〈1〉変な粒揃い
夢の中で念願の彼女と浜辺で追いかけっこしていた俺の意識は、頭に刺さった謎の物体によって現実へと帰った。
「……」
夢を強制終了させられた
そして、代わり映えのしない日常へと強制送還させられた
図らずも二つの原因となった妹を、寝起きの割りには妙に定まった視界と思考で、俺は捉えた。
「……
そもそも、どうやって扉を開けたんだ」
ゴスロリ衣装を身に纏い、眼帯はしない代わりに室内で漆黒の傘を広げて、
そんな
「カード・キー」
……つまり、例によって例の
天下の大泥棒ですら腰抜かすピッキング術である。
「……そうか。
俺が知らない間に、カードはそこまで劇的に進化していたか。
願わくば、世の悪人にまで作り方が広められん
で。このやり取り、何度目だ?」
「378回目」
「そうか。
相変わらず、
「マジカル
「マジカル
「マジカル感謝。
ただ、訂正を求む。
「そうか。
可愛い妹がそう言うのなら、撤回しよう」
下手なのを承知でツッコミつつ、今日も今日とてよく分からないまま、
俺は額に刺さったままのカードを取った。
そこには、ムン◯の叫びみたいなイラストが描いてあった。
「
マジカルな悲願とて、成就もマジカル夢じゃない」
「そ、そうか……」
その割りには、カードからはハッピーな気配が
依然として、おどろおどろしい上に、違いと内容が分からない。
が、これで的中率はメジャーリーガーの打率並だったりするから、侮れない(
惜しむらくはタイミングまでは分からない
これは極端な例だが
「それはともかく、
そろそろ準備しないと、マジカル危うし。
このままでは、遅刻は免れない」
一部の趣旨は取れないが、そんな助言を残し、
見た目や言動の通り、やや変わっているが気遣い屋な、何だかんだで
まぁ……人見知りな上に、
「っと」
こうしてはおれん。
きちんとせねば。
そう言い聞かせ、俺は早速、身支度を整え始めた。
※
「おっす、
今年も、同じクラスか。これで四年連続だな。
引き続き、
「ああ。おはよう、
こちらこそ、不束か者だが、
「お前に嫁がれた覚えは無ぇ」
「奇遇だな。
俺も、お前に嫁いだ
教室でゲームをしていた俺は、声をかけられたタイミングで画面を一旦、消した。
本職や俳優でもなく監督や、そこそこイケボだったお
そんな感じの、必要に迫られたってだけの理由で
要するに、残念な
「……
「仕方ないだろ。
お前、いつ次の出番が来るか、ともすれば喋れるかどうかすら怪しいんだから。
きちんとクレジットされてるだけ、ありがたいと思ってくれ」
「へーへー。
で?」
俺の横の席である
「相変わらず、意外な趣味だなぁ。
お前、パッと見、お硬そうだし実際、
現に今も、俺と話す
「ん?
そうだな。確かに、この手の物は、今まで触れた
先輩に薦められるまでは、な。
それに、これは普通だ。
人と話す時は目を合わせないのは、非常識だろ」
「今時、スマホ見ながらの会話なんて、日常風景なんだが……」
俺にツッコミつつ、
まぁ……気持ちは分かる。
なんせ、俺が今プレイしているのは、ギャルゲー。
コンシューマー版なので、未成年が遊ぶに
「一応、断っておくが。
きちんと泣ける、燃える展開に力が入っていて、初心者の俺でさえ続きが気になる。
我が文学部の部長を務めているだけの慧眼は
「……お前ん
「ああ。
部を存続させる
去年だって入部希望者は多数、
全員、門前払いにされがな」
「そりゃそうだろ。
あん時ゃ全員、先輩だけが目的で、文学にも部活にも明らかに興味
そりゃ、追い出されるて」
「誤解を招く発言は慎め。
俺なんて、
よもや、ここまで活字離れが深刻化してようとはな……」
「その真偽はさておきだ。
どうなんだよ? その後」
級友の質問の意図が取れず、俺は首を傾げた。
そんな俺の心境を汲んでくれたのか、男士は具体的に述べ始める。
「いや、さ。
先輩って、めちゃくちゃ美人じゃん?
でもって放課後は毎日、そんな先輩と二人っきりなんだろ?
そのゲームみたいなの、
確かに、
長身で、イメチェンやアクセサリーを
中性的な声と外見により毎年、並み居る強敵たちを余裕で跳ね除け、文化祭のミスターコンでは2年連続、全票を獲得し圧倒的大差で優勝している猛者。
竹を割った
それでいて、口調は女性的というのが、また悩ましい。
厳しい所も
イベントを大事にしており、ハロウィンにはお菓子か一杯に入った箱を準備してくれたりもした。
……
俺がビクビクする
余談だが、悪戯が絡むとポテンシャルを発揮して器用になるのは、反則だと思う。
普段は創作物にしか興味が
「
俺達は健全に部活をしているだけだ。
色恋沙汰になど、ならんわ」
「ふーん。健全、ねぇ。
そう言う割にはさぁ」
やや拗ねながら、
「……
「お前が遊んでるゲームのヒロイン。
どこがとは言わんけど。
「なっ……!?」
言われてみれば、
しかし。
「俺の憧れ、尊敬する人物だぞ!?
そんな理由で、俺に薦める
起き上がり、前のめりになり、声を荒げる。
それはもう、状況が状況、場所が場所なら、胸倉を掴んでいたかもしれない勢いだった。
やにわに静かになった教室中から奇異の目を向けられても、
「エイくん?」
現時点でも俺の知る限りでも一人しか使っていない、少し変わった呼び方。
それが決定打となり、俺の中の沸々とした怒りは急激に冷めた。
あわや友人との仲が決裂しかけるピンチを救ってくれたのは、思った通り。
クラウン・ブレイド付きのピンクのミドル・ヘアと、オレンジ色の垂れ目が特徴的な人物だった。
「
「あはは。
急にお邪魔しちゃって、ごめんね?
でも、
感心しませんよー。なんちゃって」
「……すまん」
このクラスのみならず学園の聖母と呼ばれる女子、
にこやか、穏やか、お
それに起因してか、語尾に「ぁ」「ぃ」「ぅ」「ぇ」「ぉ」を中々の頻度で用いるが、
親しみ易く広量、気遣い屋で敏く、しっかり者でミステリアス。
常に相手に合わせて言葉や口調を考え、変えてくれるので、凄いと思う反面、少し怖い。
冗談混じりで「
冗談半分で、「子持ち」とか「年齢詐称」とか「転生者」とか「時間遡行者」とか「不老不死」とか言われても、自然と納得するどころか、しっくり来る
調理部に所属しており家事万能で、毎日の弁当は
それでいて、ほぼ毎日、分けてくれるお菓子は、G◯DIVAもかくやといった絶品さ。
ポワポワ、フワフワとした柔らかい華やかなオーラを普段から放ちながらも、怒った時は本気で怖い笑みを浮かべる。
どの道、遅かれ早かれ自白を余儀なくされる
とまぁ、そんなこんなで。
我が後の誇る三大美女の1人である。
「反省
次からは、気を付けようね。
あんまり仲悪くしちゃ、めっ! だよ」
言いつつ俺に近付き、頭なんぞ撫でる
慣れたとはいえ、
「ゴンくんも。
あんまり変な話、振っちゃ
ただでさえエイくん、
「は、はい……ごめんなさい……」
「分かればよろしい。
じゃあ、二人共。
それと、本年度も
お邪魔しましたぁ」
満足したらしく、ペコリと頭を下げ
まるで何事も無かったかの
……悪い、
あと、
野原ひろ◯似のペットのサルじゃあるまいし。
「……ま、まぁ、
急に騒いで、悪かった」
「お、俺も……。
すまんかった……」
互いに頭を下げ合い、取り敢えず仲直りを済ませる俺達。
そのままチラッと伺うと。
俺達の方を見ていた
……見守られてたな。確っ実に。
授業参観かよ。
「さーせん、カイ
「おわっ!?」
抜き打ちテスト染みた
驚いた拍子に、注意を受けたばかりだというのに、また
振り向いた先には、少し小柄で、まだ制服に着られてる感が拭えない、
学校でもバイト先でも、そして今日から部活でも後輩に当たる、
「
存在感消すのは止めてくれって、いつも言ってるだろ……」
「これ
というのは建前で、これは生まれ付き無意識に
決して抗えぬ運命であるが
以上の事から判断するに、カイ
「……全然、悪いと思ってないだろ。
そもそも、改善する気、皆無だろ」
「バレましたか。
サキにあだ名で呼ばれるだけはありますですね。
△□☓でごぜぇやす。
パチパチパチパチパチンガー」
「
「存続すべく、部員として連ねる
こっちとしても願ったり叶ったりなので、
幽霊部員として、今日から誠心誠意、全力でサボり、遊び尽くす所存ディスタンス」
「いや、言い方。
あと、ダラける
こんな調子で本日も、
にしても、この子といい、妹といい。
俺の周囲に居る年下達は
と、やや不思議に思いつつ、沈んでいた気持ちを切替え。
改めて俺は
左右非対称なアイス・ブルーのショート・ヘア。
エメラルド・オーシャンを想起させる、常に眠たそうな瞳。
未だに中学生、酷い時は小学生にさえ間違えられる童顔、そして声。
ランドセル背負ってても
制服の上から着込んだ、
大和撫子を体現した
無口な
あと、
そんな感じの、これまた謎めいた後輩である。
「わ〜♪」
「
可愛い物に目が無い女子達に発見され、髪型を弄られたり、頬を引っ張られたり、写真を撮られたりする
様式美なので、特に驚く素振りも見せず、変わらない調子で語り出す。
余談だが、
早い話、この教室を訪れるのはともかく、高校の面々とは顔馴染みだったりする。
「カイ
どうか、お願いですます。
このサキめに、力を貸しなさいませ。
今日を生き抜く
「……意味深な言い回しは止めろ。
今日は
シフトか?
はたまた、原稿か?」
「全部でござる。
テヘペローナ」
「ちったぁ反省、学習しろ……」
「皆勤賞ー」
「誇るな、威張るな、楽しむな」
思った通り、またしても忘れ物か。
最初こそ不可解だったが、彼女の分までオーナーが俺に託したのは賢明な判断だったと、今では理解
ここまで忘れっぽいのに、仕事絡みのデータ自体は全て暗記してるってんだから。
「
俺とて、常に君を助けられるという保証は
突然の病や、家庭の事情。
最悪、事件や事故に巻き込まれるケースも想定し得る」
「カイ
完全に詰んだ……。
およよヨドン◯……」
急に気分が悪くなったかの
俺は、特に動じる色も見せず、
……死にかけの振りしながら、スマホを見ずにピッタリなBGMを流せる辺り、器用だなぁ、
「カイ
どうか、サキの亡骸は拾ってやってくださいまし……。
決して、忘れないでください……。
サキと過ごした、あの、尊き日々の数々を……」
「一年と一ヶ月だけだけどな。
安心しろ。
死なんから」
「そっか……。
……そう、でやすね……。
カイ
サキは、カイ
カイ
止まるんじゃねぇですぞ……」
「確約する。
俺の
話を戻すが、不測の事態というのは、どうしても訪れる。
次の瞬間。
退場ごっこをしていた
この間、
こやつ、変な所まで妹にそっくりだな。
「
『理念よりもリネン寄り』が、サキの座右の銘。
サキの道を阻む物は、何人たりとも躱してみせるでざんす。
ホワチャー。
「いや、戦えよ。排除しろよ」
「サキは、まだ♪ 16だからぁ♪
御免
何やら
かと思えば、ギャルみたいな口調で、折り畳んだ腕を口元まで運び上目遣いまで行う、
そして最後に、急に平時のテンションに戻る。
そのキャラのジェット・コースター、テンションの落差、計算不可能さ、不可解さに思考が追い付く辺り、俺も彼女の奇行に耐性が付いて来た
余談だが、これだけは言っておこう。
君、まだ15だろ。
「そんなこんな、なんやかんやで、あんたのお宝、頂いたぜ。
もうここには、用は
では、カイ
アラ・ガーイ。まぁた遊んでやるぜー」
やはり明らかに元ネタありきな発言を残しつつ。
俺のツッコミなど物ともせぬまま、
「……新学期早々、またしても騒がせた。
今回は、こちらにさほど落ち度は無いがな。
重ね重ね、失礼した」
クラス中に侘び、着席する。
ふと机を見ると、メモ用紙が置いてあった。
ご丁寧に、上に文鎮代わりの飴までセットだった。
『ご褒美で
劇場じゃあないけど、サキの恵みをありがたく受け取れです。
P.S.ゲーム病の予防にはならないかもです。
追伸 仮になったとしても、サキが
おまけ やっぱりならないでください。熾烈な戦闘に備え
「
苦笑いしつつ、俺は手を合わせ「いただきます」を済ませ、サキの恵みとやらの飴を
そんな俺に対し、キャラを食われ、すっかり忘れ去られていた
「……お前の周りって、変な粒揃いだよな。
羨ましい
「コメントは控える」
「いや、それ、遠回しの肯定……」
取り敢えず
詳細は不明だが。
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