横山先生視点 友人との考察

アリーナに歓声が響く中、聞き覚えのある声がする。


「なーに勝手に人の娘の恋路応援してんのよ」


完全な変装、今日はサングラスに帽子を被って、長い髪も綺麗に帽子の後ろに畳んで入れていたのに、気づくやつは気づくようだ。


「んあ?紗希か。お疲れ」


「相変わらず軽いわね。他の生徒が見ていたらどうするつもり?」


「別に見られたからどうってことはない。今日のわたしは完全なオフだ。どこで何してようか勝手だろ?」


「どうだか。水谷颯人くんが気になるだけじゃないの?」


「ふっ」


わざわざバスケの試合を観に来てる時点でバレバレか。


「颯人くん、頑張ってるわね」


「そうだな。頑張ってる。今が1番楽しいだろうよ」


「ほんと、うちの娘2人も楽しそう」


「親として複雑か?」


「亜香里を飛び級させて、受け入れた協力者のあなたが言う?元の担任は何も知らないって言ってたわよ。ほんと、どういうつもり?」


「それは友人として?それとも教師として?」


「教師としてよ」


「姉の三者面談の時には全く触れず、今言うのか。君は有休を取って休んでるわたしに仕事をしろと?」


「じゃあ、友達として、教えてよ。みっちゃん」


みっちゃんなんて言うのは、君ぐらいなものだ。


紗希が少しすねるような感じを出してしまったので、わたしはおもしろくて思わずぷっと吹き出してしまった。


「そっちが大変なのはわかるが、・・・大変なのは君だけか。まぁ君が心配することは無いんじゃないかな」


「他人だからどうとでも言えるわね」


「教師だから、下手なことは言えないが、導いてやる責任はある」


「・・・やっぱり休みの日も職業病が抜けないじゃない」


「君が来たからじゃないか。話の内容も、うちの生徒のことだ。嫌になるよ」


「その割に、楽しそうに見えるわよ」


「そうだな、うん。興味深い」


1人の男子、水谷颯人の幼馴染の存在が、ここまで彼を変えている。最初は彼の、大切な人のそばにいたいという願いだった。


2、彼はもうわたしの考えを飛び越えて進んでしまっている。


学年一位の姉を振り向かせた。


妹を飛び級させる決断をさせた。


そして彼自身も2人に並ぼうとするその姿勢。


「颯人くんって、わたしから見たらへなちょこ」


「・・・生徒を馬鹿にできないから反応に困るよ」


「でも、うちの娘の目を信じて、彼に足りないものが自信だけだったなら、わたしも応援してあげなきゃって思うんだ」


「ほう。反対陣営にいるのは疲れるのか」


「うちの旦那は亜香里に弱すぎて論外だから。わたしがしっかりしないと」


「あれ?望美のお母さんと・・・・・・横山先生?何してるんですか?」


後ろを振り向くと、柊と福山と神崎姉がいた。


試合が始まってすぐの今の状況。うちの生徒に見つかるのが早すぎだ。教師として振る舞うのが面倒なので、他人のフリをしたい。


「横山先生って誰かな?わたしはタテカワだよタテカワ」


「いや、先生無理があるっすよ」


福山にそう言われて、わたしはサングラスを取った。


「・・・参考までに聞こう。なぜわかった?」


「いや、福山くんが周りキョロキョロしてて先生を見つけて・・・」


「美人どころを2人も連れているのによそ見かい?怒られるよ?」


「サイテー」


神崎姉に言われて涙目になっている福山。可哀想だが、目移りは良くないぞ。


「先生、こんな端っこじゃなくてゴール裏で観ましょうよ。望美のお母さんもっ」


「お忍びのつもりだったんだけど、君はどうする?」


「バレちゃったし、一緒に応援しよっか」


ふふっ、と2人で笑って、3人について行く形でゴール裏まで移動する。


ガシャンと大きな音がした。


「すげー!!ダンクシュート!」


「身長高く無いのにジャンプがあり得なかった!!何者なんだ?あいつ?」


「颯人ー!!イェーイ!フォウーー!!」


福山がノリノリで叫んでいる。


「なぁ、紗希。水谷ってバスケ上手いんだな」


「そうね。望美が颯人くんの本気を一度だけ見たらしくて・・・信じてなかったけど、上手かったんだ。彼が中学の時はそうでもなかったんだけどね」


歓声に包まれた会場で、何か今日は面白いものが観れる気がした。

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