上田の覚醒
1番チームで可能性のあるやつ。伸び代のある上田に、どうやって動きを教えようか。
自分のことで精一杯になっていた俺は、周りのプレーヤーの動きの特徴に気付いてはいたが、動きの軽さ、弱点探しに夢中になってしまっていて、長所にまで目が行っていなかった。
上田は、シュートモーションだけはマジで完璧なのになー。
「先輩!ボーッとしてないで!須藤が!」
須藤の動きは野生的すぎて参考にならない。バスケの基本とか構えとかの問題じゃなく、誰にも当てはまらない気がする。
それで、俺でも中途半端に行こうものならーーー
「ピッ!ブロッキング」
「「「どう見てもっ!ファールだ!ファールファールだ!ドドッドッドッドドッ!ヤっ!」」」
俺が最初からついていないとーーー
「ピッ!ブロッキング」
「「「やめてっ!さわーらないでっ!ボディータッチが強すぎるっ!タイホッタイホタイホッ」」」
相手チームの応援マジでうぜー。
あいつら、不破を探しに行ったんじゃなかったのかよ。
「キツイ感じかい?」
竜ヶ崎に声をかけられる。
「いや、大丈夫だ。ちょっと掴めた」
ファールがかさんで退場とか洒落にならないからな。この辺でなんとか止めたい。
「いなくなってくれるなよぉ?もっともっと遊ぼうぜぇ!」
まさに絶好調。手がつけられない須藤。これで不破が帰ってきたらヤバい。
上田が俺に耳打ちしてくる。
「もう、俺がファールで止めるしか・・・」
「おまえもあっち側の人間になるなよ。それに、チームファールが満杯になったら、一方的に攻められちまうぞ?」
「やっぱり、先輩はまだ本調子じゃないんですか?」
ん?こいつ俺が少しだけ抜いてディフェンスしてるってわかってるのか。竜ヶ崎はわかってない感じだったのに。
上田の目が、俺と須藤の速さに慣れてきたか。
「はや!中途半端はダメっ!」
望美の声が聞こえてくる。うちのベンチは相変わらずもぬけの殻だ。相澤先生と志多と五橋姉妹。亜香里は、俺が上田に期待してるのを知ってて、じっと何も言わずに堪えている様子。
「上田、ちょっと特訓しないか?」
「試合中に何言ってるんすか!?」
「ほんと、上田は冗談通じねーな」
「真面目にやってくださいよ」
「おまえさあ、もうちょっと遊び心ってやつをだなぁ・・・」
「ちょっと!ディフェンスしないんですか!?須藤に好き放題やられてますけど、いいんですか!?」
「上田、落ち着けよ。俺に頼るな。自分でなんとかしようと思わないのか?」
「!!先輩・・・見損ないました。先輩はこのチームのこと、どうだっていいんですね?さっさと帰ってイチャイチャしててくださいよ。俺は、俺にはもうバスケしかないからっ!ちゃんとやらないんだったらいなくていいです!」
好青年上田が暗黒面に堕ちようとしている。だが、俺は煽るように言葉を連ねた。
「バスケで俺に負けて、恋愛でも譲って、この後輩くんは哀れだな」
「や、め、てく、だ、さい」
「おまえこそ、よく俺に従ってられるな。恋敵だろ?笑えるんだけど」
「う、う、う・・・うるせーーー!!」
上田が叫ぶ。怒りを全身に散らしたその瞬間、上田を縛っていた余計な所作が消えた。
目の前にいる上田は派手に光る稲妻みたいなものは何もない。だけど、堰き止められていた水が勢いよく流れ出すように、上田の時間が動き出す。
「俺がやってやるぅあああ!!」
俺と須藤の弾けるような動きとは違う、無駄を一切省いた動きだ。俺にはたくさんの動作の上田が十体以上連なってたくさん見える。
ドプン。
上田がボールを持つ。上田が動く分だけ、無数の動きがモーションとして繋がって、少し酔いそうになる。
動きの軽快さが須藤ならば、水を蓄えているような重さが上田にはあって、須藤は水の壁に負けるようにして上田にそれ以上踏み込めない。
上田の動きは速くはない。だけど、それがバスケひとつひとつの基本動作を忠実に守ったやつが至る極地、と言うなら納得してしまう。そんな凄みがあった。
何より、もう上田に迷いが無い。
「うおおおお!!」
上田がジャンプストップするだけで、重さが伝わってその前でディフェンスする須藤が後ろに一歩下げられてしまう。
「くそ、がっ!!」
須藤のバスケは天性の才能だから、わからないだろう。バスケの基礎動作には理由がある。壊れた蛇口は直らず、後はその水を受け止めるしかない。上田を止めようとするやつは誰もいなかった。
悠々と打ったスリーポイントシュート。ボールはリングに迷うことなく吸い込まれていった。
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