夜、自室にて。


「はやちゃん、早く課題を終わらせて、イチャイチャしよう?」


「んなことはわかってる」


横山ちゃんに出された長期休み級の課題の量に、俺は溜息をついた。


夜、自室で取り組んでいるのだが、どうにも俺の課題の進みが遅い。


それよりも気になることがあった。


もうすっかり夜なのに、亜香里が帰って来ない。


「なぁ、亜香里、ほんとに大丈夫か?」


「大丈夫。あと、帰りは上田くんが責任を持って送ってくれるから平気だってさ」


だとしても、もう19時を過ぎてる。


もしかして、上田のやつ、亜香里に告ったのか?


やばいぞ。亜香里は上田のことを身内として認めてる。最後に思い出作りにデートくらい、と優しさを発揮していても、不思議ではない。


ああああ!もどかしい!!


「ちょっと、はやちゃん?ちゃんと集中して終わらせなよ。亜香里はバッチリ戻ってくるからね」


「そう、だよな。うん」


「・・・・・・絶対信用してないでしょ?」


亜香里はドジなんだ。河原とか行って転がり落ちて、着替えが必要になるかもしれない。


「うん、信用、シテルヨ?束縛、シテナイヨ?」


「亜香里はもう一人で大丈夫なの。過保護にしても、亜香里は怒るんだからね?」


「それは望美の考え方であって、俺の考え方とは違う」


「ふーん。喧嘩したいの?わたしに当たりたいの?」


「そんなつもりはありません」


「早く終わらせてよ。また小説一冊読み終わっちゃうよ?」


俺のベッドでゴロゴロしながら、ノベル本を読んでいる望美。


「おまえ、何の小説読んでるんだ?」


「幼馴染が負ける小説」


「いや、題名とかが知りたいんだけど」


「んー、本の名前には興味無いかな。ヒロインの幼馴染が負ける小説を選んで買ってるから」


え・・・何それ?俺らの関係と違うじゃん。


「そんなの読んで、面白いのか?」


「面白いよー!幼馴染が負けるのには、ちゃんと理由があるんです。それを見つけるのが好き」


「変わった趣味をお持ちで」


「間違えたくないんだよ。はやちゃんと付き合っても、未だにね。幼馴染が負けちゃう本には、が詰まってる」


なんだろ?構ってほしいアピールかな?


「おまえが間違えなくても、俺がたくさん間違えたら、意味無いだろ」


「はやちゃんは間違えても、ちゃんと戻ってきてくれるもん。そこは、信用してるよ?」


「どの部分の話だよ」


「今いいところだから、話しかけないで」


おっと。幼馴染の間違い探しでも始めたのか?構って欲しいわけでは無さそうだ。


ガチャッ


「お兄、ただいま」


「遅かったな。心配したぞ」


「お姉?ちゃんと説明しなかったの?」


「亜香里がいないタイミングで言うのは・・・無理だったよ」


「お兄、わたしは竜ヶ崎先輩に会ってきた」


「は!?」


なんで記憶の彼方にしまっておいた竜ヶ崎が出てくるんだよ。


「男子にも全国行って欲しい。今のままじゃ、到底無理」


そりゃわかるよ。今の戦力じゃダメだ。神崎が出てくれるってわかっても、上田がキーマンであることに変わりはない。


つまり、上田が相手に抑えられたら、打つ手が無いのだ。


だからって、あいつだけには頼りたく無い。


望美を泣かせた、竜ヶ崎にはな。


「はやちゃん、久しぶりに怖い顔してる。大丈夫?」


「望美はもう平気なのか?」


「わたしは颯人がいるから平気だし、同じ旅館に泊まらなければ大丈夫だよ?」


「竜ヶ崎先輩は、相澤先生と別の場所に泊まる。だから、問題ない」


おい、引率の先生が宿にいないって問題アリじゃね?それにしても、だ。


「先生は、勝つ気満々なんだな」


「男子は一回戦勝てれば、あとはスイスイ行けそう。お兄、竜ヶ崎先輩をスタメンで出してもいい?」


「俺が決めていいのか?あ、竜ヶ崎の怪我は治ったのか?」


「治ってる。最近は別の場所で練習してるみたいだから、問題無さそう。そして、この件はお兄の判断に任せるって、相澤先生が」


「いや、でも、まぁ・・・な」


万全の状態の竜ヶ崎なら、戦力になる。鬼門の一回戦、勝てるかもしれない。


俺は竜ヶ崎を許してやるべきなのか?


いや、直接謝られたわけでもないし、正直、まだ不気味だ。


バスケ部分しか信用できない。


「なんで、今日、俺を竜ヶ崎に会わせなかった?俺が行けば、ちょっとは竜ヶ崎に対する印象も変わるだろ」


「お兄にとって、竜ヶ崎先輩は敵。その認識は変えなくていい。でも、竜ヶ崎先輩は、強豪校を倒したいと思ってる。お兄は、違うの?」


「俺は、強豪校に勝つことなんて、興味は無かった。だけど、上田のために、勝ちたい。それだけだ」


「じゃあ、お兄と竜ヶ崎先輩の思惑は一致してる。一度だけ、敵対関係を解いて、共通の敵を倒すべき」


「コート上で俺が竜ヶ崎と喧嘩しても知らねーぞ?」


「亜香里が止める」


「なんで、そんなに勝ってほしいんだ?」


「お兄はバスケしかできない。ハーレムのこととか、色々、考えようとしてるけど、不得意分野を補ったって、効率が悪い」


「バスケと俺らの問題はまた別だろ」


「黙らせて、お兄。亜香里は、日陰者になるのは嫌。お姉は我慢できるかもしれない。でも、亜香里は嫌だよ?」


亜香里?どうした?


「なんで、人を好きになるのを、我慢しなきゃいけないの?3人で一緒が1番って、亜香里はわかったよ。それを続けることが難しいことだって、わかるよ?だから、これから他人が文句言えなくなるぐらい、頑張って、立派になろう?」


真っ直ぐ過ぎるだろ、亜香里。


泣きはしないのだが、亜香里の目には、確かな信念が宿ってる。


黙らせて、か。


ついに、俺が本気を出す時が来たようである。


「女子は任せてねっ!わたしが責任を持って全国に連れていきます!」


「お姉!お願いします。わたしを飛び級させてね?」


竜ヶ崎、には、うん、頼みたく無い。だけど、俺らが全国に行く功績を作るためには、組むしかないみたいだ。


俺のミジンコみたいなプライドがそれを許すかどうかは置いておいて。


今回も、亜香里に押し切られた俺だった。

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