〈3〉ノロい呪い、いつかは祝い
「謝ります。
謝る気が
その中で待っていた
のっけから、俺を押し倒して来た。
蒸気した頬。
潤んだ眼差し。
戦車級の戦力を誇る上半身。
極めつけに。
これまで二人で取って来た数々の写真のポップ。
仕込んでるとは思っていた。
じゃなきゃ指定してまで、こんな所に招く
「……
理由なんて、役職なんて、形なんて、どうでも
サキは、カイ
サキは、メグ先輩みたいに、都合
サキは、あの女みたいに、
サキは、相手が誰だろうと、遠慮も油断もしません。
サキは……。
サキ、はぁっ……!!」
「
……俺は……。
……俺は、ゆ」
自分の唇を、
「サキは、あなたを、愛してます。
サキは、あなたを、愛し続けてみせます。
サキは、あなたからも、未来からも、現実からも、決して逃げません。
なのに……
サキの、
言ってくれれば、サキは直します。
世界だって、変えてみせます。
それでも……不足ですか?」
伝わった。
本気で俺を、陥落しようとしているのだと。
「……ははっ」
無意識に、俺は笑っていた。
ここで憤怒しない辺り、本当に
なんて言ったら、「また子供扱いして」って拗ねられるだろうから、伏せとくけど。
「……昔みたいだな。
君と出会ったばかりの頃みたいだ」
「……
まさか、本当に忘れているとは。
もしやとは思っていたけども。
「俺達さ。
会ってるんだよ。
まだ
「……でしたっけ?」
「そうだよ。
んで、ひっでー言葉で誘われて、こっ酷くフラれたの。
そしたら数分後、バイト探し中に再会して、今度は
家に案内されて、一緒に働く
んで今、
改めて考えてみるとハイ・ペース、意味不明
「ま、まぁ……。
分からなくはないです、けど……」
「それでいて、こう、じゃれ合ってるだけってーか。
色めきだった感じには
「ぐっ……。
それも、まぁ……。
悔しいけど、分かります……」
「だろ?
多分、それが原因だよ。
きっと、『
俺が、『あいつじゃなきゃ
きっと、向こうも」
跨がっている
「
あれから
それでも、
俺が
「愚問です。
カイ
「そっか。
ありがとな。
……俺もさ。
正直、
けど、悲しいかな。
それは、別に『恋人』である必要までは
今の、付かず離れずのポジションでも、特に問題は
妹と兄、先輩と後輩、ソフレと抱き枕、バイトと部活の仲間。
それでも、
けど……あいつは、違うんだよ。
俺が、『恋人』として、『ペット』として
あいつは、きっと、消えちまう。
俺の前からも。
最悪、この世界からも。
それ
欲も、闇も、業も、奥も、味わいも、執念も、用心も」
「だから、サキを、捨てるんですか……?
今のままでも、平気だから……?」
「『捨てる』なんて言うなよ。
大体、そんな
お前が
「だったら、あの女にでも住み込んで
「斜めんなって。
前にも、本人の眼前で言ったろ?
俺は、
「あの女のお手製ではなく。
サキの手料理こそが、カイ
「いんや。
それどころか、『
その点に関しては、
トータルはさておきな」
「サキの方が、バーストですけどね」
「そこはまぁ……センシティブだから、ノー・コメントで」
「勝った。
無様ですねぇ、あのモンペなサバ読み新妻気取りコスプレJK」
「止めとけって」
「あんな束縛しいの、どこが
シンケ◯の最終回ばりに『縛』って来るじゃないですか。
名前に2本も『糸』を冠しているだけありますね」
「それに合わせて、『友』を外して『結ぶ』にしたらしいからな。
てか、あんま言ってやんなよ?
どこで聞かれてるか、分かったもんじゃないからな?」
「別に、
あの女に、カイ
それだけで、もう
「……
俺から降り、
最初にラジオに挑戦した日に撮った、笑顔の写真に、手を伸ばす。
「……感謝しなさいませ。
サキは、あなたの生き甲斐で、
あなたが生き甲斐で。
サキは、
「……あ……」
それは、いつぞや、俺が彼女に捧げた言葉。
あの時の誓いを、
「ねぇ、カイ
サキは……あなたの『
恋人には、理想には、心には入り込めずとも。
最愛にまでは、届かずとも。
手や声が届く所には、位置付けられましたか?
助手席は無理でも、後部座席。
それが無理なら、トランクやボンネット、
あなたの近くに、これからも居座っても。
永住しても、構いませんか?」
「お前……。
まさか、それで……」
「……カイ
サキだって、ノリばっかで生きてる
ちゃんと考えた上で、言ったんですよ。
だって……他に、思い付かなかったんですよ。
これでも必死こいて、枯渇しそうになりながら、引き出し
なのに、カイ
「わ、悪かった……。
それに関しては、素直に謝るよ……。
……チクりやがったな、あんにゃろめ。
……いや、言ってたな。
すまん、
「遅いですよ。
でも、まぁ……特別に、許してあげます。
カイ
誇りに思いなさいませ」
「わ、分かったよ……。
あと、これからも、
「畏まりです」
右手で、俺の手を握りつつ。
それに呼応し、タオット・カードが3枚、引き寄せられ。
俺の前で、オープンされた。
「主語しか言えなくなる呪い」
「『゛』が言えなくなる呪い」
「『゜』が言えなくなる呪い」
……これはまた、よー分からん展開だ。
てか、効果、微妙じゃね?
「ちっ、ちっ、ちっ。
甘いですね、カイ
このトリガー、トラップは、合わさると強力ですよ」
「『トラップ』ってんじゃねーか。
てか、どこがだよ?
「
「家庭崩壊並みの即死ダメージじゃねーか!!
なんつー恐ろしい
こんな時に、こんな
なまじ、お前の予言は的中するんだから、マシマシでおっかねぇよ!!
「安心してください。
このトラップが発動するトリガーは、『カイ
つまり、これは、単なるサキの気休め。
いつになるかは
いつかは、『祝い』に進化するかもしれない。
そんな……ただの、『ノロい呪い』です」
「……
器用なのか、不器用なのか。
計算なのか、無計画なのか。
本気なのか、意地悪なのか。
相変わらず、読み取れない
こっちは、振り回される一方で。
本当に、どこまでも、一方通行で。
でも。
それでいて、飛び切りにエモい。
俺の自慢の、後輩にして、妹にして、ソフレ。
「サキは、信じてますから。
サキを手放してまで掴んだ恋を。
彼女募集厨のカイ
「……ああ。
その通りだ」
俺は、改めて誓う。
「確約するよ。
俺は、
自分の恋路も、
全部、全部、
それで、許してくれるか?」
「……分かったです。
但し、隙
こちとら一生、ソフレでは居続けてやる所存です。
だから……観念、堪忍して、邁進しなさいませ」
「……ありがとな、
頭を撫でると、
今回だけと、固く決意し。
俺は、
そうする
それが、
「ところで。
どっちも、『兄』って入ってるですます。
もしや、初めから計算づくで」
「安心しろ。
この作者は、そこまで計画的じゃない」
かくして、仲間は揃った。
ここから、始めよう。
俺達『ニアカノ同盟』の、最後かもしれない部活動を。
彼女を、俺の恋人にする
ーーなーんて。
そう温くは、いかんよな。
やっぱり、はっきり決意表明しとかんと。
「……
「
腕枕をしつつ、頭を撫でられ。
丸めた体を傾け、俺を見詰め。
そんな、どっからどう見ても事後な態勢で。
俺は今更、最低な発言をする。
「……俺は、
だから……お前とは、付き合えない」
例えるならば、天から地獄。
新築の家の床が、入居して数時間で底抜ける
それ
けど。
必要な、過程だ。
「
……
恨み深き悪魔の、
弾頭だって、分かり切ってるのにっ!!
再び、俺にのしかかり、首を掴みに掛かる
彼女が、緩い敬語と、『サキ』という一人称を捨てる所に、初めて立ち会った。
ちょっと、残念だな。
割と、好きだったんだけどな。
もしかしたら、もう聞けなくなるかもしれないな。
「そんなの……そんなの、決まってんだろっ!!
お前を、『今だけ』の女になんか、したかねぇからだよっ!!」
ほら、みた事か。
俺まで、釣られちまったじゃねぇかよ。
あーあ。
よく今まで回ってたよ、この同盟。
っても、内部崩壊スレスレの場面、散見されるけどな。
「そんなの、
私には、関係
「いーや、
さもなきゃ、俺がモヤモヤすんだよっ、お・ま・え・の
そんな状態で、本戦になんか臨めっかよっ!!
相手、誰だと思ってんだよっ!!
次から次へと手の内、胸の内を見透かしやがる、策士だぞ!?
穏便に済ませてると思いきや、急に吹き
速攻で看破されて、終わりだろうがっ!!」
「じゃあ、
そんなの……そんなのって、
「じゃあ、お前は、このままで
フラれたのかフッたのかも分からないまま!!
恋心なのか射幸心なのか、尊敬なのか友情なのか、本気なのか家族愛なのか不明なまま!!
水面下がドス黒いまま、
そっちのが
そんな、
ただでさえ、『義妹』じゃなく『偽妹』なんて騙りやがってる
いつ切っても、切られても
それだけに飽き足らず、この期に及んで
「……関係
どうでも
どうしようが振る舞おうが、私の勝手でしょぉ!?」
「ああ、そうだとも!!
全部、お前の勝手だよ、好きにしろよっ!!
今この場でお前をディスるのも、俺の勝手だがなぁ!!」
「……自分だって、ファジーにした
どうせ、
やっぱ、そこを引き合いに出して来たか。
まぁ、そうなると思ってたよ。
お前と
お前が
今のお前なら、このタイミングなら、俺の性格なら。
こうなるのは、分かり切ってたよ。
現時点で最新の、まだ消えていない痛み、弱みを突いて来るってな。
「ああ、そうだよっ!!
あれこれ言い訳並べ立てて手を
その
あまつさえ、全部ポシャった時の
っても、おじゃんにする
「なっ……!?」
ここまでは、計算外だったに違いない。
「俺は、そこまでの男なんだよっ!!
そこまでされなきゃ、
お前の
その方が、丸く収まるに決まってるからな!!
でも、今度ばかりは、そうはいかないっ!!
俺は、
全力で、本音で、ぶち当たるってなぁ!!
大体、もう懲り懲り、うんざりなんだよ、そういう
この一年、お前
「そんなの……そんなの、上手くいきっこない!!
遅かれ早かれ、瓦解するに決まってんじゃん!!」
「しなかっただろ!?
今までもっ!!
お前が、
密接にバトる
「それは、まだ本格化してなかったからっ!!
恋人になるまでの、猶予が
「んなもん、
俺は、お前を求め続けるっ!!
お前も、俺を
どう
「じゃあ、
だったら、変えなくて良かったじゃん!!
有耶無耶のまま、ハッキリさせなくて
現状維持のままで、問題
「どこが『問題
言ってみろよ、この分からず屋っ!!
どう考えても、問題しか
お前はなぁ、
そんな、雑に、軽く、適当に、穏便に、不憫に、緩く纏めてポイして
お前が、どんだけ俺に執着してるのかなんて知らねぇよ、けどなぁ!!
それと同じ、
俺だって、お前を必要としてんだよっ!!
そこまでドデカイ存在になってる、お前をっ!!
こんな、
RTA感覚でファストに終わらせるなんざ、真っ平御免なんだよっ!!
「〜っ!!
涙を流しながら、手を振りかぶる
そのまま叫び、
ペチッと。
「……
「怖ぇに決まってんだろ。
マジ、ガクブルだっての。
でも、覚えとけ。
男にはなぁ、
一生に何度か、
俺にとっては、『今』が該当してた。
ただ、それだけだ。
そんな大事な場面で、目なんか瞑れるかよ。
お前のが
「……バッカみたい。
超絶古過ぎ。
いつまでも固定観念に囚われてて、あー恥ずかしいったらありゃしない」
「嫌いじゃねんだろ?」
「
もう一発、
「……気が変わった。
あんたなんか、嫌いだ。
大っっっっっ嫌いだ。
こんな時だけ、子供扱いサボりやがって。
一人前の女扱いしやがって。
だから、呪ってやる。
今度こそ、本当に、呪ってやる。
呪って、呪って、呪い尽くして。
間接的に、破局、不幸にさせようとして。
お札も、藁人形も、釘も、タオット・カードも無駄にし
束縛なんざ凌駕する、無効化する
その果てに万が一、
そんな千載一遇のチャンスが、不運にも巡って来たら。
そしたら……その時だけは渋々、特別に。
あんた達を、『祝』ってやる」
「……
「……スマホ」
「え」
「スマホ、貸して。
言われた通り、ポケットから出し、スマホを渡す。
従ったのに、
え、
「こんな簡単に、自分のスマホ手渡すな。
無警戒にも
「
必要無いだろ? 今更。
一緒に住んでるんだし」
「そうじゃない。
……もう
と思いきや、耳に当て。
『もしもし?
どうかした?
「ゆっ……!?」
まさかの参戦者に、驚きを隠せない。
そんな俺の口を手で覆い、余っていた手で「しーっ……」とする
あ、あれ?
こんな
けど、あの時とは、構図が逆なよーな……?
「残念だけど。
あんたのお宝、私が頂いたから。
あんたみたいな卑怯者、盗人。
まだ、認めてなんかないから。
この、割れ厨女、
『え?
い、
どういう
「あっ……。
だ、
強引に、私を食べなくても……」
『ちょっ……!?
ちょっと、
私の
「残念だったなぁ!!
お前の
私だけの物に、なっちゃったよぉ!!」
『こんんんんんのっ……!!
……
そのまま、電源を落とし。
俺には返さず、自分のポケットに封印する
「ふーっ。
スッキリしたぁ」
腫れ物が落ちた
あー、うん、ですよね、やっぱりね。
二人の仲が完全に
あれだけじゃ、アフター・ケア足りなかったかぁ。
「分かった。
認めるよ、あんたの
あいつと結ばれようが、フラれようが、関係
一生、あんたに付き纏ってやる。
あんたの心に、家に、脳内に、隣に、過去に、永住してやる。
意地でも、スタンバってやる。
その証として」
ツンツンと、
そういう
「バーカ。
そっちから、するの。
私の唇に、キスを」
「な、
「最後
それ
「……そんなもん?」
「そんなもん。
どーせ
あの野獣女にだって、先制されるに決まってる。
こんなチャンス、二度と
「
「ヘタレだから。
事実だから」
ケロッとした調子で返し、俺とセットで後ろに倒れ。
「これは、私達だけの秘め
二人だけの、内緒の記憶」
「……
「
もう、そんなに我儘、言わないから……。
だから、今だけ。
私にだけ、余さず、
ねぇ……
満面、朱を注ぎ、懇願する
俺は、言われた通りにした。
これもまた、彼女に言われた通りだろう。
一世一代、最初で最後の、こっちからのキスを。
「……
抱き締めながら、俺も懇願する。
「お前は、ズルパワフルなんだろ?
ダメカワこそが、
だったら、遠慮すんな。
折れんな、倒れんな。
無駄撃ちになんかならんから、どんどん我儘、言えよ。
絶やさずに
俺も、なるべくは応えるから。
公序良俗に則った範囲内でな」
「……知らないよ?
こちとら、『未希永の女』。
合わせて、『妹』だよ?
ソフレだって、キス
それでいて、あんたからばっかだよ?」
「それで気が済むなら、好きにしてくれよ。
2年も同居して
どーせ」
「……シスコン」
「
互いに罵り、笑い合い、抱き締め合い。
いつもみたいに、添い寝して。
朝になったら、
彼女なりのケジメらしい。
俺は、特に触れたりせず。
代わりに、スマホだけ返却して
彼女の用意してくれた、最高の料理を馳走になるのだった。
これで、今度こそ、
って、思ってたんだけどな。
これでも、
お前は、そこまでする相手ではないって。
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