて来たりもする。

 君と恵夢めぐむのデート中に、一緒にたりもする。

 私も、そんな彼女をうとましがり、畏怖した。

 今でこそ、どうにか丸くなったけどさ。

 依咲いさきに対する報復は、そんな心情の裏返しとも取れるね」

「そんなレベルじゃないけどな。

 ガチで破綻しかけてたけどな。

 フォロー大変だったけどな」

「その説は、御迷惑お掛けしました。

 まぁ勿論もちろん、私からも、ぐに改めて、依咲いさきに陳謝したけどさ」

「お、おう……」



 めずらしく素直に返され、戸惑う。

 これは、あまり突っつかない方が吉か。



仕方しかたいよ。

 君達も、似てるからな」

「確かに。

 揃いも揃って、ペシミストだもんね。

 でも、その実、似て非なるんだ。

 依咲いさきは、常にダウナーだから、そんなに違和感いわかんい。

 それでいて、なんだかんだ今に、現実に、自分に、生に食らい付いてる。

 意図的に、周囲を振り回したりしない。

 未希永みきとや、君の両親、恵夢めぐむ、リスナーさんたちてくれさえすれば、メンタルが安定してる。

 でも、私は違う。

 突発的で、嘘きで、暴虐無人。

 だからこそ……君に選ばれるべきじゃないと、思ってた。

 依咲いさきが君を必要としてるのだって、熟知してたし」

結織ゆおり……」



 恵夢めぐむ先輩は、俺を『後輩』『弟』『同士』として見てた。

 だから、俺に見初められなくても、そこまでショックは受けなかったかもしれない。



 けど、依咲いさきは。

 あいつは、少し違う。

 俺を『最推し』『相棒』『偽兄』として慕い。

 図らずもとはいえ、結果的に俺は、そんな依咲いさきを救った。



 いつ死んでもいと適当に生き、真面まともに睡眠も取れず、ともすれば毒牙にさえ掛かりそうだった。

 そんな依咲いさきを、俺は助けた。

 今となっては、それ以上に、生活面で依咲いさきに助けられてるが。



 結織ゆおりだけじゃない。

 恵夢めぐむも、依咲いさきも、俺を求めてはくれていた。



 役割の重さ、数、入れ込み具合とて、大差無い。

 最後に明暗を分けたのは結局、俺の気持ち。

 


 だからこそ、不思議で、不安で仕方しかたいのだろう。

 何故なぜ、自分だったのかと。



さっき、君も言ったろう。

 依咲いさきは、自分で多少なりともコントロール出来できる。

 拠り所も見付けられるし、働けるし、程々に息抜き出来できるし、甘えられる。

 けど、君は違う。

 俺が助けないと、君は本当に死んでしまう。

 俺みたいな駄目ダメ人間を溺愛していないと、君は精神的に生き長らえられない。

 今日とか、いつにも増して、顕著だった。

 逆に言えば。それくらいに、俺を頼ってくれているってことだ。

 ほかのメンバーより、ずっとな。

 それに、声も見た目も性格も趣味も俺好みで、なにかと気が、考えが合う。

 ようは、『需要と供給』の合致だよ。

 他は、昨日も言った通り。

 俺にだって、く分からん。

 けどさ。理屈じゃないからこそ、『好き』ってことなんじゃないか」



 結織ゆおりを抱き寄せ、落ち着かせ。

 俺は、説く。



「本当の所なんてさ。

 俺にだって、未だに不鮮明だよ。

 なにかがけで、引力なり重力なりが働いてくれただけだ。

 その答えなら、これから二人で、ゆっくり探って行けばい。

 それじゃ、駄目ダメか?」

「……ううん。

 駄目ダメじゃない」



 安堵し、俺の胸に手を置き、涙を流す結織ゆおり

 もう平気そうだ。


 

「……かった。

 今、好きな所を列挙されても。

 多分、信用には至らなかった。

 むしろ、かえって不信感を募らせた。

 こんなタイミングまで、君と一緒だ。

 だったら……君を、信じられる。

 やっぱり、君でかった」



 隣に転がり、腕組みし密着し、結織ゆおりは続ける。



「私さ。

 昔から、お母さんとお父さんに憧れてた。

 だから、ずっと思ってたの。

 いつかは私も、二人みたいに、立派なお医者様になるんだって」

「うん」

「で、小学生になる前だったかなぁ。

 自主的に医療ドラマとか観て、勉強してたらさ。

 思ってた以上にグロくて、ハードで、具合悪くなっちゃって。

 同時に、茫然自失になった。

 それからだよ。私が、とかく自信をくしたのは。

 サポーターに徹するようになったのは。

 そっちのが、性に合ってたし」

「……災難だったな」

「確かにね。

 でも、悪いことばかりじゃないよ。

 おかげでフライングで、自分と向き合えた。

 それに、恵夢めぐむ依咲いさきに出会えた。

 未希永みきとにも、出逢えた。

 けどさ……まだ、トラウマではあるんだよね。

 さながら、獣医ドリト◯の花◯先生だね」



 そういえば。

 俺が頭を打った時とかも、かなり心配し、甲斐甲斐しく看てくれていた。

 あれは、その表れだったのか。



「白衣の堕天使だって、そうだよ。

 動画なら、画面越しなら、コメントだけなら、そこまで血を見ずに、苦しまなくて済む。

 間接的な、ずるい方法でしか、みんなと関われないんだよ。

 依咲いさきに指摘されたのだって、そう。

 自分が誰かを傷付けるのも、その所為せいで傷付くのも怖い。

 だから、『堕天使』なんだ。

 ううん……むしろ、『ペ天使』かも」



 堕天使にして、ペ天使。

 皮肉にも、それは彼女という人間を表すには、しっくり来ぎる。

 俺もちょくちょく感じていた、キャッチ・コピーだった。

 天使っぽいのに、闇落ち多くて、策略家。

 これでは、そう呼ばれても逆らえない。



 けど。



いと思う。

 それで」


 

 結織ゆおりと向かい合い、余っていた手で撫でる。



「今は、多様性の時代だ。

 医療系の配信者だってるよ。

 あるいは栄養士、薬剤師、精神科医の道だってる。

 大方、君のことだ。

 うに、調べて、勉強だってしてるんだろ?

 ノリや思い付きだけで、決めたわけでもあるまい?」

「そりゃ、まぁ……そうだけどさ」

「おまけに、君はビジュアルも性格も声もウケる!

 VTuber路線だって、りだ!

 そもそも!

 いずれ社会人になった俺が、お布施ラッシュする!!

 依咲いさきに貢ぎまくる、内の親ばりにな!」

「その頃には、結婚してるよ?

 還元出来できない、意味いじゃん。

 あー、でも……既婚者って、イメージ悪いかなぁ」

「いや。

 後々スキャンダるより、最初からオープンにしてた方が好都合だろ。

 それに、『人妻』って属性もバズると思うぞ」

「むー。

 旦那様としては、少しは嫉妬、心配してしいんだけどなぁ」

なにを心配するか!

 リモートなら、むしろ安全、健全だ!

 しかも、俺の最高の嫁を、全世界に発信、共有出来できる!

 俺にとっては、旨味しかいね!」

「オバカレシ」



 さらに、くっ付いて来る結織ゆおり

 危うく手を出しかけたが、なんとか堪えた。



「でも、まぁ。

 そうだよね。

 未来は、分からないもんね。

 憂いてばっかいても、詮無いよね。

 友花里ゆかりを、安心させるためにも」

「ああ。

 その意気だ」



 結織ゆおりの髪で遊ぶ。

 笑ってくれた辺り、リラックスは出来できたらしい。

 


「それに、言ったろう。

 何度だって、俺が君を逮捕、束縛する。

 君が、俺を拘束するのと同じように。

 大丈夫。わけないさ。

 今日だって、難なく実演、実行してみせたろ。

 クールだろうと、熱血だろうと、極寒だろうと、激痛だろうと、コミカルだろうと、任せてくれよ」

「……そうだね。

 ありがと、未希永みきと

 惚れ直したよ」



 俺の唇にキスをし。

 油断し切った表情と無防備極まれりな格好で、結織ゆおりは再び、就寝した。



 結果。

 またしても、俺は負けた。

 それも、今度は戦わずして。



 数分後。

 あきらめ、倦怠感の導くままに、俺も寝た。

 今日は土曜やすみだけど、その方がいよな。

 デートやプランの選択肢を広げられるし。





 1時間後(ベッドの上の時計が示していた。)。



 妙なレーダーに導かれ、目を覚ますと、結織ゆおりが起きていた。

 俺の服を握り、縋り付いていた。



「……結織ゆおり

 どうしたんだ?」

「……怖いの。

 幸せぎて、愛されぎて。

 報われぎて、ご都合主義ぎて。

 全部……単なる夢だったんじゃないかって……。

 なまじ、友花里ゆかりに頼ってたから、余計に怪しくって……。

 起きたら……今の未希永みきとは、ないんじゃないかって……。

 折角せっかく、ここまで近付けたのに。

 また、遠ざけなきゃいけないんじゃないか、って。

 まるで、なにかったみたいに」



 不安がる結織ゆおり

 彼女の頭を撫でてから、俺は結織ゆおりくるんだ。



「……大丈夫。

 全部、現実、真実だよ。

 結織ゆおりと付き合えた、結織ゆおりと交わえた、結織ゆおりそばられた。

 至れり尽くせりで、一途で一人な、一介の高校生。

 正真正銘の、新甲斐あらがい 未希永みきとだ。

 だから、安心して」

「……本当ホントに?

 嘘じゃない?」

勿論もちろん

「また眠れなくなったら、落ち着かせてくれる?

 私と一緒に、徹夜してくれる?」

結織ゆおりとなら、何徹だろうと、大歓迎さ」

「……信じるからね?

 嘘付いたら、針一億本だからね?」

「数え切れるのか? それ。

 まぁ、好きにしてくれ」

「うん。

 じゃあ、未希永みきと

 もう少し、おしゃべり、い?

 やっぱり、まだ、寝られそうにい」

「喜んで」

「それでさ、未希永みきと

 本当ホントは、こっちのが本命なんだけどさ。

 本気で自堕落、奈落まで行きそう、壊れそうだから。

 やっぱり、まだ抵抗、るんだけどさ。

 もし、このまま、冷静になれなくて。

 話すのさえ、飽きて、疲れて。

 意識と体力の回復を優先して。

 なのに何度、試しても、やっぱり眠れなかったら。

 違う意味で、寝ても、い?

 未希永みきとこと……、ペットにしても、い?」

「……そこまで行ったら、もう俺を使ってくれよ。

 お預けにもほどるだろ」

「確かに。

 じゃあ、その時は、お願い」

「超喜んで」

「現金だし、元気だなぁ。

 それで、それで。

 どんなお話、聞かせてくれるの?」



 笑いながら、俺の胸に頬をスリスリしつつ、俺の腕を胸で挟む結織ゆおり

 ここまで求めてもらえるなんて、男冥利に尽きる。



 にしても、一体。

 これから俺は、結織ゆおりなにを話せばいんだろうか。



 今、結織ゆおりは疑心暗鬼に陥りつつある。



 その原因は、単に疲労困憊で眠かったり。

 あるいは、現状に半信半疑だったり。



 他にも。

 裏方に専念して来たのに主役に大抜擢されて、サブ・ヒロインからヒロイン、ついにはメイン・ヒロインと二階級特進して。

 表舞台に立って、不遇じゃなくなって。

 そのギャップに戸惑って。



 とまぁ、こんな調子で。

 俺が思い付くだけでも、これくらいにはって。



 付け足せば、俺も俺で、普通ではなくて。

 結織ゆおりほどではないにせよ、眠いし疲れてるし、頭もろくに回らないし。

 あの結織ゆおりことだから、「これも演技、フェイク、トラップなのでは?」という疑念も晴れてないし。

 けど、それを明かしたら、発狂なり落ち込んだり最悪、刺されたりしそうだし。



 互いに、こんな状態で結織ゆおりの気を惹く、モチベーションを戻せるだけの話。

 そんな切札カード……1枚しか、いじゃないか。



「……俺さ。

 2年くらい前から、追っ掛けてるラノベってさ」

「面白そう。

 なんてタイトル?」

「『ニアカノ』って、ラブコメ。

 結織ゆおりも、もしかしたら、知ってるんじゃないか?」

「あ……」



 俺なんて所詮、読む専で。

 AIやみんなに頼らないと、真面まともに創作すら出来できなくって。

 ウイットとかアドリブ力、語彙力なんてチートさえ、持ち合わせていないし。

 でも、結織ゆおりことは助けたい。



 だったら、もう、こういう手段に出るしかないじゃないか。

 架空フィクションという体で、現実ノンフィクションを。

 結織フィルターを通さずに、結織ゆおりを励ますしか。

 俺が補強して書いた、小説を題材に。

 1キャラとして、彼女の魅力を、余す所く、存分に伝えるしか。



 ……まぁ。

 自分のラブコメ脳っりには、辟易するが。

 こんな、「これは友達の話なんだが」的な感じでしか切り出せない辺り。



 そこら辺の機微を、酌み取ってくれたらしい。

 結織ゆおりは、何秒かハッとしてから、直ぐに取り繕ってくれた。

 相変わらず、器用なんだから不器用なんだか、く分からない子だ。

 もっとも、俺の周りには、そういう人種しかないんだがな。



「……知ってる。

 ピンクの子が、地味なりして、取り分け面倒なラブコメでしょ?」

「そう言ってやるな。

 君が今ディスったピンクの子こそ、俺の本命、本妻なんだよ。

 てか、それ言ったら、主人公だって中々、破天荒だろ?

 その日の3種のラブ・レター添えだぞ?」

「そう言わないでよ。

 私、主人公くんのこと、割と大好きなんだから。

 そもそも、あそこまで非常識じゃなきゃ、対等に張り合えないじゃん」

「『割と大好き』とかいう矛盾、好き」

仕方しかたいじゃん。

 嫌いな所だって、少なからずるけどさ。

 今日、徹底的に思い知らされちゃったんだよ。

 思ってた以上に、惚れ込んでたんだな、って」



 さて、と。

 い加減、独白すら覚束くなりそうだ。

 時計を確認すると……現在、明け方の4時。



 きっと、朝になる頃には、結織ゆおりのメンタルも元通りになっているだろう。

 つまり俺は、あと3時間ほどつなげばいだけ。

 もしかしたら、途中で寝落ちするかもしれんし、あるいは体で語り合うかもしれんしな。



 えず、なけなしのボキャブラリーを引き連れて、足掻くとしよう。

 彼女の期待に最大限、応えるために。





 5時。



本当ホント

 改めて考えると、ひどいよね、あのピンク。

 魔王とか魔女とか魔性とか、そんなレベルじゃないよ。

 大魔王すら超越した、『最大さいだい魔女王まじょおう』じゃん」

「だとすれば、主人公はなんだ?

 さしずめ、『蛮勇者ばんゆうしゃ』、『野蛮勇者やばんゆうしゃ』って所か」

本当ホントだよね。

 あれだけラスボスに嵌められてるのに、ネチッこく付き纏ってさ」

仕方しかたいだろ?

 ピンクが、なんだかんだで、スキを見せてくれてたんだよ。

 ワンチャンるかもって、期待持たされてしまったんだよ」

「嘘ばっかり。

 あのピンク、鞭しか与えてくれないじゃん」

「その鞭が飴で出来できてたんだよ」

「それ多分、サルミアッキだよ」

「飴ではあるなら、食べられるだろ?

 ましてや、恋人からのプレゼント、デザートなら、殊更だろ?」

「おバカ」





 6時。



「そもそも、作風からしておかしいだろ。

 いきなりVRとか出て来るし、法律違反スレスレだし。

 あまつさえ、後に伏線になった上に、そもそもの使い道がアレだぞ?

 しかも、スピンオフ産だぞ?」

「欲望全開だったよねぇ。

 ノリノリだし、ノリでばっか書いてて、チグハグだし、説明不足だよねぇ」

まったくだ」

「おまけに、いきなりナノマシンとかまで出て来てさ。

 かと思えば、ぐに退場しちゃってさ。

 あんなの、イレギュラーでしかなくってさ……。

 本当ホント……本当ホント、さぁ……」

「……あ」

「……やっぱ、さぁ……。

 私なんかが、君と付き合ってて、いのかなぁ……?

 私の所為せいで、友花里ゆかりが……。

 今からでも、恵夢めぐむ依咲いさきと……」

いに決まってる。

 俺は、君がいんだ。

 君でなきゃ駄目ダメなんだよ、結織ゆおり

「でも……」

「迷ったってい。

 悩んだってい。

 落ち込んだってい。

 信じてなんて、くれなくたってい。

 ただ、そばさせてくれ。

 そういう時こそ、俺を当てにしてくれ。

 なんでもなくても、俺に話してくれ。

 俺……ちゃんと、聞くから。

 結織ゆおりが落ち着けるようもがくから。

 結織ゆおりの中の悪魔を、退治してみせるから。

 何度だって、必ず」

「……こんなだよ?

 こんな、根暗女だよ……?

 私……」

「だったら。

 俺が、その根っこを照らす。

 君の心を、眩しく輝かせてみせる」

「……私……最大さいだい魔女王まじょおう、だよ……?」

「こちとら、野蛮勇者だ。

 任せてくれよ」

「……ありがとう……。

 私だけの、勇者様……」

「どういたしまして。

 俺だけの、お姫様」

「やったぁ。

 格下げされたぁ」

「俺が、悪魔を倒したからな」

「さっすが。

 私の、未希永みきとだね」

わけいよ。

 これくらい





 7時。



「だからさ、結織ゆおり……。

 俺は、知ってるから……。

 本当ほんとうのお前は、そんな悪人じゃない、って……。

 だから、俺は……絶対ぜったいあきらめない、ぞ……。

 お前が本当に、最大さいだい魔女王まじょおうだとしても……。

 よしんば、犯罪者になったとしても……。

 家族や、みんな、世界や運命にさえ、見放されたとしても……。

 俺だけは、お前の味方、仲間、理解者として……。

 半永久的に君臨、再臨してやる……」

「あはは……。

 なにその、ゴールデン◯イムみたいなの……。

 変な、未希永みきと……。

 今のは、ゲームの話でしょ……?

 私には、関係、いじゃん……。

 ったとしても、大袈裟だし……」

「ぅうるせぇ、なぁ……。

 今、俺がしゃべってんだろぉ……。

 そもそも、お前の所為せいだろ、結織ゆおりぃ……。

 全部、全部……お前が、引き金じゃねぇかよぉ……。

 ここまで、俺やみんなを巻き込んだのもぉ……。

 こんなにヘトヘトなのに、がらにもいのを承知で、愛なんぞ囁いてるのもぉ……。

 相手が、お前だからだろぉ……。

 だったら、大人おとなしく、責任、取れよぉ……。

 いつまでも、俺だけの物であってくれよぉ……。

 俺だけのヒロインに、なり続けてくれよぉ……。

 お前は、俺の横で、黙って幸せになってくれてさえいりゃ、それでんだよぉ……」

「……滅茶苦茶だよ、未希永みきと

 こんなに、時代錯誤に俺様な本性曝け出して……。

 ここまで、がらっぱちになって……。

 私の無茶振りに、付き合ってくれて……。

 私に気を遣って、この3ヶ月の話は、かたくなに伏せて……。

 グロッキーなのに、私のこと、想ってくれて……。

 ひどいんじゃないかなぁ……。

 あんまりなんじゃ、ないかなぁ……。

 こんなの……こんなのって、さぁ……。

 色んな意味で、ご褒美でしかいじゃん……。

 この、オバカレシ……」



 いよいよ、本当に限界らしい。

 意識も、視界も、定まらなくなって来た。



 薄れ行く世界で、どうにか視認、記憶出来できたのは。

 うれし涙を流しながら、俺にキスをし。

 晴れ晴れした顔で、俺に倣って、瞼を閉じ、安らかに眠りに落ちた。

 そんな、結織ゆおりの姿だった。





 昼に目覚めた時。

 先に起床し、食事の準備を進めていた結織ゆおり

 その頬と目が、やや腫れていた。



 気になって、本人を問い詰めたら。

「ぶつかった」

 とだけ教えられた。



 俺は、納得した振りをした。

 なにに、誰と「ぶつかった」のか、追求しなかった。



 気付きづけば、何故なぜか同席していた依咲いさき

 彼女の手、目元もまた、赤くなっていたことに、目を背けたまま。



 その日に、互いの清算を済ませたのだろう。

 それから依咲いさきは、結織ゆおりに対して呼び捨てとなった。

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