拮抗

「先輩!ディフェンスどーすんですか?」


「須藤は俺に任せろ」


「うっす!」


ダンクを決めたからといって、浮かれたりしない。だけど、勝てる確証も無い。


ただ、力が漲っていた。


妙に頭の中がスッキリしていて、コートにいる人間の動きが予測できた。


「なんだこりゃ?」


もう一つの目が上から見下ろすように、視点が切り替わるように、この会場全てを見通せた。


だけど、上から見ているとだんだん頭がぼぅっとしてくる。


「どこ見ていやがる」


須藤の前で、俺は惚けていたのだろうか。


対峙している須藤を観察してみる。だが、目の前の須藤の動きを予測することはできなかった。


こいつだけは規格外ってことなのか。そう上手くはいかないらしい。須藤を一度もディフェンスで捕まえることができていないから、集中しよう!


今の俺ならできるはず。動き出しに、集中!


と、須藤にパスが出て、静かにドリブルをつき始める。


不意打ちのカットじゃダメだ。正面からぶつかって勝てるようじゃないと!


「いくぜぇ?」


踏み込まれる瞬間に稲妻が走り、またあっという間に抜かれた。


さっきより速い!


須藤にハーフコートまで攻め入られて、俺を待つかのようにこちらを見て不敵に笑う。


「今のでわかったか?」


俺には、見えた。スイッチが入る瞬間にバチッと須藤の目から青白い光が見えた。このタイミング、このスピードについていけるのか?


弱気はダメだ。もっと須藤を注意深く見るんだ。


「なんだ?舐めプなんて・・・」


「あと、ひとつ教えてやるよぉ」


シュッ


「は?」


シュートを打たれた。ただのシュートではなく、スリーポイントシュートだ。



パサァ。


「・・・なんてやつだ」


17対18。初めて、リードされた。


須藤はこの試合で、これまでスリーポイントを打っていない。


くっそ。ほんとに何でもできるってことかよ!


「ひゃはっ!てめぇが俺を止められないなら、うちの勝ちだ」


「そうかよ。んなことねーって」


神崎からのパスをもらった俺は須藤をドライブで抜く。


だが、須藤はギアを上げたようで難なくついてくる。


俺は、それでも焦らない。右、左と角度を変えて逃げずに切り込んで行く。


「やっぱりビビりかぁ?」


ちげーよ。そんなんじゃない。おまえの実力はどのくらいか見てたんだ。


「なるほど、ビビってたのはおまえかよ」


「あん?」


バチッ。


一瞬で置き去りにした。


後ろから須藤が追ってくる。今度はダンクさせないと思っているんだろう。


ーーーだが、


「うちのシューターのこと忘れてるぜ?」


アウトサイドに真っ直ぐ突き抜けたパスを出した。


そこには上田がいて、次の瞬間、シュートを打っていた。


シュオッ。


なんだ今の音。上田のやつ、


ドッ!と会場が沸き立つ。みんながこちらの試合を見ているのがわかる。


ベンチはお祭り騒ぎ。まだ第1クォーターだってのにな。


亜香里が嬉しそうにタオルを振っている。


ただ1人、望美が祈るような目でこちらを見ていた。


なんだ?どうした?


その後も殴り合いの展開になり、第一クォーターは23対22のうちのリードで乗り切ったのだった。

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