〈2〉バグってログってラグってサグる
「それではこれより、『リハ 〜鼓動修正大作戦その1〜』を決行するわ。
何か質問は?」
「隊長ー。
質問というより疑問なんですが、この状況からして
「『
答えは簡単。
この方が燃えるからよ」
「そこじゃない、てかあんた
初っ端から破綻してるんだけど、大丈夫か?
この作戦。
てか、一体、俺達は
これから彼女になるやもしれない人の部屋に
いや、それ言うなら
俺も慣れてるってか、どうかしてる気がする。
この、「間違っても間違いは起きないだろう」という、
倦怠期なんて目じゃないぞ?
「とまぁ、アラタくん遊びは置いといて」
椅子に座りつつ足を組み、それでいて
ところで、
現役女子高生の部屋に。
「『リハ』とは、『リハーサル』『リハビリ』『リハート』の略称。
これまでの経験により、どうも
だから、あなたに協力して
「な、なるほど……」
その割には、どこか
ここは、
「そういえば、
今まで異性からのアプローチは数あれど、一度もオーケーした
「ええ。
大抵、心の琴線に触れなかったもの。
誰も彼もが皆、『美しいから』『イケジョだから』『モテる』からと、botみたいな告白しか、してくれなかった。
最後に至っては、本来は感心しない語源であるが
不愉快なまであったわ」
「そこは、まぁ、寛大な
大抵の人は、由来なんて知らないし、そもそも知ろうとすら考えないんですから」
「あなたは、最初から知ってたじゃない」
「俺みたいなのはレアケースなんですよ」
まぁ、俺も知ってからは、言わない
まさか、『モテる』が『女の子をテイクアウト』的な意味だったなんて。
……日本語って、怖い。
「その話は、置いといて。
ただの一度も?」
「まさか。
人並みに興味、願望は
「じゃあ、どんな告白に、ドキッとしたんですか?」
「そうねぇ……。
バーストにされた時。
それから、あなたみたいな可愛い系、男の娘にされた時。
だったかしら?」
「ねぇそれ、まるで違う意味で興奮してない!?
しかも、オーケーしかけてない!?
俺の時みたいに!」
完全に趣味丸出し、恋愛そっちのけ。
望みも脈もエモさも
「そうは言ってもねぇ。
それでしか上がらないんだから、為す
「それじゃあ、困るんですって。
俺は、あなたとだってお近付きになりたいんですよ?
仮に俺とは付き合わなかったとしても。
このままじゃ」
「
我ながら、難儀な設定よね。
使い辛いったらないわ。
今の時点で明らかに
おまけに、締め切り
結果、『やっぱり後付で個別イベント増やすんじゃなかった!
こうして、グダグダと管を巻いているんだもの。
始末に置けないわね」
「今そういうメタいの入れなくて
ねぇっ!?」
てんで、話が進まない。
手詰まりも
実際問題、どうすれば
「……そうだわ。
名案が思い付いたわ、アラタくん」
「どんな!?」
「あなたが、
そうすれば、
形式上は問題、
「すみません
「あら、ご不満?
ならいっそ、思い切って開き直って、ハーレムルートにする?
今そういう、ネオスタンダード、新定番、新発明、新機軸が流行ってるじゃない。
100カ◯とか、カノか◯とか、三幸製◯とか。
ぼく◯、俺◯、恋と◯みたいに」
「万が一それに挑戦したとして二番煎じの烙印を読者に押させないだけの奇跡的かつ圧倒的な才能が、この作者に備わってると思うなよぉ!?
頼むから、もっと本腰入れてくれっ!!
自分から、
てか、漫画や小説、ソロ重視のラブコメと、ギャルゲーを筆頭とする、マルチなラブコメを、一緒くたにしないでくれ、ターゲットもイメージもニーズもてんで畑違いなんだよぉ!!」
「つまり、もしそれを『ニアカノ』でやったら、伝説になる?」
「悪い意味でな!?
黒歴史、
もう滅茶苦茶だよ、
※
「という
やっぱり
「『これに着替えなさい』という命令と服だけ残して
今までの会話、
「収穫なら
やはり
「やる前から
「とまぁ、こんな煮え切らないやり取りはさておき。
これから、作戦その2に移行するわ」
「
作戦その2って、
「ボォクの
おいコラ、出て来んな。
「
「らしいわね。
ごめんなさい。
今度、掃除しておくわ」
「
ボォクは、君の年上だというのに」
「せめて最低限、それ相応の対応をしてくださいよ。
年功序列に則りたい、振りかざしたいのであれば」
「断る。
「さぁ、
理由は不明ですが、指示通り、俺もジャージに着替えた
「そうね。
じゃあ、
手始めに、そこのイケジョとキスなさい。
それを見る
「ははっ。
類人猿となんてキス
「君、
「そう言うあんたは、
そういうのは
「
そうカッカしないで
別に、マウストゥーマウスとは言ってないわ」
「そうじゃなきゃ最初から乗りませんて。
でも、まぁ……分かりましたよ。
はっきりしないで振り回すのも、
「分かれば
あ、いけない。
大事な
これも付けて
「……これは?」
「見ての通り、ウィッグよ。
あなたが女子高生ミキちゃんに扮する
「そういうこっちゃないんですが、もう
これ以上、話しても一向に平行線なので」
そんな
まぁ、相手がスーツで現れた時点で、こうなると予測してたけども。
「……
心の準備は
「不承不承です。
もう勝手にしてください」
「分かった。
じゃあ、行くよ。
アラタくん……」
対面し、目を閉じ、近付いて来るイケジョ。
あー……こうして見ると、
雰囲気に流されたとかじゃなく、きちんと冷静さを保った状態で。
「待った」
まぁ……なーんてのは結局、単なる勘違いに他ならない
「
「どうしたんだい?
アラタくん」
あー、やっぱりか。
やっぱ、そういう感じか。
止めて正解だったな。
「……どうした、って。
聞きたいのは、こっちの方ですよ。
この意味不明な状況は。
「べ、別に、
そう。普段なら。
俺は、目の前の相手の髪……いや。
ウィッグに触れ、そのまま取る。
思った通り。
たった今、俺がキスしかけていたのは、
「……いつから?」
謝りもせず、悪びれもせず、腕を抑えながら、先輩は目線だけ、俺に寄越した。
「いつから、気付いてた?」
「強いて言うなら、最初からですね。
在宅中の
それに、
俺は少し前から
加えて言うなら、
で?」
早口で論破し、髪を掻いた
「今度は、こっちの番ですよ。
正直、初めて笑えなかったんですが。
「〜っ!!」
その場には、妙に落ち着いている俺と、
「あー……
悪く思わないでくれたまえ。
あの子も、あの子で、そのぉ……」
「分かってます。
すみません。
ちょっとこれ、お借りします」
そう
※
やや拍子抜けする
住宅街のど真ん中、
なんてーか。
スーツ来た男装の麗人が、夜に一人でポツンと公園に
……まぁ、
「
無策のまま、背後から忍び寄り、持って来た
肩を揺らし、
しかし、
「何の
まぁ、
それより。
悪
もう帰るから。
あなたも、自分の家にお帰りなさい」
雑に話を終わらせ、そのまま帰宅しようとする
透かさず、迷わず、その手を俺は掴んだ。
「……逃げないでくださいよ」
「帰るだけよ。
逃げてないわ」
「そっちじゃないって!
その話じゃないって、分かってる
話題を逸らそうとする
逃げないし、逃がさないと。
そう、主張する
その
敬語を、後輩というポジションを、ツッコミ以外でも取っ払える
「俺だって……俺だって、不安なんだよっ!
いきなりこんな、予想だにしない、
中学入って
なのに、憧れの異性に! ……あんたにっ!
遠回しに、間接的にフラれて!
けど、
3年間、必死に、小説とか辞書とか少女漫画とか読み漁って!
高校生になってやっと、
かと思えばいきなり、『同士になれ』とか『バスター』だとか、『可愛い顔が好き』だとか『出会って数時間のイケジョと、女装してキス』だとか!
意味不明で的外れで、ただただやる気削ぐだけの
自分は『名前で呼べ』とか言ってる
俺が名前呼んでも、大して顔色とか反応とか変えなくって!
その
俺、もう……惨め通り越して
そんな些細な所から、拡大解釈だって承知で、いじけて!
意中、眼中には
距離は近付いた
それでもっ! 暗中模索、優柔不断なのは百も承知で精一杯、チャレンジだけは続けようって!
「アラタ、くん……」
あぁ。
もっと、要領良く、
てんで様に、当てにならない。
メンヘラ彼女みたいに泣きじゃくって、激重長文みたいな本音を晒して、立てなくなって。
顔だって、とてもじゃないけど見せられない有様で。
こうやって、
そんな
ポンッ、と。
「あなたも……戸惑っていたのね。
「……
屈んで目線を合わせ、
「……安心したわ。
物足りなかったのは、
あなたが、ずーっと、タメ口になってくれなかったから。
だから、それまでは、呼ばないって固く決めてた。
自嘲し、ポケットに常備していたハンカチで、俺の顔を整え。
「……『
あなたの気持ちは、痛い程、
あなたにも、
正直言うと、あなたが意図的に、最初のデート、テスト相手に
そうと分かれば、もう……お互い、変な遠慮は
立ち上がり、俺に手を差し伸べ、
「受けて立つわ。
全力で、真っ正面から、恋に挑んでみせる。
だから……あなたも、立って。
リアル恋愛なんていう、現代で
あなたなら……いいえ。
「もし……勝てなかったら?
納得する答えが、出せなかったら?」
「その時は」
俺の手を掴み、引き上げ、起き上がらせ、先輩は勇ましく即答する。
「最初の方針からは外れないわ。
あなたを、
あなたにとっては肩透かしかもしれないけれど。
未来の
少なくとも。
今の
この人は、
3年も、文通みたいな
1年も、二人だけで部活やって。
自分の趣向を暴露する所までは、攻め落としたのに。
追い詰めたし、追い求めたのに。
それでも、まだ飽き足らず。
俺を、こんな
だから、ほら、まただ。
「
一緒に、攻略しよう。
全力で……試行錯誤して、恋に向き合おう」
「あら?
まだ、『さん』付けは継続なの?」
「そこは、ほらぁ……年上だし?
最低限、敬意を払わないと」
「その割には、あなた
「騙してキスさせようとするとかいう、男の純情弄ぶプレイ強行した、あなたが悪い。
それに、言い方が悪いぞ?
オーバーリアクションだっただけだろ。
ちょんっ、と
「まぁ、それもそうね。
でも、あなたがリードしてるのは不服だわ。
ここは年上の、大人の女の意地を見せなきゃ、ね……」
次の瞬間。
「め……
その……当たってる、よ……?」
「
当ててんのよ的なのだから。
それより、
名前を呼ばれ、振り返る。
すると額に、柔らかで小さな、温もりと感触。
キスされたと理解するのに、何秒を要した
「め、
「キス。
思った通り、二次元フィルター越しなら、あなたでも大丈夫みたい。
それを試したくて
「
てか、だったら
「そうね。
ごめんなさい。
そこまでしたら、さしものあなたも、
そう思ったら、どうしても言い出せなくってね」
俺の胸に頭を当て、
割りと
えと、これ、あれかな!?
今、抱き締める流れですか!?
誰かマニュアル持ってません!?
「
見限る
あなたは、年季が違うんだものね」
「え、あ、まぁ……はいっ!」
「
「やっぱりぃ!?」
今からでも遅くはないと手を動かすも、離れられた。
この人……この人は、
「それにしても、今日は実に
カップルでも、フィクションでもない。
フリーのリアル男子のあなたに、
愛しくなった。
抱き締めたくなった。
もっと……
「ど、どうぞ!
いつでも!
「結構よ。お引き取り願うわ。
もう気分じゃないの。
それにしても、
相手が、気心の知れたあなただったから?
かしらね」
「え!?
……あ〜っ!?」
そうだった!
俺今、女装してるんだった!
しかも、ジャージ!
うわっ、最悪!
ムードもへったくれも、あったもんじゃない!
「今頃、
「ひっ!?
いや、あのっ、そのぉ……」
「照れちゃって。
……そんなに
あなたって子は……。
優しくて、不器用で、初々しくて、面白くって、気があって……。
再び俺の前に立ち、先輩は
「
……かもね。
それじゃあ、
今度こそ、おやすみなさい。
送ってくれて、一緒に
また今度、学校で。
願わくば今夜、夢の中でも、会いましょう」
最後に大人、
一人残された俺は、違う意味で熱くなっている頬に触れる。
「……ROMってるだけの
……現実から自分を切り離して客観視した上で、
……恋人同士にだけは、相思相愛にだけは、
うぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉっ!!
可愛いの覇者か、おんどりゃー!!」
恥ずかしさで狂いそうになりながら、俺は周囲の目も気にせず叫び、走り出した。
後日、そんな様が噂となり、七不思議の一つとして定着したのだった。
※
「お疲れ様。
楽しかった? 先輩とのデート」
帰宅し、部屋に戻ったのと
未だに冷めない頭と熱をどうにかすべく、俺はベランダに出ながら、
「まぁ……楽しくはあったよ。
正直、『デートって明言して差し
そっちはどうだった?」
「それがさぁ。
聞いてよ、エイくん。
キヌちゃんてば、『料理する、料理する』って聞かないし。
作ったら作ったで、私が自信無くすレベルで手際良くって。
それでいて飛び切りに、飛び級レベルで美味しいんだよ?
ヒモに仕える身として、恥ずかしいったらありゃしないよ」
「あー……
……でも、待てよ?
このまま
「うーん……それは無理なんじゃないかなぁ?
一番自慢だった料理で完敗したのが悔しくって、家事5番勝負を申し込んだら。
今度は私が5連勝しちゃってねぇ。
すっかり、機嫌を損ねちゃってさぁ。
あれじゃあ、キヌちゃんヒモ計画は頓挫かなぁ」
「何してるんだよ……」
勝てる訳ないだろ。
相手は、男を骨抜きにするスペシャリストだぞ?
一人でマルチな生活力を見せる、
見込みなんて、どこにも無いというのに。
「
なんて、涙目で地団駄踏みながら、滅茶苦茶な理由、難癖付けて来て。
その
「むー……」
容易に
「……ユウ先輩も言ってたけどさぁ。
エイくん、キヌちゃんと仲良し
他の異性に入れ込み
「どうしろってんだよ……。
てか、これ
まだ付き合ってないんだし」
「そうだけどぉ……う〜。
なぁんか納得行かない……」
実際には、同士候補と仮想内ヒモと
イケビジョとアブナイチンとファンク・ラブと来たもんだ。
「て
今日の先輩とのあれこれも、事細かに伝えた方が
「あー。
プライバシーは尊重しないと」
「……意外だな。
てっきり逐一、報告しろと強制されるもんかと」
「しないよぉ、そんな
まぁでも、感想とかを
エイくんと、こうして何気ない話をするの。
私、好きなんだぁ」
「そうか。
俺も同感だ。
ところで今の
具体的には、最後の方。
録音し忘れた」
「もぉ、お
それ
じゃないと、立派なストーカーになれないよぉ?」
「目指してないし!
てか、ストーカーに立派もスリッパも
しかも、録音して私的に悪用するのは
「うん。
全然、オッケー。
だってぇ。私と話してない時でも、私の声や言葉や吐息で、エイくんを虜に、独り占め
Win-Winじゃない」
「ヤバい。
俺の周り、勝てそうにない相手しか
「あははははっ。
何それ、おっかしー」
声を上げ
今頃、目尻に溜まった涙を拭ってる頃だろうなぁと思っていると、不意に向こうから話し出した。
「ところで、エイくん。
明日は、キヌちゃんと遊んでくれないかなぁ?
『損傷深刻。これは明日にでも、カイ
「……俺の後輩が、迷惑を掛けた。
でも、
それだと
「
私が、
それ
いや、まぁ……『ニアカノ同盟』の発案者だし、
そこまで、負い目を感じなくても……。
「
「それに、ほら。
その方が、事前準備に勤しめて、ヒモにランクアップして
「あー、あー。
聴ーこーえーなーいー」
どう考えてもランクダウンだろ、それは。
いや、本音を言えば
……仕方ないんだ。
人間、誰でも
それに、母性と慈愛に満ちた女性に甘えるという願望は、男だったら
でも……少なくとも今は、抗いたい。
可愛い子の前で
その思いが残っている内は、まだ
「何はともあれ。
お言葉に甘えて、明日は
ただ、
俺だって、無策かつ不用意なまま、ラスボス戦に挑む
「あははっ。
ラスボスって。
まぁ、
「否定しろよ……」
そんな感じで互いに笑い合う俺と
そのまま俺達は、夜の帳に包まれながら、もう少しだけ、電話で話し込んでいたのだった。
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