※亜香里視点 竜宮色の明日


玉虫色に染まった夕焼け。


いつかの、名前を呼ぶ声がする。


掬って、触れて、引き出されて。


まだあの人の笑顔がわたしを駆り立てる。


立ち止まる暇は無いよ?


君の手がわたしの手に触れた時。


確かにあの時、恋に落ちた。





このまま、笑って、笑って過ごしたいのに。


いつも遠くに行こうとする愛しい人。


その度、揺らいで、揺らいで、何回も決意を声に出して、まだあの人に聞こえない声だ。





許されない考えをした。


『愚かな夢は全ての人を幸せにする』


それが叶うかなんてまるで考えちゃいない、君のキスは、わたしを変えた。


比べられたなら、わたしは、負けるだろう。


ひとつしかない幸せの、半分など無いのだろう。


だけど、君は確かに、わたしを好きだと言った。


このまま、君と永遠に続くためなら、わたしは悪魔と契約しよう。


そんなことを考えてる醜いわたしに、貴方は今日も、わたしを好きだと言う。




言ってしまえば脆いものだ。


繋がりなんて、単純じゃないよ。


だけど、最初からわたしのすることはひとつしか無いから。




このまま、笑って、笑って、過ごしたいから。


いつも近くで、『ずっと側にいるね?』愛しい人。


その度叫んで、叫んで、今世界に向けて言う。


この声が貴方に届くように。









ーーーーーー






「言っちゃダメだった?」


「亜香里?」


「わたしは、ちゃんと言えたよ??」


「ったく、しょうがねぇ。本当に、大したやつだよ、あかりは」


わたしの大好きな人が立ち上がる。


がんばれ、はやと。





「みんな、聞いてくれ。俺は、五橋望美も、五橋亜香里も、両方、大好きだ。


別に笑われてもいい、気持ち悪いと言われてもいい。

でも、この気持ちは本物だ。

俺は、こいつらを絶対に幸せにする。



って、何プロポーズみたいなこと言ってんだろ俺」


あらら、最後の最後に締まらない。お兄らしいと言えばお兄らしいけどね。


「この考えが、受け入れられない人がいると思う。妬むやつもいると思う。だけど、俺は、望美と、亜香里、両方の彼氏だ。だから、見守って、くれないか?俺からの、お願いだ」


お兄が頭を下げる。お姉も立ち上がって、頭を下げる。


わたしも、それに倣った。


どれだけ時間が経ったのだろう?しーんとしている教室の時間が、すごく長く感じる。


「俺はさ」


薫先輩が声を出す。


「こいつらが、どんだけ悩んで、こうしているかを知ってる。だから、俺からも、頼むわ」


立ち上がった先輩が頭を下げる。


流石。お兄の親友はかっこいいね。


「わ、わたしも!望美の話、聞いてたから、わかるの」


柊先輩だ。


「中途半端な気持ちじゃないのは、凄くわかる。あとは、水谷君がこれから、どう二人を守るかだけだと思うんだけど・・・」


3人にヘイトを分散させず、敢えてお兄に集中させた柊先輩。偶然だと思うけど、その方が話がまとまるかな?


「ああ、俺は、ちゃんと二人に相応しい男になってみせる」


「グフゥ」


横山先生がここで咽せてしまった。


「ああ、悪い悪い。なんか勝手に、盛り上がってるところ悪いんだけど」


先生がしゃべり始める。


「もう、三者面談で、クラスの全員に根回しは済んでるから、必要無いぞ?」


ええーーーーー!?


クラスのあちこちから声が聞こえる。


「すげーな。ちゃんと二人と向き合ってるところがさ」

「亜香里ちゃん、しょっちゅう教室に来てたよね?わたし、応援してたよ?」

「羨まけしからんだけど、本人達が納得してれば良くね?」


否定的な意見が出ない。まぁ、否定的な人は黙ってる人だろうけどね。


「五橋亜香里。進路希望調査票に姉の名前を書いたのは、おまえだとわかっていた。おまえが、飛び級でこのクラスに在籍しようとしていたのも、担任から聞いていた。


わたしを今日のために動かし続けたおまえたちに、罰として補習を与える」


先生、上手いなぁ。罰とか、敢えてそんな言葉使ってさ。


先生の顔、笑ってるもん。亜香里はエスパーだから、わかるんだよ?

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