第23話 THE GAME


給水を経て再スタート。


すっかり回復した俺は、竜ヶ崎先輩のドライブを


止める!

止める!

止める!


「しつこい男は嫌われるよ?」


竜ヶ崎先輩が焦ってるように見える。


「それ、男が言っても説得力無いやつですよ?」


ある程度、体力を温存しなくても良くなった俺は調子を取り戻す。


それまで出なかったディフェンスの一歩目が確実に出るようになった。


「くっ」


竜ヶ崎先輩の打った苦し紛れのシュートは、リングの縁にバウンドして、そのままこぼれ落ちる。


「リバウンド!」


そのボールを神崎が競り合ってしっかりとキャッチしてくれる。


「リバウンドしかできることがないけど頑張るよ」


神崎にボールを渡され、そう言われる。


さっき、シュートを打たなかったことを気にしてるんだろうか?


「おまえはもっと、楽しめよ、神崎」


「楽しむ?」


「とりあえず、シュート一本決めてこいって。相手、大したことないぞ?」


「ははっ。結構キツイんだけどな。じゃあ、僕にもボール頂戴?」


「おうよ。うおっと」


竜ヶ崎先輩が勢いよく詰めてくる。


「人の心配より、自分の心配をした方がいいよ?」


「ガードがボールを失うわけ無いでしょう?」


「やっぱり給水なんてさせるべきじゃなかったな」


うわぁ、クズだわ。思っても言わなきゃいいのに。


俺は神崎先輩と対峙しながら、ゆっくりボールを運ぶ。


たまに手を出してちょっかい出してくるが、自分のペースを乱さないように心がける。


「水谷!」


!!


神崎がボールをもらいにポストに上がってきたのでパスをする。打てるか?神崎。


キャッチしたボールをドリブルしながら、菊池先輩に体を当て、ゴールに迫る菊池。


行けえええ!!


神崎、菊池先輩、両方が飛び上がったシュートはおしくも入らない。


リバウンド!


金森先輩が空中からボールをとる。菊池先輩は遠慮して取らない。優しいっ!


そのまま外に開いた望美にパス。


右ドライブで一気に抜き去る望美。女子ながらすげぇ・・・


そのままレイアップシュート。


7対4だ。


「よし!まず一本いったよ!」


女子をメンバーにするなら、望美が味方で良かった。こいつに勝てるやつはいないかもしれない。


と、竜ヶ崎先輩がワンパス。志多がスリーポイント外でシュートを打つ。


え?


ボールは綺麗な弧を描き、音もせずにゴールに吸い込まれた。


なんだこの部!?スリーポイントシューターが2人いるぞ!?


これで7対7。やべえぞ。同点に追いつかれた。


俺はどうしようかと考えながら前を向く。


だが、俺の心配は目の前の光景を見て消え失せた。


うちのチームの動きがせわしない。


「先輩、ボール!」

「水谷!」

「水谷くん!」

「はや!」


みんな必死に俺にボールを要求してくる。


竜ヶ崎先輩のマークがみんなの声でちょっと緩くなる。


うん。本当に良いやつらだよ!みんな!


俺は嬉しくなって思わず、


スリーポイントシュートを打っちゃった。








パサァ。







決まっちゃった。


「うおおおおおおおお!!」


ギャラリーの薫がうるさい。早く部活行け。


「水谷くんナイスシュート!」


えっ!?えええっ!?柊!?なんでっ?


あ、そうか、神崎がイケメンだから追っかけて来たんだな。


神崎め。罪なやつだ。


「はやばっかりずるいっ!」


「ナイシュー!この調子で行こう!」


「ぷくく。竜ヶ崎のあの顔、やばぁ」


「先輩!俺の真似しないでくださいよ!」


みんなわちゃわちゃとうるせーな。 

まだ試合は終わってないぞ!




















ーーーーーー










「お疲れ様!」


望美にお茶を渡される。


「おう、さんきゅー」


「むふふ。勝ったねー。勝っちゃったねー」


体育館裏、もう日が暮れそうな時に俺と望美は二人で土手に腰掛けていた。


俺たちはその後、どうしようもないシーソーゲームを演じて、17対15で勝利した。


結局、あれから俺は竜ヶ崎先輩を一度も止められなかった。先輩だけで10点決められたのだ。


だけど、みんなが俺のカバーしてくれて、なんとか勝てた。


ちなみに望美は6点取った。上田と並んでポイントゲッターだ。月城には一回もシュートを決めさせていない。月城の顔が友達になる前の恐ろしい顔に戻っていたが、大丈夫だろうか。


俺も5点取った。一年のブランクがあると考えれば、上出来だろう。


「バスケ部入りたくなった?」


「ならねーよ」


「週ニでやればいいじゃん。わたし、颯人とバスケしたいよ?」


真っ直ぐ俺を見つめてくる望美。


俺とバスケしたいなんて、初めて聞いた。


こいつは・・・まさかそれを言うためだけにこんな大掛かりな悪戯をしたんですかねぇ?


ここで返答を間違えると、また一週間話してくれなくなる気がする。


はぁ、わかったよ。


「・・・週ニだけな」


「やったぁ!!」


「あと、おまえの練習日と行く日合わせるから」


「それって・・・束縛?」


「おまえの捉え方次第でいいよ」


「あれー?いつものはやちゃんじゃない。珍しいこともあるんだね?」


「単純に、楽しかったんだよな」


「うん、わたしも!」


両手を上に伸ばしてん〜、と体を伸ばす望美。


「そういや、亜香里は?」


「上田くんと帰るってさ」


「唐突なラブの匂いがする」


「やっぱりラブだよね?あの二人。まぁ、上田くん真面目だから大丈夫でしょ」


「いや、あいつはバスケ一筋とかホラ吹く嘘つきだ。信用ならねぇ。追いかけるか?」


するとあからさまに望美が嫌そうな顔をする。


「ええーー?いや、大丈夫だよ。・・・わたしに気を遣っただけだもん」


「なんだ?聞こえなかった」


「うるさーい!このポンコツチキン!!」


いや、昼にチキン食わせたのはおまえだろうが。


「あ、なんか腹減ったな」


「今日ぐらいは買い食いしちゃう?」


「いいねー。俺、肉まん食べたい」


「わたしはピザまんかなぁ」


久々の二人の帰り道だ。夕食前にちょっとぐらいサービスしてもいいだろう。

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