第48話 最低の告白

冷たい空気が首に纏わりつく。


走りながら電話をかける。こんな時に電話に出てくれるやつは二人しか知らない。


『お兄?どうしたの?』


そのいつもの調子の声を聞いて、縋りたくなる気持ちになる。だが、俺は望美の寝顔を思い出し、少しだけ冷静になって、走るのをやめる。


歩きながら、息を整える。


「今から、そっちに行くから」


『わたしを連れ出してくれる、わけじゃないんだよね?』


声色からして、冗談半分。だが、もう半分は期待が混じっていることがわかった。


「っ!」


思わず声が詰まってしまう。どう言えばいい?


俺は、この現状が良いって思った。それは猶予つきだけど、ちゃんとした答えを出すために必要だ。


その答えを導き出すのを、助けてくれなんて、言うつもりは無い。


今、全部中途半端な俺が、こいつに言えることは、なんだ?


もうこいつからは、たくさんの好意をもらってる。


考えても、もうひとつしか、残ってないのだ。俺の気持ちだけだ。


それを、相手に伝える。そして、その内容は俺も、望美も、亜香里も、納得できるものではない。


母親は、腹を括れと言った。その通りに俺自身もしたいが、母親はひとつ勘違いしていることがある。


亜香里を悲しませるのは得策ではない。そんなこと、初めから、わかってる。でも、悲しませるわけではない、はずだ。だから、言う。


「俺は、望美が好きだ」


『うん、知ってるよ』


ここまでは予想通りだ。


口の中が乾くのがわかる。緊張がやばい。掠れたって、構いやしない。行くぞ。


「でも、・・・亜香里も好きだ」


『・・・お兄、それはずるい、最低』


はっ。ははっ。


最低、か。そうかもしれない。


「亜香里、俺はさ・・・」


『でも、ここでわたしに言うってことは、はやとは何かわたしにして欲しいんでしょ?』


「ああ、とびっきり重要な役目だ」


俺は息を吐いて、今一度、亜香里に問う。


「亜香里の両親と話がしたい。今、向かってるから、亜香里も一緒に同席してくれないか?」


『そんなことのために、わたしに告白、したの?』


そんなことって何だよ。俺にとっては一大事なんだぞ?まぁ、全部俺が悪いんだかな。


「亜香里がいないと、喋れる気がしない。助けてくれ」


遂に言いたく無かった、助けてくれすら言ってしまった。


もう俺の精神はガタガタだ。どこから攻撃されても崩れるハリボテだ。



『お兄、大丈夫だよ?亜香里は、何があっても、絶対、はやとの味方だから』


亜香里の言葉が、全部投げやりになりそうだった俺を包み込んだ。


はぁ、もう、もう、もう、もう・・・。


こいつには、敵わないなぁ。


『一つだけ言いたいことがある。電話で告白とか、バカ?』


「すまん」


『ちゃんと、全部終わったら、わたしに、直接、言って』


『わかった』


『言質とったよ。・・・でも、嬉しく無い。お姉が、元気無いから』


「俺が、絶対、犯人を見つける」


『うん、お願いね?じゃあ、家で待ってる』


亜香里、本当にごめん。色々と。


俺、おまえらのことが大好きだから、俺なりにご両親に言ってみるわ。





ーーーーーー


作者より。正解は、亜香里にとって主人公が最低の告白をする、でしたー。


それすら許容する亜香里さん、強い。


続けて次の話もご覧ください。


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