〈2〉捨てる神すらも拾う神

「ただいまぁ」

「あら、結織ゆおり

 おかえりなさい。

 思ってたより、早かったわね。

 で、結果は?」

「ふっ」



 ドヤ顔してそうな声で、ツッコミ芸人ばりに、ダンボールを叩く結織ゆおり



「ひぃっ!?」



 思ってたより強い音、威力に、腰を抜かす俺。

 そんなリアクションを受け、結織ゆおりは得意気にVサイン。

 対する結織ゆおりのお母さんは、頬を抑え、満足気だった。



「あらあらー。

 若いって、いわねー」



 この人、前も、そんな一言だけで納得してなかったっけ!?

 なんか色々、不安になるんですけどぉ!?

 糸目なのもって、余計に!



「あらー。

 朝ご飯はー?」

「ふっ」



 再び、叩く音ぉ!?



 え、てか、なに!?

 俺、今から食べられるの!?

 唇にキスも、まだなのに!?



素的すてきねー。

 食べ過ぎないようにねー」

「ん」

「いや、止めろよ、母親ぁ!!」

「あらー。

 随分ずいぶん、元気ねー。

 初めましてー、未希永みきとくーん。

 結織ゆおりの母ですー。

 いつも、愛娘がお世話になっておりますー」

「こんな初対面、いやだぁ!?

 下手ヘタすれば、最初よりひでぇ!!」

うるさい」



 ガラガラガラと揺らされるダンボール。

 気分はさながら、滑車でミスったハムスターである。

 これ、御籤おみくじじゃないんですけどぉ!?



 ……えっとぉ……。

 ……もしかして、あれか?

 今の結織ゆおり、かなり急いてる感じ?

 だから、片言みたいに喋るし。

 母親さんはともかく、俺に口を挟まれるのを嫌、迷惑がってるってこと



「ん〜♪」



 結織ゆおりが、ダンボールに頬をスリスリして来た。

 正解のご褒美らしい。



 何故なぜ読み取れたのかは……聞かぬが花だな、これは。



 てか、今の結織ゆおり、禰豆◯みたいだったな。

 箱に閉じ込められてるのは、俺だけど。



 えず、しばらく、大人おとなしくしておこう。





「釈放で〜す。

 お疲れ様でした〜」

「お、おう……」



 結織ゆおりの部屋にて、ベッドの上で降ろされ、許可が降り。

 晴れて自由の身となった。

 


 た、助かった……。

 まさか、ここまで束縛されるとは……。

 しかも、閉じ込められたまま、着替えまで済まさせるとは……。

 衣擦れの音だけ聞かされるとか、拷問ぎる……。

 あと、箱を外すのも、俺の着せ替えも、早ぎる……。

 しまいには、おそろのパジャマて……。



「……ん?」


  

 あれ?

 ところで、このベッド、ちょっと大きくない?

 俺の部屋のよりサイズるよーな……。

 結織ゆおりがお嬢様なのは、知ってるけど……。

 女子高生一人って幅じゃないよーな……。

 それに、ロング・ピローもシーツも布団ふとんも、真新しいよーな……。

 まるで、「今日に備えて、買い替えたー」、みたいな?


  

 ……まさかね?

 た、多分、あれだよね?

 友花里ゆかりとの添い寝用、とかだよね?

 


「いやぁ。

 ごめんねぇ、未希永みきと

 こうするのが最効率だったとはいえさぁ。

 流石さすがに私でも、ちょっと引いちゃったよー。

 これからは、ここまではやらないから、安心してねぇ」

「是非とも、そうしてくれ……」

「あーでもぉ。

 未希永みきとが楽しかったなら、もう少しくらい

「結構ですっ!!」

「分かったぁ。

 じゃあ、『決行』するねぇ」

「違うっ!!」

「だよねぇ。

 あははっ」



 まったく。

 どうして、俺の周りには、こうも悪戯いたずらな人間が多いのか。

 恵夢めぐむといい、依咲いさきといい、結織ゆおりといい。



「あははぁ。

 なんで私、最後尾だったのかなぁ?」

むしろ、なんで読み取れたのかなぁ!?

 あと、単純に、された順にです!!」

「そっかぁ。

 それなら、仕方しかたいよねぇ。

 私、2年になるまで未希永みきとと全然、絡まなかったもんねぇ。

 出会った順でさえ、最下位だったもんねぇ。

 ずーっと、2人や七忍ななしのくんに、うつつを抜かすのに忙しかったもんねぇ」

「これからは!!

 次からは、直しますっ!!

 結織ゆおりを、最前列、最優先にしますっ!!」

よろしい♪

 出来できましたぁ♪」



 近付き、俺の頭を撫でてくれる結織ゆおり



 どうにか、機嫌を直せたらしい。

 よ、かったぁ……。



「さて、とぉ。

 なんか、疲れちゃったなぁ」

「肩でも揉もうか?」

「胸じゃなくって?」

「合意も同意もしに、しませんっ!」

「しないの?」

いのぉっ!?」

「うん。

 でも、まぁ……今は、めとこっかなぁ。

 いくなんでも、眠たいし。

 初めては、ベスコンで臨みたいしぃ」

「……ソーデスネ」

「あははっ♪

 落ち込んじゃって、可愛かわい〜♪

 じゃあ、お願いするね。

 つまみ食いしなくちゃ、めっ。だよ?」

「どっち!?」

「しないの?」

「ぐっ……!?

 結織ゆおり〜……」

「あははっ♪」

結織ゆおりぃぃぃぃぃっ!!」



 その後も、ちょくちゃく結織ゆおりに弄ばれ。

 マッサージが終わる頃には、悪戯No.1に駆け上がっていた。



「ん〜♪

 い感じぃ♪

 未希永みきと、憎いねぇ、テクいねぇ♪」

「マッサージがな!?

 あと、『憎い』って、い意味でだよな!?」

「両方だよ」

「ですよねぇ!!」



 知ってますけどね、ええ!!

 ヘイト爆買いして当然のこと、重ねて来ましたけどね!!


 

「でもさぁ。

 それくらいの方が、くないかなぁ?

 好意だけで一緒にる方が、不自然だし、不健全だし、不健康だよ」

「ま、まぁ……」

「そ、れ、に。

 マイナスの方が勝ってたらさ。

 今、未希永みきとが、ここに。

 私の部屋で、私の目の前で、私のベッドに、わけいよ」

「確かに……」

「でしょ?」



 伸びをし、そのまま横になる結織ゆおり

 俺が、見詰め合う態勢で横になると、布団ふとんを被せてくれた。



 そのまま、中に潜り、モゾモゾと近付き。

 俺の胸に顔を当て、抱き寄せて来た。



「……結織ゆおり?」



 きっと、いつもの、今までの俺なら、ドギマギしていたに違いない。



 でも、今回は違った。

 結織ゆおりの体が、震えていた。



「私さぁ……。

 今度ばかりは、脈無しだと思った……。

 だって、みんなとの縁は、チャンスは。

 私が自ら、かなぐり捨てたから……。

 いきなり外国行って、友花里ゆかりも消して。

 今日だって、帰国してさきに、また逃げようとして。

 だから、居直って、すべて捨てようとした。

 身も、心も、すべて。

 ……一つ残らず」



 俺の裾を掴み、しがみ付き。

 結織ゆおりは、自白する。



「今まで、みんなを試してばっかだったからさ。

 犠牲にして、ばっかだったからさ。

 最後は、自分を試してみたかった。

 一か八か。

 吉と出るか凶と出るか。

 もし、あの場に、あの時間に、君が現れなかったら。

 私は、誰も知らない、気付きづかない場所で。

 静かで生い茂った森の中。

 あるいは、暗い海の中。

 その辺りで、幕引きしようって。

 それが、友花里ゆかりを死なせた、私の責任だって」



 言われずとも、悟った。

 結織ゆおりは、本気だったのだろうと。



「私は……誰も、傷付けたくない。

 君も、恵夢めぐむ先輩も、依咲いさきちゃんも。

 だから……2人に救済措置がいのが、いやだった。

 それならいっそ、自分は一線を、一戦を引こうって。

 けど……そこまでして、気付きづいた。

 本当ほんとうに傷付けたくなかったのは。

 一番いちばん可愛かわいかったのは。

 誰を隠そう、母神家もがみや 結織ゆおり

 この、私自身だって」



 俺の肩に手を当て、結織ゆおりは続ける。

 俺が、自分が生きているのを、再確認するみたいに。



「そしたらさぁ……余計、しんどくなった。

 選ばれなくて当然じゃん、って。

 こんなの当てるとか、無理ゲーじゃん、って。

 どこまで卑怯で陰湿なの、って。

 悲観に暮れながら、駅に向かってたの。

 計算通り……君は、来てなんてくれなかった。

 だって……私より先に、待ち伏せてたから」



 結織ゆおりの震えが、穏やかになって行く。

 俺の胸から離れた彼女は、万面の笑みを浮かべた。



「君は……本当ほんとうに、すごい。

 私達って、本当ほんとうすごい。

 だってさぁ……あそこまで息ピッタリだなんて、有り得ないよ。

 シンクロニシティとか、阿吽の呼吸とか、そんなレベルじゃない。 

 贔屓目とかじゃなく、信じられなかったよ。

 そりゃ、入念に準備はしてたけどさ。

 色々と手は尽くしたけどさ。

 君が、ゼンシンクロを乗り越えてたのも、知ってたけどさ。

 まさか君に、あそこまで読まれてたなんて。

 そもそも、下手ヘタすれば死ぬかもしれない、他者のゼンシンクロを耐え抜くなんて。

 こんな私に、そこまで関心持ってくれる人がそばに、現実にるなんて」

「捨てる母神家もがみやれば、拾う新甲斐あらがいりだ」

なにそれ……。

 でも、うん……そうだね。

 見事に、回収されちゃった。

 心も、体も、人生も」



 俺も、結織ゆおりを抱き締めた。

 そのまま髪を撫で、伝える。

 二度と離して、逃がしてなるものか、と。



「でも……本当ほんとうに、いの?

 こんな、私で?」

「まだ、不安か?」

「そりゃそうだよ。

 だって、恵夢めぐむ先輩も依咲いさきちゃんも、とってもい子だし。

 私と違って、素直だしさ」

「君だって存外、分かり易いぞ?

 少なくとも、俺にとっては」

「そうかもだけど。

 ひょっとしたら、今だけかもじゃん。

 もしかしたら、これからは、そうでもないかもじゃん」

「付け足せば、『ニアカノ同盟』の詰め合わせ。

 みたいな候補が現れるかもしれんしな」

「最早ただのクリーチャーだよ、それ。

 でもさぁ……そこまではいかずとも。

 君にもっと相応ふさわしい相手が、きゃっ」



 いつまでも囚われている結織ゆおり

 その迷いを払うべく、彼女を抱き寄せた。



「そんなん、知るか。

 知りたくもない。

 俺は、結織ゆおりが、結織ゆおりだけがい。

 もし、運命の相手がて。

 仮に、それが結織ゆおりではなかったとしても。

 だったら、それを捻じ曲げ、無視するまで。

 俺は、俺の本心を、運命を、初恋を。

 俺が選んだ、お前を信じる。

 だから……お前も、俺を信じろ。

 自信だったら、これから身に着けて行けばい。

 今のままでも、構わない。

 俺が、お前の自信になるから。

 ただ、どうか俺に……後悔だけ、させないでくれ」

「でも……」

「それに。

 他の要素なんて、フィクションで補えばい。

 ほら、あれだ。

 この世には、子供の前で平気で買うオクサマだってるんだ。

 付き合う、結婚するからって、すべて曲げなくても、負けなくてもいんだ。

 足りない成分は、如何様いかようにでも賄える」



 俺の極論を受け、目を丸くして。

 結織ゆおりが、吹き出した。

 


本当ホント……随分ずいぶん、素直になったよね、未希永みきと

 その発想はかったや。

 でも、そうだね。

 私も、リアルで一番いちばんにさえなれれば、満足。

 っても、あんまり放置されたら、怒るけどね。

 別に、レベル上がったり、ポイント入ったりもしないさ」

「だったら、とことん、俺に構ってくれ。

 心行くまで、たんと、俺を甘やかしてくれ」

「……今、すっごい自信付いた。

 それなら私、得意だ」



 その言葉に、嘘はいらしい。

 いつしか彼女は、うれし涙を流していた。



「ところでさぁ」

なんだ?」

未希永みきとはさぁ。

 私と、『結婚』したいの?」

「ぐっ!!」



 危うく、唾を飛ばし掛けた。

 でも結織ゆおりなら、もし仮に顔や髪に唾液が付着しても、「これはこれで」とか、満更でもなく舐め取ってくれそうなにそれ超エロ(以下略)



 ってぇ!!

 そんな場合じゃねぇ!!

 消え去れ、煩悩!!



「い、いいい、言っとくけどなぁ!

 さっきのは、あくまでもものの例え、言葉の綾でだなぁ!!」

「しないの?」

「しますけどぉ!?

 付き合う以上は、そのもりで接しますけどぉ!?

 そうじゃなくても、大好きだしぃ!!」

かったぁ……。

 やっぱり、同じだ。

 私も、未希永みきとと結婚したい。

 でも……その前に、ね」



 俺の胸に指を這わせ、ボタンを軽く弄る結織ゆおり



 これ……!

 かなり、扇情的なんじゃあ……!?



「でも、まぁ。

 ずは、寝よっか。

 やっぱり、恵夢めぐむ先輩の卒業式にも出席したいし」

「……ソーデスネ」

「そうだよ。

 君は、覚悟決めてて熟睡出来できたんだろうけどさぁ。

 私は、ほとんど眠れなかったし」

「てんで俺を頼ろうとしていなかった徹頭徹尾、逃げ続けてた、昨日までの君の自業自得だけどな」

「あはは。

 手厳しぃ。

 まぁ、これからは遠慮しないからさ。

 それに、本格的に眠気ピークだし。

 けど、その前に」



 俺の顎に手を置き、蠱惑的に瞳をギラつかせ。

 結織ゆおりは、俺の唇を。

 俺達の、正真正銘のファースト・キスを、奪った。



「二人には、先越されちゃったけど。

 なんなら、友花里ゆかりにすら奪われちゃったみたいだけど。

 まぁ、いや。

 だったら、他の、もっと大きな初めてを頂く、独り占めするまで」

結織ゆおり……。

 なに、を……?」

「前払いだよ。

 ごちそうさま」



 離した唇を指で撫で、舌で舐める結織ゆおり



「おやすみ、未希永みきと

 夢の中で、待ってるね。

 来なかったら、連れ去りに行くから」

「……それはそれで、乙だな」

「おバカ」



 俺の耳たぶを甘噛みし、俺の胸に頭を置いて。

 ようやく、結織ゆおりは眠った。

 俺は、何とも言いようい心持ちになった。


 

 出会ったばかりの、依咲いさきと同じだ。

 彼女は、きっと今までだって何度も、眠れぬ夜を過ごしていたのではないだろうか。



 ……まぁ、友花里ゆかりと会ってからは、その心配はい。

 むしろ、ハッスルし過ぎで、眠れてこそいれども、夢の中ですら疲れてそうだが。



 俺達を優先するばっかりに、嘘と秘密で雁字搦めになって。

 自分の弱さとずるさの、板挟みに遭って。

 どれが本心なのか、一番いちばんなのか、分からなくって。

 多重人格者になって。

 


 そうやって。

 ずっと、苦しみ続けて来たのだろう。



「……」



 無意識に、涙が零れた。

 ついに、今度こそ、結織《ゆおりと付き合えたから?



 いや……多分、少し違う。

 彼女のことを思う。

 ただ、それだけで、こんなにも溢れて来る。

 


 それは、『うれしい』とか、『満足』とか。

 そういう、俺から生まれた気持ちではなくて。

 結織ゆおりに感情移入した、証。

 


 別に、『同情』などと言い張りたいんじゃない。

 そんなのは、単なる傲慢だ。

 意識せずとも、勝手にイメージしてしまうんだ。

 頭と心に、声と映像が、独りでに届いてしまうんだ。

 冬休み中、『ニアカノ同盟』で2次創作をしていた時と、同じように。

 


 それくらい結織ゆおりが大切なんだ。

 それほどまでに彼女は、俺の中で重要な存在として位置付けられているんだ。

 そう、俺は解釈した。



 決して起こさぬよう、そっと包み込み。

 俺も、彼女を追って、夢の中へと旅立った。



 願わくば彼女と、そこでも会えますように。

 もう二度と彼女が、孤独に、孤独で苦しみませんように。



 ワンチャン、友花里ゆかりとも、会えたらいな。

 今度こそ、三人で、ちゃんと話せたらいな。





 数時間後。

 俺と結織ゆおりは、卒業式に間に合った。

 そして、昇降口で3人と合流した。



 事前に軽く状況確認は済ませといたにもかかわらず。

 こちらと視線が合うやいなや、依咲いさきは突っ込んで来た。


 

 ずっと息巻いていた手前、一瞬、ヒヤッとしたが。

 依咲いさきは、暴行沙汰を起こす色なぞ見せず。

 そのまま、隈だらけの結織ゆおりの胸に飛び込み、めずらしく素直に、わんわん泣いた。



 そんな結織ゆおりの頭を、恵夢めぐむが小突き、そっと撫で。

 依咲いさきごと、包み込んだ。

 きっと、「ん殴る」と言っていた依咲いさきの代役を、買って出てくれたのだ。



 2人に、当てられたのだろう。

 気付けば結織ゆおりも、声を荒げて泣いていた。



 それ以上の言葉は、無粋だったのかもしれない。

 労いも、謝罪も、感謝も、称賛もく。

 3人は、ただただ涙した。



 少し離れた所から傍観していると。

 不意に、七忍ななしのが拳を伸ばして来た。

 こいつにしてはめずらしく、サイレントな表現だった。



 俺も瞬時に察し、拳を突き合わせた。

 どうやら俺達の間でも、他に言葉はらなかったらしい。

 


 それから、少しして。

 送辞を結織ゆおり、答辞を恵夢めぐむが、粛々と行った。


 

 式の後。

 ネクタイを俺、ボタンを結織ゆおり依咲いさきが。

 そしてネームを、七忍ななしのもらった。

 てっきりなにいと思っていたらしく、やつは大層、舞い上がっていた。

 未だに下の名前が与えられていない分、殊更、響いたのだろうか。

 

 

 余談だが。

 くだんのネクタイは、いつの間にか結織ゆおりにスラれて、あまつさえ堂々と、ヒラヒラと見せびらかされた。

 本人に問い詰めたら、「未希永みきとは私の所有物だから、未希永みきとの物は私の物だよね?」と返された。



 それを見て、得も言えぬ様子ようすで、先輩は苦笑いした。

 まるで、「縛るなり巻くなり好きにしてくれ」とでも言いたに。

 そうなることを予知、切望していたかのように。



 それから4人で、卒業アルバムの余白に寄せ書きをした。

 思いの丈を存分に書き殴った結果、余白ではなくなってしまった。

 クラスメートの分は、こんなことろうかと用意していた色紙に書いてもらった。



 家に帰ろうとした矢先、依咲いさきに追い出された。

 なんでも、「ママ上とパパ上と外食なのだが、にいの分だけ予約を忘れていた」らしい。



 ようは、まぁ、「やること済ませるまで帰って来んな」ということなんだが。

 で、その『やること』ってのは、まぁ……。

 つまりは、であって……。



 悶々としているうちに、恵夢めぐむ依咲いさき七忍ななしのは姿を眩ませていた。

 頬を掻いたり、モジモジしたあと

 深呼吸し、覚悟を決め、結織ゆおりは俺の手を引き始めた。

 俺も、それに従った。



 そして、それから再び、睡眠不足の結織ゆおりに添い寝し。

 起きて早々に、(何故なぜか家を外していたご両親の用意してくれた)遅めの晩御飯を平らげ。

 互いに入浴を完了させ、髪を乾かし、部屋も暖め、他には誰もないまま。

 そうこうしてる内に、今日が終わり。



 そして、今。

 コンディションも万全を期した上で。

 バスタオル一枚の結織ゆおりが、俺の横に腰掛けている。

 無論むろん、ベッドの上で。

 当然、距離は保ったまま。



 これまで、肩透かしの連続だったけど。

 本当に、本当に、掛け違ってばっかだったけど。

 今夜ばかりは、そうはならないし、ならせない。



 今から、俺達は。

 正真正銘の、男女になる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る