〈3〉女難(いちなん)去って、また女難(いちなん)
「それは、それは。
大変だったねぇ。
まさか、学園のマドンナと謳われる
私、驚いちゃった」
「あ、ああ……」
言う割にはテンションも笑顔も変わらないな……と思ったのは内緒にしてだ。
そして、来て早々にベッドをポンポンと叩かれ、座る
それに従い、
……余談だが。
上裸にまでなる必要は
「うん。問題、
にしても、意外と鍛えてるねぇ」
文化部の割には整っている方だと自負する胸板に、
俺は気恥ずかしくなり、目を逸らした。
「……輪っかにフィットするゲームを、妹に勧められてな。
これでも毎日、欠かさず進めてる」
「あれ?
エイくん、妹さん
「あ、ああ。
去年、
ちょっと、
「ふーん。
って
「ん……まぁ……。
ギマイ、ではあるかな……」
「
「いや、そっちこそ
「あはは。
私には、
とまぁ、冗談はこれ
俺の上半身に触れるのを
どうやら、チェックは無事に済んだらしい。
こっそり少し惜しみつつも立ち上がろうとすると、
「ダーメ。
まだ終わってないですーだ」
「ん?」
「こーこ」
意図を掴めず困惑する俺のズボンを、
……おい。まさかとは思うが……。
「さーて。
下も、脱ぎ脱ぎしましょうねー」
「案の定かぁぁぁぁぁ!!」
極めてナチュラルに、お手の物と言わんばかりにサラッと、下半身まで診察しようとしたのである。
両足だけならともかく、腰部は隠したい。
「い、いやいやいや!
それは、
クラスメートのライン、超えてるだろ!」
「平気、平気ぃ。
私、医療志望で、そういうの、本で見慣れてるから」
「天職じゃないか!!
何この、リアル白衣の天使!!
一生、通い詰めるか入院し続けたい!!
って、そうじゃない!
君じゃなくって、俺の問題!!
そもそも、足なら今、診ただろ!?」
「うん。
だから、私の個人的な興味」
「『見返り』って、そっち、そういう!?」
ここに来て、最後の最後で、まさかのイレギュラー発生。
しかし、こればっかりは
本音を言えば見て
「ほ、ほら!
俺、足はトレーニングしてないから!
腕メインだから!」
「あのゲーム、どっちかってーと、足メインだよね?
戦闘に
少なくとも、序盤は」
「さては、あのゲームやり込んでるな!?!」
「
エイくんったら、いけない子だなぁ。
現役の女子高生に、そんな無粋な質問するなんて。
罰として、前を見せて
「ここは、保健室であって、お風呂じゃなーい!!
健全の代名詞たる場所だぁぁぁ!!」
「安心して。
痛くしないから。
優しく、するから……」
「話を……どうか、話を聞いてくれぇぇぇぇぇ!!
俺の
てか立場、逆じゃないか!?
なぁ!?
※
「はい。
問題、
私としては、このご褒美が終わっちゃうのは、少し残念だけど。
ところで、エイくん。
「……誰の
「えー。
私、言ったよ?
『隅々まで調べるから』って」
あれから数分後。
精神的ダメージは、想像するに
今日は、厄日か……?
などと落ち込んでいたら、
これ……紛う
「心配
私から、したんだもん。
犯罪には当たらない、当たらない」
「……
「誰かの意見、感想、目線なんて、知らないよ。
エイくんからしたら、どうなの?
ご不満?
それとも、不愉快?」
「学校一の女神たる可愛いクラスメートに甲斐甲斐しく介抱されて、あまつさえ抱き付かれといて、そんな
「あはは。
可愛いだなんて。
お世辞でも
でも、暴力は、ダーメ。
もっと平和的に行かないと私、許しませんよぉ」
「イエス、マム!!」
「素直で結構。
ところでさ、エイくん」
俺を抱きしめる力を少し強め、俺の耳元で、
「エイくんはさ。
先輩を恋人的な意味で好きになりたかった。
だから殊更、ショックだったんだよねぇ?」
「まぁ……」
「エイくんも、年頃の男の子らしく、異性に興味津々?」
「
そこにかけては当方、誰にも負けない自信と情熱があります!!」
「わぁ。
積極的で、可愛いぃ。
じゃあさ、エイくん。
私じゃ、
「え」
一瞬、何を言ってるのか、分からなかった。
しかし、近くで感じる
これは、現実、真実だと。
「
好意を寄せてない相手に。
ここまで迫らないし、気を許さないよ。
私……エイくんの、エイくんだけの、特別になりたい。
エイくんと、私。
互いに、両方の
エイくんは……私じゃ、ご不満?」
誰よりも優しく、眩しく、
いつも穏やかに、暖かく見守ってくれている、
今、俺の知る中で
一緒に
そんな魅力的な子にアプローチされて、断る道理は
先輩同様、まだ恋愛対象としては見られていないけど、きっと、好きになれるに違いない。
ならば……答えは、一つ。
「
俺と……俺と、付き合ってくれ」
そこまで行き、覚悟を決し目を開けた俺は、ハッと
「はい。
言質、頂きましたっと」
「ごめんね、エイくん。
私としても、こんな手段は取りたくなかった。
でも……こうするしか、
私の胸で騒いでる不安を、取り除くには」
振り返った先に
全然、
けど……これは、もしかして……。
「俺……嵌められた?」
「ううん。違うよ。
ちゃんと、本気。
だからこそ、証拠が
私……こう見えて、不安で一杯なの。
だから、証明して
私を受け入れようとしてくれる君の声が、言葉が。
何度でも聞ける
励ましてくれる
私を、いつもの
「
俺が彼女の名を呼ぶと、
先程までとは違って、まるで
「……お
ちゃんと、『
それが、私。
君との関係を進めたいと切に願う、
私の、名前」
「……」
……分かってる。
こんなの、話が
このままスムーズに個別ルートなんて、普通過ぎて有り得ないと。
そしてそのまま、なんやかんやあって、
……だったら、
仮にこれが演技だったとしても、ここまで迫真めいている以上、この姿とて最早、彼女の一部なのだから。
こんな一面も
となれば……もう、迷いは
「……
俺と、付き合ってくれ。
俺を……男に、してくれ」
俺がストレートに伝えると、
あ、あれ?
もしかして、行けちゃう?
このまま平穏無事に、恋人ルートに
「……はい。
私、誠心誠意、尽くすから。
君が、私の理想……ヒモになれる
「ああ。
俺も、君に見合うヒモになれる
普通じゃないか。
それもそうだ。
ちょっと物足りない気がするが、これはこれで
これからは、彼女の想いに応えるべく、彼女が付き合ってて申し分無い、どこの誰にいつ紹介されても申し訳無くない、恥ずかしくない。
そんな、立派なヒモに……。
ーーん?
「……ごめん、
ちょぉっと、確認させて
「だからぁ。
私は、『
「すまんが、その話は
それより君、今、
「『ヒモ』」
はい、出ました、まさかの初手からの大正解!!
通例通りなら、こういう場面では
いやー!!
無慈悲だなー!!
「おぉかぁしぃぃぃだろぉ!!」
「わー、厚切りー」
「思った、狙った!
それでだ、
「ふんだ。
言い付け守れない悪い子と利ける様な口は持ち合わせておりませんーだ」
「分かった、もう
じゃあ、
そもそも、『ヒモ』って、どういう
露骨に臍を曲げていた
えー、
今までのが偽物に見えるレベルじゃないですか、
あと、いつの間にか眼鏡かけてる!
ご丁寧に、チェーン付きの!
あの、意識高そうな、
それでいて、本家と違って、不快感が全く無くって、可愛らしくて、抜群に似合ってるとか、作画泣かせも
「言葉の通りだよ。
ママは、生粋の甘えられたがりなのです。
だから、存分に甘えてくれるヒモが、大好きなのです」
「もう、そんな範疇に収まらないよね!?
それもう、人間としても男としても恋人としても終わってるよね!?
スポイルされ尽くしてるよね!?
ていうか、そこまで行ったら高確率で、君を愛してなどいないと思うんだけど!? 」
「平気、平気。
あなたの分も、ママがきっちりお金を稼いで来るから。
あなたがくれなくても、足りない愛はママが全力で補う、
……マジか。
中々、強い。
仕方ない。
弱点、突破口を見付ける
「……参考まで。
あくまでも参考までに、聞かせて
もし仮に、俺が君の希望に答えたとしよう。
そしたら、俺は毎日、
「簡単だし、
読書に、課金に、投資に……」
「
じゃあ、家事は!?
買い物とかは!?」
「とんでもない。
そんな危ない
今日みたいに、
それに、
エーちゃんは、ずっとお家に
てか!
「そしたら学校は!?」
「そんなの、辞めちゃえば
大丈夫。安心して。
ママ、エーちゃんだったら、どんな
高校中退も、無職も、浪費家なのも、
それに、エーちゃんの家族には上手い
ただ、長生きはして
あと、ナース系YouTube◯だから、家でエーちゃんを監、察しながらお
「さては前々から緻密に計画してたな!?
あと今、確実に、
ただ、将来の夢は素敵だと思います!!
視聴数、ガン上げさせたい!!」
「まぁ。
ママのお手伝いしてくれるなんて、エーちゃんは
くっ……しまった!
つい、また本音が!
あーでも、頭撫で撫で、気持ち
このまま、溶けてしまいそうだ……。
そう……名付けるならば、
どこまでも優しく、
それが、今の
こんなに歪んでるのに、外出禁止や監視、健康管理を除けば基本的に自由ってんだから、恐ろしい……。
「けど、我慢だ!
俺は、普通の恋がしたいんだ!
断じて、不通の恋じゃないんだ!」
「もう、しょうがないなぁ、
「アウトォォォォォ!!」
こうして、◯戸史明チックな
特別な想いを寄せかけていたクラスメートは敢えなく、問答無用で、とんでもないダメ女認定されるのだった。
……思い返してみれば、告白の時点で、それっぽい
致命的かつ徹底的、
※
「明日まで、時間をくれ」。
そう頼み込み、どうにか
靴を脱いだタイミングで、
エプロンをしている所から察するに、調理中だったらしい。
「……
マジカルお疲れ?」
「……ちょっとな。
心配させて悪い。
「……ゆっくりで、
夕餉なら、もう出来てる。
暖め直すのみ」
「そっか。
じゃあ、素直に甘えとく」
安心させるべく妹の頭を撫でた
まだ、制服から着替えても
※
「……ん……」
気の抜けた声と共に、目が覚めた。
いつの間にか寝落ちしていたらしい。
確かに、精神的に疲弊していたのは事実だが、ここまでとは……。
これが冬なら、確実に風邪を引いていただろうに……。
「……ん〜?」
ところで……俺の部屋の枕って、こんなに柔らかかったっけ?
それに、
「あ。
起きたぁ?
おはよぉ、エイくん。
柔らかくて当然である。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
とんでもない
「今のも、私が勝手にやってただけ。
驚かせちゃって、ごめんねぇ?
ちょっと、用が
済んだし、もう帰るねぇ」
「お?
あ、ああ……」
よく分からないが、そう言って立ち上がり、背中を見せ去ろうとする
あと、「
多分、先生に聞いたんだろう。
うん、そうに違いない。
これ以上は、追求するまい。
「あっ……ま、待ってくれ、
そこまで思い至ったタイミングで、俺は大声で
叫んだ
「な、何?」
「あー、いや……」
今更ながらバツの悪さを実感した俺は、
「一応、確認なんだが……。
俺の鞄、漁ったりしてない、かな?」
予想外の内容だったらしく、
背中の後ろで手を組み、やや前のめりになって、興味津々な
「なぁに?
見られちゃ恥ずかしい物でも入ってるのぉ?
クラスメートにぃ?
異性にぃ?
それともぉ……」
勿体振った調子で話しつつ、胸に右手を上げ、頬を
「私に……とか?」
この場には俺達二人しか
そろそろ恋人として成立しても不思議ではない関係性。
告白するには好条件と明言して差し支えないピースは揃っている。
「そうだよ」とか。
「君が好きだからだよ」とか。
そんな簡単な、飾らない一言を届けるだけで。
もしかしたら
惜しむらくは、今の俺の気分。
それだけが、その理想的シーンへの、最大にして最後の砦、妨げとなった。
「……お
君だけに限らず全人類が、ドン引きし。
SNSや風の噂を使って拡散させた暁には、尾ひれ背びれ腹びれ胸びれを付けずとも
期待と空気に
「な、何それ……。
可愛くない……」
「俺は男だからな」
「そういう意味じゃないもん。
エイくんの馬鹿っ。
もう知らないっ。
「お気遣い、傷み入るよ。
けど、残念だったな。
後悔なんて、もうしてるよ」
「〜!!」
またしても上、先を行かれたと思ったのか、赤みが薄れて来た両頬を、またしても染め上げた。
日頃からイメージしていたが、どうやら
「
エイくんにも、私達みたいに、隠してた一面があって、私が第一の目撃者になったとか?」
「さぁな。
知らず知らずの内に、先輩の
ともすれば、寝起きで頭が
もしくは、自室に
かもしれないな」
「また、そうやって、はぐらかす。
あーあ。なぁんか、面白くない。
やっぱり帰るね。
このままだと私、エイくんの
「そうか。
「あははっ」
「一体、誰の
ちょっとは困ったり、申し訳なさそうだったり、止めようとする気概を見せて
幻滅まではしてないけど、ガッカリだなぁ。
エイくんは、自分を看て、着替えさせて、膝枕までして、
彼女を、お家までどころか、玄関まで送る
「君なら、ちょっとオーラ出せば大抵の男は尻尾巻いて逃げ出すだろうに。
それに、
「そういう問題じゃないって熟知して言ってるよね
私のヒモになる云々とは
「その時は
「保障は致し兼ねます。
べー」
両目を閉じ舌を出し、
彼女には申し訳無いが、その後ろ姿を目の当たりにして、俺は
何分、今は時期尚早、
彼女に、心を開くには。
「あ。そうだ、エイくん」
安心していたのも束の間。
「ごちそう
実に美味しい腹筋だったよぉ」
「……は?」
数秒後……俺は、真相に辿り付いた。
そして、テーブルの上に綺麗に畳まれた制服により。
「み……見られたぁぁぁぁぁ!!」
※
『カイ
ちーっす。』
女性に着替えさせられた辱めで悶え苦しんでいた俺のスマホに、メッセが入った。
呼び方から察せられる通り、
余談だが、普段の自由さに反し
「……」
こういう時、気の抜けた
『お疲れ。
どうかしたか?』
普段通りに戻れた俺は、雑談用のアカで
『いえ。
新アカ作ったので、登録をばと。』
『オッケー』と返し、俺は早速、登録し。
『ガヤ
「……うん?」
謎の名前に、戸惑った。
……ガヤ
答えが見付けられずにいると、続け
これは……動画?
『気が付いたら、同じリプライ、リプレイ、リフレイン
そして、いつも同じ 悶え死ぬ
諦めずに、「負けぬ、明日は」と挑戦するけど
朝(すぐ)に、沼に落ちるよ
相手に好意(きぼう)があれば、楽に個別ルートまで着くけど
何回やっても何回やっても、エラーまんま他推せないよ
オチる言葉は、何回やっても避けれない
後輩(うしろ)に回ってマウント取っても
いずれは年を詰められる
内部捜査も試してみたけど
恥ずかしがってちゃ意味が無い
だから、次は絶対、告る(かつ)為に
サキは、良い勘だけは最後まで取っておく』
自白しよう。
俺はこれまで、
いや……マニアであるのを除いても、彼女の言動は不可解な物ばかりだった。
にも
今回のは、これまでとはダンチで難解だった。
「つまり……どういう
俺の言葉に反応してか突然、大きな音を立て、ドアが開く。
そして、そこから出て来た
「師匠……!
師匠、師匠師匠……!! 師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠師匠っ……!!
愚かな自分を、許すっス……!
自分は、もう、辛抱なりませんっス……!
良く言えばクール、悪く言えば機械的な普段の印象とは正反対に、俺に甘える
そのまま彼女は、俺の胸に手を当て、目を潤ませながら、こちらを見詰める。
……あれ?
もしかして、三度目の正直?
今度こそ、
よっしゃ、やった!
いや、もう、今度こそは固いでしょ!?
などと浮かれていた俺は、忘れていた。
二度ある
そして、
そこにデカデカと書かれた、『推し変、担降り、同担拒否』の文字。
「……師匠。
お願いっス。
自分は決して、倒れないし、倒せないし、他推せないし、多推せませんっス。
だから、師匠。
どうか自分の、
期待に満ちた眼差し。
蒸気した両頬。
胸から伝わる温もりと鼓動。
けれど、やはり違う解釈。
「……もう……無理ぃ……」
真意を問う気力も
今日は、やはり厄日だったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます