※上田視点 秋翔のシュート
至って冷静だった。
亜香里に振られたとか、みんなの前でバラされたとか、今はそんなことどうでも良くて、俺はただ一本でも多くシュートを決めたい。
「上田ッ!」
先輩のパスが、寸分狂いなく俺の胸元に収まる。こんなに完璧なパスをくれる人はいない。外せない。
ーーー絶対に決めるんだ。
そう自分に言い聞かせた。
ただ、1人だけに見て欲しいとわずかに願ってしまった弱い自分が情けなくて。
俺は、決めなくてはならない。
なぜなら俺の名前がしゅうとだから。
「そう何度もやらせると思うかぁ?」
このチームのポイントゲッターは俺だ。だからこそ、必ず決めなくてはならない。
こんな序盤でゲームを決められてしまったら、つまらないだろ?なあ、須藤。
俺のやる事は決まってる。なら、止めてみろよ。
俺がシュートモーションに入る前から須藤の距離が近い。俺にドライブが無く、シュートだけ、という須藤の読みは正しい。
ーーーーーーだが、遅い。もう打ってるよ。
「ああん?」
本当に綺麗なフォーム、完全なシュートモーションは、誰にも止められやしない。俺だけの時間が動き出して、周りが止まって見えた。
時間を置き去りにするシュート。
横文字はいらない。今は勝てればいい。新人最強と言われた須藤に。
パサァと気持ちいい音が響き渡る。誰も俺がシュートを打ったかなんてわかりやしない。もしかしたら、先輩あたりは見えるのかもしれないけど。
ワアアアアアア!!!
歓声が響き渡る。
「てめぇ、まだ上があったのかよ」
「出し惜しみは無し。今の俺はキレてる。先輩を止めた方が早いぞ?」
「はっ!俺がてめぇを止めるのなんて簡単だぁっ!」
「じゃあ、やってみろ」
「上田、熱くなるなよ」
「先輩こそ、須藤のディフェンスサボって他力本願ですか?」
「やかましいわ!」
俺と先輩の思惑は多分一致してる。
須藤にボールが入った瞬間に2人でディフェンスするダブルスチール。
序盤からオールコートでディフェンスするのは消耗が激しいけど、そうも言ってられない。
打てる手は先に打って、諦めない!
「お?俺に2人つくかぁ?他の奴らにつかなくて平気なのかよ」
「「・・・・・・」」
「体力の無駄だ。見ろよ、他の4人もそこそこ強いんだぜ?」
4対3になったハーフコートでは迷いの無い相手の攻撃が始まった。素早いパス回しでディフェンスが足りなくなるギャップから、相手のセンターにボールが入ってしまう。
だが、これこそうちらの狙いだ。できたらここで魅せておとなしくさせてほしい。
ーーー神崎先輩!!
「最初から全力で行くなんて、僕にできるのかな?」
パシィ!!
190センチの男のシュートを神崎先輩がブロックし、驚愕の表情の相手センター。
そのままボールを離さなければならず、神崎先輩はボールを掻き出した。
竜ヶ崎先輩にボールが渡る。
「おい!何やって・・・」
相手のガードが動揺してる。それもそうだ、うちらは弱小だったんだ。昨日まではな。
今日は俺らが1番になるために、来た!
「ったく・・・このうんこ共よぉ」
須藤に細心の注意を払いつつ、まず水谷先輩がボールを受ける。
俺は須藤の後ろに隠れて機を伺う。パスをもらえれば俺の勝ちだ。だが、ここじゃない
あれほど練習の時に切り込め、ドライブだと言っていた先輩が、須藤を前にすると仕掛けられない。当然だろう。だってこいつの守備範囲はえげつないから。
ーーー竜ヶ崎先輩!
全力で走ってきた竜ヶ崎先輩のおかげで、疑似3対1になった。これならっ!
水谷先輩が竜ヶ崎先輩にパスすると見せかけて、ノールックエルボーパス。
外に開いた俺のところにドンピシャでボールが来た。
「最初からてめぇだってわかってんだよぉ?」
それでも、須藤は釣られなかった。真っ先に俺のところに来るのは流石の嗅覚だ。
ーーだが、一歩遅い。
パサァ。
スリーポイントラインの外なら、俺は今日、外す気がしない。
「上田ァ?あんまり調子に乗ると壊すぜ?」
「上等だ。さっさとやり合おうぜ?」
俺は、上田秋翔(しゅうと)。
全国大会に出て名前を呼んでもらう男だ!
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