〈4〉ハーレ無双でトロピ狩(が)るバケーション

 Vランド。

 電車で1時間ほどで行けるトカイナカに新設された、最新のVR技術を落とし込んだ、話題のスポット。

  


 けは、なんことい。

 そこの無料チケットを、同業の伝手つてで貰った知稲ちいなさん。

 彼女が、依咲いさきを介して、俺達に譲ってくれた。

 で、実際に遊びに来て、数るゲームの中から一つ選んで、いつも通り勝負した。



 ただ、それだけのこと

 棚ぼたでこそあれど、特段、不思議ではない。



 で、だ。

 それはそうとして

 今、俺の目の前に広がる光景は、なんだ?



 何故なぜ、俺は今、ロープで固定されたまま一人、孤独に崖なんぞにはりつけにされてる?

 てか何故なぜ、下では、水着を纏う美女(アバター)達が、それぞれに剣や銃を持ち、キャット・ファイトに興じている?

 さら何故なぜ、女性陣がポロリする度に、謎の光やマモノリくんに隠されてる?

 そして、なにより。


 

「おーっとぉ!!

 またしても一人、脱退だー!

 恐るべき執念、女体への果て無き好奇心!!

 流石さすがは、メグムッツリ!!

 この、ボォクの妹だー!!」

なんやがんだ、手前てめえぇぇぇぇぇ!?」



 ナレーターとバイトらしい(あとから恵夢めぐむさんに聞いた)。

 いや、く通ったな、採用されたな。



「ねぇ、恵夢めぐむ先輩。

 あの女、誰ですか?

 なんだか、先輩に似てますけど。

 なんで初っ端から、私の未希永みきとくんに、過去最大級までに、ぞんざいに扱われてるんですか?」

まったくでし。

 羨まけしからんとです。

 それは妹、後輩、年下であるサキの役目でげす」

「違うよ、依咲いさきちゃん。

 飼い主である私の使命、責務だよ。

 未希永みきとくんは、私のヒモノンなんだから。

 こんな時にばっか、年下マウント取らないで」

「ふっ。

 悔しいでありんすか?」

「トロピるよ?

 処すよ?」

「同士討ちはおめなさい、2人共。

 あれは、庵野田あんのだ 巡瑠めぐる

 誠に嘆かわしいことに、あたしの実姉よ。

 見ての通り、女性らしさや品の欠片かけらい、攻略ヒロインですらないフォルゴ◯りょく、残念さにより。

 かのアラタくんにさえ見限られてる、哀れな大学生よ」

「解説、ありがとうございます。

 理解る方の未希永みきとくんにさえ愛想尽かされるって、筋金入りですね。

 どうやら、参加者ではないらしいですね」

むしろ、針金すら入ってそうだわ。

 でも、そうね。

 まったもって、口惜しいわ。

 ここのスタッフでなければ、日頃のネタバラシの憂さ晴らしに、真っ先にパージしてあげたのに」

「今からでも遅くないです。

 どさくさに紛れて、方向音痴で迷子の振りして忍び込んで脱がして、退場させましょう」

「これが本当ホントの、キャスト・オフでがんすね」

依咲いさきちゃん、座布団1枚」

「いや、余裕だなぁ、あんたっ!!」



 こっち、ゲーム開始と同時に強制的に捕まってんだぞ!?

 そっちだって、話しながらも、他のプレイヤー潰しに掛かってんだぞ!?

 アバターとはいえ、深夜アニメばりに規制、修正入るとはいえ、ともすれば自分たちですら、ひん剥かれるかもしれないんだぞ!?

 よくもまぁ、そこまで効率く凌げるなぁ!!



 てか、なんで、りにって、これなんだよっ!!

 もっと健全なの、他にもっただろ!?



あたしだって、女としてプライドるし、ワンチャン姉さんを困らせたいし」

未希永みきとくんを誘惑、洗脳して屈服させたいし、単純にパニクってる未希永みきとくんを堪能したいし」

「あわよくば、ライバル共を蹴落として、カイせんを独占したいですし」

「はい全員、ラブコメ、ヒロイン、失格、失格ぅ!!

 純粋に俺を守ろう、救おうだなんて、誰一人として思ってなぁい!!」



 今日も今日とて、ニアカノは平常運転です。

 相変わらず、イチャイチャとは無縁の高校生活です。



「ん盛り上がってる所、悪いけどねーぇ、未希永みきとくん。

 きーぃみも、けたまえぇーよ。

 なんたって、こーぉの場にるのは全員、アバツァー。

 つまり、絶賛レスってヒスってるルェディーやぁ。

 なんなるーぁ、の人種とかも混ざってるからねーぇ」

「マジの意味でVしてんじゃねぇか!!

 思いっきりバ美肉ってんじゃねぇか!!

 しかも、のうコ◯みたいなのまで混ざってんじゃねぇか!!」

さらにーぃき残ったぁ。

 あるいはさきに主賓にタッチしたプレイヤーはーぁ。   

 んーVIPエリアでのデート権を、もらえるからねーぇ。

 きーぃみにとっては、約得かもしれないーぃねっ」

いやだよ!!

 中身が人妻、同性とか、流石さすがにご遠慮願うよ!!

 俺は、同世代の異性と付き合いたいんだよっ!!

 それ以外とのデートとか、バーチャルですらしたかねぇよ!!」

ちなみに先程、命名された、この『トロピり』というハーレ無双ゲーム。

 元々は、この、ボォクが『スマッシュ・ブラジャーズ』と名付けたんだがねぇ。

 おーぉ偉いさんに、却下されてしまったーぁよ、はっはっはっ」

「ったり前だろがぁ!!

 なんでそんな、ワンパンマ◯ですら避けた暴挙に出たんだよ、あんたは!!

 任天◯が怖くねぇのかよっ!!」

「そうよ、姉さん。

 そんなタイトル、間違ってるわ。

 彼女達がスマッシュされるのは、『ビキニ』であって『ブラ』ではないもの。

 しかも、それじゃあ『パンツ』は含まれじゃない」

駄目ダメだ、この姉妹!

 早くなんとかしないと!!」



 これ以上ツッコんでても仕方いので。

 ここらで、三人の衣装にでも触れておくとしよう。



 ず、恵夢めぐむさん。

 ラッシュ・ガードでの剣士っりがすこぶるハマってて、ひたすら格好かっこい。



 次に、結織ゆおり

 麦わら帽子とパレオが大人おとな可愛かわいいく、チラリと覗く太腿がヤバイ。

 それでいて、シールド型のガントレットの銃口で戦う姿のベテラン感がすごい。



 そして、依咲いさき

 スク水とゴーグルと水鉄砲という、あざとく意図的な合法ロリ路線と、胸の「いさき」ゼッケンが実に刺激的。



「……ちょっと待って。

 聞き捨てならないんだけど」



 と、ここで暗雲。

 なにやら結織ゆおりが、黒い雰囲気を発する。



「この人達も、私達と同じなの?

 ただのCPUじゃないの?

 あまつさえ、別に親交わけでもないのに、たいしたフラグも積み重ねも理由もく。

 一時の遊び感覚で、私の未希永みきとくんをオトそうとしてるっていうの?

 そういう大事なことなんで最初に教えてくれないの?

 だったらさぁ……本気で、始末しなきゃじゃん。

 どうせ、アバター。

 現実世界にも、私達にも、なぁんの影響ももらたらさないんだから」



 ガントレットを外し、腰にセットしていた棒を取る結織ゆおり

 そのまま、2つの武器を合体させ、盾に仕込まれていた刃を出し。

 身の丈さえ上回る、巨大な戦斧せんぷへと変化させ。



不味まずいっ!!」

「あいつ……っ!!」



 危機を察し、即座に距離を取る恵夢めぐむさん、依咲いさき

 彼女の暗黒面に不慣れな他のプレイヤーは、一斉に狼狽うろたえ、身動きが取れない。

 その隙を、結織ゆおりは決して逃さない。



「あーあ。

 メイン、逃げちゃった。

 まぁ、いや。

 えず、モブい有象無象の皆さん。

 出会い頭に、こんなことを言うのは、大変恐縮ですが。

 未希永みきとくんと私の、栄えある未来のために」



 丁寧な言葉を述べ、愛想笑いを浮かべつつ、斧を構える結織ゆおり

 すると、みるみる斧に光がチャージされ、明らかに危険そうな音が響き始め。



「二度と湧いて来んな……!!

 ゴミ共がぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」



 一振り。

 たったの、一振り。

 斧を持ったまま、一周しただけ。

 が、それで事足りた。



 結織ゆおりから放たれた衝撃波が、ステージ全体を駆け巡り、揺らし、周囲を切り刻み。

 岩や木々といったオブジェすら薙ぎ倒し。

 回転斬り一発で、ステージには『ニアカノ同盟』の3人しか残らなかった。



 結織ゆおり……!!

 やっぱり、恐ろしい子……!!



「ひぃぃぃぃぃ!!」



 かの巡瑠めぐる先輩すら、実況を忘れ、腰を抜かす。

 


 そんな中。

 物陰に隠れ、なんとかやり過ごした恵夢めぐむさん、依咲いさきが、結織ゆおりを剥がしにかかる。



 が、再びガントレットを装備した結織ゆおりに撃たれ、依咲いさきは退場。

 恵夢めぐむさんも、スレスレで避ける。

 結織ゆおりは、今にも舌打ちしそうな顔で億劫がる。



なんで、まだるんですか?

 邪魔者は消え去ったんだから、停戦協定は無効でしょ?

 だったら、サキちゃんに続いて、とっとと脱落、脱衣してくださいよ。

 未希永みきとくんと私の合法VIPデート権を、奪おうとしないでください」

「それは、こっちの台詞セリフよ。

 あなたこそ、そろそろ引きなさい。

 あれだけの技を披露して、平気なわけいわ」

「ご心配く。

 この世界では、想像力と精神力がすべて。

 これまで私は、現実世界で幾度とく、未希永みきとくんとの未来を。

 彼との理想のヒモ生活のビジョンを、来る日も来る日も描き続けていた。

 これくらい、へっちゃらです」

「言っても分からないようね。

 とんだじゃじゃ馬っりだわ」

「お褒め頂き、さいわいです。

 お礼と言ってはなんですが。

 今ぐ、楽にして差し上げます」



 これは、あくまでもゲームの話です。

 決して、デスゲームとかでもありません。



 注意書きをした所で。

 先手必勝と言わんばかりに、恵夢めぐむさんを仕留めに掛かる結織ゆおり

 その腕が先輩の胸をつかみ、着衣を引き千切る。



 次の瞬間。

 隠されていた黒ビキニが、現出した。



「なっ……!?」


 

 まさかの重ね着に意表をつかれ、油断する結織ゆおり

 対する恵夢めぐむさんは、剣を構え、彼女の横を通り過ぎ。



 刹那せつな

 紐が、はらりと落ち。

 アバターとはいえ、恥部を隠されているとはいえ。

 結織ゆおりは、身包みぐるみを剥がされた。



「いっ……!!

 いやぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」



 目をグルグルにし、紅潮し、本気で泣き叫び、慌てて胸と下腹部を隠す結織ゆおり

 しばらくして、元の世界に強制送還された。



「うむ。

 まっこと美しい、嬌声よ」



 最低な発言をしつつ、刀をしまう兄野田アニキ

 そこで、はたと気付きづいた。

 なにかが、おかしいと。



 恵夢めぐむさんは、確かに結織ゆおりを倒した。

 そして、他の参加者は、もう残っていないはず

 なのに何故なぜ、ゲーム終了のコールが鳴らないのか。



「マジカル簡単。

 為桜たおも、ひそかに参加してただけ。

 今まで、マジカルかくれんぼしてただけ」



 後ろから聞こえる、慣れ親しんだ声と口癖。



 振り向いた時には、すでに手遅れ。

 背後には、すでに黒衣が迫っており。

 俺の腕は、為桜たおの胸に挟まれ。



 今度こそ、試合終了のゴングが鳴った。



 は、いいものの。



「だから、言ってるじゃないですか。

 私は、プレイヤーの過半数を、一網打尽にしたんですよ。

 シークレット・ミッション達成でMVP扱いされても、不思議も不満もはずです」

「あんな攻撃、チートよ。

 それに、そのMVPシステムが採用されるのは、時間切れになったケースのみよ。

 あたしが優勝したんだから、適用外だわ」

「それ言ったら、メグ先輩も大概ですわ。

 二段構えとか、ズルでしかないでごわす。

 そもそも、まだサキが残ってたし、正確には勝ってないでし。

 カイせんさきに唯一、接触したサキこそが、チャンピオンですます」

「アカウント掛け持ちして、私の未希永みきとくんの背後に座標指定して、今北産業式にコンティニューして漁夫の利して、しばらくバーストで誘惑してレフェリーに止められた魔女が、なんか言ってる。

 百万歩譲って、それがまかり通るとして。

 だったら私だって、友花里ゆかりちゃん利用してたよ」

「許してないし、サラッとさらひどい上乗せするの、おめなさい、結織ゆおり

 みっともないわよ」

「いや、みっともないのは、あんた全員だよっ!!

 誰一人として、正攻法で勝とうとしてないじゃん!!

 いつも通りじゃん!!」



 こんな調子でしばらく言い争い、スタッフまで巻き込んで議論してたら、カスハラにより出禁できんになり掛けましたとさ。

 意味不明なほどに長引いたので、特別措置として全員、VIPエリア行きとなりました。

 いや、これ、ていく追っ払っただけだよねブラック・リスト扱いだよね完全にクレーム対応だよね。



 で。

 結果、どうなったかってーと。



未希永みきとくんの未希永みきとくんを、順番的にも長さ的にも一番に見るのは、私だよっ!!」

「いいえ、あたしよ!!

 彼をとっ捕まえ、今度こそ女装させ、アンサンブらせるのよっ!!」

「カイせーん

 サキが推し倒すので、今日こそは推しの子ごっこしましょーぜー」



 ぜ っ た い や だ。



「お前ぁ!!

 VRだからって、やりたい放題にもほどんだろっ!!」

「そっちだってさっき、私達を脱がしてたし、モニターで声も映像も届いてたから、美味おいしい思いしてたじゃん」

「いや俺、そんなゲーム内容だなんて一切、聞かされてませんでしたけどぉ!?

 そもそもあれ、『ホストの趣味によってシステム決まる』って話だったよね!?

 誰だよ!? 代表者!!」

あたしよ」

「はい、知ってた、熟知してたぁ!!」

ちなみに、VIPエリアは特別ルール。

 早い話、規制外れるらしいでやんすよ」

「ねぇ、なんで審査通ったの!?

 く未だに続いてるな!? ここ!!

 今にも営業停止食らいそうじゃん!!」


 

 食らいました。

 オープンして1ヶ月で。

 俺達が遊びに来た、翌日に。



 いや、散々さんざんぎるだろ。

 いやにもほどるわ、こんな休日。

 チケットくれただけなのに、知稲ちいなさんにまで迷惑掛けてんじゃねぇよ。



 余談だが。

 ネタ方面の時だけ、存在感と謎スキルを発揮する恵夢めぐむ先輩は、なんなのか。

 そんなだからアサプ□枠とか言われるんだぞ。



 とまぁ。

 プールでのイベント(?)を挟んでも、やっぱりドキドキ展開にはならない、我等がニアカノ。

 


 ニアミスった日々は当分、続きそうだ。

 




 とは言うものの。

 あれから半年近くがぎると、流石さすがに危機感を覚えるわけで。

 そんなわけで、俺は今、職員室に来ていた。



「……新甲斐あらがい

 お前、本気か?」

「はい。

 バッチバチに」

「そか。

 んじゃあ、その上で聞こう。

 いくら、お前が学年首席、シードみたいな存在とはいえ。

 そんな無茶が、通るとでも?

 お前の都合に振り回される、我々、教師陣の苦労を。

 少しでも、考慮しなかったと?」



 苦い顔をする先生。

 当然ぎる反応だが、引いてもいられない。



「いえ。

 勿論もちろん、考えました。

 その上で、ダメ元で頼んでます」

「そこまで分かってるなら。

 何故なぜ、頑として無理を押し通す?

 大体、あと1週間と待たずに、お前の元にも届くだろう?

 なにか、どうしても早めたい理由でもるのか?」



 本当ほんとうい先生と巡り会えたと、俺は思う。

 じゃなければ、ここまで、生徒の戯言たわごとに付き合ってくれていない。

 いくら、自分の受け持ちとはいえ。

 


 であれば、俺も敬意、誠意を表さなくては。

 出し渋らず、ありのまま伝えなくては。



「ずばり、『告白』です」



「……なんだと?」



 俺の言葉を受け、明らかに顔色を変える先生。

 そのまま椅子いすから立ち上がり、肩を震わせ、腕を上げ。



「お前……!!

 冗談じゃないぞ、新甲斐あらがいっ!!

 それ、最重要案件じゃないか!!

 他のすべてを無視してでも優先すべき、果たすべき、超一大事じゃないか!!

 何故なぜもっと早く、開口一番に、それを明かさない!?

 入室の挨拶なんぞより、そっちを優先しろ!!

 今の数分、無駄だっただろうが!!

 その時間さえも、補填出来できただろうが!!

 いや……そもそも、この数日すら、空費してしまったじゃないか!!」


 

 俺の肩に手を回し、背中を叩いて来た。



 こういう時、つくづく、思い知らされる。

 この人は紛れもく、あの庵野田あんのだ家の一員、長女。

 恋愛脳の恵夢めぐむさんと同じ血を持つ、芽悧めぐりさんだと。



「よし、任せろ!!

 我が教師生命に賭けて、かならずや!!

 私が全員分、今日中には調達してみせよう!!」

いんですか?

 色々と」

「なぁに、気にするな!!

 酒なり寿司なりで釣ればい!!

 私の諭吉と引き換えに、出してくれるさ!!」

本当ホントいんですか!?

 それ!」

「ああ!!

 今を生きる若人の、リアルでフレッシュな悶々たるエモを味わえる!!

 それをさかなに、近い将来、最高の美酒に出逢える、酔い知れる!!

 それが、それだけが、それこそが、今の私の生き甲斐!!

 そのための必要経費だ!!

 一切、惜しくも恥ずかしくもない!!」

「俺……!!

 やっぱり、先生が担任でかったです!!

 こんなに生徒に親身になって融通が利かせてくれる、ダサカッコイイ大人おとな、そうはません!!

 惜しむらくは、恋愛事情にのみって所ですが!!」

なんだ!

 随分ずいぶん、砕けて来たじゃないか!!

 さては相当、ほの字だな!?」

「それ今、通じないですよ!?」

「お前には通じるだろ!?

 なら、問題はい!!」

「確かに!!」

「その代わり、誓約しろ!!

 成功した暁には一杯、付き合え!!

 可能であれば、アベックでな!!

 なんなら、他の仲間も連れて来い!!

 何人だろうと、大歓迎だ!!

 多いに超したことい!!

 いくらだろうと、私が完済する!!

 お前たちが萎縮しない程度、腹を割って馴れ初めなどを語れる程度には、最高に饗すとしよう!!

 無論むろん、アルコールは含ませんし、先払いしたタクシーで安全、健全に帰宅させるがな!!」

「結婚式の披露宴感覚で、カップル誕生を祝おうとしてません!?」

「気にするな!!

 私は兼ねてより、お前を大層、気に入っている!!

 常日頃から、私の妹も世話になってるしな!!

 お前だけ、特別だ!!

 お前は大人おとなしく、私に貢がれてだけいればい!!」



 ……この人が彼女でも、かったかもしれない。

 惜しむらくは、結織ゆおりよりも重そうで、それでいて毒素が少ないことだ。

 敷居の低さと、スペックの高さが、まるで釣り合っていないことだ。



 一応、結婚願望はるらしいし。

 早い所、誰かと結ばれてくれ。

 頼むから、スパダリ辺りと報われてくれ。



「まぁでも、なんだ。

 これでも私は、お前に申し訳いと思ってはいるんだ。

 お前達になんの断りもく、あんな話を進めるなんてな」

「え?」



 手を戻し、テンションを戻し、席に戻る先生。

 一方の俺は思わず、想定外の意味深ワードに意識を奪われる。



「……あ」



 口を滑らせたと気付きづいたらしい。

 先生は、鉄面皮を少し崩し、額を抑えた後、キリッとした顔で俺と向き合った。



かく

 こっちのことは、気にするな。

 頼まれた物は、意地でも手配する。

 お前は、自分のことにだけかまけ、尽力しろ。

 いな?」

「……分かりました」

「うむ。

 お前らしい、素直な返事だ。

 私としては、もっとフランクな方が好みだがな。

 そこまでお前を導けず、情けない限りだ」

「……あなたが、い人、い女ぎるからでしょ、それ

 どう考えても」

「ははっ!

 言うようになったじゃないか。

 その調子で、そいつもガンドコ陥落させてやれ。

 相手は知らんし、まだ聞かんがな。

 楽しみは、先に取っておくさ。

 ネタバレなんぞ、言語道断だ」



 俺にそう告げ、立ち上がり、クルッと体を回し、背中を叩き激励し。

 先生は、職員室のドアを指差した。



「進め、新甲斐あらがい!!

 お前の恋路、ヒロイン、未来に向けて!!

 脇目も振らずに、一直線にな!!

 ただし、廊下は走るな!!

 余計な遅れは、断じて取るな!!

 私の犠牲を、諭吉を、勝利の美酒を、無駄にしてくれるな!!」

「……っ!!

 ……はいっ!!

 あざっす!!

 失礼しましたっ!!」

「その考えこそが、失礼だ!!

 お前は、もっと失礼しろっ!!

 私でければ、甘んじて受け入れるっ!!

 ただし、恋愛絡みの案件に限りなっ!!」



 腰に手を当て、快活に笑う先生。



 他の先生方にも見守られながら。

 俺は体を反転させ、お辞儀をし、職員室を出た。

 無論むろんかろうじて走ってはいない速度で。



 ところで。

 図らずも今回の話で、庵野田あんのだ家の美人三姉妹が勢揃いしたわけだが。

 なんかもう、それぞれ違う意味で、残念極まれりじゃない?

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