※一縷の望みも断ち切る
須藤の眼に、冷たさが宿った。水谷の本気の力を期待して温厚でいた彼は10分間のインターバルをおいて、冷静に相手チームの戦力を分析して見切った。そして、いつも通りに興醒めした。
確かに、怪我させたこちらが悪い、と須藤はわかっている。だが、怪我をして輝きを失い、全盛期だったらと嘆き、回復を謳う者を何度も見てきた。水谷も例に漏れずそれに当てはまっていると確信した須藤。その表情には、若干の悔しさも滲んでいた。
「そんな言い訳、これまでいくらでも聞いてきて、どいつもこいつも裏切ってきやがった」
独り言がベンチの誰にも聞こえずに、口元を押さえたタオルに溶ける。
久しぶりに出会った強敵。無名だが、自分の予想を凌駕してくる動きをした。名前は水谷と言い、地区予選でもメンバーに入っていない、データが全く無い男だった。
そして須藤が興味を惹かれたのは、対峙した時の彼の瞳。
瞳の奥から光が溢れ出すように、動けば光が尾を引いて、鋭くこちらを見定めてくるその力は、須藤の持っている瞳の力と良く似ていた。
やっと自分と同等の力を持ったやつが現れた。と須藤は嬉々として試合を楽しんでいたのだが、その楽しみも呆気なく消え去る。
水谷が戻ってきてもパッとせず、心が燃えもしない残り時間は、どれだけ自分が凄いのかを周囲に知らしめ、己の価値を高め、いずれ出会うだろう強敵に会うまでの準備運動。そのように考えていた。
だが、自分の力を示せば示すほど、周りのやる気が下がっていくことも、須藤はわかっていた。
いつだって、相手チームのエースと相手をして、1番そのチームで上手いプレーヤーが自信を喪失して帰っていくのだ。
「エース潰しの須藤」
そう言われる須藤は、今までの対戦相手の絶望した顔など、気にも留めていない。弱い奴が悪い。強いやつがいないから仕方ない。それが彼の答えであり、これからも変わり続けることのない力の蹂躙そのものだった。
だから、まだ大きなミスもせずに要所で光り輝く上田の存在に、須藤は狙いを定める。
須藤は人をいたぶってるつもりも、けなしているつもりもない。ただ、普通にバスケの試合をしているだけだ。
ポイントゲッター相手に勝負を挑むのも普通のことだろう。結果として、相手の戦意を、バスケの自信を著しく削いでしまうのは別として。
「終わりだよぉ。この試合も、俺の独壇場だ!」
誰も彼と同じ高みに立てない。だからこそ、彼はチームでも浮いた存在。彼のハングリー精神が極限まで研ぎ澄まされているのを、誰も知らない。
そして彼の空腹を満たす相手のことを、本人も知らずに第3クォーターが始まる。
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