その風に乗れるのか

どれ、行くか―――飛ばすか。


ボールを持った俺は動き出す。須藤じゃない誰かをドライブで抜いて、ゴールに一直線。復活の挨拶代わりのダンクシュート。


決まった瞬間、視線が集まるのを俺に感じる。何が起こったかわからない、といった驚いた表情の面々。


それら見てると、なんだか釈然としない、熱くなるのとは真逆のベクトルのものを自分の中に感じた。


今は別にいいか。今はやれることをやるぞ。とディフェンスに頭を切り替えるも、まだパスを出していない相手に拍子抜けした。相手の動きがとてつもなく遅く感じる。


須藤狙いのバレバレのパスを、俺は余裕でカット。そしてそのままレイアップを決める。


「何やってんだあ!俺を使うな!狙ってやがるぞ!」


「須藤頼みっぽいな。まぁ、そのほうが守るのが楽だわ」


「てめえ、もうくたばったかと思えば・・・死んだふりかぁ!」


「勝手に終わらせるなよ」


「お、も、し、れーーーーー!!」


須藤の動きが、変わった。もう二段くらい上にギアをあげたらしい。


須藤がさっきより速くなってる気がする。恐ろしいことになってしまったと以前の俺なら諦めるところだ。


だが、もう俺は覚悟を決めている。体力がからっぽになるまで走る!


怪我した膝に一度、ポンと手を置いて、そのまま駆けた。須藤との追いかけっこ

の始まりだ。


「集中!!今チャンスっすよ!!」


上田がみんなを鼓舞してる。同点に追いつかれた時点で、相手はタイムアウトを取るべきだった。明らかに焦っているから、ここで何本かカットして得点を積み上げておきたい。


パスを出したいのに貰い手がいなくて、相手のプレーヤーが集まってきて渋滞。


須藤はあえてゴール側に走り切ってボールを呼び込んだがパスは来ない。スペースを活用したかった須藤の気持ちはわかるのだが、本気の須藤にパスを合わせるのは、ガードやってる俺でも難しいと思うのだ。


俺は須藤を追いかけるでもなく、コートの中央に立ってパスが来るのを待っていた。


この位置が多分一番ベストだ。さあ、みんな思いっきり前で暴れてくれ。


「前のめりすぎではないかい?」


竜ケ崎がパスカットして、そのままシュート。逆転した。


「水谷、後ろは任せたよ?」


神崎はでかい図体を駆使してボールの出し手を邪魔し続ける。


下にパスを通せば上田と竜ケ崎がカットする。


上にパスを出せば菊池先輩と俺がカットした。



相手の監督が完全に怒っている。当たり前だ。気が付けば、うちが10点リードしている。3分くらいの攻防で14点も取られるチームがここにあるらしい。


ただ、相手は司令塔がいないから混乱してるだけであって、例えば不破がコートに戻ればそれで済むような感じがした。


不破は、何してんだろ?不破みたいに落ち着いて指示出す奴が向こうにいないから、こっちが結構やりたい放題できてるんだけどな。


「不破を、探してこいっ!!!!」


監督の一言で、ベンチにいるやつはもちろん、ギャラリーの向こうのチームの応援団も不破を探しに駆けだした。


で、まだタイムアウト取らないのか。馬鹿じゃねえのか?


ま、いいや。イケイケの上田と神崎を落ち着かせよう。


「上田、ちょっと様子を見よう。神崎は動きすぎだ。今はまだ勝負する時間じゃねーぞ?」


だが、俺はそんな余裕がないことを知った。


須藤がボールを受け取り、投げるような姿勢で構える。


「取れるなら取れよぉ。奪い返してやるよぉ!!」


上田がボールを普通にカットする。だが、次の瞬間には、上田の目の前に、須藤。


「おせーよ」


上田の持ってるボールに手が伸び、須藤は簡単に上田からボールを奪ってしまう。


「上田、握力ねーのかおまえ」


「先輩!!」


須藤と対峙する俺。


できるだけ最短距離を突き進む須藤のドライブは、いくらコースを切っても突き進んでくる。それでいて、オフェンスファールにはなってない。


少しでも気を抜けばこっちのファールを取られそうだ。だから時間をかけさせようと、少しだけ引いて守る。


「どこまで守備してんだ?ゴール下だぞぉ?」


「あ・・・」


やばい。須藤のドリブルを止めることに集中するあまり、ゴール下までしまった。


ガコォ!


さっきのお返しとばかり、ダンクシュートを決められる。


ま、いいか。ディフェンスで負けたわけじゃない。次は止めるぞ。








パチィ!



え?



須藤が上田のパスをカットする。それも竜ヶ崎に対してのパスだ。俺に対してではない。


上田が青ざめた顔をしてる。どうした?メンタル弱くね?


「誰か・・・もらいに・・・」


須藤に決められても、呆然と立ち尽くしている上田。


え?マジでどうした?


「上田、ちょっと落ち着けよ。どうしたんだ?」


「須藤がでかくなった気が・・・いや、こっちから見るとそうじゃないんですけど、エンドラインから見るあいつの迫力がやばいです」


「パス出し代われよ」


「うっす」


須藤が強くなっているのは俺から見てもわかるが、周りから見たらもっとやばい領域にいるんじゃないか?


上田、もう少しマシになってくれ。真面目なのはおまえのいいところだが、遊び心が無いと、須藤との差は開くばかりだぞ?


バスケはチームスポーツだ。須藤がこれ以上強くなって手をつけられなくなったら、俺はパスをもらうこともできなくなってしまう。


でも、誰か俺の意図を読み取ってくれるやつがいれば、須藤と戦える。


うちのチームだと、上田しか期待できるやつがいないんだ。難しいけど、突き抜けてほしい。もう3段階くらい、上にな。

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