第43話 一人で悩まず、話をしよう
「それで、結局何で今日神崎くんは学校休んでバイトする必要があったの?」
望美がちょっと重くなりそうな話をすっ飛ばそうとする。
そう、最初の疑問に戻るわけだが、なんでこの話の流れでバイトなんだろうか。
「アパートを借りて、姉さんに卒業までそこに避難してもらうためだよ。だけど、全然お金が貯まらなかったから、頑張る必要があったんだ」
「えっ?おまえ姉さんのためにバイトしてるってこと?」
「この再婚の話を知ったのが一昨日の土曜日だったんだ。その夜、姉さんに泣かれたよ。だから僕は、姉さんのために、なるべく早くお金を貯めようって決めたんだ」
まじかよ。俺が土日に浮かれてる時に、こいつはめっちゃ一人で悩んでたんだな。何も言えなくなるわ。
「ねぇ、アパートを借りるのってもったいないんじゃない?お姉さん、大学決まって卒業したら、また引っ越すんでしょ?」
望美が素朴な疑問を投げかける。そうなのだ。端的に言えば非効率だ。神崎のお姉さんが大学決まったら三月に引っ越したっていいわけだから、来月から借りたって十ヶ月も住まないで出て行くことになる。
「そうだけど、姉さんのためなら僕は犠牲になってもいい」
「おい、どうした。姉さん好きすぎかよ」
コーヒーの香りと共に、ラブの香りが漂うぜ。
「水谷、違うよ。姉さんは僕より、国立大学の合格に近いところにいるんだ。可能性の高いほうを選ぶのが筋だろう?」
「先輩、お姉さんは確かにそうなのかもしれない。だけど、それはあなたが犠牲になって良い理由にはならない」
おう、ここで正論をぶつけるとは、覚醒亜香里様すげーな。へこんでた俺の時みたいにもっと頼む。
「それは先輩のお姉さんが望んでるの?先輩のお母さんは知ってるの?あなたは一人相撲してるだけ」
「・・・君の言う通りだ。僕は誰にも相談せずに、今日は学校を休んだ。君たちに会わなかったら、明日もバイトをいれていたかもしれない」
「わかってくれたなら、いい。お兄なんて、何もしないくせに土曜日落ち込んでた。行動力のある先輩は凄いと思う」
あかりさん?さくっと俺のことディスるのやめよーぜ?泣くよ?
「神崎くんはお母さんやお姉さんとちゃんと話して?仲悪いわけじゃないんでしょ?」
「そうだね。別に僕の家族は険悪な雰囲気ではないよ。ふーっ。ごめんよ、みんな。一回頭を冷やしてみるよ」
「もしダメだったら、水谷ファミリーが、相談に乗る」
「あかりさぁ、それは使うなよ。笑うだろ」
「君が使ったんじゃないか。うん。ありがとう。水谷ファミリーにも改めて相談するかもしれない」
頭を下げる神崎。すっかり神崎の表情にイケメン力が戻ってきたぞ。とりあえずだけど、良かったな。
望美がずっと顔を手で隠して震えてる。どうやら笑いのツボに入ったらしい。
「おいこら、望美!笑うな!」
「あははははっ!じゃあまたお昼に集合しようねっ。わたしもおいしいご飯作るよっ」
「今日のお昼は、集まれなくて、残念だった。明日から毎日、集まろう?」
「うん。明日から学校にちゃんと行くよ。大黒柱の水谷が悲しむからね」
そう言って爽やかに笑う神崎。
もういいよ。ファミリーネタは。認める、認めるからさ。
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