喧嘩を売ってきたのはおまえだ
うちのチームがタイムを取った。かなり苦戦してたから丁度良かった。
「君が怒っているのなら謝ろう。ここまで無視されると交代したいぐらいだよ」
竜ヶ崎が冷静に俺に語りかけてくる。
「まだ本調子じゃないだろ?」
「それはそうだ。だが、君1人に全て背負わせる気はない」
少しの怒気を含んだ竜ヶ崎の言葉に、ベンチに座ってる俺は顔を上げた。
「どうした?水谷。もっとパスをくれ」
座っていたのは俺だけで、あとの四人は全員立って俺を見ていた。
「菊池先輩のポジショニング悪すぎて使えません」
「んなぁっ!?」
「水谷、僕はどうしたら・・・」
「神崎はガス欠しないようにできるだけ体力温存で」
「ええ・・・」
苦し紛れに上田にパスしたらカットされて。っていうシーンが多すぎる。まずいとは思ってる。でも、これを言っていいものか・・・
「先輩、もう俺だけじゃ無理です」
「わかってる」
上田のことを警戒されて、相手はゾーンディフェンスになった。俺と上田にだけマンツーマンで、後は放置されるというとんでもない奇策を向こうはしてきたのだ。
試合中にいきなりディフェンス変えてくる対応力とかがやばい。強豪校はやっぱり違う。
「ゾーンディフェンス相手には竜ヶ崎のドライブが生きない」
「だからって、パスをくれない理由にはならないよね?」
竜ヶ崎なぁ。おまえの売りは鋭いカットインなんだけど・・・あの190センチのやつが中にいるからなぁ。
「そうだが、須藤のカバー範囲が広くてさ」
須藤が俺と上田を同時に見てるせいで完全にシャットアウトされてる。普通は舐められたらいけないから俺が仕掛けるべきだ。だけど
その分、中が渋滞していて俺のドライブが生きない。
つまり、シューターがもう1人必要だ。
「なるほどね、志多、交代だ」
「うぃっす」
「それとも君が交代するかい?」
「は?」
「須藤にボールを取られるのを恐れて、チャレンジゼロの君の代わりに僕が出てあげるよ?」
「・・・・・・」
一瞬だけ、それもありかなと考えてしまった。どうやら今の俺は完全に弱気だったらしい。
ちくしょう、あのバケモンから奪われないようにするだけで必死だっつーのに。
「嫁補給いる?」
亜香里がこちらに向けて抱っこポーズをしてくる。
俺は頭を軽く撫でてやった。
いいの?みたいな顔をしないでほしい。俺には、やらなきゃいけないことがたくさんある。
「お兄、いってらっしゃい」
「おう」
望美が辛そうな顔をしてるのがわかったが、声はかけなかった。あいつの言いたい事はわかってる。
だが、自由になろうとすればするほど、目の前の現実が容赦なく俺を叩きのめすんだ。
ーーーーーー
「志多、焦るんじゃねぇ!おまえは竜ヶ崎じゃねーだろ!」
「わかってるよ!だけどさぁ!」
現在、15対15。志多が2本スリーポイントを決めてくれたおかげでなんとか食い下がっているが、相手がハマってないと見るやマンツーマンディフェンスに戻してきた。
こうなると、シューター2人抱えてるこちらの怖さが無くなる。
縦への突破がしやすくなったので、俺はドライブでディフェンスを崩せるようになってきた。
相変わらず上田へのマークがキツイので、俺は志多にパスする。
だが、焦ってるのか気負ってるのか、なぜか得意ではないドライブを選択する志多。そして何もできずにカットされてボールはラインを割った。
おいおい、シンプルに打ってくれよ。
「竜ヶ崎先輩と交代したら、ゾーンに戻されるか?」
軽く謝罪するようにペロッと舌を出した志多が自分からそんなことを言い出す。自分じゃ劣るから、竜ヶ崎を代わりに入れてもいいと思っているんだろう。
俺としては点を取ってくれるやつはありがたい。だから、別にどっちが出ていてもいい。もう、解決策は限られていた。俺がどう須藤を攻略するかだ。
・・・やってみるか。
「なぁ、交代する前に俺に勝負させてくれ」
「!!ああ、わかった!」
志多からボールが俺に戻ってきた。
「どうしたぁ?またどうせ逃げるんだろ?」
「今から、勝負だ」
「おまえに勝って、あの可愛い2人の彼女もらってやるよ。おまえにはもったいないからなぁ。ひゃっひゃっひゃっ!」
はぁ、こうなるのか。
―――ピリッ!
それは円状の波動のようだった。俺を中心に出た波があたり一帯に伝わる。
だが、俺は周りに迷惑をかけていない。こいつにだけ、嫉妬をぶつけた。
「―――きたか!待ってたぜぃ?」
須藤も目を見開いた。
バツン!!
それは出力の差なのだろうか。音が全く違う。俺の体は何ともないのだが、何も抵抗しなければ、周りのやつらに被害が出ると思った。このままの俺の弱さだと、こいつの眼に負けてしまうと思った。
どうやって出力を上げたらいいのかはわからない。最近は、こんな力無ければいいと思ってた。だけど、今は、今だけは違う。こいつに抗う術を俺だけがもっているなら・・・!
だから俺はドライブしながら叫んだ。
「うおおおおおおおお!」
「ッ!!くそがッ!」
バチバチッ!!
須藤が俺を追いかけようとするが、いつの間にか形成されている俺の円状のテリトリーに入ることができない。
須藤を抜いた先、目の前には190センチのセンターがいるが、俺は高く飛んだ。
神崎よりも高く。
ガシャン!!
相手が伸ばした手の場所よりさらに上。
―――生まれて初めてのダンクシュートは、めちゃくちゃ気持ち良かった。
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