〈2〉捨てる神すらも拾う神
「ただいまぁ」
「あら、
おかえりなさい。
思ってたより、早かったわね。
で、結果は?」
「ふっ」
ドヤ顔してそうな声で、ツッコミ芸人ばりに、ダンボールを叩く
「ひぃっ!?」
思ってたより強い音、威力に、腰を抜かす俺。
そんなリアクションを受け、
対する
「あらあらー。
若いって、
この人、前も、そんな一言だけで納得してなかったっけ!?
糸目なのも
「あらー。
朝ご飯はー?」
「ふっ」
再び、叩く音ぉ!?
え、てか、
俺、今から食べられるの!?
唇にキスも、まだなのに!?
「
食べ過ぎないようにねー」
「ん」
「いや、止めろよ、母親ぁ!!」
「あらー。
初めましてー、
いつも、愛娘がお世話になっておりますー」
「こんな初対面、
「
ガラガラガラと揺らされるダンボール。
気分は
これ、
……えっとぉ……。
……もしかして、あれか?
今の
だから、片言みたいに喋るし。
母親さんはともかく、俺に口を挟まれるのを嫌、迷惑がってるって
「ん〜♪」
正解のご褒美らしい。
てか、今の
箱に閉じ込められてるのは、俺だけど。
※
「釈放で〜す。
お疲れ様でした〜」
「お、おう……」
晴れて自由の身となった。
た、助かった……。
まさか、ここまで束縛されるとは……。
しかも、閉じ込められたまま、着替えまで済まさせるとは……。
衣擦れの音だけ聞かされるとか、拷問
あと、箱を外すのも、俺の着せ替えも、早
しまいには、おそろのパジャマて……。
「……ん?」
あれ?
ところで、このベッド、ちょっと大きくない?
俺の部屋のよりサイズ
女子高生一人って幅じゃないよーな……。
それに、ロング・ピローもシーツも
まるで、「今日に備えて、買い替えたー」、みたいな?
……まさかね?
た、多分、あれだよね?
「いやぁ。
ごめんねぇ、
こうするのが最効率だったとはいえさぁ。
これからは、ここまではやらないから、安心してねぇ」
「是非とも、そうしてくれ……」
「あーでもぉ。
「結構ですっ!!」
「分かったぁ。
じゃあ、『決行』するねぇ」
「違うっ!!」
「だよねぇ。
あははっ」
どうして、俺の周りには、こうも
「あははぁ。
「
あと、単純に、された順にです!!」
「そっかぁ。
それなら、
私、2年になるまで
出会った順でさえ、最下位だったもんねぇ。
ずーっと、2人や
「これからは!!
次からは、直しますっ!!
「
近付き、俺の頭を撫でてくれる
どうにか、機嫌を直せたらしい。
よ、
「さて、とぉ。
「肩でも揉もうか?」
「胸じゃなくって?」
「合意も同意も
「しないの?」
「
「うん。
でも、まぁ……今は、
初めては、ベスコンで臨みたいしぃ」
「……ソーデスネ」
「あははっ♪
落ち込んじゃって、
じゃあ、お願いするね。
つまみ食いしなくちゃ、めっ。だよ?」
「どっち!?」
「しないの?」
「ぐっ……!?
「あははっ♪」
「
その後も、ちょくちゃく
マッサージが終わる頃には、悪戯No.1に駆け上がっていた。
「ん〜♪
「マッサージがな!?
あと、『憎い』って、
「両方だよ」
「ですよねぇ!!」
知ってますけどね、ええ!!
ヘイト爆買いして当然の
「でもさぁ。
それ
好意だけで一緒に
「ま、まぁ……」
「そ、れ、に。
マイナスの方が勝ってたらさ。
今、
私の部屋で、私の目の前で、私のベッドに、
「確かに……」
「でしょ?」
伸びをし、そのまま横になる
俺が、見詰め合う態勢で横になると、
そのまま、中に潜り、モゾモゾと近付き。
俺の胸に顔を当て、抱き寄せて来た。
「……
きっと、いつもの、今までの俺なら、ドギマギしていたに違いない。
でも、今回は違った。
「私さぁ……。
今度ばかりは、脈無しだと思った……。
だって、
私が自ら、かなぐり捨てたから……。
いきなり外国行って、
今日だって、帰国して
だから、居直って、
身も、心も、
……一つ残らず」
俺の裾を掴み、しがみ付き。
「今まで、
犠牲にして、ばっかだったからさ。
最後は、自分を試してみたかった。
一か八か。
吉と出るか凶と出るか。
もし、あの場に、あの時間に、君が現れなかったら。
私は、誰も知らない、
静かで生い茂った森の中。
その辺りで、幕引きしようって。
それが、
言われずとも、悟った。
「私は……誰も、傷付けたくない。
君も、
だから……2人に救済措置が
それならいっそ、自分は一線を、一戦を引こうって。
けど……そこまでして、
誰を隠そう、
この、私自身だって」
俺の肩に手を当て、
俺が、自分が生きているのを、再確認するみたいに。
「そしたらさぁ……余計、しんどくなった。
選ばれなくて当然じゃん、って。
こんなの当てるとか、無理ゲーじゃん、って。
どこまで卑怯で陰湿なの、って。
悲観に暮れながら、駅に向かってたの。
計算通り……君は、来てなんてくれなかった。
だって……私より先に、待ち伏せてたから」
俺の胸から離れた彼女は、万面の笑みを浮かべた。
「君は……
私達って、
だってさぁ……あそこまで息ピッタリだなんて、有り得ないよ。
シンクロニシティとか、阿吽の呼吸とか、そんなレベルじゃない。
贔屓目とかじゃなく、信じられなかったよ。
そりゃ、入念に準備はしてたけどさ。
色々と手は尽くしたけどさ。
君が、ゼンシンクロを乗り越えてたのも、知ってたけどさ。
まさか君に、あそこまで読まれてたなんて。
そもそも、
こんな私に、そこまで関心持ってくれる人が
「捨てる
「
でも、うん……そうだね。
見事に、回収されちゃった。
心も、体も、人生も」
俺も、
そのまま髪を撫で、伝える。
二度と離して、逃がしてなるものか、と。
「でも……
こんな、私で?」
「まだ、不安か?」
「そりゃそうだよ。
だって、
私と違って、素直だしさ」
「君だって存外、分かり易いぞ?
少なくとも、俺にとっては」
「そうかもだけど。
ひょっとしたら、今だけかもじゃん。
もしかしたら、これからは、そうでもないかもじゃん」
「付け足せば、『ニアカノ同盟』の詰め合わせ。
みたいな候補が現れるかもしれんしな」
「最早ただのクリーチャーだよ、それ。
でもさぁ……そこまではいかずとも。
君にもっと
いつまでも囚われている
その迷いを払うべく、彼女を抱き寄せた。
「そんなん、知るか。
知りたくもない。
俺は、
もし、運命の相手が
仮に、それが
だったら、それを捻じ曲げ、無視するまで。
俺は、俺の本心を、運命を、初恋を。
俺が選んだ、お前を信じる。
だから……お前も、俺を信じろ。
自信だったら、これから身に着けて行けば
今のままでも、構わない。
俺が、お前の自信になるから。
ただ、どうか俺に……後悔だけ、させないでくれ」
「でも……」
「それに。
他の要素なんて、フィクションで補えば
ほら、あれだ。
この世には、子供の前で平気で買うオクサマだって
付き合う、結婚するからって、
足りない成分は、
俺の極論を受け、目を丸くして。
「
その発想は
でも、そうだね。
私も、リアルで
っても、あんまり放置されたら、怒るけどね。
別に、レベル上がったり、ポイント入ったりもしないさ」
「だったら、とことん、俺に構ってくれ。
心行くまで、たんと、俺を甘やかしてくれ」
「……今、すっごい自信付いた。
それなら私、得意だ」
その言葉に、嘘は
いつしか彼女は、
「ところでさぁ」
「
「
私と、『結婚』したいの?」
「ぐっ!!」
危うく、唾を飛ばし掛けた。
でも
ってぇ!!
そんな場合じゃねぇ!!
消え去れ、煩悩!!
「い、いいい、言っとくけどなぁ!
「しないの?」
「しますけどぉ!?
付き合う以上は、その
そうじゃなくても、大好きだしぃ!!」
「
やっぱり、同じだ。
私も、
でも……その前に、ね」
俺の胸に指を這わせ、ボタンを軽く弄る
これ……!
かなり、扇情的なんじゃあ……!?
「でも、まぁ。
やっぱり、
「……ソーデスネ」
「そうだよ。
君は、覚悟決めてて熟睡
私は、
「てんで俺を頼ろうとしていなかった徹頭徹尾、逃げ続けてた、昨日までの君の自業自得だけどな」
「あはは。
手厳しぃ。
まぁ、これからは遠慮しないからさ。
それに、本格的に眠気ピークだし。
けど、その前に」
俺の顎に手を置き、蠱惑的に瞳をギラつかせ。
俺達の、正真正銘のファースト・キスを、奪った。
「二人には、先越されちゃったけど。
まぁ、
だったら、他の、もっと大きな初めてを頂く、独り占めするまで」
「
「前払いだよ。
ごちそうさま」
離した唇を指で撫で、舌で舐める
「おやすみ、
夢の中で、待ってるね。
来なかったら、連れ去りに行くから」
「……それはそれで、乙だな」
「おバカ」
俺の耳たぶを甘噛みし、俺の胸に頭を置いて。
俺は、何とも言い
出会ったばかりの、
彼女は、きっと今までだって何度も、眠れぬ夜を過ごしていたのではないだろうか。
……まぁ、
俺達を優先するばっかりに、嘘と秘密で雁字搦めになって。
自分の弱さと
どれが本心なのか、
多重人格者になって。
そうやって。
ずっと、苦しみ続けて来たのだろう。
「……」
無意識に、涙が零れた。
いや……多分、少し違う。
彼女の
ただ、それだけで、こんなにも溢れて来る。
それは、『
そういう、俺から生まれた気持ちではなくて。
別に、『同情』などと言い張りたいんじゃない。
そんなのは、単なる傲慢だ。
意識せずとも、勝手にイメージしてしまうんだ。
頭と心に、声と映像が、独りでに届いてしまうんだ。
冬休み中、『ニアカノ同盟』で2次創作をしていた時と、同じ
それ
それ
そう、俺は解釈した。
決して起こさぬ
俺も、彼女を追って、夢の中へと旅立った。
願わくば彼女と、そこでも会えます
もう二度と彼女が、孤独に、孤独で苦しみません
ワンチャン、
今度こそ、三人で、ちゃんと話せたら
※
数時間後。
俺と
そして、昇降口で3人と合流した。
事前に軽く状況確認は済ませといたにも
こちらと視線が合うや
ずっと息巻いていた手前、一瞬、ヒヤッとしたが。
そのまま、隈だらけの
そんな
きっと、「
2人に、当てられたのだろう。
気付けば
それ以上の言葉は、無粋だったのかもしれない。
労いも、謝罪も、感謝も、称賛も
3人は、ただただ涙した。
少し離れた所から傍観していると。
不意に、
こいつにしては
俺も瞬時に察し、拳を突き合わせた。
どうやら俺達の間でも、他に言葉は
それから、少しして。
送辞を
式の後。
ネクタイを俺、ボタンを
そしてネームを、
てっきり
未だに下の名前が与えられていない分、殊更、響いたのだろうか。
余談だが。
本人に問い詰めたら、「
それを見て、得も言えぬ
まるで、「縛るなり巻くなり好きにしてくれ」とでも言いた
そうなる
それから4人で、卒業アルバムの余白に寄せ書きをした。
思いの丈を存分に書き殴った結果、余白ではなくなってしまった。
クラスメートの分は、こんな
家に帰ろうとした矢先、
で、その『やる
つまりは、そういう事であって……。
悶々としている
頬を掻いたり、モジモジした
深呼吸し、覚悟を決め、
俺も、それに従った。
そして、それから再び、睡眠不足の
起きて早々に、(
互いに入浴を完了させ、髪を乾かし、部屋も暖め、他には誰も
そうこうしてる内に、今日が終わり。
そして、今。
コンディションも万全を期した上で。
バスタオル一枚の
当然、距離は保ったまま。
これまで、肩透かしの連続だったけど。
本当に、本当に、掛け違ってばっかだったけど。
今夜ばかりは、そうはならないし、ならせない。
今から、俺達は。
正真正銘の、男女になる。
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