〈4〉そして冒頭へ

「皆。

 朝早くに来てもらって、ごめん」



 目の前にる三人の女友達に向けて、開口一番に謝辞を述べ、頭を下げる。

 覚悟を決め直し姿勢を戻した俺は、キリッとした表情をイメージしつつ、同じく単刀直入に、ぐ続ける。



「いきなりで悪いし、恥を承知で頼む。

 改めて、聞かせてくれないか?

 昨日、みんながしてくれた、俺に対する告白を」



 情けないのは重々承知だ。

 この短期間で、女性に二度も告らせようなんて、言語道断。

 男としてあるまじき、最低な、「クズ」と罵られようとも本来なら甘んじて受け入れるべき、愚の骨頂たる行動だ。



 そうーー



 さて。

 どこの誰とも分からない、俺を糾弾せしめんとする見ず知らずの方々よ。

 その前に、お願いだ。

 どうか、これから繰り広げられる一部始終を見て、ことの顛末を知ってしい。

 さすれば全員、しかと理解してくれるはずだ。



 美女三人に同時に言い寄られるというハーレム染みた現状。

 このイベントが一度ひとたび、蓋を開けてみると、全くもって喜ばしくはない事実に。



「アラタ。

 我が同士となって欲しい。

 我同様に、ボタンやシャツを破壊するほどに豊満な胸部、バーストの嗜好者、バスターとなってしい。

 さすれば我は、今よりもっと、主を好きになれる。

 我と共にバスター道を歩んでくれ。生涯、バーストについて熱く、厚く語り合おうではないか」



「え、えええエーちゃん……。

 よかったら、はぁ……はぁ……♪ 私のヒ、ヒモになってくれたら……とととととっても嬉し、ん……い、なぁ……。

 ね、ねねね年がら年中、んっ……♪ 引き篭もって、食っちゃ寝、ゲーム三昧、あっ……♪

 あ、あああ、挙げ句の果てに、お酒とFXと課金に明け暮れて……。終いには、わっ……私の、口座からっ……勝手に使って、大量の借金作って、んぅっ……♪

 私にバレても、『それでも俺には、お前が必要だ』って、はんっ……♪ みっともなカッコよく泣き縋る、あぁっ……♪

 そんなふうに、私に一生、ゾクゾク、溺愛させてしい、なぁっ……♪」



「師匠っ!!

 どうか、自分の最推さいおしとなり、自分に全力で愛させてくださいっス!!

 師匠のソロ曲、衣装、振り付け、決め台詞、ファンサ、C&R、キャッチコピー、イメージPV、CM、アニデザ、デフォルメ、TS、二次創作。その他諸々の創作権を、自分に、自分にこそ担わせてくださいっス!!

 かならずや期待に応え、師匠を、世界一、宇宙一、人類一推せる師匠にしてご覧に入れましょうっス!!」

 


「……」



 ……どうしよう。

 視界も思考も定まらない。



 意味が分からない、ということしか分からない。

 というか、意味すら分かりたくない。



「あはは。

 いきなり、あんなこと言われても、困っちゃうもんねぇ。

 ごめんね? エイくん」

「急いてはことを志尊◯。

 確かにサキたちは、急がば回レドナイヤーでした」

「『仕損じる』『急がば回れ』よ。

 誤用を訂正した所で、アラタくん。

 あなたに今一度、お願いするわ。

 どうか、あたしを受け止めて頂戴ちょうだい

 そして、願わくば、受け入れて」

「ちょっ……!?」



 ここでマドンナ状態になって手を握って来るのは、反則じゃあ……!?

 完全に一歩、リードして……!?



「あー。

 庵野田あんのだ先輩、ずるぅい。

 エイくん。

 エイくんに相応ふさわしいのは、ヒモ属性こそだよ。

 だ、だだだっだから、エーちゃん……ママと、はんっ……付き合っ、て……?

 たぁっぷり、んっ……♪

 溺愛してみせる、からっ……♪」

「がっ……!?」



 腕組み、だと……!?

 てか、結織ゆおりさん!?

 この中で二番目に大きな、その、アレが!

 恵夢めぐむ先輩の言う所のバーストが、当たったるんですけどぉ!?



「隙りっスゥッ!!」

「ぐえっ!?」



 かと思えば、多矢汐たやしおがいきなり突撃して来た。

 おかげで、俺と繋がっていた二人も共倒れである。



「……随分ずいぶん、活きがいわね、この後輩。

 表情も性格も機械的な割に」

「あはは。

 本当ホント

 やんちゃだなぁ。

 ところで、みんな

 お怪我けがぁい?

 特にエーちゃん。

 ママに……診察されたく、なぁい……?」

「問題無い。

 カイせんがクッションになった。

 見事なり」



 ……ねぇ。

 この人達、本当ホントに昨日、告白して来たの?



 ちょっと、普通とはニュアンスが異なっていたとはいえ。

 扱い、すごく雑な気がするんだけど。

 俺、七忍ななしのじゃないんだけど。





えず、一つずつ確認して行きたい。

 じゃあ、俺にリクエストして来た順で、ず先輩から」

「うむ。

 撒かせろ」

「あはは。

 字が違ーう」

「〜!!」



 あーあ……主導権、優位性をフラゲしようとしたら、ツッコまれちゃった。

 兄野田アニキモードになるくらいに気合入れてたのに。



 にしても、流石さすが母神家もがみや

 恐るべし。



母神家もがみや

 今は、先輩のターンだ。

 悪いけど」

「はーい。

 なるべく、静かにしてまーす。

 あと、『結織ゆおり』でーす」

「しつこいなぁ、君も!」

「にやり」

多矢汐たやしおも。

 静かにしてるように」

「がくり」



 やや不満そうな母神家もがみやの横で悪い顔をしていた多矢汐たやしおが、露骨に拗ねた。

 いや、いくなんでも気付きづくだろ。

 効果音を口で言ってたら。



「……前述の通り、我はバーストを愛している。

 この場合のバーストとは、同じく上述の通り、服やボタンを破壊せんほどに整った胸部のことだ。

 かと言って、そこに芸術性を見出しているというだけで、女子と懇意になりたいわけではない」

「そもそも、何故なぜそんな変わった趣味を定期」

「そ、そこは、まぁ……聞くな。

 強いて言えば、願望を持っていたら、いつの間にかだ」

「把握」



 デリケートな部分ゆえ多矢汐たやしおが憎まれ役を買って出てくれた。

 申し訳ないが、助かる。

 俺は、男な上にシャイだから。



「じゃあ先輩は、俺とどうなりたいんですか?

 どんな俺を、お望みで?」

「端的に言えば、ぬしとこれから、いくつもの映像やスチルを、この部室で、大画面スクリーンで観たい。

 我は、ラブがコメるシーンも大層、好きなのでな。

 その素晴らしさを、尊さを、主とリアタイで分かち合いたいのだ」

「ま、まぁ……それくらいなら……」

「そして願わくば、揺れるバーストやポロッたシーンも」

「そっちが本命でしょ!?

 だから、未成年だっての!

 前者はともかく、後者は無理!」



 いきなり早口になったし、呼吸も荒くなったぞ!?

 分かり易っ!

 ここは、頑として拒否っとかないと!

 などと思って抗うと、先輩は分かり易く渋面となった。



「この、S◯NYっ子め」

「怒られろ!!

 てか、他でもない、あんただろっ!!

 そうなるように仕向け、仕込んだのっ!!」



 仕方無いだろ!

 コンシューマ版は、P◯4やvit◯が主流なんだから!

 Swit◯hには、まだそんなに来てないんだから!



「そもそも何故なぜ、そこまでバーストを拒む?

 免疫は付いているはず

 これまで、主にお薦めしてきたゲームは総じて、シナリオだけでなく胸部も整っていただろう」

「……」



 ……七忍ななしの

 ごめん。

 どうやら、お前の予想は、思いっ切り当たっていたらしい。

 無下むげに切り捨てた罰として今度、昼飯、奢らせてくれ。



 えず、質問相手を変更することにした。

 こんな調子で、これ以上、憧れの先輩のイメージを損ねたくなかったので。



「じゃあ、次。

 気を取り直して、もが」

「ん〜?」

「……結織ゆおり

「はーい。

 よく出来できましたー。

 でもい加減、お勉強しようねー」



 くっ……駄目ダメだ。

 逆らえない。

 彼女の命令にも、撫で撫での誘惑にも……。



「違反行為。

 サキにも、呼び捨てであるべきでざんす」

あたしにもよ。

 不公平だわ」



 まぁ……こうなるわな。

 二人も、俺に好意を寄せてくれてるわけだから。

 一般的なそれとは、かけ離れてるけど。 



「……分かりました。

 それも、追々。

 それで、結織ゆおり

 話を聞かせてくれ」



「言った通り、だよ……。

 ママは、エーちゃんにヒモになって欲しいなぁって……」

「……そもそも、前提からして間違っている。

 俺は、自他共に認める真面目まじめさだぞ?

 そんな真人間が、ヒモになると思うか?」

「カイせん

 それは偏見、早計です。

 バトル漫画や特撮と同じです。

 敵対していたライバルが、光落ちした途端に弱体化するのと似た現象です」

「そ、その通り……。

 エーちゃんみたいな、真人間こそ……一度、落としてしまえば、存外……ズブズブになったり、するんだよぉ……?

 フォローありがとぉ、キヌちゃん」



 感謝の意を表明すべく、結織ゆおり多矢汐たやしおを抱き抱え、頬スリスリを開始する。

 相変わらず、すごい腕力だ。

 小柄とはいえ、こうもあっさり持ち上げられるとは。



「じゃあ、最後に多矢汐たやしお

 最推さいおしって、どういうことだ?」



 自力で結織ゆおりのハグから脱出した多矢汐たやしお

 彼女は、頬を膨らませ露骨に不服そうな結織ゆおりの隣で、説明を始める。



「以下同文っス!!

 師匠に揺るぎない、惜しみ無い愛を注ぎ、捧ぎたい所存っス!!」

「俺は、芸能界を志したことなど、一度もいのだが」

「問題りませんっス!!

 自分のプロデュース、加工力をもってすれば、可能でっス!!

 師匠は、ただありのままでいてくれさえすれば、それでいのっス!!

 師匠の人の良さだけで、数多の信者を粗製乱造してみせますっス!

 師匠は、大人しく自分に未来を委ねなさいましっス!!」

「ねぇそれ、詐欺じゃない?」



 今時アイド◯だって、そこまでせんわ。



 ……え?

 しないよね? してないよね?

 ね?



「つまり、その……なんだ。

 多矢汐たやしおも、俺と交際するもりは無いと?」

「担当と付き合うなんて、ご法度はっともご法度はっとっス。

 そもそも、相手とか関係無く、恋人がると判明した以上、射幸心が急冷されるので、全力で推すことなど到底、不可能ですっス。

 メジャー・デビューした途端に攻めた姿勢じゃなくなって興醒めるインディーズと同じス。

 そもそも自分、二次にじコン。

 ようは、リアルの異性には恋愛的な興味は持たない側の人種なんで」

「……さいですか」

ついでに言うと我も、相思相愛にはほど遠いぞ?

 前述の通り、見る専門なのでな」

「ママもー。

 興奮するのは、ヒモ相手だけだしー」



 相変わらず、なんだか微妙にズレている。

 それでいてサラッとトンデモ発言を噛まされ。

 挙げ句の果てに上乗せされた気がするが。

 まぁ、置いといて。



 何はともあれ。

 これで全員の意思は掴めたわけだ。

 揃いも揃って、恋愛っぽい要素を備えている割に不向き、正反対、ニアミスってるのだと。



「というか、カイせん

 そもそもサキは、現状の時点で楽しくありません」

「てーと?」



 言葉の通り、見るからに不機嫌な多矢汐たやしおは、ギロッと先輩と結織ゆおりを睨んだ。



「……カイせん

 確かにサキは、昨日に関してだけは、わずかばかりに出遅れ、その所為せいで後塵を拝しました。

 これは、認めます。

 サキの不徳の致す所です。

 でも、だからといって、カイせんを譲るもりは毛頭、りません。

 それも、割れ厨、割り込み厨なんぞに」

「ちょっ……!?」



 失念してた。

 そう言えば多矢汐たやしおは、こう見えてすこぶる負けず嫌い、喧嘩けんかっ早かった。



「へー」

「聞き捨てならないわねぇ。

 中々、噛ましてくれるじゃない。

 ちゃんと正規品を購入してるピシゲーマーに」



 案のじょう、即座に反応する二人。

 そして、結織ゆおりと先輩は暗黙の了解の下、チームを組み、迎撃を開始する。



「キヌちゃんさぁ。

 まだ一年生でしょぉ?

 それで、私達を割り込み扱い?

 自分の方が、後から出会ってるのに?

 言っときますけど。

 最初にエイくんと話したのは、クラスメイトである私ですよーだ。

 いくら高校からの編入、外部生とはいえ。

 エイくんは中学時代、文芸部に所属してなかったんですから」

「それも違うわ。

 最初にアラタくんと出会ったのは、他でもないあたしよ。

 アラタくんは入学式より前、春休みの時点で、文芸部に所属していたんだもの」

「え?

 ホントに?」



 目で尋ねて来た結織ゆおりに、俺は無言でうなずく。

 仲間に裏切られたのも相まって意気消沈している友織ゆおりと、すでに勝ち誇っている先輩。

 二人には悪いが、事実は少し異なっていたりする。



「ふっ……所詮、その程度の力ですか。

 いや……この程度、力とさえ呼べませんね。

 両腹痛いです」



 独特の造語と得意気な顔を披露つつ、多矢汐たやしおが煽る。



「サキが先輩と出会ったのは、三月の時点での話です。

 カイせんの卒業間近に、カイせんはサキと出会っているのです」

「なっ!?」

「えー……」



 先輩と結織ゆおりにアイコンタクトを送られ、俺は再び無言でうなずく。



 多矢汐たやしおの言う通りだ。

 実は、この中で最速で、最初に話したのは、多矢汐たやしおだったのだ。

 この先制攻撃で気を良くした多矢汐たやしおは、更に追い打ちをかけんとする。



「それだけじゃないです。

 サキには、取って置きがあるです。

 二人がカイせんを譲り得る秘密が」

「た、多矢汐たやしお

 言っていのか? それ。

 ともすれば、あらぬ誤解を招くぞ?」



 ていうか、そう容易くバラさないでしい。

 印象がダブるごとにその都度、過剰なまでに、二人を別人扱いにすることで嘘を見抜かれまいと演技してる身にもなってしい。



「……良いんです、カイせん

 志半ばで砕けても、サキは後悔しません。

 ここで全力を出さなかったことによる後悔に比べたら、そのくらい、てんで可愛い物ですから」



 なにやら格好かっこよく言い切る多矢汐たやしお

 まぁ……そこまで言うなら、いか。

 そうでなくても多矢汐たやしおは人一倍、頑固だし。

 ……この場にる残り二人も、頑固そうみたいだが。



 俺の表情を確認した多矢汐たやしおは、ロッカーの中に入る。



「ねぇ。

 なんの話かしら?

 さっきから」

「嘘や秘密は私、感心しないなぁ」



 当然ながら、蚊帳の外に置かれたことで不満を向けて来る先輩、結織ゆおり

 返答に困っていると、ロッカーの中から出て来たのは。



多矢汐たやしお 依咲いさき新甲斐あらがい 為桜たおフォーム。

 マジカルに、見参」



 とまぁ、こんな具合に、黒い衣装に身を包み謎ポーズを取っている為桜たおだった。

 この天然ぎる展開に、先輩と結織ゆおり流石さすがに目を丸くしていた。



「……エイくん、これ……」

「どういう、こと……?」



 混乱しながらも、俺に真実を求める二人。

 名字が同じだったがゆえに、言わずとも察したらしい。

 彼女こそが、新甲斐あらがい 為桜たおかたる、義妹ならぬの正体だったのだと。



「……以前、俺がバイト中に、倒れたことって。

 で、看病してもらう中、うち真面まともなコックがないことに、多矢汐たやしおが大層、驚きましてね。

 以降、毎日、三食作ってくれるようになったんですよ。

 それ以外にも、形から入るタイプだったがゆえに設定や衣装を準備したり、俺を毎朝、起こしてくれたりしてたわけです」

「毎日、って……今もっ!?」

なんて甲斐甲斐しさと女子力……!?

 まさか身近に、こんな伏兵がたなんて……!?

 眩しい……!!

 眩しぎるよ、キヌちゃん……!!」

「全くだ……何と都合だけのい、理想的俺得シチュエーション……!

 我の元にも是非とも来て欲しい……!!

 女体盛りしたい……!!」



 まぁ……当然のリアクションか。

 事実とはいえ、こんなフィクション染みた話、そう簡単には飲み込めまい。



 ところで、結織ゆおり

 君たった今、本編で初めて『!』と『!?』使ったんだけど、大丈夫か?

 折角せっかくの機会を、こんな場面で消費して。



 そして、先輩。

 あんた、男心に対する理解が深過ぎだろ。

 全面的に同意せざるを得ないじゃないか。



 あと、多矢汐たやしお

 そのドン引き顔、めろ。

 別に、嘘はいてないだろ。

 騙してるってか、紛らわしい言い方してるが。



「そう。

 為桜たおことサキは、にいことカイせんの全てを知り尽くしているのです。

 起床や睡眠、就寝、入浴や食事の時間。

 好き嫌いや苦手、ご機嫌だと無意識によく口遊くちずさむ鼻歌。

 寝癖の位置や寝相、寝言にいびき、部屋着に私服。

 お宝の在りや内容、下着の色にデザインにブランド。

 それらのパーソナル・データを、余さず網羅、独り占めしているのです」

「おい、最後っ!!」

「あなた方が、今のポジションに甘んじ、学校生活だけに胡座をかいているうちに、サキは寝首を掻き続けていたのです。

 平たく言えば、負ける気がしないのです」

「ポジティブな意味じゃないから!

 ドヤ顔する所じゃないから!」

「それだけに飽き足らず、カイせんに健康的な生活と食事を提供し、肉体改造も施し日々、理想の美ボディへと進化させています。

 あまつさえ負荷も調整し、サキを子供扱いした悪いカイせんに対し罰を与えること出来できるのです。

 そう。

 サキは出来できる妹であり、幼馴染属性であり、後輩であり、トレーナーであり、プロのプロデューサーであり、史上最強の構ってちゃんなのです」

なんか回数の変動が妙に激しいと思ったら、君の所為せいか!

 あと君、家事担当してくれてるがゆえに幼馴染っぽいってだけで、幼馴染ではないからな!?」

 


 流石さすがに、ツッコまねばなるまい。

 この、なんだか残念なグループの中で、俺だけは、なるべく常識人でいないと。

 たとえ、その所為せいで、今日の筋トレが激しくなったとしても。

 


 と、俺が決意を新たにしていると、多矢汐たやしおが横で勝ち誇った笑みを見せた。

 そして、なにやら完全勝利したU◯みたいな音声を流しつつ、最後の攻めに入る。



「つまり。

 お二人が今まで見て来たカイせんは、ほんの一部。

 使い古され、使い回された偶像であり、虚像なのです。

 サキの、サキだけの知ってるカイせんこそが、真にして全。

 そんなこととは露知らず。

 サキとカイせんとの間に割り込み。

 サキに無断でカイせんのデータを知るという割れ厨アタック噛ます。

 そんな不届き者に、本家本元のサキが負けるはずがありません。

 あなた方は謂わば、翼竜とは名ばかりに実際には恐竜としてカテゴライズされてない、プテラノドンのような存在。

 トッブゲイラ◯でプテラゴード◯でプテラード◯。

 やーい、やーい、ピーたんやーい。

 今こうして、サキと対等なライバルとして同席しているのが烏滸おこがましいほどに、関係と知識が希薄な、ただの知人でしかないのです。

 しかも異性、ポジだけなら七忍ななしのさん以下です」

七忍ななしのぉ!!」



 お前……ない時すら、ネタ枠だぞ?

 あ。でも、ある意味、良かったな。

 これで、まだ一時だけ、覚えてもらえるぞ。



「とどのまり……大人しく、大人らしく、とっととあきらめなさいませ。

 サキは、同担拒否を初志貫徹したまま、カイせんを独り占めするので」

 

 あー……駄目ダメだ。

 こんな時ですら、多矢汐たやしおの謎理論と謎例えが炸裂してしまった。

 これは、温和な二人も、流石に怒る……。



「なるほど……面白いわね」

「せ、先輩?」

 

 え? 乗るの?

 乗っちゃうの? この流れに、誘いに?  

 目に見えた喧嘩けんかに?



多矢汐たやしお

 あなたは、確かにすごいわ。

 未来を度外視し、ひたすら今を全力で生き抜くために、過去こそを網羅、最優先する、その姿勢。

 敵ながら天晴よ」

「言ったのです。

 あなた方はOG、アウト・オブ・ガンチューだと。

 敵だなんて、思い上がりは直ちに止めなさいませ」

「そう悪態をつかないで頂戴ちょうだい

 こちらとて、寂寞せきばくの時に身を置き、それ相応の覚悟をもって、決戦に臨んだのよ。

 言い分くらいは、明かさせてしいわ」



 多矢汐たやしおの生意気な言動に、同じく強気に返す先輩。

 予想外だったのか、意表を突かれた顔をした後、多矢汐たやしおいやそうな雰囲気でげる。



「……勝手にしなさいませ。

 どうせ今更、何をしようと、サキの圧勝、カイせん最推さいおし化は微動だにしないのです」

「その内、内部崩壊しそうだけどな。

 不認可だから」

「では、そんな勝者様に一つ、手合わせ願おうか」

「わー、スルー」



 そして兄野田アニキモード、キター。

 また髪、無造作に動かしたー。



「主が『過去』『今』に殉ずるというのであれば。

 我もまた、『過去』『今』を、みずからの矛、盾とせしめん」

「あれ?

 その優位性はさっき、誰よりも先にエイくんと出会っていたキヌちゃんに否定されたんじゃあ……?」



 いや、君もか母神家もがみや

 この意味不明かつバチバチしたドロドロ空間に、平然と身を投じるのか。

 したたかな子ばっかりだなぁ、俺の周り。



 てか、今更だけど。

 一番に出会ったっての、そんなに重要?

 別に良くない? いつでも。



「アラタくん」

「へ!?

 あ……はい」



 不敵な笑みを見せた先輩と、急に話を振られたことに面食らいつつ、姿勢を正す。



「君が中学時代、文芸部に入らなかったのは?」



 あーあ……。

 そこ、明かしちゃいますか……。

 こっぴどく恥ずかしいから、出来できれば避けたかったんだけどなぁ……。



 ま、別にいけど……。

 先輩が気にしないなら……。



「一年の時、先輩が、他の入部希望者を突っ返す、突っねる場面に遭遇したからです。

『外見という理由だけで、意中に入った異性と近付きたがるような子に、抜かすうつつ生憎あいにく、持ち合わせていない』と」

「え?」

「……?」



「うむ。

 その通りだ 」



 先輩は俺に対して微笑むと、唐突にフィンガースナップを決めた。

 刹那せつな、電気が消え、カーテンが締められ、かろうじて全員が視認出来できるレベルまで暗くなる。

 かと思えば、セットされていたプロジェクターが起動し、映像が壁に投射される。

 


 ……忘れてた。

 この人こういう、無駄に凝った、用意周到な仕掛しかけが大好きな、遊び心の持ち主だった。



『我とアラタの出会いは、遡る事四年前。

 我が中ニ、アラタが中一の頃である』



 そして同様に、いきなり始まり、スクリーンから届いて来る語り。

 この人、朗読のバイトとかボランティアもしてるから、読み聞かせが上手いんだ、これが。



 にしても、本当ホントに凝ってるな。

 ノベゲー好きの先輩らしく、紙芝居形式になってる。

 この人、シナリオやスクリプトまで出来できるのか……。



 てか、先輩や俺に瓜二つ、それでいてフィクションとして落とし込み、必要に合わせてデフォルメされてるのを見る限り、キャラデザも自作か……。



 そんでもって、ピシゲへの果てしない情熱を鑑みるに、この、世界観を邪魔しない、むしろ率先して構成している音楽も……。



 ……すべて、自分でプロデュースしてるんだろうな。

 この人だもんな。

 好きなことにだけ無駄にハイスペなポテンシャルを発揮出来できる、先輩だもんな。



 恐れ入るの一言に尽きる……。



『アラタは当時から、文芸部志望だった。

 しかし、先の件で己が未熟さを悟り、ひたすら特訓に明け暮れる日々を送る決意を固めた。

 具体的には、言葉を交わさずに、我と勝負を繰り広げる覚悟を決めたのである。

 どちらがより早く、より多く、図書室の恋愛小説を全てを読み切るかという、RTAを』

なにその、耳をすませ◯チックなやり取り……」

「いじらしい……」



 すっかり先輩に影響される結織ゆおり多矢汐たやしお

 思ってたより、落ち着いてるなー。

 もっと、現状にメスを入れるかと思ったー。

 


『……先輩。

 待っていてください。

 もっと読書力を、語彙力を高め、会いに行きます。

 俺はもう、逃げません。

 いつかきっと、あなたを迎えに行きます。

 あなたと肩を並べて歩く日まで、どうか待っていてください』

「ちょぉっ!?」



 何このイケボ!?

 何この、イケボ!?



 え、なに!?

 先輩が吹き込んだの!?

 この人、本当ホントに何してるの!?



 てか俺、ここまで言ってない!

 これもう、完全に先輩ルート驀地まっしぐらやつじゃん!

 


『そう。

 ここから始まるは、二人だけの危ないGAME、秘密の遊戯。

 アラタと我が貸し出しカードに名前を記し、埋めて行き、互いに確認し合う。 

 その慎ましく甘やかなさまは、現代に蘇る恋文、交換日記がごとく。

 そうして我々は、一言も語らず。

 三年間も連綿と紡いで来た報酬に、今がるのだ。

 互いの読書記録だけで内に秘めた想いを、リスペクトを、確かな愛を』

「な、なんというエモさ……」

「てぇてぇ……これは、てぇてぇですぞぉ……」



 ハンカチで涙を拭う結織ゆおりと。

 むせ多矢汐たやしお

 

 あー……帰りたい。

 やっぱ、恥ずかしい……。



 俺が膝を降り悶絶していると、映像が途切れ、部屋の照明と日差しが戻った。

 最高に満足そうなドヤ顔をしている先輩に向け、母神家もがみや多矢汐たやしおはスタンディングオベーションをした。

 何この、万雷の拍手感……。



「ありがとう。

 次回作にも存分に期待してくれ。

 さて、多矢汐たやしお

 これでも、不服か?

 まだ我が、ぬしやアラタに釣り合わぬと?」

「……いいえ。

 あなたは、実に立派な戦士、恋敵でした。

 そんなことを見抜けない、サキがおろか、間違ってました。

 撤回します。

 どうか、お許しなさいまし。

 確かに出会ったタイミングこそ一番いちばんではありましたが。

 そのインパクトに勝るとも劣らない、素晴らしいイベントでした」

「構わん。

 改めて、これから正々堂々、戦おう。

 互いの全てを懸け、アラタの所有権を賭け、鎬を削ろうぞ」



 多矢汐たやしおが謝罪したことで仲直りを済ませた二人は、握手を交わす。

 これで、一件落着……。



「というわけで、多矢汐たやしお

 早速、目の前の部外者を追い出そうぞ」

「やったるですっス!

 やいやい、そこの年齢詐称者!

 師匠と自分とメグ先輩だけの愛の巣から、とっとと出てお行きなさいませっス!!」

「そこは、先輩を立てんか。

 だが、アラタをさきに呼んだ、その忠誠心は大いに結構なり」



 ……とは、いかないよね。

 やっぱり。



「あはは。

 ひどいなぁ、二人共。

 みんなに今、この場に来てもらように、四人用のグループ作ってメッセ送ったのは、他でもない私だよ。

 リーダーが、なんの準備もしないわけいのになぁ」



 まだ特に有利さを持っていない(と二人が勝手に決め付けてる)当の結織ゆおりは、呑気にスカートのポケットから紙を取り出した。



「キヌちゃんは、『過去』。

 ユウ先輩は、『今』。

 それが、二人の示した切り札であり、エイくんを求め、固執する理由。

 さしずめ、そんな感じかなぁ。

 だったら、私は『未来』を差し出すよ。

 エイくんとこれから先、ずっと生きる、未来への指針を」

「ふっ。

 未来だと?」

「そんな不確定、不明瞭な物、出来できるものなら証明してみなさいませっス。

 オカン属性だからって、ママファイ◯ごっこ決めようったって、そうは自分が卸さないです」



 悪女っぽい笑みを自信満々に浮かべる二人に対し、広げた用紙を結織ゆおりがテーブルの上に置く。



 ーー俺の名前以外の欄が全て埋まっている、俺と結織ゆおりの婚姻届を。



「あはは。

 ちょっと、恥ずかしいなぁ。

 でも……うん。

 すごく、うれしい。

 私達……やっと、一つになれたんだもんね。

 だから……勇気出して、ちゃんと、言うね」



 大部分が茫然自失としている中、なにやら感極まり紅潮こうちょうし、かすかにモジモジし、落涙する母神家もがみや

 それでも勇気を振り絞り、胸に手を置き深呼吸した後、満点の笑顔で宣言した。



「改めまして。

 母神家もがみや 結織ゆおり、昨日をもって卒業しました。

 そして今日から新しく、新甲斐あらがい 結織ゆおりとして生まれ変わりました。

 不束かな妻ですが精一杯、努め、務めます。

 夜とかも、その……頑張ってくれるとうれしい、かな。

 えへへ。

 これからも、よろしくね?

 あ・な・た♡」



 はい、始まりました、全日本結織ゆおりグランプリ!



 先頭を走るは、エプロン!

 エプロン結織ゆおりだ!

 服が巧妙に隠されており、着ていない可能性もる!

 しかも、作っているのはケーキ!

 これは、もしや女体盛りコースか!? 召し上がっちゃうのか!?



 おぉっと!

 ピロートーク! ピロートーク結織ゆおりが、前に出たぞ!

 同じく布団ふとんガードにより、あられもない姿を想起させる!

 蒸気した頬と気怠そうな表情が、実に艶めかしく生々しく艶々しい!

 おい、主人公、そこ代われ!



 続いて来たのは、お風呂!

 お風呂結織ゆおり

 今度は旦那の体に守られている!

 これはひょっとして、前日のリベンジか!?

 前を見ちゃうのか!?

 どうか、タオルを纏っているかいなかだけでも教えてしい!

 


 的なイメージと声が、頭の一面に広がった。



「ぐぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」



 あまりの可愛さと一途さにより、ただの一撃で脳が崩壊しかけ、意識を保てず崩れ落ちる。

 そのまま呼吸困難となっていたら、近くで先輩と多矢汐たやしおまで伏していた。



 結織ゆおり……!!

 本当ホントに、恐ろしい子……!!



 こんなの、確実に裏がる、品を作ってる。

 事実、フィクションでもリアルでも、この手の類いはず間違いなく腹黒系だ。



 しかし、結織ゆおりの場合は、話が別だ。

 確かに隠されていた一面こそれども、あれは普段の慈母っりを進化させただけのこと



 つまり……彼女は本気で、俺と添い遂げようとしているのだ。

 この身空で。

 一般的な夫婦とは、まるで異なる形で。



「な、なんなのだ、この女子おなごは……。

 なんという豪胆さ、計算高さ、王道ヒロイン力……。

 こんな猛者が、年下だと……?

 何故なぜ、我の元に来てくれなんだ……?

 お風呂結織ゆおりよ……」

「恐ろしい……とんでもないヤンデレ地雷……。

 強化外◯格でも纏えそうなほどの、覚悟完了具合……。

 絶対に、敵に回したくない……」



「あはは。

 だなぁ。

 そんなに怯えないでよ。

 こう見えて私、みんなと仲良く、平和に、円満に、楽しくやって行く方針でありたいんだから。

 ただ、エーちゃんの一番いちばんは、私だけの永久欠番だけどね」



 倒れている多矢汐たやしおの前に移動し、軽く膝を折りつつ、眼鏡をかけ優檻ゆおりとなった結織ゆおりは続ける。



 で、先輩。

 あんた今、俺と似たような妄想してただろ。

 マジで気が合うな。

 てか、本当ホントに男心分かり過ぎだろ。



「あと、それだと私、早死にしちゃいそう。

 勘弁してしいなぁ。

 私には、何物にも替けがたい、大事だーいじな使命がるんだから。

 エーちゃんを一生、甘やかし、飼い慣らし、幸せにするっていう、天命がね」



 終いには、真面まともな思考さえ敵わない状態で、体が独りでにガクブルし始めた。



 拒否反応を起こしているのだ。

 あれは一度嵌ったら二度と抜けられない、水中で呼吸が出来できて、体に無害で美味しくて健康的で空腹も満たせる魔法の水で構成されてて、世界一優しく優れた、どこまでも透き通った、事実上の底無し沼だと。



 脳内をアラートが駆け巡り、理性を総動員させる。

 そんな、一人として他に動ける者が不在な状況下で、結織ゆおりが婚姻届を広げ、アピールした。 



「これは昨日、庵野田あんのだ先輩という驚異の脅威に対抗すべく、私が準備した物です。

 エーちゃんのパパ、ママには、包み隠さず説明した上で、証人になってもらいました。

『どうか未希永みきとを、末永くお願いします』、だって。

 素的なご両親だね。

 ママ、すんなり暖かく受け入れてもらえたのがうれしくって、思わず『こちらこそ』って答えちゃった。

 ちなみに、私の両親も、すでに承認済み。

 つまり、ママとエーちゃんの蜜月を阻む障害は、全て排除し、乗り越えたってこと

 サプライズ、大成功。

 ……なんてね。えへへ」



 サプライズ。

 そう言って照れている結織ゆおりの言葉に、俺は同意した。



 彼氏に内緒での、プロポーズ。

 なるほど……確かに、とんでもないサプライズ。

 驚くべき価値プライズだ。



 惜しむらくは、俺がまだ、彼氏の域に達していないこと

 そして恐れるは、それを踏まえた上で、ここまで行動を起こした結織ゆおりの、フッ軽さに反した執着心、愛情の重さである。



 母神家もがみや 結織ゆおりを、怒らせるな。

 これは、我がクラスの、決して違えてはならない、誰もが遵守すべき不文律だった。

 それも一重に、にこやかさの裏に隠された、天変地異を予感させる何かを恐れていたからだ。



 ゆえに、驚嘆した。

 よもや、こんな恐ろしい一面まで、持っていようとは。

 


「まだだ……まだ、終わってない……」



 地に伏していた先輩が、握り拳を作り、倒れそうになりながら立ち上がる。

 まるで、バトル漫画やアニメの最終話。

 ラスボスとの決戦を思わせる、物々しく暑苦しい雰囲気で。



母神家もがみや結織ゆおり

 主は、申した。『未来を、差し出す』と。

 確かに、主の武器は、とてつもなかった。

 正直、恐れ入ったよ。

 だが……こちらとて、まだ退けぬ。

 折角せっかく見付けた大切な仲間を、趣味おもいを分かち合った戦友を、過去を積み上げようやく手に入れた今を。

 みすみす手放してなるものか。

 彼奴きゃつは、我の宝。

 将来の、生涯のバースト、男趣味の同士、恋愛ROM専士なのだ」

「え?

 何この流れ?

 あと俺、リアル恋愛に興味津々なんですけど?」

「そうです……先輩」

「え、乗るぅ?

 この流れにぃ?」



 俺のツッコミを物ともせず、多矢汐たやしおも起き上がり、兄野田アニキの横に並び立ち、微笑ほほえみ合い、首肯し合う。

 ところで何故なぜ、二人して片腕を負傷してるっぽいの?



「確かに、あなたが見せた未来は完璧。

 カイせんにとって、これ以上にい、最高に理想的なハッピーエンドかもしれない、でも。

 あなたの未来は、不完全で不健全。

 まだ肝心要のカイせんが認可していない以上、チャンスはる」

「そうだ。

 君がアラタを一生、養って行ける、幸せに出来できるという保証は、どこにもい。

 未来こそ、不安定で不明瞭。

 そんなものに縋るアバウトな君に、我の希望を奪わせはしない」

「すみませーん。

 えず、正義側なのか悪役なのか、はっきりしてくれません?

 スタンスだけ」



 俺の要求など、どこ吹く風。

 すっかりすっきり意気投合した先輩と多矢汐たやしおが、あきらめ悪く友織ゆおりに抗う。

 結織ゆおりの指し示す未来は、もっと確固たる物だと知らずに。



「心配には及ばないよ。

 何故なぜなら私は、未来のナース系YouTuberだから」



 瞬間、二人は絶句し倒れ、目を開けたまま固まったた。

 さながら、ナマコの内臓みたいな歌声を聴かされた書紀がごとく。



 悟ったのだ。

 彼女の言う未来とは、実に安定、安泰した物だと。

 この三人の中でも結織ゆおりは、特に際立って曲者で、それでいて地盤がしっかりしており、戦うのが容易ではない相手なのだと。

 


「あー……ごめん。

 ちょっと、やりぎちゃったかなぁ。

 まぁ、いや。

 まだ意識が残ってるだろうし、教えちゃうね。

 今日、二人を招いたのは、事実確認だけじゃなく、見せしめるためだよ。

 この中で一番、エーちゃんに相応ふさわしいのは、他でもないママ。

 だってママこそが、ママだけが、うん十年先の未来まで見据えているんだもの。

 過去や今にばかりこだわって、てんで現実的じゃない二人と違って、ね。

 だから、肝に命じててしいの。

 放任主義の姿勢は貫くけど、目に余るようなら、流石さすがに叱られる、って。

 今日みたいに」

 


 このよわいにしてモンペみたいな発言により、支配者に君臨する結織ゆおり

 3人もの美少女から告白された翌日。こうして、現時点でのチャンピオンが誰なのか、立証された。



 ウィナー。

 ユーオーリー。

 ユー、オンリー。





「はい。

 じゃあ、今日から私達は、晴れて『ニアカノ同盟』ってことで。

 改めて、宜しくね?

 ユウ先輩、キヌちゃん」

「「イエス、マム!!」」



 すでに主導権を我が物にしている結織ゆおりが、回復した二人を意のままには手懐けた。

 長いものには巻かれろって、こういうことかね。



「あー……結織ゆおり

 一ついか?」

「ん?

 なーに? 旦那様」

「まだなってない」

「ふーん。

 『まだ』、ねぇ」

「そこについては触れてくれるな。

 思春期男子特有のあれだ。

 で、結織ゆおり

 ニアカノ同盟って、なんだ?

 どういう意味だ?

 確か、RAINレインのグループ名にもなってたよな」



 メッセージアプリ、RAINレインの画面を確認しつつ、結織ゆおりに尋ねる。



「読んで字のごとしだよ。

 私達と、エイくんとの距離の近さを表す『ニア』。

 そして、恋が『似合にあ』わない、『ニア』ミスってる、恋には『近付かニアわない』のを掛けて、『ニアカノ』。

 我ながら素的なネーミングだと思うんだけど、どうかな?」

「あ、ああ。

 いんじゃないか?」



 まぁ……確かに恋には似合わないな。

 それぞれが俺に求めてるのが、男らしい趣味を分かち合う同士と、男らしさとはかけ離れたヒモと、偽りの男らしさをアピールした最推さいおしだもんなぁ。



「クワトロ・ミーニングとは、恐れ入った」

「親しみやすく覚え易く分かり易い。

 それでいて、ギャルゲーっぽさまで両立している。

 ケチの付け所が無いです。

 上の上ですね」

「ありがと。

 二人には聞いてなかったけど。

 折角せっかくの貴重なエイくんとのお喋りタイムを、邪魔しないでくれるかな?」

「「サー、イエスマムッ!!」」



 結織ゆおりのオーラにより、二人が後ずさりし、敬礼しながら詫びる。

 ねぇこれ、部活顧問とかの役回りじゃない?

 あなた、幽霊部員ですよね?



「とまぁ、冗談はさておき」



 冗談じゃない。

 絶対ぜったい、今、本気だった。本気の目をしてた。

 話を進めたいがだけに、誤魔化ごまかしてるだけだ。



「エイくん?」

なんでもありませんっ!

 続けて、どうぞっ!」



 二人に倣って俺も少し距離を取り、結織ゆおりに頼んだ。

 結織ゆおりは、ミステリアスに微笑ほほえみながら、言われた通りにする。



「さて、と。

 差し当たっては、デートをしようと思います」

「デート?」

「そう。テストを兼ねた、デート。

 エイくんと半日、一緒にる。

 その中で、エイくんが誰の理想にならなれそうか、あるいは誰ならエイくんの彼女になれそうか、見極めるの。

 私達は、どうにも血気盛んみたいだからね。

 一緒に行動してたら絶対ぜったい、我先にと、揃いも揃って出し抜こうとするに決まってるもん」



さきどころか現時点でフライングして何か仕掛しかけて当日に速攻で駆け抜けそうな人が言ってるってのはさておき。

 俺も、その意見に賛成だ」

あたしくみするわ」

「以下略」

「同文しなさい」



 やはり少し緩くはあるものの、こうして当面の方針は定まったのだった。



「やったぁ♪

 じゃあ、決行日は土日として。

 ず、誰が、最初にする?」

「君達、大好きだな!

 順番!」



 ゆったりした口調の結織ゆおりにツッコんでいると、恵夢めぐむ先輩(強制された)と依咲いさき(矯正された)、そして発案人である結織ゆおり(共生されかけた)も、ほぼ同時に挙手し、無言で俺に主張して来た。

 余談だが、先輩にはタメ口、呼び捨ても義務付けられそうになったが、それはなんとか説得して却下させてもらった。

 


「待った。

 その前に、俺からも一つ、提案がる。

 結織ゆおり

「なぁに?」

「残念ながら俺は、今の自分に、君の言うヒモ属性たらしめる部分を見出せなかった。

 そこで後釜となり得る代理、逸材を用意した」



 言いざまに俺は、依咲いさきの後ろに移動し両腕を挟み、持ち上げた。

 代役こと依咲いさきは、何故なぜか目の前でチョキを横に作っていた。



「君が求めていたのは、男性ではなく、自分が全力で甘やかせる存在。

 つまり、相手が異性でなくてはならない、などという条件はい」

「……なるほど。

 盲点だったけど、確かにそうだね。

 言われてみれば、性別は求めていない。

 頬キス以上にならなければ、何ら問題無い。

 それに、キヌちゃんの天賦の駄目ダメ才は開花済み。

 見ていて清々すがすがしいまでに、すでに遺憾なく発揮してる。

 打って付けではあるかも」

「この世で最も不名誉で不必要で不便利な、なにより羨ましい才能!」



 うっかり零してしまった本音を誤魔化ごまかすべく、ぐ様、仕切り直す。



「それは、置いといてだ。

 なにを隠そう、この多矢汐たやしお 依咲いさきという供物くもつ

 口癖は?」

「お前の休みは、サキの休みもの

「うっ……」



 胸を打たれ、右手を当てる結織ゆおり

 よし。計算通り。



「座右の銘は?」

「他力本願」

「くっ……」

「生まれ変わったら?」

「ナマケモノになりたい」

「ぐっ……」

「好きな物は?」

「ポテットポテトとピザとコーラと炬燵と蜜柑とアイスとゲームと料理とカイせん

「あっ……!」

「将来の夢は?」

「楽に楽しく稼げる仕事」

「あぁっ……!!」

「こ、これは、ドチャい……!!

 ドチャいシチュだ……!!」



 すみません、結織ゆおりさん。

 これ、全年齢版なんですよ。

 対象年齢上げないでくれません?

 台詞セリフだけでも分かるレベルで、明らかにピンクピンクした顔と声しないでくれません?



 そして、おい、そこの兄野田アニキ

 写真も音声も撮んな。

 何に使う気だ?



 だが、行ける!

 今なら、狙える!



「刮目されたし!

 この、他に類を見ない、美徳なまでに愚直な、徹頭徹尾の駄目ダメ可愛さ!

 ヒモを愛し、敬う者として惹かれないか、ゾクゾク来ないか!?

 ぐ様、それこそ次の休日にでも、デートしたくはならないか!?

 あるいは、君のヒモへの情熱は、偽りか!?

 その程度の脆さとでも言うのか!?」

「だ、だめぇ……!!

 もう、無理……!!

 こんなの……我慢、出来ない、よぉ……!!

 ハァ……ハァ……!!」



 いや、結織ゆおりさん。

 頼むから、お願いだから、喘がないでくれません?

 良がらないでくれません?



 もうこれ、完全にZ指定だよ!?

 放送事故だよ!?

 CER◯とTAが黙ってないよ!?

 

 

 息絶え絶えのまま、たどたどしい足取りで、体をグラグラ揺らしながら。

 それでも着実に、こちらに近付いて来る、歩く18禁こと優檻ゆおり。 

 あとは、ここで依咲いさきを降ろしさえすれば。



「い、いいい、イーちゃーん……!!

 今度の土曜も、その先も、ずーっと……!!

 ママと……ママとだけ、一緒にいましょーねー……!!」

「ママー。

 バブバブー。

 有り金寄越しんしゃーい」



 はい。

 通販仕立て攻撃からの利害一致により懐柔、完了。

 抱き合う即席母娘の出来でき上がりっと。



「てわけで、恵夢めぐむ先輩。

 次の休み、俺とデート、テストしましょう。

 予定さえ取り付ければ、こっちの物なので」

「い、いや……こちらとしては願ったり叶ったりなんだけれどね、アラタくん。

 あなた達、ちょっと仲良しぎない?

 それとも、今のはアドリブ?

 示し合わせた作戦?」

「まさか。

 ぶっつけですよ。

 これ位の掛け合いなら、いつもバイトでやってるんで慣れっこなんで。

 ああ見えて、依咲いさきはノリいんですよ。

 ぎて悪いくらいに、ね」

「……ごめんなさい。

 よく分からないわ」

「その内、嫌でも身に染みるかと」

 


 なにはともあれ。

 こうして最初の相手は、先輩に決定したのであった。

 余談だが、このパーティ、俺は存外、上手く回せる、立ち回れるかもしれない。



「と……えず、諭吉さんで……。

 大事に、んんっ……使って、ね……」

「わーい。

 こわーい」

「あ……。

 足り、ない……?

 んっ……。

 色……付け、ちゃう……?」

「違わーい」

「待てぇぇぇぇぇい!!」

「オリサキ、ありがてぇてぇぇぇぇぇ!!

 公式からのレア素材、ごちゃす、あざっす!!

 キースッ……♪ キースッ……♪

 おセッセッセーの、よいよいよい……♪」

「黙れ先輩、貴様ぁぁぁぁぁ!!」



 ……うん。

 やっぱ、そこそこ行けるわ。



 ついでに言うと、先輩は百合も行けるらしい。

 しかも、後半は小声で言ってる辺り、きちんと混ざりはしないタイプらしい。



 ……この人、どこまで男っぽいの?

 こんな人とデートとか、本当ホント出来できるの?

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