〈3〉替え歌フェスタで笑わせよ!!

 カラオケ。

 男女が自然と親しくなれる、絶好のスポット。

 歌うもし、聞くもし、食べるもし、しゃべるもし。

 かく、無礼講になりつつ、より関係性を深められる場所。



 そういう、認識だったんだけどな。

 少なくとも、俺の中では。

 そのもりで、提案したんだけどな。



 だのに。



「どぅぅぅぅぅおして、こぉなるかなぁ……」



 ノリノリな3人とは対象的に、下がる俺。

 瞬時に、持っていたマラカスを置き、距離を詰める結織ゆおり



「大丈夫?

 膝枕する?

 耳掻きして、フーフーする?」

結織ゆおりがしたいだけだよな?

 それ」

未希永みきとくんは?」

「してもらいたいよ。

 今と、ここじゃない機会に」

「ケチ」



 中々にひどい言いざまだが。

 頬を膨らまし拗ねる結織ゆおりが、ひたすら目の保養なので、触れないでおこう。



 まぁ、しゃあない。

 これもこれで、一興か。

 大体、言っても聞かないだろうし。

 ここは、開き直っとくか。



 さて。

 持ち直した所で、説明に入ろう。

 


 これから俺達が使う機種は、『オタカラ』。

 なんでも、『オタク』向けに作られた、『お宝級』のラインナップだとか。

 まぁ確かに、アドリブ替え歌に対応出来できる辺り、優れ物だ。



 そんなわけで、自作の替え歌詞を打ち込み、画面に表示させる字幕の準備を始める3人。

 思い付かんから、しばらく見物しつつ、3人のセレクトの予測でもしておこう。



 ず、結織ゆおり

 恐らく、コンシューマー版ゲームか、のヤンデレ系だろう。

 確かに「一見、可愛かわいらしいが、中身はブラック」な結織ゆおりらしい。

 さしずめ、最強◯✕計画とかだろう。

 ポテンシャルが底知れないダーク・ホースなので、要注意だ。



 次に、依咲いさき

 子供扱いを嫌う割に、みずからは率先して妹、年下、後輩扱いされたがる彼女。

 そんな依咲いさきなら、恐らく、妹メインのアニメの曲とかだろう。

 実に分かりやすいチョイスだ。

 定期的に替え歌も披露してるし、勝率は高いかもしれない。



 読めないのは、恵夢めぐむさんだ。

 ピシゲか、激アツ系か、下ネタ系か、百合か、演歌か、裏をかいてバラードか。

 企画者が自分である以上、なにかを仕込んでは来そうだが。

 どうやら、相当の自信が様子ようすだし。



出来できたわ」



 さきに予約したのは、恵夢めぐむさん。

 これは、予想通り。

 して、画面に表示されたタイトルは。



『マッ◯が近い』

 


「……んぅ?」



 一斉に、首をひねる俺達。

 そんな中、いざマイクを持ち、立ち上がり、スポット・ライトを浴び。


 

 いざ。

 恵夢めぐむさん、オン・ステージ。



『オー、オー、ナッナナナナッナー!

 オー、オー、ナッナナナナッナー!

 主人公オーナーへ、ゴー!



 断ち止まるヒマなんか無いさ

 勘が得る余裕なんか無いさ

 有明への重圧おもみを、腕に

 炸裂の戦慄わななきの中へ



 余りにも多いな

 同調圧力かべのちから

 年齢制限しゃかいのやみ

 しょげる、曲げるもんか

 平面せかい、越えて



 似合わ、合体ワナらないことばかりだけど

 信じる、個別ルート進むだけさ

 どんな姿勢でも、仕方でも構わない

 この手を放すもんか

 マッパが近い



 いつまでも、いつまでも、推し続けるんだ

 どこまでも、どこまでも、愛絶えぬ勇姿を

 どこまでも、どこまでも、萌えたぎる一枚絵アート

 オマエロー



 いつだってピローにあふれた

 その笑顔、大友おおともたちの構想ゆめ

 どうしても守り抜かなくちゃ

 その赤い純血が流れ出ぬ限り



 何でもいいから、誰も泣かない結末せかいが欲しい

 絶対、見付けるんだ トゥルーエンドしんじつヒントかぎ



 何度も、誤選択ミス未遂ミス、オチ混んだとしても

 ディスク折っちゃダメだ、前の消去むこう

 大切な初体験もの、守る、そのヒロインひめ

 思いっ切り、抱き締めて

 マッハな期待



 オー、オー、ナッナナナナッナー!

 オー、オー、ナッナナナナッナー!



 罠で合体ワナらないことばかりだけど

 信じる、この個別ルート進むだけさ

 どんな姿勢でも、仕方でも構わない

 この手を放すもんか

 マッパが近い



 いつまでも、いつまでも、推し続けるんだ

 どこまでも、どこまでも、愛絶えぬ勇姿を

 いつまでも、いつまでも、恋し続けるんだ

 どこまでも、どこまでも、萌えたぎる一枚絵アート

 主人公オーナーへ、ゴー

 オマエロー』

 


 ピシゲ、激アツ、下ネタ。

 まさかの、三点盛り。



「……」



 なんてーかさぁ。

 本家やファンに怒られそうとか、思うけどさぁ。

 てか、確実に敵に回しそうなんだけどさぁ。

 にしてもさぁ。



 ……なに

 この、完成度の高さ。

 絶対ぜったい、最初から準備してたでしょ、これ。



 てかさぁ。

 


「勝ち目無さ過ぎでしょぉ……」

「右に同じぃ……」

庵野田あんのだぁ……。

 サキの負けだぁ……。

 #シン・コジワ」

「まだいわよ、小皺。

 失礼ね」



 こうして、恵夢めぐむ先輩が独り勝ちし。

 そっからは、普通にカラオケになった。



 それっぽい空気になったかって?

 察しろ。





 新甲斐あらがいの父がいるー。

 新甲斐あらがいの母がいるー。

 そーしーてー、未希永みきとがー、崖にいーるー。



なんでだよぉぉぉぉぉ!!」



 はりつけにされながらもノリツッコミしつつ、眼下を見下ろす。



 戦渦に立つ、ニアカノたちの勇姿。

 その、うるわしき水着姿を。 

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