いなせてはいない、でもキープ。
無名な俺が、できること。それは、常にチャレンジ精神だけで前を向き、1試合1試合、全力でぶつかることだ。だけどそれはできそうにないから、チーム力で今は乗り切るしかない。
「先輩、遅いです」
「文句なら望美に言えよ。言えねーだろ?」
「ははは。先輩を復活させてくれただけで、嬉しいですよ」
上田が爽やかに笑ってる。神崎のイケメンスマイルを奪ってきたみたいな顔してやがる。試合の中で、かなり自信をつけてるみたいだ。こいつはまだまだ体力的に余裕がある。そう踏んで、俺は上田に提案してみることにした。
「実はまだ、さっきみたいに本気出せないんだわ。望美に止められててな」
「それで、どうやって須藤に立ち向かうんですか?」
「さっきベンチで仲良く喋っちゃったからなぁー!俺がまだ全力出せないことも知られてる」
「先輩、アホですよね」
「アホ言うな。なぁ、面倒臭いだろうが、攻撃の時は俺の周りを衛生みたいに動き回ってほしいんだ。できるか?」
「そんなことしたら須藤に余計捕まりやすくなりますよ」
「いいから、頼む」
こちらの攻めで試合が再開した。須藤は当然、俺についている。
「早いご帰還おめでとうだなぁ」
「少しは心配ぐらいしろよ」
チェンジオブペース。ドリブルしながら股下にボールを通したりして、俺はしばらくリズムを変えてみる。
「お、来るか?やんのか?大分スピードが落ちてんなぁ?」
ちっ。本気の俺のスピードに比べたら半分以下だろうか。野球で言ったら140キロ投げるピッチャーが90キロしか投げられなくなるみたいな。雲泥の差がある。
「先輩!」
まだだよ、上田。焦んな。
俺はドリブルで須藤を抜き去ろうと試みる。だが、簡単に回り込まれて立ち塞がれる。
だが、俺は、後ろにいた上田にボールを残した。
「んなろっ!!」
当然、俺を無視して須藤は上田に迫る。
だが、クン、とシュートフェイントした上田から、縦関係になった俺にパスがきた。
シュートブロックする気満々で跳んでいた須藤は戻れない。
「ああん!?おちょくりやがってぇ!」
相手のゾーンディフェンスは、外を怪物の須藤1人が見ていることになってるから、中に切り込まなくていい。ここで、シュートをーーー。
だが、須藤の戻りが早かった。俺が跳んで打ったジャンプシュート、その手が離れた瞬間のボールをバシッと当然の如く弾き飛ばされる。
やっぱすげーわ、こいつ。速いわ。速すぎる。
「須藤、これでも届くのかよ」
「舐めてんじゃねーぞぉ?本気出せよ」
「別な方法を考えるだけだ」
「雑魚みたいな動きには飽きてんだ。小手先でコネコネしたってどうにもならないことを教えてやるよぉ?」
ーーーーーー
第2クォーター終了。34対37。攻め手が無い俺たちは、あからさまに時間稼ぎをした。リングにボールをわざとぶつけて菊池先輩に拾ってもらい、攻めの時間をできるだけ長く保った。
それでも、神崎の抜けた穴が大きくて、相手にリバウンドを取られるようになってしまった。そして軽々と須藤にシュートを決められる流れを二度やられた。
「神崎ぃ。立ってるだけでいい。出てくれ。おまえの重要さが痛いほどわかった!」
第3クォーターまでは10分間休みをもらえるので、今コートでは次の試合の女子が練習をしている。
それを鼻の下を伸ばしながら眺めている竜ヶ崎。キモい。
「へぇ、女子なら誰でもいいんだぁ?」
月城がよそ見をしている竜ヶ崎にパンチ!
「ぐわっ!ただ見てるだけなのにぃっ!?」
「お兄、ちゃんと約束守ってくれて偉いね。よしよし」
「イチャイチャすんなよ亜香里」
上田が文句を言っても、俺の頭を撫でる亜香里の手は離れない。
「メンバーをベストに戻そうと思う」
俺の提案に、頭を下げるやつが2人。
「「お役に立てずにすみませんでした」」
志多と大槻先輩だ。
「ふたりとも、まだいつでも出る準備だけしておいて」
「自分の力がわかったから、僕もみんなと一緒に2階で応援してていい?」
「え?まぁ、そんなに出たく無いならいいですけど」
「やったああああ!じゃあ次の生贄を探してくるから!」
生贄って何だよ。そんな恐ろしい儀式やってないっつーの。
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