第42話 事情を聞く


四人で訪れたカフェのソファー席に、向かい合って座る俺たち。


男二人、女二人で座って、みんなでコーヒーを注文する。


「わざわざ店に来てくれてありがとう。今日は放課後活動じゃなかったのかい?」


「その活動がこれだ。横山ちゃんに頼まれて、神崎の様子を見にきたってところだ」


「へぇー。それは驚きだ。そういえば、柊さんは?」


「柊は、っと。あいつは人のこと何でも心配しすぎるらしくて、先生は今回、あいつに頼んでいない。頼まれたのは、俺と望美だけだ。亜香里はおまけみたいなもんだ」


「先輩、おまけだから、気にしないで」


「うん。わかった。でも、ただ様子を見に来たわけでも無さそうだね。僕、休む連絡した時に、横山先生にはちゃんと元気にバイトに行くって伝えてるからさ」


「そこだよ、そこ。何で今日学校行かないで、バイト行ったんだ?」


そう俺が言うと、初めて神崎の表情が曇る。あんまり触れてほしくないみたいだ。


「理由、言わなきゃ、ダメかい?」


「できれば言って欲しい」


「なぜだい?水谷とは最近仲良くなったばかりじゃないか。この二人だってそうだ。これ以上は姉にも迷惑かけるから、言いたく無いんだ」


望美が不安そうに俺をチラチラ見て来る。引くべきか?いや、もう今更だよ。


押すしか無いじゃねぇか!


「理由ならある。おまえはもう完全に水谷ファミリーの一員だからだ。ただ笑顔を貼り付けただけのお前なんて、興味ない。悩みぐらい、あるなら少しは打ち明けたらどうだ?」


くっそ。ファミリーとか言ってて恥ずかしい。だがここで引いたらこいつはずっと喋らない気がする。だから、今は、今だけは恥ずかしがっちゃダメだ。


望美が両手で顔を覆って恥ずかしそうにしている。あかりはなんか自分が言ったみたいにドヤ顔してる。おい、おまえが言ったんじゃねーだろ。


「くっくっくっ。水谷は強引すぎるよ。でも嫌いじゃない」


ずっと俺は神崎と睨めっこをしている状態だったが、神崎が堪えきれなくて笑い始める。


俺が笑いたいんだっつーの!


「水谷、無理しなくていい。耳真っ赤だからバレてるよ?」


「なんだよ、くそ・・・」


「そんな君の熱意に応えて話すよ。聞いてくれるかい?」


俺と望美と亜香里がうなずく。


神崎が話し始めた。


「僕がバイトをしているのは、将来、大学に進学した時に、奨学金を借りなくても良いようにするため、だよ」


え?本当にそれだけ?


「でも、最近バイトを増やしたのは理由があるんだ。今日もバイトをしなきゃいけなかったのは、僕のちょっとした意地なんだけどね」


それから、大きく息を吐いた神崎は口を動かした。


「母親に、再婚してほしくないんだ」


「再婚するのか?」


「まだ、するって決まったわけじゃない。そして、僕自身は母親の再婚を望んでいるわけでも、嫌がってるわけでもない。したいなら、すればいいっていうスタンスさ」


「お、おう。じゃあ、反対してるっていうのは・・・」


「うん。僕の姉の、神崎瑞稀だ」


「わかるなぁ。お姉さんが反対するの」


望美が困ったような、辛そうな顔をして言う。


「知らない男の人と一緒に住むの、怖いよね」


「お兄、年頃の娘の家に義理の父親とか、娘からしたら、あり得ない」


姉妹からクレームが相次ぐ。


「そっか・・・そうだよな」


母親が好きな人だから、で割り切れる問題では無さそうだ。知らない人と一緒に住めと言われて、はい、そうですかと言う人はいないだろう。


「そこらへんをさ、もっと上手く、何とかならなかったのか?」


「僕の母親は夜勤をしている。相手は同じ職場で、そこで知り合ったらしいんだけどね。どうしても僕や姉さんとは生活リズムが違うから、まともに会えていないんだ」


おう。これは予想以上にヘビーな話だ。

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