第35話 考えすぎて塞ぎ込む。それを許さない亜香里。


「それで?うちの子たちはモテるんでしょう?うかうかしてると盗られちゃうわよ?」


俺への尋問、続くんですか。いや、もしかしたらこれって恋バナっていうのかもしれない。


「そりゃあ、二人ともモテますからね。どちらも学年一位ですし、釣り合うのは生徒会長くらいじゃないですか?」


「あら、それはあなたの余裕なの?自虐なの?」


「自虐の方ですよ」


「颯人くん、自分に自信無さすぎよね。あなたはうちの姉妹にとって、とても大切な人なのに」


寂しそうな顔をする紗希さん。


「今はそうでしょうけど、これからはわからないです。確かに、みんな揃って同じ大学とかに行けたらいいな、とは思いますけど、俺だけ学力的に差がありますし」


「うちは頑張って二人を大学に行かせるつもりよ?颯人くんも行きたいでしょう?」


確かに俺は大学に行きたい。大学に行けば、良いところに就職できるし。だけど、やりたいことがあるわけじゃない。


「俺の大学に行きたい理由が、望美と一緒の大学に行きたい、って、おかしいですかね?」


気づいたら、そんなことを口にしていた。


こんなこと、学年一位で、行きたい大学が選び放題の、幼馴染の母親に言うべきでは無いのに。


「ううん、誰かと一緒にいたいと思うことは、大事なことよ?」


「そう、ですか・・・」


問いかけておいて、自分でも腑に落ちない、答え。


「大切なのは、成績とかじゃなくて、その人が必要な時にどれだけそばにいられるか、だと思う」


紗希さんの言葉は、俺にしっくりとは来なかった。


学力の分だけ道が開けて、自分のしたいことをやれる。行きたい場所に行ける。


今まで将来のことを真剣に考えなかったから、今、考えさせられて余計に思う。


なんだ、俺のやろうとしてることは無理ゲーなのか?って。


「考えてると、余計にお腹空くわよね、ご飯にしましょう?」


昨日、今日と浮かれすぎていたらしい。


望美、亜香里といると楽しくて、つい自分も万能だと思い込んでしまっていたが、全然違う。


俺は、全然足りてなかった。




ーーーーーー


紗希さんが作ってくれたベーコンとほうれん草、きのこのクリームパスタは美味かった。


思わず、顔がほころんでしまうほど、温かくて、優しい味だった。


亜香里も一緒に食べていたのだが、変化を感じ取ったのか、食事を中断する。


「お母さん、お兄になんか言った?」


「大学に行く話をちょっとねー」


「勉強の話、したんでしょ?別に、試験前じゃ無いんだし、言わなくても良くない?」


あかりは紗希さんに対して目を細め、ため息をつく。怒ってるのか?


「良い?お兄、聞いて?」


「お、おう」


「わたしが学年首席なのは、別に首席になりたかったからじゃない。一番になんて、全然なりたく無かった」


「そうなのか?」


「結果、そうなっただけ。何故そこまで頑張ったかというと、お姉とお兄がいる高校に絶対入りたかったから。死ぬ気で、頑張った」


「え?ただそれだけのために?」


「そう。だからお兄は今から頑張ればいいの。頑張る理由は何でもいい。お姉と同じ大学に行きたいって思うのだって、立派な理由」


あれ?俺こいつにこの話したっけ?って思う暇がないくらい、亜香里は真剣な顔をして俺に話してくれる。


「もしかしたら、これから、もっと強い理由が見つかるかもしれない。だから、お兄は勉強以外のこともたくさんしなきゃいけないの。だから考え込まずに、青春しよう?恋愛しよう?


絶対に譲れない理由があれば颯人は大丈夫。それを忘れないで」


亜香里が必死に大丈夫と言ってくれる。


こいつにそう言われるだけで、さっきまでの心のモヤモヤが馬鹿らしく思えてきた。


「亜香里に慰められるなんて、なんか完全に立場逆転したな」


「お兄は昔から、簡単なことを難しく考える人。損するタイプ」


「うるせーよ」


「元気、出た?」


「出たよ。ありがとな」


「亜香里が本気で怒るの、颯人くんのことだけだもんねー?」


「お母さん、うるさいっ!しーっ!しーっ!」


いや、でも亜香里さん?俺は損してねーよ。


俺にとっては、おまえら姉妹がそばにいてくれるだけで、丸儲けだ。

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