第37話 姉妹とお出かけ


「ただいまー!あれ?はやちゃん来てたんだ」


俺と亜香里が食べ終わると、望美が帰ってきた。学校の紺のジャージ姿でポニーテールの彼女は、顔を見渡した後、すぐさま亜香里と話し始める。


「で、どういう状況?」


「お姉を待ってた。水着悩殺大作戦」


何すかその作戦。


「おっけー。ちょっと待って。シャワー浴びてくるから」


望美はそう言うと行ってしまった。


え?今のだけでわかるってどういうことだ?紗希さんを含めて三人はわかってるみたいで、俺だけ完全に置いていかれてる。


「お兄、お姉のシャワー覗きたい気持ちはわかる。でも、耐えて」


紗希さんの前で何を言ってるんだろうか。


「あかりのシャワーの時は何も言わなかったのに、望美のは言うのかよ」


「お姉は持ってる武器が違う。その点はわたしが勝てるとは思ってない」


あえて、胸でかい方が好きでしょ?みたいに言わないでほしい。もう、恥ずかしすぎて紗希さんの方を向けないじゃないか。




ーーーーーー


15時前、昨日振りに駅前に繰り出した俺だったが、周りの視線が痛い。


右腕に望美、左腕に亜香里が抱きついてきて、少々歩きづらい。そんな両手に華の状況で、身の危険を感じる程の視線、主に男からの殺気を感じていた。


「離れろよって言っても無理?」


「お兄、諦めて」


「颯人はわたしと亜香里、どっちが好み?」


どう答えても爆弾でしかない、望美の質問をスルー。


「あんまりくっつくとセクハラするぞ?」


両腕を取られた状態でセクハラなんてできませんが。俺のせめてもの抵抗だ。


「え?ちょっと待って。すー。はー。すー。はー。よし、どこ触ってもいいよ?」


「お兄、まずは頭を撫でるべし」


二人同時に相手するのが忙しい。


「もうちょっと離れてくれ。学校のやつに見られたら大変だからさ」



ーーーーーー



水着売り場に着いた。


普通に現在女性しかいない店内に入る勇気は無く、俺は店の外で待ってると言ったのだが、二人に猛反対される。


「お兄、イルカショーの後のイケメンムーブをしておいて、今更恥ずかしいとか、無い」


「はやちゃんが選んだやつじゃないと嫌」


特に望美からのドスの効いた何かに観念して、俺は二人に手を引かれて店内に入る。


「まだシーズンじゃないけど、水着いっぱいあって良かったね。颯人は際どいのが好み?」


「お姉、わたしが買ってもらったのはパレオ付き。つまり、他の人に体のラインを見せたくないお兄の独占欲の現れ」


「違うからな。無難なのを選んだだけだからな」


「んー、水着買うってことは、今年海行くってことでいいんだよね?」


「俺は構わないが」


「お兄はむっつりスケベ」


なんでだよ。海楽しいじゃん。テトラポット登ろうぜ。


「じゃあ、水着の上に羽織るやつも買わなきゃだね。それは私たちが買うとして・・・」


「お兄、わたし泳げないから市民プールがいいなぁ」


「どっちも行こうぜ?俺が泳ぎ方教えてやるからさ」


「やった。絶対だよ?どやあ」


なぜか嬉しそうに望美の顔を伺う亜香里。


「うー、亜香里が強い。どうしよ、このままじゃ負けちゃう」


君たちは一体何と戦ってるんだい?


早く選ぼうぜ。水着に囲まれて、さっきからどこ向けばいいかわかんないですけど。


ーーーーーー


総勢10着を試着の結果。望美は白いビキニを選んだ。


一番俺の反応が良かったらしい。うん、何のことだかわからないな。


そして、そのまま五橋宅に送ろうと思ったのだが、何故か俺んちに行くことになった。何故だか姉妹が焦り始め、めっちゃ急いで来た。


車が無いから、親はまだ帰って来ていない。


「ただいま〜」


一応、玄関から声をかけてみるが、返事はない。


「今から、お兄の部屋に行って試着会をします」


「はぁ!?なんでだよ」


「亜香里がね、一番最初に、颯人に水着姿を堪能させれば、嫉妬しないんじゃないか、という仮説を立てたんだよ」


なんだよそれ。別に今じゃ無くてもいいじゃん。


「はやままがいない、今がチャンス」


「その仮説は矛盾している。他の仮説を求める」


ダメだ、今日はこの二人の暴走を止められる気がしない。なんとか、違う案を考えないと。


「颯人、言ってて矛盾してることを証明できないでしょ?」


「お兄、協力して。お姉が怖がらないようにするために。この仮説が当たらなかったとしても、わたしたちは全く問題ない」


そう言って、亜香里が玄関の鍵を閉める。


「おい、押すな。俺を二階にあげるな」


「お兄、人生諦めが肝心」


さっき五橋家でおまえそんなこと言って無かったよね?


「颯人、お願い」


あー、あー。望美にお願いされたら、断れないじゃないか。

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