第41話 神崎のスマイル
神崎のバイト先に着いた。2階まで席があるファーストフード店だ。
建物を外から眺めると、二階席窓際は制服姿の学生でいっぱいだった。
「普段あんまり来ないよね、颯人」
「おまえが太るとか、健康に悪いとか文句言うからだろ」
「お兄、まずはポテト食べたい」
「たまにはいいじゃん?あっ、いたよ。神崎くん」
おっ、いるいる。
注文するカウンター、俺らから真っ直ぐ先のレジの隣に、神崎龍之介が立っている。
「やぁ。三人とも。ご注文はいかがなさいますか?」
金髪に目深に帽子を被ったこいつは身長が高く、他の店員より目立っている。
神崎はナチュラルに、いつも通りに爽やかな笑顔を振りまいて接客している。こいつ、普段と仕事中の態度あんま変わらないな。
「とりあえず、どでかポテト盛りを二つくれ。味はコンソメとバーベキュー。あと、飲み物三つ」
「ポテトは結構な量があるけど、大丈夫?」
「神崎、おまえに用があって来た。だからこれ食べながら待つかな。今日は何時上がりだ?」
神崎は驚いたような顔を見せるが、すぐに顔に笑みを戻す。
「今日は17時だよ。あと30分くらいだね」
「そんなもんか。わかった。でもポテトはこのまま二つでいいよ。俺、コーラで」
「お兄、わたし、ゼロのコーラ」
「わたしはウーロン茶で」
「かしこまりました。全てMサイズでよろしいですか?」
「ポテトに備えて、全部Lサイズにしてくれ」
「かしこまりました。じゃあ、後でね」
去り際もニカっと笑顔になるイケメン神崎。
最後まで爽やかだったな。同じ男として、負けたく無いのだが、こいつが相手では悔しいが勝てない。身長が負けてる時点で無理である。
「胡散臭い、イケメン?」
亜香里にはイケメンスマイルが通用しないらしい。勝手にあの笑顔を疑ってらっしゃる。
「俺が言うのもなんだが、正統派じゃないか?」
「颯人、誰にでも同じく笑いかける人に恋するとね、この笑顔を自分にだけに見せてほしい!ってなっちゃうんだよ」
「誰情報だよそれ」
「え?お母さん」
なるほど、勉強になるなぁ。俺、あんま笑顔振りまかないけど覚えとこう。
「お待たせしました!」
女性店員が持ってきたポテトの量に驚愕する。
お盆の上に山が二つ。ドリンクの高さを超えてポテトが聳え立っているのだ。
マジで神崎の忠告を素直に聞いていれば良かったと後悔するレベルだ。
「お兄、今日のはやままの夕飯、いらないかも」
亜香里さんまで引いてらっしゃる。
こりゃ、どう頑張っても食べられる気がしないな。余ったら持ち帰ろう。
ーーーーーー
さっきまでの山が二つ、消えた・・・だと?
すっかりと消え去ったポテトの山。俺はそんなに食べてないはずだ。
主に望美の食べるスピードが凄かった。彼女の食べたものがどこに消えたのか見た目ではわからない。全部胸に行ってるんじゃないか?
「お兄、お姉はあるだけ食べちゃう。気をつけて」
亜香里は俺より食べていない感じだが、ギブアップ気味。
すごいっすね、望美さん、よく食べれますね。
「恥ずかしいから、食べるところそんなに見ないでよ。二つ頼んだ颯人が悪いんだからね」
そう言って最後のポテトひとつをペロリと食べる望美。
「お、おう。すまぬ。母親に連絡して、今日の夕飯、サラダだけにするか?」
「いいですー。明日部活で走りまくるよ」
「やぁ、みんな待たせたね」
声をかけられて、顔を向けるとそこには神崎がいた。学校に行っていないのに、制服姿だ。
「おう、お疲れ。私服じゃ無いんだな」
「制服のほうが慣れてて楽だからねー。・・・全部食べたんだね」
「お姉に一山食べられた。おいしかった」
「それは良かった。ここじゃ何だし、移動しないか?」
「おう。どこに行くんだ?」
「ありきたりだけど、カフェとかどうかな?」
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