第36話 ※望美視点 金曜日の夜 共闘姉妹誕生


「お姉、ちょっと話がある」


亜香里がそう言って、わたしの部屋に入ってくる。


あかりは、なんかちょっと緊張した顔をしてる。それだけでわかった。


あっ、颯人のことだって。


「亜香里ってわかりやすいよね」


「お姉こそ」


そう、わたしだって、颯人のことを亜香里に話したい時は時間ある?って亜香里に聞いちゃうし。


もうわたしたち姉妹の間の会話って、颯人で成り立ってると言っても過言ではなかった。


だから、改まって言わなくても、分かっちゃうんだよ?


「お姉、わたし、はやとが好き」


「うん、知ってる」


「・・・今まで隠してた、つもり、だったんだけど」


「わたしとお母さんにはバレバレだよ?」


「お姉、ごめん。わたし、お姉のこと、応援、できない」


「そっか」


「ひっぐ・・・お姉ばっかりずるい!!ずるいよぉ!!わたしも、はやとの隣に、いたいよぉ!!」


決壊。


涙をポロポロと溢して訴える亜香里。


うん、そうだ。わたしが悪いんだ。


小学生の時に、颯人に一番近くにいた亜香里を見て、嫉妬しちゃって、それで・・・先手を打っちゃったんだ。


わたしは泣いている亜香里を抱きしめた。


「ずっと我慢させて、ごめんね」


「えっぐ、お姉は、ずるいんだよ。わたしのお兄、奪って」


「うん、わたし、ずるいよね」


「ぐすっ、あの時はわからなかったの。お兄ちゃんが欲しかっただけなの。でも、今は違うよ?はやとが、好きなの。世界で一番」


わたしが好きだと宣言してから、亜香里の言えなかった分の気持ちが言葉になって、好きが形になって、濁流のように押し寄せてくる。


対するわたしは、どうだろう?現状で良いと思っていた。いつものように学校で会って、いつもの通りに一緒に帰って・・・


でも、亜香里は高校に入るまで、わたしにとっての当たり前が、凄く凄く遠かったんだよね?だから、必死だったんだよね?


「わたし、亜香里が頑張ってたの知ってるよ?だから、誰よりも尊敬してる」


亜香里はわたしを追って来たんじゃない。颯人のために高校に入ったんだ。この子の全てが颯人なんだ。


そんな彼女の膨らんだ途方もなく大きな恋心に、目眩がしそうだ。


「あかりは、頑張る。でも、お姉の邪魔はしない。一緒に戦いたい」


ああ、そうか。全部わかった上で、そんな大人なことを言うんだね。


そこに至るまで、苦しかっただろうに。辛かっただろうに。


わたしには、死に物狂いで這い上がってきたあかりを応援する権利はないかもしれない。でも、言わせて?


「うん。亜香里が良いなら、一緒に戦おう?」


「お姉、約束破ってごめんなさい。今度は必ず守ります」


「うん。ありがとう、亜香里」


「お姉?」


「わたしね、颯人と亜香里と離れたく無かったんだ。だから、この距離感が心地良かったの」


「わたしとも・・・?」


「亜香里の気持ち知ってたから、踏み出したら大切なものを失いそうで、怖かった。ごめん、自分勝手だよね?」


「お姉、じゃあわたしたち、同じことで悩んでたってこと?」


「そうだよ。ふふふ、可笑しいね?」


「お姉、泣いてるの?」


あ・・・。


わたしの目から、涙が頬を伝って落ちた。


なんで、わたしたち、泣いてるんだろ?


同じ、幼馴染の男の子のことで。


ほんと、可笑しいなぁ。


「あかりのこと、羨ましかったんだよ。いつも颯人に優しくしてもらって!このっ!このー!」


わたしは亜香里の髪を両手で優しくクシャクシャにする。


亜香里は頬を擦り寄せてくる。背中に回した手の力も強くなっている。


「お兄メロメロ作戦、スタート!早速明日は、お姉の出番ですよ?」


「うっ。明日まで時間ないじゃん。どうしよう?亜香里に負けたくないから、色気を使おうかなぁ」


「うう〜!わたしよりでかいお姉はやっぱりずるいー!」


その日は遅くまで、颯人のことどれぐらい好きか、亜香里と自慢し合ってた。


亜香里、ありがとね。わたし、頑張るから。

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