第49話 亜香里、家出する


「こんばんは。夜分遅くに失礼します。水谷です」


「どうぞ。上がってくれ」


インターホンから男の人の声が聞こえて、ぶるっと体が震えた。望美の父親、だよな?


「お邪魔します」


靴を揃えて、上がる。いつも俺が通される居間のドアを開ける。


そこには、望美のお父さん、真也さんがいた。


「こ、こんばんは。あれ?亜香里は?」


「亜香里と母親には、席を外してもらってる。とりあえず、座りなさい」


マジかよ。


俺は促されて、真也さんの左側席に座る。対面だと圧が強いから、気を遣ってくれたのかもしれない。


「久しぶりだね。君が小学六年生の時、以来かな?」


「ドローンを飛ばしたくて、車で連れてってもらった時、以来ですかね」


「僕はね、君とはもう、娘さんをくださいと言いに来るまで会わないつもりだったんだ」


「え?ええ!?」


「でもね、そうも言っていられなくなった。

望美の脅迫文の件はもう今日の夕方、学校には伝えてる。だから、君の仕事がひとつ、減ったね」


そうなんだ。対応早いな。まぁ、放置しても悪化するばかりだ。学校側の協力もあったほうがいい。


「君は、今日、僕たちに何を言いに来たんだい?」


ーーーここだ!


言わなきゃ、いけない。たとえ間違っていたとしても。俺の、考えを。気持ちを。


「まずは、幼馴染の分際で、望美を勝手に家に泊めてしまい、すみませんでした」


「それは、別にいい。君も、直接言いに来てくれたし、順序は違うが、目を瞑ろう。


それで?」


それで?と来たか。足りないよなぁ。わかった。全部言おう。


「俺は、望美が好きです」


「知っているとも」


「亜香里も、好きです。だから、まだ、決められない」


「どうだろう?君は、亜香里が本当に好きなのかい?」


「え?、どういう意味ですか?」


「君は、今の関係を壊したく無いだけだ。君は亜香里に同情してるだけじゃないのかい?」


「同情、ですか?いや、そんなことは・・・!」


「亜香里は君にベッタリだからね。でも、亜香里は強い子だよ?


たとえ、











バタン。






「勝手にそんな話、しないで!!」


「こら、ちょっと、亜香里?今は入っちゃダメよ!」


「勝手にお父さんが、決めないで!


はやとの気持ちを、決めないでよ!


わたしの気持ち、知ったふりしないで!!


わたし、強い子になりたくて、なったんじゃない!!」


ドアから亜香里と紗希さんが出てくる。亜香里が、紗希さんに引っ張られている格好だ。


亜香里が泣きながら真也さんを睨みつけている。


「あ、亜香里・・・」


真也さんの顔に既視感がある。


あ、あれだ。親衛隊が亜香里に無視されて固まってるやつだ。それにそっくりだった。うわぁ。どうすんだよ。これ。


「もう、こんな家、出て行く!!はやとと暮らす!!」


え?亜香里さん?まずいって!


「亜香里!待って!」


「離してよお母さん!こんなに頑張ってるのに、どうしてみんな、決めつけるの?お母さんなら亜香里の気持ち、わかってくれないの!?」


その瞬間、パッっと紗希さんの手が離れる。


亜香里は俯いていたが、俺を睨みつけて一言。


「行くよ?」


氷のような冷たい目をした亜香里が、俺を呼ぶ。


「あ、亜香里。ダメだって。考え直せよ」


「嫌。はやとの家に泊まれないなら、わたし明日から学校行かない」


はぁ!?


「・・・颯人くん、ここは一旦、亜香里を連れてってもらってもいい?お父さんとちょっと話をするから・・・」


紗希さん、こっわ!般若みたいな顔しないで!


俺は亜香里からボストンバッグを二つ渡される。ん?二人分か?準備がいいな。


「すみません。じゃあ、姉妹を連れて行きますね」


この状況に、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「うちの娘たちを、宜しくね」


紗希さん、あんまり真也さんを怒らないでくださいね。まさかあの状況で亜香里が聞いてるなんて思わないじゃん、普通。






ーーーーーー


作者より。亜香里が絶対諦めない。強い、強すぎる。


望美と亜香里、どっち派ですか?

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