〈3〉目冴(めざ)める偽妹の寝かせかた
遡る事、今から一年ちょっと前。
「初めまして。
突然ですが、先輩。
サキと、寝てくれませんか?」
無事、高校への進学が決まり、卒業間近となっていた、とある日の放課後。
その日、俺は、こんな感じの誘いを受け。
違う意味でも卒業しかけていた。
「……えーっ、とぉ……」
「……伝わらなかとです?」
「まぁ……。
……そっかなぁ……」
「なーる。
しからば、言い方変えます」
少女の言葉を受け、ホッとする。
正直、惜しい事をしたとは思うけど。でも、こういうのはやっぱ、段階を追ってする必要が
ちゃんと、階段を踏んで行かなきゃいけない
「先輩。
サキを、抱いてくれませんか?」
などと思ったら、再び踏み外しかけた。
「先輩。
平気ですか?」
「あ、ああ……」
正直、死にそうだけど。
ぜぇぜぇしてるけど。
驚き
理性と本能が跡目争いしてるけど。
って何、言ってるんだろ俺。
てか、
違うよね? 誘ってないよね?
「どうやら、これも違うらしいです。
じゃあ、先輩。
サキの、枕になってください」
俺は、まっさかさまに堕ちてDESIREした。
「……って、して
極限の戦いを
俺は立ち上がり、彼女の方を掴み、懇願した。
「えと、サキ? ちゃん?
そういうのは、
君みたいに、年端もいかない可愛い子は、同世代の異性に向けて。
そういう発言するの、控えた方が
「そうでますか?
なぜでござんしょ?」
「君が思ってる以上に、男ってのは悪魔寄りだからだよ」
「……
じゃあ、次は同性の先輩にしますです」
「それも、
いや正直ちょっと興味
「……先輩。
「ご、ごめん、騒がしくして。
頼むから。
「は、はぁ……分かったでございます。
でも……となるとサキ、割とピンチなんですが……」
……なんてこった。
この子、やっぱり、そういう手段でお金を……!?
いや、断定するのは早計だ。
きちんと、確かめねば。
「ど、どうしてかな?
どういう意味、かな?」
「いや……サキ、保健室から追い出されちゃって」
こ、これは、あれですか……?
保険の授業こっそりしてたら、バレた感じですか……?
て、だからっ!
妄想猛々しんだよ、俺の
「ねぇ、あれ……」
「あの子、またやってるよ……」
「あー、あれでしょ?
あの、『眠れる氷の美少女』……」
「うわぁ……あの先輩、可哀想……」
ヒソヒソ話が耳に入り、我に返る。
周囲を見渡せば、気付けば俺と後輩は注目の的になっていた。
「……どうやら潮時の
後輩も察したらしく、あっけらかんと背中を向け、立ち去る。
かと思いきや、シャフ度しつつ
「乗ってはくれなかった人。
感謝しますです。
今まで、断った人は数いれど、忠言してくれたのは、あなたが初めてでしたです。
あなたはきっと、向こう数秒は、サキの記憶の中で生きるです」
「短いな。
まぁ、その、
力になれなくて、すまなんだ。
これからは健全、安全に過ごしてくれ」
なるべく気を悪くしない
すると少女は、ムッとした表情を見せて。
「……どちら様でありんすか?」
「秒にも満たないっ!」
「
を見ると、裏切られた
心外だ、不快だ、不愉快だ。
今
「んごっ!?」
中々の気紛れっ
かと思えば、倒れた俺の体から靴を回収し、あかんべぇをして、そのまま立ち去る。
そんな俺の痴態の傍観者達は、細やかな拍手を送るのだった。
これが、俺と彼女……
※
「いやぁ。
「誰が相棒だ」
赤くなった顎を冷やしてから教室に戻ると、速攻で
「まぁ、相手が悪かっただけだって。
悪名高い、かの
「……それ、
情報通でもある
「学園切っての才女だよ。
授業中は常に寝てばっか。
それでいて当てられると、寝惚けながらも即答するっつー。
まぁ、とんでもないエリートだ」
「それは、まぁ……
「だろ?
でも、私生活は謎。
クラスメートとは
課題と副教科とイベントはサボリ常習犯。
その
やたら単位だけ取るの上手い大学生みたいな
「なんだ。
取れなかった時も
「途中で寝落ちした、
「ただのイレギュラーじゃないか」
つまり、本来、本調子なら余裕で取れたと。
「なんてーか……
ああいう努力家タイプが」
「はぁ?
どう考えても、天才タイプだろ。
根拠は?」
「直感」
「当てにならなっ」
煽って来た
俺は
「んで?
そんな彼女が、
「さぁ?」
「お前……。
「知らないんだから仕方ないだろ。
噂によると、黙認しない教師が何人かは
「それも
「だろうな。
歯牙にもかけない代わりに。
他の学校じゃ今頃、不祥事起こして、
「そうだな。
さて、と」
話も一段落したので、俺は鞄を携え、席を立つ。
「お?
帰るのか?」
「いや。
バイト探し」
「カックイー。
まぁ、頑張りたまえ」
「へぇへぇ。
情報、サンキューな」
「お代はカラオケで
「言ってろ」
そんな感じで憎まれ口を叩いてから、俺達は別れた。
※
バイト探しをしていた俺は、幾つも貼られた求人募集の張り紙と、にらめっこをしていた。
……正直、弱っていた。
ここまで沢山あるなどと露知らず、軽率だったかもしれない。
「……どれもお勧めしないでごぜぇやんすよ」
「うおっ!?」
いつの間にか俺の横にちょこんと立っていた少女。
彼女が、低いテンションと機械的な声、そして風変わりな丁寧語で、俺ではなく掲示板を見上げながら
マフラーにイヤマフ、それからニット帽、重ね着した手袋とコートが特徴的で、見るからに冷え性っぽかった。
というか、『眠れる氷の美少女』だった。
「飲食店は、ピーク時や宴会中に、スタッフ達が豹変するし。
酔っ払いが面倒臭いし。
当日になって勤務時間延長させられたり早く出勤させられたりするし、名前が書かれてなかったり。
特製カレーが市販のレトルトを温めただけだったりするし。
そもそもクレカの裏面に名前が未記入だったり、性別が判別し
そんな、傍迷惑かつ不届き千万な無法者共が多過ぎる」
「お、おう……」
「コンビニは、やらされる
夜間だとおにぎりや弁当はタダだけど飲み物は自腹だし、落としたデリカは自費で買わなきゃだし。
煙草の番号覚えるのギガ手間だし。
やっぱり当日になってからシフト変えられるし、おまけに口頭では伝えられずシフト表確認するのが億劫だし。
そもそも『揚げたてですよー』とかアピってる
「ちょ、ちょ、ちょ、待って……」
ロー・テンションとは対象的に
そんな暴露を俺が慌てて止めると、少女は眠た気な左目だけボーッと俺に向けた。
「……俺、もう少しで高校生の現役中3だから。
夜勤は無理だから。
法令的にもスケジュール的にも」
「そうですか。
失礼さーせん」
「いや。
親切に教えてくれたのは、助かったよ。
ありがとう」
「……別に。
単なる姉の受け売りなんで。
じゃあ、見ず知らずの新世代高校生さん。
オッケー、失敬、渡辺いっけ◯」
「あ、ああ……」
てか、
照れ隠しの線も
しかも、意外とお喋りってか、コミュニケーション取れてるかはさておき、話し
と思いきや突如、立ち止まり、振り向いた。
「一応、言っとくです。
激務に追われながらも、楽しくやっているみたいですので、ご安心しなさいませ」
「あ……そ、そう?
良かったね。
……て、え……?
君、『
「知ってますですか。
シンプルに意外ですますね。
あれの主流は、
「あ、ああ。
広告で見かけてさ。
隙間時間に手軽に
『
『
クオリティや種類も
そんな、最近の流行とは正反対、時代と想像の遥か上を行く強気で自由、そして少し罪悪感と不安を覚えるスタイルが絶賛話題沸騰中な、超人気会社。
今、自分の目の前に立っているのが、その社長の妹だなんて。
そんな
……にしても、
そんな
少女は俺の方にゆっくりと近付き、まじまじと見詰めて来た。
「……変わってるですね。
ここまでサキと話したがる人は、初見ですます。
大多数の人は、サキを相手にすると決まって、引くかあしらうのに。
お答えなさいです」
……ここだけの話、思ってしまった。分かる、と。
そうだろうな、と。
この子は、俗に言う天然タイプ。
こういった子を相手にするには、長年の人生経験で培った大度や冷静さ、大人っぽさ。
もしくは生まれながらに持ち合わせていた嘘偽り無い優しさ。
彼女が何歳なのかは知らないが。
人格形成の途中である少年期に、彼女の理解者を求めるのは、至難の業だろう。
おまけに、大企業の社長が姉で。
となれば。
意図的にせよ無自覚にせよ、顰蹙や反感を買う
しかも、学校生活でのあれこれだ。
あんな調子じゃあ、友達なんて夢のまた夢だろう。
しかし、幸か不幸か。
図らずも俺は、後者はさておき、少なくとも前者は、そのご多分から外れていた。
「確かに、ユニークだとは思ったさ。
それに、君の姉の偉業に、ビビりもした。
でも、そんなの関係ないだろ。
初対面で、おまけに無視して無関係であり続ける
その時点で、君自身の人となりが取れた。
どうして、
「ふーん……不思議な人ですね」
「読書経験が豊富なお
が、彼女に先回りされた。
「……気が入り変わりました」
「『気に入った』し、『気が変わった』って
「左様でござるです。
あなたを、サキのパートナーに任命しますです。
元々ここには、バイト募集の張り紙をする為に赴いたので」
「……はい?」
こうして俺は、一風変わった少女……
※
「おー、かえりー、我が妹よ。
おんやぁ。
やぁやぁ、君は誰だい? 少年。
私は、その子の姉、
んじゃ、仕事に戻るんで、バイナラー」
シワだらけの白衣に身を包んだボサボサ髪の女性が、そんな感じに一方的に挨拶を済ませ、とっとと階段を上がっていった。
……
「パイセン。
こっちです」
「あ、ああ。
って、ちょっと待った」
「待つでます。
部屋に案内しようとしてくれた
なるほど。
頼めば、きちんと聞いてくれるのか。
「あー、いやー……。
その、『パイセン』っての、
「
あなたはサキが初めて認識した、家族以外の存在、謂わば友達です。
であれば、愛称を込めたいで候です」
「その気持ちはありがたいんだけどさ。
その……下ネタっぽいってーかー……」
俺が正直に言うと、サキは押し黙った。
やっば……!
もしかして、今の発言自体が、それっぽかった!?
「なるほど……確かに。
先輩、
サキに見抜けなかった
スゲーナ・スゴイデス」
と思ったら、
この子、
と、それは置いといて。
「普通で
って。そういや、まだ名乗ってなかったっけ。
俺は、
「
じゃあ、『カイ
「 『ガイ先』じゃないのか?」
「それだと、ゲイ専みたいに」
「カイ
「承知仕りましたでござんす。
そっちに合わせたんだから、少しは汲み取りなさいまし」
「す、すまん」
「それと、サキに話す時は、最初にサキの名前を呼んでからにしておくんなまし。
そうでないと、認識
「了解。
気を付けるよ」
「シェーシェー」
……ちょくちょく思ってたけど、確かに賢い。
「で、
俺は今、どうして呼ばれたんだ?」
「カイ
「……まだ決まってないのに、俺を採用してくれたの?」
「それはそれ、これはこれです。
「あ、ああ」
……
などと不審がりつつも、俺は彼女に付いて行く。
案内されたのは、実に質素な、ミニマルな部屋だった。
意外だ。
てっきり、もっとこう、ゲームとか玩具とか
「趣味の部屋は、別に
それより、カイ
サキ達の方針を決めるです」
「そ、そうだな。
して? どんなバイトをご所望で?」
「楽して楽しく稼げる仕事なら、
「ってなっと、
「けっ。
世知辛くなったもんです」
「そこは、今も昔も、未来も変わらないと思うぞ?」
「偉そうに。
無職先輩の
「中学生だからね!?
ニートみたいに言わないで!?」
「ダイナストライカ◯(独学)の趣味・特技すら
「そもそも、
待て待て。
俺まで熱くなったら、ダメだ。
ここは、冷静に。
落ち着いて、リードしないと。
「
君はお姉さんに、コンプレックスとか、
「微塵も。
「じゃあ、それをアピってく方向で、どうかな?
楽とか楽しいとかは分からないけど。
それなら、少なくとも、目には止まり
「……確かに。
『
「『
「『
金爆みたいな物です。
実際、ロゴデザイン、
「あー……」
そういや、確かに亀だったっけ。
「じゃあ、方向性は決まったな。
次は、媒体、方法だ」
「であれば、ネットでやりますです。
それなら、手段は楽ですし」
「確かに。
顔出しはしない感じで?」
「サキの
ネットは、怖いでごぜぇますからなぁ」
「俺も賛成だよ。
てなっと、Vで攻める感じ?」
「残念ながら合成、編集力は、サキも未踏、未履修です」
「となっと、声だけか?
それでいて、リアバレ、顔バレしなさそうなのは……」
少し考え、閃いた。
取って置き、最適のアイデアが。
「
「
お教えおくんなまし」
「ちょっと待ってろ。
その前に言質……じゃない、確認取るわ」
口を滑らせたのを拙くフォローしつつ、俺はスマホで電話をかける。
『おう。
どしたー?
「突然だが、
高校生になるのを期に、ちょっと勝負しないか?」
『乗った。
で?
しめた。
よし。俺共々、安全を保証する
「どっちがより多くファンを稼げるか、だ」
※
「ん……んぅ……」
バイト初日。
仕事中に寝落ちした
良かった。
やはり、
「よぉ。
よく眠れたか?」
「カイ、
俺を見て思い出したらしく。
ベッドで熟睡していた
「バイトは?
どうなったですか?」
行動の勢いの割にクールな調子で、
俺も、平静を装い答える。
「どうにかなったよ。
君の
「そう、ですか……。
……ありがとうございます、カイ
「俺じゃなくて、
俺はただ、
「それは、後でします。
でも、今は……カイ
「そっか。
んじゃ、素直に受け取っとくよ。
悪い気はしないんでな」
「はい。
どうぞ差し上げます、持ってけ泥棒です」
どうやら、調子も戻って来たらしい。
が、だからといって、ベッドから降りようとするのは、
「待て、
少しじっとしてろ。
何日か、寝てなかったんじゃないか?」
「そうですけど……感謝は、態度で示さないと」
「気持ちだけで充分だ。
君みたいな
「それは、まぁ……サキは
それとは別に、カイ
「だったら、俺の
「……その言い方……卑怯です。
カイ
ズルパワフルは、柿◯さんとサキだけの特権、専売特許です」
「誰だよ、◯原さん。
まぁ、
今は、休んでくれ?
お・れ・の・た・め・に。な?」
「……仕方ないです。
でも、今に見てろです。
いつか、倍返しに致しますです」
「怖いな」
俺は、その体に布団を掛け、
すると、子供扱いが不服だったのか、
割と元気だな、この子。
「……お腹空いたです」
「何か買って来るか?
「カイ
カイ
何か作れです」
「あー……そういう感じ?
それは無理だな。
俺、生まれてこの方、料理した
っても、親もだけど」
「……そんなへっぽこステータスで、彼女欲しいとか二言目には言ってたんですか?
あれですか? 付き合ったら、家事は相手に押し付ける感じで?
だとすれば、老害極まれりで幻滅亡迅◯です」
「
勉強しないとは言ってないだろ?
ちゃんと、するさ。
付き合う
「結局、恋愛絡み……。
これは、望み薄ですね……。
分かったです。じゃあ、サキが作って来るです」
「だからぁ。
君は、じっとしてなさい」
「……今、子供扱いしやがりました?」
あ、あれー?
いつの間にか、窓が開いてたかなー?
「し、してない。
な? 頼むから。
飯なら、
「ちょくちょく思ってましたが、カイ
雑に扱われて、羨まけしからんです」
「
あと、あいつはこの
どうせ大した出番も
「
などと話していたら、スマホが通知を知らせた。
『おっす。
そろそろ
お姉さんから許可取って、有り合わせで軽食作っといた。
台所に置いといたから、適当に食べとけ。
感謝しろよ?』
「……
俺があいつを雑に扱う理由を今、確信した。
あいつが
「……みたいですね」
「んじゃ早速、取って来るわ」
「じゃあサキは、ちょっと喋って来るです」
「それが
「はいです」
二人でスマホの画面を見た
用事を済ませた
悔しいが、
あいつが作ったとは信じ難い
「で?」
食事と後片付けが済んだタイミングで、俺は思い切って切り出した。
「
「……」
しかし、やや経ってから、往生した顔をした。
「年貢の収め時ですね。
白状するです」
神妙な面立ちで、
「ーー不眠症なんですよ。
サキ」
想像以上に、重い一言を
「……どういう、
「読んで字の
サキは、不眠症なんです。
っても、『寂しがり屋であるが
って意味ですが」
「あー……」
そういう
言われてみれば、それらしい節は
「……その……。
……ご家族、は?」
「両親は、仕事で、ほぼ家に
なので、今までは姉が、サキに付き添ってくれました」
「けど、
「ええ。
ご覧の通り、今は忙しくしてて、家にも大して
て言っても、
クラスメートか校医の先生が
そこまで問題は
しかし……」
「事情を話しても理解して
おまけに、春休みが始まり、学校で眠れなくなった……?」
「その通り。
結果、この
ざまぁとしか言えませんね」
「そんな
立ち上がり、否定しようとする。
が、
「……
元々、どうにもサキは、
サキが
それだけで
サキは自ずと、趣味、好きな
周りを筆頭に、色んな
サキ自身の存在すら、忘れかけました。
だからサキは、『サキ』って言うんです。
どんなに変人で、どんなに嫌いで、億劫でも、憂鬱で退屈で鬱屈で屈折してようと。
せめてサキは、サキだけは、サキを忘れない
サキの、味方である
……知らなかった。
単なる、小生意気な
まさか、そんな悲しい秘密が隠されてたなんて。
「……そんな
生きてるなんて口が裂けても言えないまま。
何となく適当に気分でダラダラ過ごして来たツケですね。
気付けばサキは、満足に寝ることすらままならないまでに、精神的に追い詰められてしまいました。
一緒に寝てくれる、抱いてくれる、枕になってくれる人さえ作れなかったのも、姉の仕事を了承したのも、他ならぬサキですから。
別に、生きる理由も、産まれた理由も
サキは……サキの命には、先が
そう、
きっと、本心から。
実に容易く、
「……」
俺は、無言で窓を開けた。
深呼吸し、外の風で頭を冷やしてから、クールに言う。
「……言わないでくれよ。
そんな、悲しいだけの
「仕方ないですよ。
事実なんですから」
「だったら。
君の知らない事実を。
それを上回る、上書きする
ベッドの前に座り、
「君に無関心なクラスメートとか。
噂だけで君を悪し
頭でっかちな教師とか。
そんな連中なんて、知るか。
少なくとも俺は、いつも君を思ってる。
ふとした拍子に、君の
大切に感じてるし、一緒に
振り回されるのも何だかんだで悪くない。
俺は今……切に、心から願ってるよ。
君に
産まれて来てくれて。出会ってくれて。
ありがとう、って」
「……カイ
空虚な
渇き切った、枯れ果てた
俺は、彼女を優しく抱き締め、
負けないでくれ。
一緒に、
「
君は
誰が、いつ、どこで、誰と、何で、どうやって見ても。
決して、一人なんかじゃない。
仕事に追われながらも、絶えず君を案じる、君を糧に、理由に、生き甲斐に一生懸命、働いてる、家族が
友達の知り合いってだけで、君不在の穴を埋め、君を憂い料理までしてくれる、
そして……大して取り得の
でもさ……こんな俺だからこそ、君が必要なんだよ。
生きる意味が、生まれた意味が
俺が生きる、生きてる、生きて行く
これから先、君と俺が、どんな形、どんな関係になるかなんて、分からないけど。少なくとも、一緒には、
そんでいつか、俺に言ってくれ。
君の生き甲斐で、
君が、生き甲斐で良かった、ってな」
「世界に……反旗を翻そうってんですか?
主戦力が二人だけの、たった六人の弱小ギルドで?」
「もしそれが実現したら。
面白いと思わないか?」
「最っ高ですね」
袖で目元を拭い、
どうやら、もう平気らしい。
一安心していたら、またしても
画像?
「……ふっ」
見た瞬間、思わず吹き出した。
あいつ、
「カイ
「
君、コメント欄、目ぇ通したか?」
「ご冗談を。
誹謗中傷で溢れ返ってるに決まってるのに」
「じゃあ、これ見ろよ」
俺の相方……
それを、証明する
『妹ちゃん、やるじゃん。
七光りとかじゃなく、ちゃんとゲームが好きだったんだな』
『惜しかった!
もっと妹ちゃんの声が聴きたかった!
次もゼッテー来る!』
『妹ちゃんなんて言い方、失礼だわ。
会社とか
『今日から、ここをキャンプ地、
是非とも、また楽しませくれ!』
そんな感じの、暖かいコメントを残し、ファンになってくれる人達。
延べ、千人。
これを快挙と呼ばず、
「あ……あぁっ……」
震えながら、俺のスマホを求める
俺は、彼女の手にスマホを収め、しっかりと握らせる。
「……カイ
「ああ。
喜べ。
しっかり、噛み締めろ。
そして、誇れ。
君が
記念すべき、この瞬間を」
「〜っ!!」
ボサボサな髪がブワァッと揺れ、額を、両目を、両耳を出しながら、彼女は叫ぶ。
「……見たか……!
見たかぁ!!
サキに無関心だった世界!
レイドで、サキに常にソロ強いて来た、分からず屋、唐変木の世界!!
……サキには……!
……サキには、一千人の部下が、ファンが、家族が、
サキにはぁっ!!
不器用で、恥ずかしがり屋で、頼りなくて、甲斐性も
誰よりも優しくて、強くて、
いつもサキの
……大好きな、カイ
サキはぁっ!!
今の、サキは、百万馬力っ!!
……無敵、だぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」
溜まりに溜まったストレスを、捌け口を失った蟠りを、一気に発散させる
そんな、嵐の
すっかり荒くなった息を整え。
晴れ晴れとした面持ちで、
「一喝、活を入れて、してやったりです。
サキに理不尽ばかり強いる、底意地の悪い世界に」
「でかした。お疲れ。
ただ、その……俺、買い被られてない?」
「うーん……ちょっと盛り過ぎたかもですます」
「正直に言うな。
否定しろ」
「カイ
「君には、言われたくない、なぁっ!!」
ひと仕事終えた
「ところで、
「単なる推測ですよ。
サキは趣味に没頭して生き急いでる刹那主義者。
ショート・スリーパーなのを
我ながら、寿命が短そうだなって。
ただ、それだけです。
別に、不治の病とかじゃないです。
まぁ、精神的に病んでアンニュイではいますけど」
「なーんだ、そうか……。
安心した。
それなら、
「
髪を
「今日から俺は、君の生きる理由、生まれた理由で。
君が生きる
俺が
確約するよ」
「カイ
……光栄です」
「俺もだよ」
「だから、その、あれだ。
もう、他の人に、変な
ほら、その……『寝てください』とか、そういうの」
「
カイ
「……あのさ、
芸能界に興味とか、
「
「だよな。
じゃあ、次の質問。
赤ちゃんの作り方、知ってる?」
「
まぁ、サキは寛大ですしぃ?
カイ
伝授して差し上げるのも、
「どぅぉ〜しても知りたいから、頼む」
「コウノトリですよ」
「軽いなー、引っ張った割にー」
そして案の
いや、当たってもいるか、予想は。
そう言や、
確か、『副教科はサボってる』って。
つまり……そういう
……
この際、はっきり説明しといた方が無難か。
これからの
「……
実はな……」
俺は、
今まで
結果。
「……カイ
今まで、お世話になりました。
先立つ不幸を、お許しください」
「許さんから、先立つな」
「離せですぅ!
サキは、もう死ぬですぅ!
サキが痴女とか、
「どーどー、
な? これからは、きちんと副教科も、勉強しような?
こういう
「うがぁぁぁぁぁ!!
やっぱり世界なんて、嫌いだぁぁぁぁぁ!!」
その後、どうにか抑え込み、
「……平気か?」
「平気なもんですかぁ……。
恥ずか死にそうですぅ……。
サキは、断じて痴女じゃないですぅ……」
「大丈夫だ。
俺が証人だから。
それに、これからは俺が
「ですけどぉ……。
やっぱり、まく……じゃなくて、抱き枕は
「それは、まぁ……」
他者が
ぐずつく彼女を、どうにかあやしたい所だが、果たして……。
「……名案、思い付いたです」
俺が脳細胞を動かしている内に、ふと
「
「ええ。我ながら、自分が怖いです。
完璧です。
サキの抱き枕を増やす。
カイ
カイ
これらを全て、同時に満たせる解決策を、キラッとピカッとチカチカッと閃きました」
「最後だけ分かる上に少し不安だが。
どんな策だ?」
「ふっふーん」
得意気な顔をしつつ、
「
たった今から、あなたを、サキの兄にも任命するです」
「……はい?」
※
最近、『ソフレ』という言葉が
これは、『添い寝フレンド』の略称。
つまりは、『恋人には該当しない、添い寝するだけの男女関係』の
男女がソフレを作るのには、
概要を説明した所で、本題に戻ろう。
「ありがとねぇ、サキちゃん。
「母さんの言う通りだ。
それに、掃除や洗濯までしてくれるなんて。
「マジカル違う。
今は、サキじゃなくて、
「彼女については、否定しないのねぇ」
「そ、それは、カイ
そ、それより、
マジカル問題
「
ママで良かったら、いつでも一緒に寝ましょ?
あ。でも、パパと眠りたい時は、ママも呼んで、布団は別でね?」
「そうだな。
それは大事だな」
「マジカル委細承知」
まぁ……こういう
今日から
ドア越しに、キッチンでの会話を盗み聞きする。
良かった。
どうやら、
にしても、驚いた。
まさか、住み込みで、我が家の家事担当を買って出てくれるとは。
俺の家族なら、
「
「そうだぞ。
「……じゃあ」
両親からの言葉を受け、
「今日から、二人の
呼んでも、
サキのママとパパも
二人は、サキの両親より、少しだけ。
あー……いや、あの、
じゃなくて、
それ今、
「
どんどん呼んで
ママ、ずっと女の子が欲しかったのよ♪
こんなに優しくて
これから、
「か、母さん。
気持ちは分かるが、落ち着いて。
それから、
「マジカル、了解……。
マジカル、苦しぃ……」
ほらぁ。言わんこっちゃない。
いや、言ってないけどさ。
家の親、俺の『彼女
『娘が
で、実際に
そりゃあ……溺愛するわな。
「しかし、
サキちゃんのご両親が、お冠じゃないのか?」
「今のサキは
それに、構ってくれない親なんて、マジカル知らない」
「ダメよぉ、
お二人だって、好きで
「だとしても……。
やはり
「そこは譲らないのね♪ 健気ぇ♪」
「だ、だから、ママ上……。
ハグは、マジカル苦しぃ……」
やれやれ。
先が思いやられる。
でも、まぁ……悪くはない、か。
「これから
……いや。
向こうに
「ところで、
そんな所で盗聴なんて、マジカル悪趣味」
「いつから
てか、バレバレ!?」
「
罰として、
今から
こっちでも
分かったら、とっととマジカル用意」
「か、畏まりぃっ!?」
「ところで。
ママ上
いや、当たり前。
下には付けない」
「
……マジでやってけるのか? 俺。
※
そんなこんなで始まった、
あれから一年が経ち。
そして。
「あ、あの……
何してるのかな?」
「
「
「
「ですよねー」
いや、まぁ、分かっちゃいたけどね!?
ていうか、こうなるって、思ってたけどね!?
デート初日ですら、こんなですか!?
「それより、
さっさと起きて、ご飯食べて、バイトするべし。
時間がマジカル勿体ない」
「それで
「構わない。
その
「……
了解。すぐ着替えるよ」
「
「
「……
「ここでそれ言うのは、違わないか!?」
「……あの女には、させてる
「あれは、
「なら、起き抜けで寝惚けてる
「どんな極論!?
「
「そ、それは、その、
……
未だに言っても聞かないので、強制的に追い出す。
すっかり妹らしくなったもんだ。
もうちょっと、こう、恥じらいというか、
「あらぁ?
どうして、泣いてるのぉ?」
「うー。しくしく。
ママ上。
「
ちょぉっといらっしゃーい。
一秒遅れる度に、
「ボロ儲け。
棚ぼた。
臨時収入。
=よっしゃよっしゃわっしょい」
「
今日も今日とて、後輩で妹の
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