※望美視点 颯人の覚醒待ち


「無駄な動きが一切無いなぁ・・・」


わたしは上田くんに対して、純粋にプレーヤーとしての羨望の眼差しを向けていた。


颯人が嫉妬する期待もこめて。


「あっ、チラチラ見てる。可愛いなぁ」


颯人がディフェンスしながら、こちらの視線を気にしている。わたしを見て、亜香里を見て。視野が広い颯人はベンチにいるわたしたちのこともちゃんと見てくれてる。


試合に集中してほしいと普通は思うんだろうけど、颯人ぐらい周りが見えるのなら多分大丈夫。


「しゅうと・・・」


となりの亜香里がぽつりと上田くんの名前を言う。わたしは亜香里から全部話は聞いていたから、上田くんとあかりのことはわかってる。


「呼んであげれば良かったのに」


「あかりはダメ男製造機。多分、名前を呼んでたらへなちょこシュートしか打てない」


「あはは!そうだね、そうなるかも」


亜香里は頭が良いから、その人が今何を求めているのかわかっちゃうんだよね。だから、亜香里と過ごすうちに颯人が危うくダメ人間になりそうだったし。


「突き放すくらいがいいんだろうね。ほんとは、こんなの亜香里の本心じゃない」


「え?上田くんと付き合っても良かったってこと?」


「冗談はやめて。・・・支えてくれた人を貶したくないだけ」


「亜香里、今しゅうと〜って名前を呼んで颯人を嫉妬させたら?効果抜群だと思うよ?」


「だと思うけど、やめた」


「なんで?」


「あかりは、お兄を信じてる」


気がつくと、須藤って人に颯人と上田くんが抜かれて、ディフェンスは壊滅的になっている。


颯人の顔に余裕が無いのが見てとれた。


「颯人!一本返していこっ!」


「お兄、がんばれっ!」


颯人のマッチアップが須藤くんに変わってる。颯人はボールを取られないようにするだけで必死だ。


わかる、わかるよ。須藤って人は強い。だけどね?


「颯人!!負けないでっ!挑んで!」


試合をコントロールする颯人にこんなことを言うのは酷だとわかってる。颯人が崩れてしまったら、ボールを運べる人がいない。上田くんはシュート特化だからガード向きじゃないし、ベンチにいる志多くんだって通用するかわからない。


だけどわたしはそれでも、颯人には、もっと自分を持ってバスケを楽しんで欲しい。


「お姉・・・?」


「どっちにしろジリ貧でしょ?勝つなら颯人に賭けるしかないんだよ」


開始直後、9対2だったスコアが、こちらの攻め手が無くなってきて苦しくなっている。今は9対8だ。


「颯人!ゴールに向かって!」


必死にゲームをコントロールする颯人。このままじゃダメだって、わかっているはず。


だったら、もう残すは颯人の気持ち次第。やらなきゃ、やられちゃうよ?


「お兄、まだ逃げてる」


「はや!はやっ!もうっ!・・・違うってば!!」


どうにかして上田くんを生かそうとする颯人。そうじゃなくて、そこを自分で左にドライブできればっ!って何してるの!?


「やっぱり、竜ヶ崎先輩は全快ではないんだろうな」


「え?」


志多くんが話し始める。


「俺から見ても、竜ヶ崎先輩の動きは重い。水谷は、それを知っててパスを出せないでいるんだ。止められて相手に調子づかせるのを恐れてるっていうか・・・」


「そ、そんなに悪いの?」


「あからさまに悪いわけじゃ無い。でも、竜ヶ崎先輩は今のところ守備頑張ってるから、攻撃でボールを呼び込む動きが無いのが気になる」


「・・・チーム全体が、疑心暗鬼になってる?」


亜香里の言った通りかも。颯人が迷い始めたから、みんなの動きが止まったんだ。


「先生!タイムいれましょう?」


わたしが提案すると、先生は頭をかきながら苦笑いしている。


「予想はしてたけど、キッツイねぇ」


結局、9対8。うちらは攻めあぐねたまま、タイムアウトすることになった。

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