竜ヶ崎


土曜日、ほんとはデートしても良かったけど、そうも言ってられない。


大会が近い。練習に参加するのは必然だった。


9時前、俺がバスケ部が集まるコートに行くと、コート中央に、竜ヶ崎がいた。


誰も、側にはいなかった。周りのやつらが、竜ヶ崎を許していないような雰囲気だ。


まぁ、来るだろうとは思っていた。こいつと練習するのは、嫌だけど。でも、大会に勝つには協力してもらわなければならない。


バッシュの紐を結び終わると、竜ヶ崎が声をかけてきた。


「謝罪を受け取る気はあるかい?」


「ねーよ」


受け取るか、受け取らないか、ではなく、普通に謝罪しろよ。


「くっくっくっ。それでこそ水谷颯人だ。僕をコートに戻してくれて、ありがとう。君は、ハーレムを形成しようとしてるらしいね?」


「・・・・・・」


「おや、君と話すのが楽しみで来たのに、黙っていたらつまらないよ?」


変わってねー。こいつは、全然、変わってない。


ムカつく口調とにやけそうな口元が俺をイライラさせる。


「ハーレムじゃ無い。おまえが思うような、女性をたくさん侍らせるようなことはしない」


「五橋姉と付き合えて、良かったじゃないか。金森から話は聞いてるよ」


金森先輩がしゃべってたか。だからどうってことはないけどな。こいつは俺の邪魔をしたいわけではないのか?


「言っておくが、もう一度変な真似したら、退学させてやる」


「それは怖いね。君ができるのかな?周りにヨイショされてしか表舞台に立てない君が?」


「テメェ・・・!!」


「先輩、熱くならないでください。竜ヶ崎先輩も、バスケするだけで何もするつもりは無いって言いましたよね?」


上田が割って入る。


くっそ。やっぱこいつ嫌いだわ。ほんとに、こっちの事情が絡まなければ、一緒にバスケなんてしたくない。


「あまりにも眩し過ぎてね。嫉妬していたところさ。改めて思ったよ。君が嫌いだと」


「ああ、俺も嫌いだよ」


「僕を倒して、欲しいものを手に入れて、良かったね?」


こいつ、ほんと、バスケする気あるのか?本番で俺の邪魔をしそうな勢いだ。


「おまえが、バスケする理由は、なんだ?」


「理由?そうだね。学生の最後に金字塔を建てたい、じゃあ弱いかな?」


「弱い。そんな理由じゃ、俺はパスを出せない。ほんとにやる気、あるんだよな?」


「仕方ない。じゃあ正直に言うけど、月城に頼まれてね。仕方なく参加してるのさ」


なんだと?


月城は、まだこいつが好きなのか?


人が誰を好きになろうが勝手だけど、こいつだけはやめたほうがいいと思う。


「月城とおまえは、付き合っているのか?」


「なぜそんな話になる?そんなわけないだろう」


「じゃあ、何で月城が出てくるんだよ」


「僕のせいで月城を怪我させたから、ここ1ヶ月くらい、ずっと彼女の言いなりになってるんだ」


月城、おまえ、なんてやつだよ。


もしかして、竜ヶ崎のことが好きすぎて怪我を理由に取り入ったのか?


俺の予想が当たっているとしたら、とんでもない女である。


竜ヶ崎は不気味だけど、月城は怖い。恐ろしい。


水谷ファミリーに入れておいて良かったと思う。


ちょっと怖すぎて、ファミリーから落としたくなってきた。


「じゃあ、月城に言われて、仕方なくやってるんだな?」


「仕方なく、ではないよ。バスケは楽しいからね。月城の無茶振りに付き合うのも、退屈凌ぎにはいい。月城の目が光ってるうちは、君の不利益になることはしない」


はぁ、後で月城に確認するか。


「とりあえず、わかった。大会まで、だな」


「今日は女子がいない練習だ。派手にやろう」


休日の体育館の練習は、流石に男女で時間が分けられている。


こいつには望美も亜香里も見て欲しく無い。だから、安心して練習できる。


「先輩、スタメンはどういう感じになりますか?」


「俺が決めるのか?」


「はい。お願いします。今、バスケ部をまとめてる人は副部長の菊池先輩なんですが、水谷先輩に任せると言ってました」


なんで、俺が任せられたんだよ。県大会出場は俺無しで決めたんだから、そっちで決めてくれよ。


「任せられても、困るが」


「ガードなんですから、バランス考えてやってくださいね?もちろん、勝つために!」


ええー・・・・・・


みんな勝手なことばかり言いやがって。


もう、俺の勝手にするぞ!?

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