〈Ⅲ〉騒嵐(そうらん)の明日(みらい)
〈1〉母神家 結織とフツウの一日
それは、
言語化なんて
それでいて、共感はきちんと得られそうな。
そんな、よくは分からずとも、
「ねぇ。
起きて。
起きてくださーい」
これから一年お世話になる教室にて仮眠を取っていた俺は、誰かに呼ばれた。
甘く、優しく、暖かく、透明で、綺麗で、それでいて親し気で、どこか懐かしい。
聴いてるだけで
そんな、とても魅力的、素的な。
まるで思春期男子の理想を絵に描いた
そんな、全部乗せの声だった。
「……」
寝惚けていたからか、
その事実は最早、定かじゃない。
けど……この時、俺は確かに、強く願ったのだ。
声の主が知りたい、と。
きっと、この声に
誰もが焦がれ憧れ胸を打たれ。
無条件、無抵抗、無防備に恋に落ちる女性だと。
伏せられていた瞼を開け、俺は答え合わせをした。
瞬間、己の男としての直感は
同時に、またしても奇妙な気持ちに包まれた。
目も頭も心も間違い
この日からクラスメートとなった、
彼女は初対面の時点で、それ
※
「エイくん?」
彼女は、あの時
目と鼻の先としか呼称し
寝起きに突然に端正な顔立ちを見せ付けられ。
余りの展開に動揺し飛び上がり、そのまま壁に頭を打ち付けてしまった。
「え、エイくん!?
だ、
「あ、ああ……」
心配させているのも悪いので、
たんこぶなども
「……
世話をかけて、悪かった」
強がらずストレートに伝える。
しかし
「
「へ、平気だ。
いや。
やっぱり、訂正させて
全然、
ピンクと白のバイカラー。
ハートとリボンが特徴的な桜色のキーネックレス。
同じく二色で構成されたリボンベルト。
フェミニンなオフショル仕様。
シースルーによるイレヘム効果で、ミニにも見えるロングワンピ。
これまで
どう見てもガチな衣装を纏う
俺は、深くにも息を呑んでしまった。
「あー、これ?
……お気に召しました?」
「あ、ああ。
「えへへ。
嬉しい。
ちょっと頑張っちゃった。
コンセプトは、ズバリ。
『心を、解いて、開けてみて?』。
……です。
似合って……ますか?」
「最高です!!」
味を占められて連発されても困るので伏せておく。
あと、意味深に胸に手を当ててるのが、コケティッシュで素晴らしいです。
「ありがと。
でも、そんな
などと添えつつ、
「
「あははっ。
「きょ、今日は普通!
普通の、日だから!」
「あっ。
いっけない、忘れてた。
ごめんねぇ。
つい素が出ちゃったぁ。えへへ」
はにかみながら舌を出し、頭を小突く
心臓が……心臓が、ヤバい。
保たないどころか、一個じゃ足りない……。
「ところで、エイくん。
まだ頭、痛くない?」
と、
お
「問題
リラックスさせる
自分で言っときながら、一蹴か既読スルーされるのも応えるなと勝手な気持ちを抱き、訂正しようとする俺。
「……失礼します」
が、それより早く、
しかも、より強く、近く抱き締めた状態で。
伝わる鼓動、そして気持ち。
当たってしまいそう、見えてしまいそうな胸部。
起こしに来てくれた相手を不安がらせてしまった、という体裁の悪さ。
それらに作用され、気付けば赤面したまま、目を逸らしてしまっていた。
などと油断していたら。
俺は、
ベッドの上で、異性に、俺は押し倒されていた。
「えと……
「……心配したっ。
だからっ……」
「……『だから』?」
その顔は、仕返し心ではなく、悪戯心で満ちていた。
あ、あれ?
この流れ、前も
具体的には、
「エイくんを……全力擽りの刑に処するぅ♪
コーチョコチョコチョコチョ〜♪」
「や、やめ、あははっ!
ちょ、まっ、不味っ、いはっ!
いや、マジで不味い、ヤバいからっ!?
止ぁぁぁめぇぇぇてぇぇぇぇぇ!?」
こうして俺の体は数分間、
今日は……今日は普通の日なのにぃ!!
言ったのにぃぃぃっ!!
※
「……問題、無しっとぉ。
もぉ。これからは、もうちょっと
って……いきなり私が部屋に入って来たのが、原因だよね。
ごめんね? エイくん」
「い、いや、そんな!
こっちが
こちらこそ、すまん!」
「そぉ?
じゃあ、お互い
改めて、おはよう、エイくん」
「あ、ああ。
おはよう、
まさか
「私だって。
まさかエイくんが、ここまでリアクションしぃだなんて、知らなかったよ」
二人揃って苦笑いした
まるで、先程のトラブルなんて、吹き飛ばすどころか、最初から
「気を取り直して。
早速だけど、エイくん。
今日のデート、
プラン。ちゃぁんと、
「あ、ああ。
ここに」
ベッドの上に置いていたメモ用紙を手に取り、
……ところで
「では、失敬」
一言、少し
別にそんな、大した内容ではないんだが……。
「ん?
なぁに? エイくん。
そんなにジーッと見詰められたら、
私としても、気になっちゃうんだけど……?」
「へ!?
あー、いやぁ……。
……すまん」
「あははっ。
変なエイくん」
穴の空く
照れ笑いする
それでいて追求はしないでいてくれたのが、実にありがたかった。
「買い物に、カラオケ、お家デートで映画。
恋人同士ってよりも、家族みたい」
「だ、
「ううん。
私も、こういう、肩肘張らなくていい感じの、好き。
それに、エイくんが
そう言いつつ、愛おしそうに、大切そうにメモを抱き締める
大袈裟な気がするが、喜んでくれたのは素直に嬉しいし、拗ねる予感がしたので、
「それじゃあ、早速だけど。
身支度整えて
朝ご飯済ませたら
少しでも早くエイくんの私服が見たいから。
私としては、僭越ながら。
エイくんさえ良ければ、もうデート服に着替える
「え?
……作ってくれてたのか? もう?」
「うん♪
っても、仕込みは先に済ませてたから、温め直して盛り付けただけだけどね。
あははっ。お恥ずかしい……」
「そんな
ありがとう、
助かるよ。
「どういたしまして。
お褒め預かり、
「……すまん。
俺、そんなに大した人間か?」
「少なくとも、私にとってはね。
それに、ユウ先輩や、キヌちゃんにとっても」
「だと、
……ん?」
そういえば、
いつもなら、
「あー。
キヌちゃんなら今、お義母さんとお義父さん、先輩と一緒に、遊園地に行ってるよぉ。
商店街の福引でチケット当たったから、プレゼントしたんだぁ」
「
てか、完全に厄介払いじゃないか!
「
普段から贔屓にして
具体的には、『お勉強しなくて
いやぁ。気前
「
一体、何連したんだ……?
同情を禁じ得ないな、商店街の人達……。
「むー。
そういうの、
ほらぁ。時間が勿体無いから、早く着替えてってばぁ。
それとも……エイくんは、そういうのが好み?」
「な、何が?」
「だからぁ。
だらしない
……とか?
もぉ。早く言ってよぉ、
そういう
「あー、早く着替えたいなぁ、自分で自分だけでぇ!
すまん、
少しだけ、外で待っててくれ!」
「ちょっ……」
そのままドアを閉め、鍵を掛けた。
「ちょっとぉ。
ここまでしなくても、よくなぁい?」
「君はもう少し、思春期男子の複雑な心を理解してくれ!」
「何それぇ。
ふんだ。
今の内に、エイくんのご飯にだけ、悪戯しちゃうんだからぁ。
さーてとっ。
やっぱり、定番の山葵かなぁ?
それとも、辛子……?
あっ。ハバネロも有りかも?
ねぇ。エイくんは、どれが
「全部、
頼むから、大人しくしててくれ!
「なーんだ。
「分かった!
話し相手にはなるからっ!
で、
しかも、パッと見で分かる
どうやって賄った!?
「誠に勝手ながら、エイくんに着て
あ。お金は、キヌちゃんがノリノリで払ってくれたよー。
「あの子、色々と便利だなぁ!?」
「さて。ここで問題です。
私が選んだのは、三つの内、どれでしょう?
さっ。頑張って、私の心を見抜いちゃおー♪」
「
勘弁してくれぇっ!」
「どーしよっかなー♪
あははっ♪」
「
ねぇ、
俺、
※
「うん。
思った通り、似合ってる。
「あ、あはは……。
当てられて
食事を終え、スーパーに向かう道すがら、後ろで手を組み軽く前のめりになりながら、満足そうな
対する俺は正直、安堵こそすれど、そこまで得意気ではなかったりする。
それはそうだ。
と、アイドルが着てそうな白と金の煌びやかな衣装だったのだから。
なんてーか……分かり
あと、ダメージジーンズは、ちと恥ずかしいな。
「と、ところで、
結局、俺の朝食に、
「んぅ?」
「いや、その……
「一杯、注いだけど?
愛憎♪」
「言い間違えだよな!?
せめて『愛情』って言ってくれないか!?」
「あははっ♪
冗談、冗談♪
焦ってる、焦ってる。
俺をイジり、ナデナデしながらも歩を進める
器用だなぁ、
「ねぇ。
エイくんて、そんなに
「『ナデナデし
「なぁに? それ。
私の
不合格でーす。
やるなら、もっとお勉強して来たまえ。
罰としてー」
不意に、肩に
え、待って?
これ、あれだよね?
流れ的に、一つしか
ぎゃー!
手、手ぇ!
今度は手ぇ触って来た、ぎゃー!!
「
うり、うり」
俺の右手をツンツンし、そのまま
や、やばい、どうしよう……。
マウントまで
「ゆ、
そんなに首を傾けてたら、疲れるんじゃないかな?」
「お気遣い
参った。
どうやら、止める気は皆無らしい。
このまま、スーパーまで行くとしよう。
※
「お待たせー。
ごめんねぇ、待たせちゃって。
先に入れててくれて、ありがとぉ。助かっちゃったぁ」
「いや、全然。
帰ろうか」
「そうだね、旦那様」
「違いますけどぉ!?」
「あ、そっか。
もう、パパだもんね」
「だからっ!
お腹擦るの
「むー。
わがままだなぁ。
じゃあ、帰りましょうか。
あ・な・たっ♪」
「
(俺の母から預かっていた分で)支払いを済ませた
と同時に、振り回され過ぎて泣きそうになる。
いや、
変な噂、されなきゃ
『只今より、お肉、お野菜コーナーのタイムセールでーす』
「お?」
カートに乗せて運んでいる最中で、そんなアナウンスが聴こえた。
あちゃー。
ニアミスっちゃったかー。
「惜しかったなぁ、
まぁ、
て……
あ、あれ?
そんなに重かったっけ?
しかし、
な、
「……」
目を開け視認し、理解した。
いや……おかしくない? ちょいちょい思ってたけど、
え? これ、どうすれば
「ゆ、
ほらぁ。そろそろ、帰りましょー?
ねー?」
「
帰らない。
まだ
「スポ根かバトル漫画みたいな
ほら、駄々こねないで、ね?
帰りましょ? ね?
「『
違うよ?
私、
仮にもエイくんを預からせて
これじゃあ、エイくんを引き取らせてなんて
「大丈夫、大丈夫だから!
ねぇ!? 頼むから!?
迂闊だった。
恋愛物を嗜んでいたのなら、熟知している
この言葉の重要性、危険性、利便性なんて。
「……」
「ゆ、
今度は
何事か、と思いきや。
「
やっぱり、縛る系かなぁ♪ 紐とか、手錠とかぁ♪
あっ♪ そうだ♪
服破り〜、目隠し〜、
首輪〜とリボン〜で、飾り〜付け〜♪
ラッピングしたら、箱入れて〜♪
私だけの、
満面〜
えんえん泣いても、永遠に〜♪
出してなんて、あっ……げっ……な〜〜〜〜〜いっ♪
「あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
「あ♪
別に『今日だけ特別に』とか、言ってないもんね♪
私の見込んだ通りの、ドジっぷりだね♪」
「
実に明るく楽しそうに、義理ソフトSな範囲の歌を、ミュージカルばりに歌唱する
案の
※
「もぉ。
エイくんぅ。ごめんってばぁ。
確かに、ちょぉっと、おイタが過ぎたけどさぁ」
「ちょっとかなぁ!?
なぁ、ちょっとかなぁ!?」
帰宅しても
当たり前である。
こっちは
これは、怒って
「だから、ごめんって。
ほら。
代わりにこれ、あげるから」
そう言って
「……
「それは、観てのお楽しみ♪
今で
その間に、お昼ご飯作っちゃうから♪
あ♪ 是非とも、大音量で聴いてね♪」
「……分かった」
腹の虫が収まらないが、渡された以上は、きちんと観る義務が
こうして俺は、
が。
『あなたの心の特効薬♪
白衣の堕天使ユオリちゃん、降臨〜♪
今日はぁ、私の主題歌を作っちゃいましたー♪
一緒に、歌って、踊ってねー♪
今日もあなたを、幸せに突きオトしちゃうぞ〜♪』
「なっ……!?」
画面の中に
え?
ぎゃんかわなんですけど?
何この天使。
何この天使!?
わー。
あっ。
ダンスも
スカート、めっちゃ短いー。
やっばー。
今の。
今の、こう、胸の前でギュッてしてるポーズ、めっかわー。
足上げてハート作ってるのも、
『
楽しんで
私の動画で元気になれた人、手を挙げてー♪』
「はぁぁぁぁぁいっ!!」
『うん♪
とっても、よく
でも、ごめんね?
そろそろ、お別れのお時間みたい』
「嘘だぁぁぁぁぁ!!」
『寂しいって?
先生もだよ。
でもね。
離れてても、お姉さんと
また元気になれるし、友達になれる♪
だから、ぐすっ……ユオリの
「忘れるかっ……!!
忘れて
「うん♪ 先生も、忘れないよ♪
それじゃあ、次回の動画で、元気に、健やかに、お会いしましょう♪
せー、のっ♪ バイバ〜イ♪』
「バイバァァァァァイ!!」
……ええ。
でもさぁ……コンセプト全否定なのを承知で、言わせてくれよ。
これ、誰が抗えるの?
おい、どいつだ?
「ナース
「ヒーローショーのお姉さん気取りかよ」
とか今ほざいてたの。
細けぇ
「ぐっ……」
突如、今まで感じた
俺の心が、本能が、特効薬。
ユオリちゃんを、欲しているのだ。
「は、早く……。
早く、ユオリちゃんを……。
摂取しない、と……」
禁断症状を起こしながら、必死に体に言い聞かせ、改めて再生しようとする。
と思ったら、勝手に映像が映った。
え、 続き!?
フォォォォォ!!
「あーっ!!
ユオリちゃ〜ん!!
「お褒めに預かり、光栄です♪」
……。
「……いつから、後ろに?」
「うーん……少し前かなぁ」
「……ずっと、見てた?」
「それはもう、バッチリ♪
いやぁ。
思った以上に喜んでくれて、嬉しい限りだなぁ♪
あははっ♪」
「……」
え、ヤバくない?
どうしよう、この空気。
「
そんなに固まらなくったって。
私がプレゼントしたんだし、悪びれなくても
「い、いや……。
確かに、そうなんだが……」
「そっか、そっかぁ。
そんなに私が恋しかったかぁ」
後ろで腕を組み目を閉じ、見るからに上機嫌な
彼女は、俺の目の前に立つと、上目遣いで質問する。
「ところでさ、エイくん」
「な、何かな?」
「エイくんは、私に夢中だよね?」
「ま、まぁ……そう、かなぁ?」
「ふーん。
はっきりしないんだ?」
「間違い無く完膚
「へー、そっかぁ。
私の
「イエス、マイ・マム!!」
「あははっ♪
もっと
ねぇ、ねぇ」
「
「んー?
お・し・え・て♪」
「
「分かればよろしいぃ♪
素直な子は、好感持てるなぁ。
さてと。そうと分かれば」
キラキラした視線から一転しハイライトが消えた瞳を恐れる
それに満足したのか、
『……
3秒以内にお応えなさいませ。
それと、断っときますが、敵に施しなんざ受ける
い、
てか、スピーカー!?
「
そんな
てか、遊園地チケットは施しに入らないの?」
『あれは、部員からのささやかなプレゼントと受け取っております
「お口が達者だね。
まぁ、もっとお喋りしたかったけど、分かった。
端的に言うとさ……キヌちゃんって、
「ゆ、
悪寒を覚えた俺が、間に入って止めようとするも、口元に人差し指を当てた
あ。
これ、従わなかったら、料理も状況も
すまん、
腰抜けな偽兄を許してくれ。
『……
てんで話が見えて来ませんですよ?』
「別に、変に構えなくて
ただ敬意、感謝の意を評したいだけだから」
『敬意に、感謝?
なぜ、あなたが、サキに?』
「だって。
エイくんの命と体を今日まで
私、
あなたがいてくれたお
あなたがエイくんに、この一年、美味しくて健康的なご飯を提供し続けてくれたから。
そうでしょ?
だったら。これまでエイくんを育ててくれたのは、キヌちゃんと言っても、過言じゃないんじゃないかな?」
『中々、分かってるじゃありませんですか。
そうでやんす。
サキは、カイ
サキが
カイ
「
私からも言っとく。
それで、本題なんだけどさぁ」
あ、ヤバい。
半音が出始めた。
「あなたが費やし、尽くし、培い、積み上げて来た努力、エイくんはさぁ!!
私の物になっちゃったよぉ!!」
あぁぁぁぁぁ!!
ほらぁ!!
やっぱり、こうなったぁ、上げて突き落としたぁぁぁぁぁ!!
こんな風にしかならない気がしてたんだぁ、もぉぉぉぉぉ!!
『……!?
な、
「エイくんねぇ。
私の
『もう、
『
『
だってさぁ♪
困っちゃうなぁ、もぉ♪」
い、言ってない!
そこまでは、断じて言ってない!
そもそも、誘導尋問だった!
『嘘だ……!
サキを騙そうとしてる……!
カイ
嘘だ……嘘だ、そんな
「あ〜れれ〜?
おかしぃぞぉ〜?
いつもの、色々と緩い敬語は、どうしたのかなぁ?
ネタも中途半端になってるしぃ。
そんなに動揺しちゃって、
『……〜っ!!
いっ、
サキが、自分で確認するです!』
「いっけなぁい。
もうお昼ご飯の時間だぁ。
ごめんねぇキヌちゃん、付き合わせちゃってぇ。
こっちの
私も、存分にエイくんと、しっぽりずっぽりがっぽり楽しませて
あー、そうそう、エイくぅん。
食事中は、スマホの電源は切っとくのが、
悪いけど、今日だけは我慢して従ってねぇ♪」
『きっ……さまぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!』
そのまま
「あーあ♪
キヌちゃんイジり、楽しかったぁ♪
さぁ、エイくん♪ ご飯にしよぉ♪」
「……」
……ヤバい。
もしかして俺、とんでもない地雷っ子と、恋仲になろうとしてるのかもしれない。
俺がガクブルする中、鼻歌交じりにダイニングに向かう
しめた。
いつ
「も、もしもし?
『せ、先輩ぃ……。
サキは……サキはもう、お払い箱、ですか……?
サキ……もっと先輩と、一緒に
もっと、ご飯作ったり、お話したり、ラジオしたり、ゲームしたり、お布施したいです……』
「お布施以外は大歓迎だ。
お金は大事にしろ。
元は俺の小遣いだった分も混ざってるしな。
それと、
不摂生で自堕落な生活から開放し、俺を今日まで生かしてくれたのは、他でもない。
と、ところで、
今、どこだ?
周りに、母さん達や
『い、いえ……
今は丁度、ゲーセンの、防音完備の個室で大声測定の
お
「そ、そうか……」
……
まぁ、
不幸中の
ここら辺の機転の良さは、さしもの
何はともあれ。
お
そして、
……良し。
どうやら丁度、最後の仕込みの真っ最中らしい。
「
今から兄ちゃん、ちょっとアレな
一度しか言わないから、よく聞いてくれ。
あと、少しでも引いたら、教えてくれ。
『そんな愚の骨頂みたいな
……はい。
準備、
ヘビロテしますからね?
撤回とか撤去とか消去とか、
あと、ご存知とは思いますが。
サキの愛用する最新型ヘッドフォンは、微小な音も正確に捉えますからね?
今、音量最大にしてるんで、叫んだりするのは勘弁願います。
そんで、これから
でも、
ちゃんと起きてるし、聴いてるので、油断大敵、鈍感厳禁です。
それと、カイ
さんざ期待させて、その気にさせて、興醒めさせるのも、言語道断ですよ?』
「あ、ああ。
応えられる
じゃあ……行くぞ?」
『……どうぞ』
大見得切った手前、一旦、深呼吸する。
と同時に、
そう言えば、この子、吐息系のボイスドラマとか好きな声フェチだったっけ。
「……
お前が
お前のご飯が、笑顔が、応援が、長文が、『マジカル起きて』が、自由な敬語が、メタいネタが。
……
俺は、際限無く、お前が
俺には、お前が必要不可欠だ。
サキってばマジ最強、サキ強、最カワ、マジ天使」
なるべく照れない
すると、『もっと。』と、文章で催促された。
俺は改めて周囲を再確認し、覚悟を決める。
ええい……ままよ!
「
ここだけの話な?
これは、他の誰にも、くれぐれも秘密にして
正直、俺は、お前の料理の方が、
『どれ位ですか?』
「い、
『
「初めてだからだよ。
外食以外で、あんたに美味しい食事に有り付けたのは。
お前がどう思ってくれてるのかは知らないが。
我が家の味はもう、
てか、はっきり言って、そこら辺の飲食店なんか目じゃないレベル。
うまい鮨◯クラスのだよ。
しかもさ?
日本広しと言えど、それを独占してる高校生は、俺だけだ。
お前のお
しーん……。
あ、あれ?
やっぱ、やり
『……カイ
もう
ご馳走様でありんす。
お
不安がっていたら、いつもの調子に戻った
どうにか、難は逃れたか。
「そ、そうか。
『さいでますか。
サキにこんなに愛されるなんて。
後にも先にも、カイ
「健闘はするよ。
『左用でがんす。
じゃないと、罰当たり、サキ当たりです。
サキは、平坦で平凡な人に仕えたまま一生を終えるなんて、真っ平ごめん被ります。
それにしても
あんなに簡単純なのに
やっぱりカイ
「そうだな。
ところで、
また
先輩にも、そう伝えといてくれ。
っても、そんな
『
サキはもう、カンカンマンタンガ○です。
でも、カイ
カイ
「なぁに、問題
『
とでも釘刺しとくわ」
『……なるほど。
確かに、それなら効き目がありそうでございますです。
しかし、こう……ヤキモキしますです。
カイ
女性の扱い、妙に手練てるです』
「ま、まぁ、付き合いは長いからな。
それに、ほら、ギャルゲーとかやってるし」
『フィクションとリアルは、似て非なる物なんですが……。
まぁ渋々、納得してあげますです。特別ですよ?
盛大に感謝しなさいまし』
「無茶言うな。
これ以上、どう感謝しろってんだよ」
『それは、サキの管轄外、サキの知る所ではないかと』
「こんにゃろめ」
相変わらず、小生意気でダメ
いつも通りになって、一安心だ。
そんなこんなで、
「
「おわぁっ!?」
意表を突かれた拍子に、スマホを放り投げてしまう。
予測済みだったらしく、
そのまま有無を言わさず電源を落とし、物申さぬ機械へと変貌させられ、没収される。
「さて、と。
ご飯が
「あー、いやぁ……」
……弱った。
いや……でも、ここでガツンっと言っとかないと、示しがつかない……。
そんな
ふぅ、と。
「なーんてね。冗談。
はいはい、畏まりましたー。
これからは、エイくんにだけ、エイムしますー」
「そ、それも、どうかなぁ……」
「それが最大の譲歩ですー。
エイくんはさておき、
分かったら、とっとと食べに来なさいー」
「あ、ああ……。
まぁ……頼むよ」
鼻も臍も曲げてそうなまでに、露骨に斜めな感じで要件だけ告げ。
「……言っとくけど。
私、負けないから。
こんなんじゃないから。
絶賛成長中だから。
まだまだ全部、飛びっ切りに上手くなるから」
「ゆ、
「はいはい、
てか、
あーあ、やってられない。
キヌちゃんだけ、依怙エゴ贔屓しちゃってさ。
「いや、単なる偶然の産物ですけどぉ!?
作者、そこまで考えてませんけどぉ!?」
「そもそも、キヌちゃんだけ一緒に暮らしてるって事実の時点で、鼻持ちならないってのにさ。
あんなダメ
私、立場じゃないじゃん。
当事者なのに。
今日のデート相手なのに。
失礼千万しちゃう」
「あ、後回しにしてたのは、君じゃあ……?」
「
黙って喋れ。
もう知らない。
エイくんの
帰る」
「ど、どこに?」
「ダイニング!!
あぁもう、
早く来なさい、めっ!!」
「ゆ、
耳はっ!! 耳は、
わ、分かった、次は!
次は、
「
あーでも、怒りが収まらないから、やっぱり、このままでぇ♪」
「そんな、ご無体なっ!?
てか、楽しんでるだろ、
「毎度ぉご乗車ぁ、ありがとぉございまーす。
特急ぅ8
なおこの列車はぁ、目的地まではぁ私語厳禁でぇお願いしまぁす。
さもなくばぁ、毒入り料理によりぃ、行き先が地獄となりぃ。
絶望がお前のゴールになってしまいますのでぇ。
ご注意くださーい、ご注ー意くださーい」
「
こうして俺は、ダイニングまで強制連行された。
余談だが昼食は、少し怖いまでに
やっぱり、女心は分からない。
※
「ほら、エイくん。
復唱して。
『
『
『
さん、はいっ」
「ゆ、
確かに、その内とは言ったけどさ……。
昼食後。
俺は、
……絶賛掃除中の、耳を犠牲にしながら。
「ほらぁ。
早くしないと、エイくんの耳が、危ないよぉ?
擽った
「さ、さては君、今日の
「
今後、将来の
それより……ふー♪」
「ひっ!?」
「あははっ♪
そもそも、エイくんが悪いんだよぉ?
親友止まりの異性に、膝枕して
「し、
男ってのは、そういう生き物なんだよっ!
女の子っていう、甘くてフワフワした生物に、常にちやほやゴロニャンして
「
「ゆ、
俺が悪かった!
か……勘弁してくれぇ!!」
「
とっととご唱和くださいー。
さもなくば、もっと
キヌちゃんに次いでボリューミーな部分で」
「君は俺を、どうする
「骨抜き、ごぼう抜き、勝ち抜っきー♪
という
「
もう充分、奪われるかけてるよぉぉぉぉぉ!!
※
キスシーンで若干、
一部はさておき、そんな
そんな幸せな時間も、そろそろ終わりを告げる。
「ん〜。
夜風が気持ちー」
テラスで夜景を見ていた
「楽しい一日だったなぁ。
エイくんは、どうだった?
私と
「ああ。
お陰様で、休日をエンジョイ
続いて外に出つつ答えると、
「あははっ。
なら、
と、思った。
俺と
内面も外面も
こんなの、男であれば誰もが、喉から手が出る
実際、俺も心待ちにしていたし、楽しくはあった。
けど。
だったら、
「『嘘
私も、エイくんも」
手摺に凭れかかっていたタイミングで横から言われ、心臓を鷲掴みにされた感覚に陥る。
「だって、そうでしょ?
今日の私、これでもかなりセーブしてた。
もっとエイくんの後頭部をギャグっぽくじゃなく正しく適切にチェックしたかったし。
エイくんの着替えは私がしたかったし。
ユオリちゃんにコスプレして誘惑したかったし。
あんなに素直に素早く自分から謝ったりしないし。
料理だって私一人でしたかったし。
バスタオルなり水着なり装備してエイくんと一緒にお風呂に入りたかったし。
でも、『普通のカップル』がエイくんのリクエストだったから。
それに応えたい一心で、必死に我慢した。
けど、やっぱり制御し
キャラブレしてまで
ジョークで済ませられる範疇から逸脱した、先程の、
恋敵などと公言しつつも常に周囲を気遣う優しい
つまり……。
「ああ見えて、まるで本気、本心じゃなかったよね。
今日の私達。
だからこそ、今日の感想に、『最高』『満足』『満喫』『充実』なんて、勿体無い言葉は当て嵌められなかった。
まぁ……他のカップルだって、本性を偽って、相手に好かれそうな自分を演じ合って、探り合ってるかもしれないけど。
それに、こういうのが心地良いって意見も
でもさ……
最高、最上、最良では
キープでしか、お遊びでしか、恋人止まりでしかない。
それ以上、その先のビジョンが見えない関係なんだよ。
エイくんが切望してる、相思相愛や夫婦には程遠い。
恋人同士として底が、高が知れた状態って
分かるよね? エイくん」
俺は、何も返せず、下を向くばかりだった。
「そもそもさ。
私に対して、こういうオーダーして来る時点で。
私には脈が、本命候補としての興味が
そりゃ、二人の趣味に付き合わされて、エイくんが心身共に疲弊してたのは知ってるよ。
でも、今回のデート、テストは、最初から、そういう目的、それ目当てで始まった
私達が置かれてる今の現状と、矛盾してないかな?
しかも、5日もインターバルを挟んでるんだよ?
その間に気が変わって予定変更しても、おかしくなくない?
例えば、『やっぱり、当初の路線で、互いにありのままで行こう』って。
なのに、エイくんはそれを怠った。ううん……そもそも、そんな発想には至らなかった。
それって、私には関心や望みが薄いか。
私の
どっちかの可能性が
「……そこまで、把握してて。
噤んでいた口を開けて出て来たのは、そんな冷たい、突き放す
同じ
「エイくんが望んだから。
私は、エイくんの希望なら、可能な範囲で、
っていうのは、建前で。
『こういうの、おままごとみたいなのは
『いつも通り、自然にやろう』
って。
そんな展望を切に期待しながら、私は今日、この負け戦に臨んだの。
でも……エイくんは、そんな素振り、
私に、君の
今日が終わるタイミングで、
もう……遅いよ」
冷え切った調子で告げ、これまでで
「最終試験だよ、エイくん。
どちらかを、明日のお昼に選んで。
正式にお付き合いするかどうかはさておき。
いつか本命になりそう、なって欲しい方を、二人から選んで。
二人には、私からお願いしとく。
学校の、君に
私の
私だって
今の君にだけは、今の私だけは、
そして、勘違いしないで
これは断じてお願いじゃなくて、忠告、命令って
『あんな
お願いだから、これ以上。
この前以上に、ガッカリさせないで」
要件だけ伝えると、別れの挨拶も
ガチャン……、と。
決して乱暴だった
それはまるで、
そんな暗喩に、思えてならなかった。
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