あれ?不破?
上田の動きに、俺の膝の負担を軽くするヒントがあった。
上田は、体に負担がかかる動きをしていない。動きのベクトル、流れを、そのままに。止まる時も、水飛沫を散らすように、まるで一枚の川辺に沈んでる岩となって、力を分散させていた。
できるかなー。俺にも。全身を使って、流れを遮断せず、むしろ繋ぎ合わせる感じに。
「先輩、無理せずに俺にボールをください」
ゆらりと眼光に水色が揺らめく。上田は亜香里を一瞥すると、ふっと笑みを浮かべて、余裕ぶっている。ああ、かっこいいわ。今なら亜香里が取られるぐらい、この後輩には魅力しか詰まってない。
対する亜香里は、無表情だが、なんとなく安心したような表情を浮かべているように見える。
「ばーか。遅いよ。お兄に嫉妬されて慌てればいいのに」
どうやら、上田の覚醒と共に、俺への期待も爆上がり中らしい。
同じチームだし、上田は良いやつだから俺は素直に協力して須藤を倒せばいいのだが、なんでだか、ほんとになぜだか、上田に対して少々の敵意と嫉妬を。
「おまえにカッコいいとこはやらん」
「先輩、俺に当てないでください。先輩の嫉妬受けながらのプレーはさすがにキツいです」
「とか言って余裕そうだな?おまえに須藤任せれば、もう大丈夫だろ?」
「そんなこともないですよ。ほら」
須藤がさらに圧を強めてくる。細かい動きを駆使して、上田を超えてくるだろう。だけど、その後ろーーーベンチには危険そうなやつが姿を見せている。
「不破か。なんか、雰囲気違うな」
「先輩を怪我させた時より悪い顔してません?」
どす黒いオーラ。不破がいなくなってどこで何してたかは知らない。だけど、只事ではなさそうだった。
「余所見してんじゃねぇぇえ!!」
須藤のドライブのキレがまた増している。怪我してなきゃ、こんだけできんのかよと羨ましく思いながら、上田のディフェンスで止まったところを俺がボールを外に掻き出す。
ボールがラインを割って、須藤が天を仰ぐ。こいつの独力は凄まじいが、2対1だったらどうにか止められる。
「不破あ!ちょっと手伝えやあ!少しはやれるところをみせろぉ!」
「クックック・・・やってくれたね・・・厚い肉の壁は凄まじく、トイレで食べるちゃんこ鍋は底辺の人間の味がしたよ・・・。まさに、地獄、だった」
え?なんのこと?こいつ、トイレでなんかあったのか?
「まさか、報復に遭うとは思わなかったよ。あの3人の、特にリーダーは頑丈だった。鋼の心だね。尊敬するよ・・・。でも、僕はあんな奴らの仲間にはならないッ!!」
めっちゃ俺の方を見て呪詛みたいなのを撒き散らしているけど、俺、なんか関係あります?
「先輩、亜香里の親衛隊の人たち、不破に何かやったんじゃないですか?」
「ああ、そういう・・・」
ベンチを見ると亜香里がいない。っつーことはだ。あのふっくら3兄弟が何か独断でしでかした可能性がある。今頃、あかりは3兄弟のところに様子を見に行ったんだろう。
「僕には忍耐なんて無理だ。真逆の発想なんだよ。わざわざ自分から隠キャになるやつがいるかい?」
「あいつら、陽キャではねーけど、多分隠キャではねーよ。楽しそうじゃん」
「楽しいわけ、あるかあああ!!」
ですよねー。あいつら忍者みたいだもん。こっちからお願いしてないのに勝手に天誅!とか言いそうじゃん。
「ま、いいじゃん。戻って来れて、良かったね」
「おまえには、地獄を見せてやる。許さない。僕に悪夢を見せたおまえを、許さないからなあああっ!!」
亜香里、親衛隊が暴走してるぞ。ちゃんと管理しろよ。
まぁ、他校から引き抜いて同好会をでかくしたかっただけ、かもしれないが。不破はマジで何をされたんだろうか?
「陽キャは、死すべし!」
不破のノリが、完全に3兄弟のそれなんだが。もう、手遅れかもしれない。
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